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2019年11月07日

日本ラグビーの未来(十一月五日)



 ワールドカップが大成功のうちに終わった後、日本ラグビー界の課題は、いかにこのブームを更なる代表の強化につなげるかということだろう。その方策として、プロ化という声も上がっているようだけど、性急に過ぎるプロ化は混乱を巻き起こしかねないという気もする。バスケットなんて、リーグが分裂したし、ハンドボールなんかプロ化しても知名度は全く上がらなかった。
 そもそも、すでに選手たちの多くは、企業チームに属しているとはいえ、所属チームとは選手として契約を結んでいるのだから、リーグをプロ化するかどうかは、それほど大きな問題ではない。大切なのは、プロであれノンプロであれ、日本最高峰のリーグとなる社会人ラグビー、今はトップリーグというのかな、を頂点とした明確なヒエラルキーを作り出し、テレビでの中継や、マスコミの報道もレベルの高いリーグを中心としたものにすることが大切である。

 その意味では、代表の選手たちや、ヤフーなんかのラグビーのニュースの下に書き込みまでする熱心なラグビーファンたちが、しきりにトップリーグの試合も見に来てほしいという発言を繰り返しているのは正しい。問題は自分のことしか考えないマスコミが、その流れに同調するかどうかだけど、80年代のラグビーブームを思い出すと、あまり期待できそう。もない。
 あのときは、見てくれのいいスター選手の多かった大学ラグビー、それも名門校の多い関東の対抗戦グループが日本ラグビーの頂点であるかのような歪んだ状況が、マスコミによって作り出されたのだった。「ナンバー」ですら、大学ラグビーの特集号は頻繁に出していたが、実力的には頂点にあった社会人ラグビーには冷淡だった。レベルとしては二番手、三番手でしかないリーグが人気や報道の面では頂点を極めるという状態では、代表が強くなるなんてのは望めないのである。

 ラグビーから野球につぐスポーツの座を奪ったサッカーも、長らく歪んだ構造に苦しめられていた。Jリーグの開幕によって状況が劇的に変わるまでの日本サッカーの頂点は、社会人リーグでも天皇杯でもなく、冬の高校選手権だった。そんな状況を変革するための劇薬として選ばれたのがプロリーグの創設だったといえる。
 それがうまく行ったからこそ、ワールドカップのアジア予選で、最終予選にまでたどり着けないこともあった日本代表が、アジア最強チームの一つとなることができたのだ。ただ現在の目から見ると成功が約束されていたようにも見えるJリーグも、当時は成功を疑う声も大きかったし、関係者にしてみれば、かなりのばくちだったという話も聞いたことがある。逆に言えば、いつまでたってもワールドカップに近づけなかったサッカー界は、一かバチかで大ばくちを打つしかないところまで追い詰められていたのである。

 ラグビーは、今回、ワールドカップで盛り上がった熱気を追い風にできるのだから、一かバチかのばくちに走らず、トップリーグを、実力人気とも他とは隔絶した存在に育てていくほうがいい。ラグビーについての全国的な報道があるときには、ほぼ必ず代表か、トップリーグで、大学と高校のラグビーについては、季節の風物詩的な扱いにするという状況が作り上げられれば最高である。それでもラグビーの露出自体が少なければあまり意味はないけど、今なら視聴率と儲けしか考えないテレビ局もラグビーを無視することはできまい。

 マラソンの成績不振で駅伝のせいにされることも多い陸上の長距離だけど、これも駅伝が悪いのではなく、競技としての構造が歪んでいるのがいけない。テレビ局の戦略によって、たかだか関東の大学を集めて行なう大会に過ぎない箱根駅伝が日本の長距離界の頂点にあるかのように扱われはじめたのが最大の問題である。実業団で箱根駅伝を超えるような規模の大会を駅伝の頂点として創設し、資格を得た選手しか出場できないマラソンの日本選手権を今年のMGC(ちがうかも)に基づいて毎年開催して、箱根駅伝の価値を相対的に落としてやれば状況はマシになるはずだ。

 プロ化してもというのは、野球の事例もあるからである。今でこそ、野球界に君臨するプロ野球だけど、創設当初は、高校野球(当時は中学野球だったかも)を食い物にしていた朝日新聞の妨害によってなかなか野球界の頂点に立つことができず、興業的にも苦労していたと聞いている。日本の野球が本当の意味で発展を遂げ、相撲を押しのけて国民的なスポーツにまでなったのは、プロ野球が名実ともに日本野球の頂点に立ってからのことだと理解している。

 とまれ、ラグビーの魅力の一つは、いい意味でのアマチュアっぽさを残しているところにもあるのだから、だからこそ日本中を熱狂させることができたという面もあるのし、プロ化するにしても慌てて強引にやるのではなく、長期的な計画に基づいて実現してほしいところだ。その前に、今回のワールドカップでラグビーファンだと広言していた芸能人たちには、ぜひともトップリーグの試合を見に行って、それをSNSかなんかで報告してもらうなんてことをやってもいいんじゃないだろうか。
2019年11月6日10時。










タグ:ラグビー
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