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2019年12月12日

またまた納得できないこと(十二月九日)



 アフガニスタンで中村哲医師が亡くなれて数日、氏の業績を讃える記事や、追悼のための記事などをむさぼるように読んできた。ものによってはヤフー・ニュースのコメントまで目を通したのだけど、どうにも釈然としない気分になることが多かった。その業績の大きさに比べて、無名に過ぎはしないだろうか。いや、業績自体が過小評価されている嫌いもある。ご本人は評価なんかどうでもいいと仰るだろうけど。

 ニュースの下のコメントには、亡くなったニュースで存在を知ったという人たちが、中村氏について日本人の誇りだというようなことを書いているのをしばしば見かけた。この人たち、仮に生前から氏の活動について知っていたら、活動を支援するために寄付をしたりしたのだろうか。『オバハンからの緊急レポート』の著者のオバハンなら、そんなことを書くより支援のための寄付をくれなんて言いそうだけど、中村医師はどうかな。
 ただ、中村医師のことを日本人の誇りだなんていう言い方をする人たちには、支柱を失って今後の活動の継続がどうなるのか予断を許さないペシャワール会を支えるために、会員になるなり、寄付するなりしてほしいところだ。会員が1万5千人という記事を読んだ記憶があるけれども、あれだけの活動を支えるには少なすぎる。中村氏を日本の誇りと呼ぶということは、中村氏のおかげで自分が日本人であることを誇りに思えるということでもあるわけだから、それぐらいのことはしてもバチは当たるまい。

 ジャーナリストを自称する人たちも、あれこれ追悼する記事を書いていたが、我田引水、牽強付会で自分の主義主張に無理やり結び付けているものも散見されたし、ひどいのになると読んでも何が言いたいのか理解できないものや、中村医師の死と結びつける必要性を感じないものも結構あった。その辺はこのブログで書いたのも他人のことは言えないのだけど、個人が片手間に日本語力の維持のためにやっているようなブログと、プロのジャーナリストを自認する人たちの書くものを比べちゃいけない。
 福岡の西日本新聞の記事が、中村医師の功績を伝えて一番詳しかったのは当然だろうが、もっと大きな視点から業績を評価してもよかったのではないかとも思わされた。せっかくの郷土の偉人なのである。しかもあれだけのことを成し遂げた方なのだから、ペシャワール会の活動を継続し拡大していくことは、世界の未来を救うことにつながるぐらいのことは書いても、問題ないと言うか、まごうとなき事実である。

 最近、日本は難民を受け入れないとか、二酸化炭素の排出量を減らす気がないとかで、環境団体や人権団体、その意向を受けたEUなんかに非難されているわけだけれども、中村医師の活動を、これが日本が世界に提案する問題の解決法だとして提示して、ヨーロッパ規準の押し付けを拒否するなんてことを主張する政治家は出てこないだろうなあ。
 一言で言えば、荒廃するアフガニスタンの荒野に緑の農地を復元させた中村氏の活動によって、十万人単位の難民予備軍が救われたわけだ。中には一度難民となって避難しておきながら帰郷した人もいるに違いない。これはアフガニスタンという国にとっても、その国の人々にとっても日本が難民を大量に受け入れるよりもはるかに価値のあることだ。国土の荒廃だけでなく、人材の流出も防ぎ、しかも食料の生産量まで増加したわけなのだから。

 現在のヨーロッパの支援は、難民キャンプに集まった人々に対して食料などの生活必需品を配布しておしまいというものが主流になっている。それが不要だという気はないが、それだけでは将来はない。だから将来を夢見てヨーロッパに、特にドイツに向かう人が多いわけなのだろうが、ヨーロッパにおける夢は所詮幻想に過ぎない。幻想であることに気づいた元難民たちが、イスラムの過激派に走ってテロに手を染めるという悪循環が成立してしまっている。
 その意味で、チェコのバビシュ首相が難民の受け入れの割り当てを拒否して、ヨーロッパが難民を無制限に受け入れるのは、難民密輸組織を喜ばせるだけだと主張しているのは正しい。そして、難民問題を解決するためには、ヨーロッパで受け入れるのではなく、母国で生活が成り立つような支援をする必要があるというのも正しい。問題は具体的にどうするのかがでてこないところにある。

 地中海で船に載せられた難民達を救うことに存在意義を見出している人権団体も、中村医師のように、アフリカの大地に仕事を作り出して、難民や、難民になりかけている人たちに仕事を与えるような支援をすればいいのにと思ってしまう。ヨーロッパに向かう難民を保護することよりも、難民を出さないようにすることの方が大切だと考えるのが自然じゃないのか。それができれば保護の必要もなくなる。
 中村医師たちの支援の形は現在のものに比べてはるかに困難なことは言うまでもない。ただそういう支援をすることが、中近東、北アフリカに混乱を引き起こす原因を作った欧米の責任というものである。困難さだけではなく、いろいろな勢力の思惑が入り混じって、なかなか実現できないという面もあるのだろうが、日本が先頭に立って、EUの国々なんかに支援のあり方を変えていくように提案するぐらいのことはできるはずだ。チェコはもろ手を挙げて賛成すると思うし。

 環境問題に関しても、中村医師の活動が解となりうる。いわゆる地球温暖化の原因が、人間が排出する二酸化炭素だったとしても、人口が増え続けている以上、人間の活動量が増え続けている以上、人間が排出する二酸化炭素の量をゼロにするどころか、減らすことも難しそうである。それよりも、光合成で二酸化炭素を酸素に変えてくれる植物を増やして、相対的な二酸化炭素の増加量を減らすことの方が現実的に思える。二酸化炭素の濃度が上がれば光合成の効率も上がって植物の成長がよくなるってのは高校の生物で勉強した事実である。
 現在世界中で進みつつある砂漠化という現象は、すでに1980年代には問題になっていた。それを放置した結果が、現在の二酸化炭素濃度の上昇につながっているのではないのか。古くからの砂漠の緑化は難しくても、かつて緑のあった砂漠化しつつある土地であれば、水さえ確保できれば再度緑化できるというのを示したのも中村氏たちの活動の成果である。日本政府はこれを日本の二酸化炭素対策の柱にすればいいのに。
 例の国ごとの二酸化炭素の排出量にしたって、ただ単に工場や発電所の排出する二酸化炭素量だけでなく、その国の森林や、田畑で育てられる植物などが吸収する二酸化炭素の量と相殺して実質的な排出量を算定した方が、本当の意味での対策が立てやすくなると思うけど。現在二酸化炭素排出量をゼロにすると大騒ぎをしているのを見ていると、胡散臭さしか感じられない。環境問題をビジネスにしてぼろもうけを企んでいる禿鷹連中の影が見え隠れするような気がする。

 今回、中村医師の訃報を機に、これまで感じていながら、うまく言葉にすることができなかったEU主導の難民対策や、環境保護対策へのどうしようもない違和感の正体が見えてきた。その意味では納得できたのだけど、中村氏についての記事に納得しきれないものがあるというのは残ってしまう。記事を読むたびに、理想を目指しながらも現実を忘れない素晴らしい人だったのだと思わずにはいられない。オバハンが全面的に無条件で尊敬するというようなことを書いていたのも納得である。
2019年12月10日24時。









posted by olomoučan at 08:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 戯言
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