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2016年02月06日
いんちきチェコ語講座(四) 場所を表す前置詞
まだ名詞について書いておきたいこともあるのだが、うまくまとまらないので、先に書きやすそうな、いちゃもんを付けたいことが山ほどあるこのテーマから書いてしまうことにする。いや考え方によっては、この問題も名詞の問題だといえるのである。
日本語において場所を表すのに、助詞の「で」を使う場合と、「に」を使う場合があるように、チェコ語でも前置詞の「v」を使う場合と、「na」を使う場合がある。どちらも後に来る名詞は六格をとる。
日本語の場合、「で」と「に」のどちらを使うかを決めるのは動詞である。動作のある動詞は「で」で、動作でなく存在を表す動詞には「に」を使うなどと言われるが、ちょっと考えただけでも、そんな説明で割り切れるものではないことはわかるだろう。
チェコ語の場合に、決定権を持つのは前置詞の後にくる名詞である。全体的に見ると「v」をとるものの方が多い印象だが、「na」を使うものにも重要な場所がたくさんあり、しっかり覚えなければならない。例えば、普通の名詞であれば、広場、郵便局、駅、トイレ、小学校、高校、大学、島など、地名ではスロバキア、ウクライナ、マルタ、モラビア、ハナー地方などが、「na」を取る名詞となる。
チェコ語を勉強して身につけた外国人の目には、そこに何らかのルールがあるようには見えないのだが、チェコ人は、わが師匠も含めてルールがあると言う。壁があって屋根があるような場所、つまり建物の中の場合には「v」を使って、そうではない開放的な場所の場合には「na」なのだそうだ。
なるほど、広場は建物に囲まれてはいても屋根はないから「na」なのだといわれると、通りや道も屋根がないから「na」なのかなと想像できなくはない。アーケードのある商店街はどうなんだと聞きたくなったが、チェコには日本的なアーケードがないので我慢した。郵便局は、今では建物の中で作業しているけど、以前は中庭のような屋根のないところで郵便物の仕分けをしていたから「na」で、駅は昔は駅舎なんかなくて、線路とホームがあっただけだから「na」なのだと言われると納得してしまいそうになる。
しかし、そんなのはみんな後付けの理由なのだから、納得してはいけない。この論理で行くのなら、その昔チェコのトイレは、建物の中にはなく野ざらしだったことになるのだから。シベリアほどではないにしても、このチェコの冬の寒さでそれはありえないだろう。師匠は女性なので、こんな尾篭なネタで反論するわけにもいかず、野ざらしというのがチェコ語で言えなかったというのもあるけど、反撃には、別の言葉を使うことにした。
基礎学校(小中学校が一緒になったようなもの)、高校、大学が「na」を取るのだと聞けば、それらをまとめた学校も「na」をとると思うのが普通であろう。しかし、学校の前に来る前置詞は「v」なのだ。同じ学校なのにどうして違うのか質問をすると、学校という言葉には建物を感じるけど、高校などには感じないというのだ。そんなチェコ人にしか感じられないようなものをルールにされても、外国人としては困るしかない。
しかし、日本人もあまりチェコ人のことを悪くは言えない。助詞の「で」と「に」の区別に関しては、何かのルールに基づいてというよりは、感覚で判断しているはずである。「外国で勉強する」なのに、「外国に留学する」である理由は、文法的なルールではない。あえて言えば、「留学」の「留」は、訓読みでは「とどまる」で、とどまるが「に」を取るから「留学する」も「に」を取るとは言えるが、ではなぜ「とどまる」は、「に」なのかと聞かれたらうまく答えられない。
「で」と「に」、「v」と「na」の使い分けに、明確なルールが存在しないことを非難するつもりは毛頭ない。理論が先にあって言葉が作られたのではなく、実際に使われている言葉を元に、文法的なルールが帰納的に導きだされるものであることを考えると、ルール化できない、四の五の言わずに覚えるしかない部分が存在するのは当然である。やめてくれといいたいのは、例外だらけでルールにならないものをルールだと言い張ることである。師匠は外国人に教えた経験も豊富な優秀な先生だったが、それでも「v」と「na」の違いは所与のルールであるかのように説明していたからなあ。あれこれ質問を繰り返して、師匠の言うルールが外国人には受け入れづらいものであることは納得してもらえたけど、その過程で、「v」と「na」の使い分けの間違いが激減したのは確かだから、師匠の手のひらの上で踊っていただけなのかもしれない。
ついでなので、他の納得できない例も挙げておくと、例えばウクライナやスロバキアが、「na」を取る理由として、両国は歴史上独立国ではなく、別な国の一部であった期間が長いからだと説明される。その証拠として、チェコの一部であるモラビアも、「na」を取るでしょと話が続くのだが、実はこれも駄目な説明である。なぜなら同じチェコの一部であるチェヒ(=ボヘミア)とシレジアは「v」を取るのだから。おそらくは歴史上、王国であったとか、公国であったとか、伯爵領であったとか、そういうことが関係しているのだろうとは思う。しかし高々、前置詞の使い分けを覚えるために、複雑怪奇きわまる近代以前のヨーロッパの歴史、しかも個々の地域の歴史なんか勉強する気にはなれない。
それから、マルタが「na」を取る理由は、同じく「na」を取る島でできた国だからといわれる。アイスランドやグリーンランドが「na」なのも同じ理由だという。しかし、待たれたい。日本やイギリスだって立派な島国だが、前置詞は「v」なのである。そして師匠自信が認めていたのが、アメリカの州で、それぞれに「v」か「na」か決まっているらしいのだが、そこに何かの規則性を見出すのは、師匠にもできないという。それならハナっから、そういうものだから覚えろと言われたほうがはるかにましである。
チェコ語の「v」と「na」で困っている人は、上に挙げた例を使って先生に質問してみて欲しい。勝てることは請け合いである。もっとも勝てたからといって、それがチェコ語の能力の向上にはつながらないのだけど。
2月4日23時30分。
こういう基礎を教える本で、すべての場所を示す名詞に、「v」を取るのか、「na」を取るのか明記してくれると、楽なんだけど。いや「na」を取るものだけ注記すればそれでいいのかな。それにしてもチェコ語の教材が増えているのにびっくり。いい時代になったものだ。2月5日追記。