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2019年09月19日

中華金龍(九月十七日)



 ゼマン大統領など政治家の主導で中国との関係を深めているチェコだが、それが何らかのいい影響をもたらしているかというと、どうなのだろう。肯定的に評価できる点がゼロだとは言わないが、むしろ悪い影響のほうが多いような気がしてならない。中国からの投資はゼマン大統領が主張していたほどには増えなかったし、チェコに押し寄せる洪水のような中国人たちは、態度があまりよろしくないこともあって、チェコ人たちの中に反外国人感情を呼び起こしている嫌いがなくもない。

 比較的マシなのはスポーツ分野においてだけど、チェコ第二のサッカーチームであるスラビア・プラハが中国資本の手に落ちたことに納得できていない人もいそうである。それに現時点では、余計な口は出さずに金だけ出しているから、オーナー企業としてある程度評価できるけれども、今後かつてのイングランドのオーナー企業がそうだったように、金は出さないくせに選手は引き抜いて行くなんてことにならないという保証はない。今のチームの状態で中国からの資金が停まったら、2010年ごろからの低迷期よりもひどいことになるのは目に見えている。
 これが、経営が不安定な中堅チームを買収して、経営を安定させ、必要以上の資金は投じずに少しずつ成績も上げていこうというのであれば、ほとんど皆もろ手を挙げて賛成するのだろうけど、派手好きの中国と、こちらも派手好きな代理人のトブルディークがそんな堅実なやり方に満足するとは思えない。

 その点、うまくやっているのが、テプリツェのオーナー企業である日系のAGC(旭硝子)である。ここはすでにいい意味で現地化が進んでいて、外資のイメージすらなくなっているのだが、長期的な維持できないような過度の投資はせずに、安定した経営を続け、成績も最近ちょっと下がり目だけど、安定して上位を維持していた。社会貢献の一環としてチームの支援を決めたのか、オーナーとしてチームの運営に文句をつけることもないようだし、チームが経営危機に陥ったという話も聞いたことがないから、必要な資金は出しているようである。
 そのおかげか、最近テプリツェの選手たちのことを、テレビ中継の際に「ガラス職人」と呼ぶことが増えている。バテャがあったことで靴の街になったズリーンの選手たちが「靴職人」と呼ばれるのと同じで、ガラス会社がオーナーになっていることからの呼称だろうけど、これはチェコのサッカー界に日本のAGCが、いやAGCの現地法人が完全に受け入れられてその伝統の一部となったことを示しているのだろう。バテャがズリーンから消えてなお「靴職人」の呼称が使われ続けているように、将来AGCがテプリツェのチームを手放したとしても、「ガラス職人」の呼称は残るはずである。

 話を戻そう。スポーツ界では、もう一つ、現時点ではどんな結果をもたらすかは予想もつかないけれども、興味深い中国とチェコ共同のプロジェクトが進行している。チェコのアイスホッケーリーグで、中国チームのチャイナ・ゴールデン・ドラゴンがプレーしているのである。中国のレベルから考えると、一番上のエクストラリーガはもちろん、その下の二部リーグもレベルが高すぎるということで、3部リーグへの参戦である。
 これは2022年の北京冬季オリンピックに向けたチーム強化の一環で、中国チームは若手選手を中心にした編成で、3人のチェコ人選手がチームに加わっているらしい。監督やコーチなどは当然チェコ人で、将来性のある才能を見込まれた選手たちにチェコのホッケーを学ばせるだけでなく、経験を積ませようという目的もあるようだ。ヤーグルが北京オリンピックのアイスホッケーの顔になったとはいえ、それだけではチームの強化にはならないわけだし。

 中国チームは夏からチェコに入って、ヤーグルのおひざ元であるクラドノで練習を積んでいたようだが、エクストラリーガのチームのあるクラドノは本拠地にできない。最初はプラハの西、クラドノの南にあるベロウンが候補に挙がっていた。それが、ふたを開けてみたらクラドノを挟んでベロウンの反対側、プラハの北西にあるスラニーという町が選ばれていた。3部リーグは3地区に分けて行われていて、中国チームが入っているの中地区。あとの二つが北地区と東地区というのは、何か微妙である。

 九月十二日にスラニーで行われた最初の試合は、ターボルを相手に0−7で大敗。代表選手、もしくは将来の代表候補を集めたチームだろうから、もうちょっとやると期待していたのだけど……。まあ、結果よりも80人ちょっとという観客数のほうが驚きだったけど。縁もゆかりもない中国チームを応援に行く地元の人もいないだろうから、80人のうちの多くはターボルからやってきた応援団だったのかもしれない。
 コリーンで行なわれた第2節も、0−10で大敗。チームの活動期間の関係で先に行なわれた第39節も1−11と、初得点は挙げたもののプシーブラムに破れ、三試合終わった時点で0勝3敗、得点1失点28という惨状で、どこまで教科になっているのかはわからないけど、来年の世界選手権で中国チームが強くなっていたら、来シーズンもチェコリーグに中国チームが参戦するかもしれない。経費は中国側が出すことになっているらしいから、踏み倒されでもしない限りは、チェコのホッケー協会も受け入れに反対はしないだろうし。

 北京オリンピックの中国チームについては、エクストラリーガの外国人選手が、俺は中国代表になって北京オリンピックに出るという捨て台詞と共に中国チームに移籍したなんて話も耳にしたことがある。中国のアイスホッケーの強化は、チェコだけで行われているわけではなさそうだ。
2019年9月18日23時25分。











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チェコとスロヴァキアを知るための56章第2版 [ 薩摩秀登 ]



マサリクとチェコの精神 [ 石川達夫 ]





















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