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2020年09月24日

厚生大臣辞任(九月廿一日)



 夏休み以来の感染対策の混乱を巡って、野党だけではなく与党の一角の社会民主党からも批判をあび続けてきたアダム・ボイテフ厚生大臣が突然辞任を発表した。事前に相談を受けていたというバビシュ首相は、即座に春の対策の中心をになった疫学者のプリムラ氏を後任の大臣として、大統領に推薦し即座に任命の儀式まで行なわれた。準備万端整っていたというか、予定調和な印象を与える辞任劇だった。
 春の流行が拡大し場当たり的な対策が次々と、朝令暮改のように発令されていた時期にもボイテフ大臣は激しい批判にさらされ、プリムラ氏を後任にするように求める勢力もあったのだが、結果的に流行の無軌道な拡大を阻止できたことで留任し、第二波にむけて、信号的色分け地図など対策の手順をある程度確立したことで評価を高めていた。ただその決められた手順の運用が出鱈目に終わったことで、前回上の激しい批判をあびることになったのである。

 もともと法学部の出身だというボイテフ氏は医療関係の専門家というわけではなく、その調整能力を買われて、露骨に言えばバビシュ首相の操り人形として厚生大臣に就任した。これまでの大臣も目標として掲げながらなかなか進展しなかった医療の電子化と効率化を推進することが課題だったようだ。その課題は今年の春の武漢風邪の大流行で吹っ飛んでしまい、以後は対策の舵取りに腐心することになる。
 対策におけるボイテフ氏の役割も調整役であることには変わりなく、特に専門家の求める対策とバビシュ首相の意向の調整は大変だったはずだ。春の対策がある程度うまくいったのも、バビシュ首相とプリムラ氏の間にボイテフ氏がいたからという面があるはずなので、今後バビシュ―プリムラ直結体制がどこまでうまく行くのか注目である。

 プリムラ氏は対策本部長座を、政治の時間になったとしてハマーチェク内務大臣に譲った後、厚生省の役職も辞任した。その時には、ボイテフ大臣が人気の出てきた自分を恐れ始めたのが原因だと語っていたがどうだろう。実際にプリムラ氏の人気を恐れたのはバビシュ首相だったのではないかという疑いもある。そして、手駒として残しておくために、厚生省退官後も特設の役職を設置してプリムラ氏を据えたと考える方が自然な気がする。バビシュ氏の操り人形に過ぎないボイテフ氏に、他者の人気を恐れる必要があったとも思えないし。

 ボイテフ氏が批判指されることが増えたのは、8月の後半ぐらいからだったと記憶するのだが、厚生省本体と、地方の保健所の連携が取れていなかったり、地方政府と保健所の意思疎通が出来ていなかったりと組織的な問題が次々に露呈した。これも完全にボイテフ氏の責任というよりは、これまで放置されてきた組織的な欠陥が、最悪のタイミングで表に現れたと言ってもいいのかもしれない。いろいろ解説を聞いても、地方の保健所の位置づけが、地方政府に属するのか、厚生省に属するのか、いまいちよくわからなかったし。
 厚生省の専門家たちと話し合って決定し、発表した対策を、バビシュ首相の鶴の一声で変えなければならなかったこともある。これもバビシュ首相の人気取り、厚生省は厳しい対策を導入しようとしているけど、首相が止めたというストーリーが必要とされたもののようにも思われる。そんな茶番に疲れ果ててしまっての辞任だったのか、このままボイテフ氏を留任させると地方選挙への影響が大きいと考えてバビシュ首相が因果を含めて辞任させたのかは知らないが、他の誰が務めていたとしても、バビシュ首相の元ではボイテフ氏以上の成果を収めるのはむずかしかったに違いない。

 バビシュ首相は、厚生大臣を交代させた今日の夜8時から、チェコテレビで国民に向けて演説を行った。地方議会選挙前にいいのかという批判があることを考えると、厚生大臣の交代も選挙対策と考えたほうがいいのかもしれない。
2020年9月22日21時。











2020年09月18日

中国報復開始(九月十五日)



 日本のマスコミの一部でも、取り上げられたチェコのビストルチル上院議長率いる代表団の台湾訪問だが、中にはチェコという小国が巨人中国に対して反旗を翻したというような報道もあって、単に知らないだけなのか、意図的に事実を省いているのか判断に悩むところである。繰り返しになるが、チェコ政府は大統領を筆頭に依然として中国べったりで、今回の上院議長の台湾訪問は、特に大統領と政権与党の社会民主党によって激しく非難されている。ANOとバビシュ首相も批判はしているがそこまで熱心でないのは、近づく地方議会選挙に向けて反中国派の票も狙っているからだろうか。

