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2018年07月29日

三日目、あるいは感動詞的表現に関して〈LŠSS2018〉(七月廿五日)



 三日目はちょっと事情があって欠席。教科書の順番から言うと、日本語の感動詞的なものを勉強することになっていた。チェコ語の感動詞的なものとしては真っ先に浮かぶのが「サクラ」であろう。これは声なるという意味の形容詞「savatý」と関係のある言葉だという話なのだが、本来が名詞なのか、副詞的な扱いになるかよくわからない。名詞かどうかを問題にするのは、名詞が感動詞的に使われる場合に、1格を使うのか5格を使うのかよくわからないからである。時々使う人がいるサクリーシュもサクラのバリエーションだと言えるのかな。

 続いてよく聞くのが、信者以外が連発するとキリスト教徒がうるさいかもしれないから気をつけろと師匠に言われた「イェージュシュ」、または「イェジューシュ」とそれに「マリア」をつけた形である。問題は最初の「イェージュシュ」が、「イェージュシ」に聞こえることもあることで、「イェージュシュ」だったらイエス・キリストのイエスのチェコ語バージョン「Ježíš」で1格、「Ježíši」になれば5格だと考えられる。次のマリアが、マリオになっていないから1格で使うのだろうといいたいのだが、話はそんな簡単ではない。
 人によっては、神の子イエス、聖母マリアに加えて、父親のヨゼフの名前を使う人もいるのだが、これが必ず「ヨゼフェ」と5格になるのだ。だから全体を通すと「イェージシュ・マーリア・ヨゼフェ」という感じに聞こえる。ちなみにこれ、ちゃんとヨゼフェまで言えると、チェコ人驚いて、場合によっては喜んでくれるから、ハッタリを聞かせるにはいいチェコ語の一つである。

 もう一つ、5格で使うものがあって、それはキリストの足(単数)を意味する「クリストバ・ノホ」である。「ノホ」が足を意味する女性名詞「ノハ」の単数5格であることは、チェコ語を勉強し始めの人でもわかるはずだ。前に来る「クリストバ」が「ボ」になっていないのは、これが名詞ではないからである。これは人名などの人を表す名詞から作られる所有を示すための形容詞のようなものである。格変化はいずれ説明するけど、長母音が短母音になる変化がある以外は形容詞とほぼ同じである。形容詞の格変化は常に1格と5格は同じなので「クリストバ」も5格なのである。
 この言葉、今では使う人はほとんどいないというのだが、大戦間期を舞台にしたチェコのテレビドラマの最高傑作「チェトニツケー・フモレスキ」でザハールカという登場人物が使っているのを聞いて存在を知った。存在を知れば使ってみたくなるのが人情というもので、チェコ人を驚かせて喜んでいたのだけど、実は「クリストボ・ノホ」といういい間違いをしていたのだった。後の名詞の5格の語尾に引きずられて、所有形容詞も5格なのに変化させてしまったのが間違いだったのだ。間違えたことを悲しむよりも、所有形容詞なんていう厄介なものにおける自分の間違いを分析して修正できるようになったことを喜んでしまった。分析はできても間違うときは間違うんだけどさ。

 他の例を考えると、以前ふれた「ティ・ボレ」や、「ティ・ブルデョ」は5格で使われていることは明らかである。だからといって、どれでも5格になるかというとそういうわけでもなく、2003年の陸上の世界選手権で槍投げの鉄人ヤン・ジェレズニーが投げた瞬間に失敗を悟って口にした言葉は、売春婦を意味するものだったが、あれは5格の「O」ではなく1格の「A」で終わっていた。日本語だと、「くそ」とか「畜生」なんていう場合に使う言葉だと思うんだけど。
 それから、昔、工場で通訳をしていたときにオペレーターの人たちが、「ティ・ボレ」の代わりに使っていた、ここには意味を書くのも、発音を書くのも憚られるような言葉は、人によって、もしくは同じ人でも状況によって、1格だったり5格だったりしたような記憶がある。最近はこの手の言葉を常用する人との付き合いがないから、あやふやな記憶だけど、両方の形を聞いたのだけは間違いない。

 とまれかくまれ、5格というのは、チェコ語の名詞の7つある格の中でも、使う状況が限定的で一番問題のないものである。それでもこんな問題が出てくるのがチェコ語の困ったところである。こういうのを面白いと思えるようになることが、チェコ語ができるようになる秘訣である。来週火曜日の午後にチェコ語の格についての講義があるようだから、聞きに行ってみることにしよう。
2018年7月28日20時50分。









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チェコとスロヴァキアを知るための56章第2版 [ 薩摩秀登 ]



マサリクとチェコの精神 [ 石川達夫 ]





















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