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2019年10月19日

ゼマン大統領の健康問題(十月十七日)



 ゼマン大統領が、また入院したらしい。大統領府の発表では、以前から計画されていた健康診断のための入院だから、大統領が病気に倒れたというわけではないという。最近聞かなくなったけど「人間ドック」みたいな形での入院なのだろうか。10月28日にプラハ城で行なわれる国家式典、勲章の授与式に向けて体調を整えるための入院だという話も聞こえてきた。
 大統領の職務というものが激務で、大変なものであるのはわかるけれども、毎年行なわれている儀式のために入院して準備をしなければならないというのは、去年まではそんなニュースはなかったわけだし、健康に不安を感じさせる。最近は、テレビなどで、以前とは違った弱った姿を見せることが増えているだけに、なおさらである。

 思い返すと、二期目の大統領選挙の際に、大統領との関係は知らないが、ある医者が、ゼマン大統領は癌だと発言して問題になった。このときは、大統領側は、主治医の健康に問題はないと診断書を提出して、沈静化を図るとともに、その医師を虚偽の発言をして選挙の妨害をしたということで裁判に訴えるといっていたと思うのだが、続報が確認できなかったので、裁判になったのかもどんな判決が下りたのかもわからない。
 ただ、当時から、一期目の選挙のときとは違って、歩くのに杖が必要になっていたし、確実に年齢を重ねて体が弱っているのは明らかだった。問題になったのは、その時点での健康状態ではなく、5年という任期を全うできそうかということだったのだが、有権者は、問題なさそうだと判断して、ゼマン大統領に二期目の大統領の座を与えたのだった。

 今回の入院が、あれこれ憶測を呼んでいるのには、もう一つ理由があって、名前負けしているとしかいえないテレビ局のバランドフで毎週放送されている「大統領との一週間」という番組で、司会者のソウクプの質問に答えて、自らの「náhradník」について語ったらしい。これまでは、この件に関する質問にはかたくなに回答を拒否していたのに、どうしてだろうという疑問を、今回の入院と結びつけた結果、病状が悪化して「náhradník」が必要な状況になっているのではないかと憶測したようである。
 その憶測の正否はともかくとして、よくわからないのが「náhradník」が意味するところで、スポーツなら交代選手なのだけど、政治家、大統領の場合は、病気で執務ができなくなった場合の大統領代理になるのだろうか。それとも亡くなった場合の臨時大統領か。もしくは大統領職の後継者ということかもしれない。チェコでも憲法で大統領が倒れた場合、誰が代理をしたり、臨時の大統領を務めたりするかは決まっているはずで、ゼマン大統領が恣意的に選ぶことはできないはずだから、次の大統領選挙で選ばれる人という可能性が高いような気もする。
 その番組で、ゼマン大統領が上げた「náhradník」になる可能性がある人物は、一人は意外なことに労働組合のボスであるストシェドゥーラ氏で、もう一人は予想通りバビシュ首相だったという。バビシュ氏が首相を経て大統領になるという、クラウス氏、ゼマン氏の路線を狙っているのは、周知の事実だが、労働組合のストシェドゥーラ氏は政治的な野心を持っているのだろうか。

 それはともかく、この発言はゼマン大統領が、自らの大統領としての終わりが近づいていることを意識していることを示しているのかもしれない。ゼマン大統領が退場すると、本当の意味でポスト共産主義といわれた90年代が終わることになる。チェコの政界の問題は、この一時代の終焉に際してハベル、クラウス、ゼマンと続いたビロード革命で活躍した政治家に続く存在が育っていないことである。
 だから、バビシュ首相やオカムラ氏のような人物が実業界から政界に入っていきなり要職を占めることができるのだ。それは、チェコという国にとってあまりいいことではないだろう。また、クラウス以後の市民民主党、ゼマン以後の社会民主党が後継者を育てられなかったということでもある。ハベル大統領のように非政治家の大統領をと考えても、誰もが納得するような候補は存在しない。
 現状だと、対立候補として誰が立候補しても、バビシュ首相が当選するのは決まりのように見える。勝ち目があるとすれば根強い人気を誇るクラウス大統領の復帰ぐらいかなあ。それもできれば避けてほしいけどさ。
2019年10月18日23時。











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マサリクとチェコの精神 [ 石川達夫 ]





















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