 そのビストルチル氏に対して、顔をつぶされた形になったゼマン大統領が報復に出た。上院議長は、三権のうちの立法権の長の一人ということで、大統領、首相、下院議長と共に定期的に、国家の安全保障に関する会合を行っているらしい。その四者会合に、今後はビストルチル氏を呼ばないことを決定したのである。理由としては前回の会合で台湾訪問の話題になったときに、安全保障の観点から中止にしたほうがいいということになったのにそれを無視したというものを挙げている。
 ただし、ビストルチル氏は、前回の会合の際は、武漢風邪の大流行が始まったときで、それ以外の話題は出なかったし、自身、まだ同僚故クベラ氏の遺志を継いで台湾に行くことを決めていなかったから、話題にしようもなかったと反論している。これは恐らくビストルチル氏の発言のほうが正しかろう。就任当初は、まだそこまで考えられる状態にないとか言っていた記憶もあるし。

 ちょっと理解に苦しむのが、与党を支持する野党の共産党で、左翼特有の口を極めた強い批判を繰り返している。マルクスレーニン主義の本場ソ連共産党の直系にあたるチェコの共産党が、ソ連と袂を分かった中国共産党を支持するのはおかしくないか? 冷戦終結で共産党同士の対立、抗争も解消されたのだろうか。

 中国からの報復は、日本でもちょっと報道されているようだが、まずピアノ制作会社のペトロフに対して行われた。中国から注文を受けて制作に入っているピアノが全部キャンセルになって、数百万コルナの損失になりそうだという。規模の小さな会社にとっては大損害だが、モノがモノで大量に生産販売するものではないので、絶対的な損失額としてはそれほど大きくはない。最終的にはどこぞの大金持ちが中国に納品される予定だったピアノをすべて購入してくれることになったらしい。それが台湾の人だったらきれいに落ちが付くのだが、チェコの人だったと思う。
 これはまだ、実行はされていないようだが、中国に工場をいくつか持つチェコの自動車部分会社の経営者が、中国の取引先から、取り引きの停止をほのめかされたと語っていた。中国ならやりかねないし、実行されたら会社にとっては大きな打撃になるはずである。この会社、確かオロモウツに日系企業と合弁で工場を持っているから、経営の悪化なんてことにはなってほしくないのだけどなあ。

 それから、代表者が、ビストルチル氏と共に台湾に向かった企業については、中国での活動が禁止された。こちらはすでに正式に決定されチェコ政府にも通達があったようだ。中国に臣従するゼマン大統領をいただくチェコ政府は、台湾訪問当時の中国政府の脅迫的な宣言にはさすがに抗議をしたが、こちらの決定には特に異を唱えていなかったと思う。
 台湾訪問に同行した企業にしてみれば、ゼマン大統領の中国訪問でも期待したほどのチェコへの投資も、チェコ企業への市場開放も進まなかった結果、別の可能性を求めて台湾に向かい、ある程度の成果を上げて帰ってきたのだから、今更中国との関係は求めないだろう。

 経済と政治は別物といいながら、経済的な関係を深め、経済的な結びつきが強くなると、政治的な理由で経済関係を人質にして脅迫する中国のやり口は、詐欺としか言いようがない。経済的な面ですら約束を守ろうとしない嘘つき国家は信用するに当たらないし、まともな外交関係も結べないと思うんだけどねえ。そんな国の元首を国賓として招待して機嫌を取ったところで何ももたらさない。
 安易なゼマン批判というのはあまり好きではないのだけど、この点に関してだけは、ゼマン大統領を批判している人たちにもろ手を挙げて賛成する。
2020年9月16日14時30分。











2020年09月08日

中国大変、台湾大喜び(九月五日)



 ビストルチル上院議長の率いる台湾訪問団が無事に帰国した。この台湾訪問は、世界的にも大きなニュースになるなど、大成功を収めたといっていい。恐らくは、ビストルチル上院議長を初めとする参加者の中にも、ここまで大きな成功を予想していた人はいまい。成功の最大の原因は、中国の横暴に対する反感が世界的に高まっていたことなのだから、中国に対しては自業自得とか、身から出た錆という感想しか思い浮かばない。

 近年の中国の外交とも呼びたくないやり口は、表面上は言葉を飾ってはいるものの、中国からの膨大な投資と中国市場の開放を約束することで味方につけ、いわゆる「ひとつの中国」政策や昌す民俗対策に文句を言わせないというものである。ただ、チェコの例を見てもわかるとおり、中国側の約束が完全に達成されることはなく、約束を反故にしておきながら、相手側には守ることを強要する。
 そして、台湾問題だけでなく、チベット問題などについて批判されると、投資や、中国に進出した企業を人質か使いにして脅迫する。やくざまがいの悪徳金融機関も顔負けのやり口なのだが、中国からの巨額の投資というのはそれほど魅力的なのか、詐欺に引っかかる国は後を絶たない。詐欺だと気づかないまま中国の温情にすがろうとして傷を大きくしているチェコみたいな国もあるはずだ。

