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2016年02月12日

我がチェコ語学習の記(二月九日)



 二十年以上も前の話になるが、初めてチェコ語を勉強しようと思って購入した教科書は、旧版の『エクスプレスチェコ語』だった。著者は日本のチェコ語界では並ぶものがないぐらい高く評価された方だったが、この教科書は外国語アレルギーのある私にはまったく合わなかった。ものすごく早い段階で、時制の問題、未来形などが出てきて、英語も時制でつまづいた私にはついていけなかった。日本語、特に古文、漢文に関しては、文法オタクの毛があって国語文法の範囲内なら、どんな文法用語がでてきても楽しめるのだが、外国語の文法用語は日本語で書いてあってもお手上げ状態だったのだ。
 それで、この教科書は本棚の肥やしとなり、数年間省みられることはなかったのだが、ある日チェコ語を勉強しようという意欲が高まり、せっかく教科書があるのだから使おう、読んでもよくわからないから耳から入ろうということで附属のカセットテープ(CDにあらず)を注文した。すると、届いたのは新版のほうのカセットテープで、新版が出版されていることを知って、慌てて書店に向かったのだった。新版は、文法事項の配列がきわめて穏当なものだったので、何とか私にも使えそうだった。

 チェコ語の勉強を始めるに当たって考えたのは、中学校で英語を勉強し始めたときのことを反面教師にすることだった。小学校や中学校であまり勉強しなくてもそれなりの成績を残せていたので、自分は頭がいいんだという誤解をしてしまった。その結果、基礎よりも応用を求め、最小限の努力で最大の効果を求めるという勉強の仕方をするようになってしまったのだ。英語以外は小学校からの蓄積があったおかげで、それでも何とがごまかせていたのだが、英語だけはごまかせず、成績は下降線をたどり、平均点を取れるか取れないかというあたりに落ち着いてしまった。その結果、高校に入ってからも、大学入試でも非常に苦労させられ、大学に入ったときにはもう顔も見たくないと思うほどだった。
 だから、チェコ語を勉強するために、とにかく基礎は覚える。無理やりにでも頭に詰め込む。読むだけでは覚えても忘れそうだから、全部書く、繰り返し書くというのを自分に課すことにした。名詞や形容詞の格変化も、動詞の活用も、覚えたと確信できるまで繰り返し書いた。覚えた後も確認のために何度か書いてみて、間違えた部分があったらまた何度も書いた。一番たくさん書いたのは、男性名詞不活動体の硬変化hrad(城)の単数の変化だろう。複数が出てきたときも念のために単数の変化を書いてから複数の変化を書いたし。そのおかげでこれだけは間違えないという自信がある。一方、書いた回数が比較的少ない中性名詞の特殊変化などは、今でもあやふやになることがあって、ときどき教科書や辞書で確認する必要がある。いや、しないことも多いけど。
 そのやり方でじっくりと時間をかけて、エクスプレスを20課まで終わらせたのだが、答の得られない疑問点が山のように出てきてしまった。これは、できるだけ簡潔に易しくという教科書のコンセプト上仕方がないことなのだろう。

 そこで、『チェコ語初級』に移行したのだが、こちらはもう、例外事項まで事細かに説明がされていて、一課から順番に疑問点を解消しながら、同じようにひたすら書くことで勉強を進めていった。
 エクスプレスにもお世話になったのは確かであるが、やはり我がチェコ語の基礎は『チェコ語初級』によって築かれたと言いたい。エクスプレスはなくても何とかなったと思えるが、『チェコ語初級』がなかったら、私のチェコ語はものにならなかったと断言できる。新しい言葉の勉強を始めやすいように、内容も量も絞って、簡単さを強調する教科書が巷にあふれている中、これだけ内容も説明も濃厚な教科書が出版されたと言うだけでも偉業である。著者と出版社に感謝を捧げておきたい。
 その後、友人が発見して教えてくれた出版社の大学書林がやっている語学学校に通って、チェコ人の先生と日本人の先生に直接習い、質問することで、さらなる疑問点を解決することができたし、チェコ語のサマースクールに対して、日本のチェコ大使館が奨学金を出していることも知ることができた。運よくサマースクール用の奨学金がもらえることになって、チェコ移住への第一歩を踏み出すことになったのである。サマースクール以後のことは、長くなったし、またいずれということにしよう。

 思い返してみると、基本的な知識を何度も繰り返して書くことで頭に詰め込む勉強をしたのは、中学時代のことだった。毎年夏休みの宿題に、国語の教科書に出てくる新出漢字、新出語彙をノート一冊分書くと言う課題が出ていた。当時はいやいややっていたのだが、そのおかげできれいに書けるかどうかはともかく、漢字の読み書きで苦労したことはない。いやいやながらも毎年やり遂げていたのだから合った勉強法ではあったのだろう。それにもかかわらず、英語の勉強にこの方法を取り入れなかったのは、その効果に気づいたのが大学に入ってからだったからだ。高校時代に面倒くさいと抵抗しながらもいつの間にか頭に詰め込んでいた、古典文法の活用も、漢文の訓読の基礎も大学での勉強に非常に役に立ったし、詰め込み式の勉強はよくないという、どこで身に付けたのかも思い出せない固定観念は完全に払拭されていた。
 大学では、英語教育がいい加減だったのと今更勉強する気にもなれなかったのとで、英語を一から詰め込み勉強なんてことはしなかったが、チェコ語を勉強しようと決意したときに、勉強法として詰め込み法を選んだのは、必然だった。
 時々、英語もチェコ語のように勉強していたらできるようになっていただろうかと考えることがあるのだが、どうだろう。英語とは相性が悪かったからなあ。とまれ、英語ができるようになっていたら、チェコ語の勉強を始めることはなかっただろうから、どちらもできるようになるという結果には絶対になっていないはずだ。どちらかを選ぶのなら、断然チェコ語なので、英語ができるようにならなかったのは私にとっては、幸運で幸せなことであったのだ。
2月10日23時。



 こんなカバーではなかったと思うのだけど、お世話になりました。私が使ったのには結構誤植があったので、直っていることを期待したい。2月11日追記。


ニューエクスプレスチェコ語 [ 保川亜矢子 ]



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チェコとスロヴァキアを知るための56章第2版 [ 薩摩秀登 ]



マサリクとチェコの精神 [ 石川達夫 ]





















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