 さて、話は変わるが、チェコも日本と同じで、同じ三権の長の一つとは言っても、立法権の長である国会の議長の存在感は、行政の長である首相、大統領と比べるとはるかに小さい。上院など繰り返し不要論が出され、選挙の投票率も低く、大げさに言えば忘れられた存在で、議長であっても知名度はそれほど高くない。例外と言えるのが、かつて大統領選挙にも出馬したピットハルト氏と、在任中になくなったクベラ氏だった。
 外遊に関しても、上院、下院の議長が独自に行うことはあるが、大きな話題になるのは、何か問題があったときぐらいで、大統領、首相の外遊とは注目度がまったく違う。それが今回、チェコ国内でも大きな注目を集めたのは、単に行き先が台湾だったからだけではない。中国が手下に逆らわれたガキ大将のような過剰な反応をして、一部を除くチェコ人の独立心に火をつけたからである。

 台湾側の歓迎も、中国の反応に負けずに、非常に大きなもので、ビストルチル上院議長にとっては一世一代の大舞台になった。それでちょっと舞い上がったのか、初日の演説は、聞いている台湾の人も反応に困るようなことを言っていた。
 確か、「チェコと台湾が手を組めば世界で一番になれます。その実例が、女子テニスの台湾選手と組んでダブルスの世界ランキング1位になったバーラ・ストリーツォバー選手です」とかなんとか。当然選手の名前も挙げていたけど、覚えておらず読み方もよくわからないので省略。テニスが盛んで人気もあるチェコでは、ストリーツォバーは有名で、ダブルスのランキング1位になったことも知られているが、台湾で、野球選手ならともかく女子テニス選手が誰でも知っているような存在になっていたかどうかは、いささか心もとない。台湾の国会での演説では、最後に「私は台湾人だ」とまずチェコ語で、その後、中国語で繰り返すことで万雷の拍手を浴びた。

 今回の台湾訪問で、もっとも感動的だったのは、台湾訪問を計画し実現する前に亡くなったクベラ氏にも台湾から勲章が授けられたことである。夫人もチェコからビデオ通話で登場して謝礼を述べていた。その後、夫人はチェコの大統領府から最高勲章を授けるという話を断ったことを明かして、反ゼマンの人々を喜ばせていた。台湾訪問を阻止するために圧力を掛けた大統領から勲章なんて話にもならないということなのだろう。

 台湾では、プラハ市長が、動物園で取材に答えて、中国と台湾のどちらが信頼に値するパートナーかが明らかになったと語っていた。直前に台北の動物園がプラハの動物園に、希少な動物を送るk東低が結ばれたという話をしていたから、プラハ市も中国が世界中でやらかしているパンダ詐欺に遭ったのかも知れない。

 最後に、この訪問の恐らく一番の目的であった経済的な面でも大成功を収めたようだ。参加した企業の代表達が声をそろえて語っていたのが、ここまでうまくいくとは予想どころか期待もしていなかったということで、過去の企業関係者を引き連れての政治家の外国訪問でここまで成功したものはないとまで言う人もいた。
 これは、ゼマン大統領が大成功だったと自慢してやまない何度かの中国訪問に同行した企業関係者が、首を振りながら、成果はあったけれども期待したほどではなかったと語っていたのと比べると対照的である。その得られた成果もどこまで約束どおりに実現したのかと考えると、今回の台湾訪問での成果との差はさらに大きくなる。
 今後中国がどんな嫌がらせ、恫喝をしてくるのか注目である。
2020年8月6日12時。

2020年09月06日

厚生大臣隔離(九月三日)



 最近、前日のことを取り上げることが増えているのだけど、これはちゃんとその日のうちに書き始めている証拠である。それはともかく、昨日うちに帰ったら、うちのが、厚生省で今回の武漢風邪対策の指揮を執っている衛生局長が検査で陽性になったというニュースを教えてくれた。さすがはチェコという感想を持ってしまうのは仕方あるまい。まあ、フランスでもツール・ド・フランスの開幕地になった、感染状況ではレッドゾーンに入っているという市の市長が、感染してトランプ大統領に倣ってマラリアの薬で治療してそれを声高に自慢しているなんて話もあるから、こういう笑えない笑い話は、どこの国にも一つや二つはあるものだろう。

 ニュースによれば、この衛生局長は、火曜日の夕方まで普通に仕事をこなして自宅に帰ったあと、夜になって感染が疑われる症状が出たため、水曜日の朝一番に検査を受けたところ、陽性という結果が出たということらしい。直前まで、厚生省内だけではなく、政府関係者との会議に参加し、マスコミに対しても記者会見を行っていただけに、誰が感染が疑われる人として隔離状態に置かれるかが問題になる。
 症状が出る二、三日前から、より厳密には48時間らしいけど、他人に感染させる可能性があるということで、日曜日ぐらいから一緒に仕事をした人たちを対象に、集中的な検査が行われることになった。さすがは責任者で、義務化はされていない場面でも、ほぼ常にマスクを着用していたようだが、テレビ出演や、一対一のインタビューなど、マスクなしだったこともあるようだ。

 それはともかく、上司にあたる厚生大臣が検査の対象になったのは当然で、厚生省の建物全体で消毒が行われ、同じ部署で仕事をしている人たちなど、十人単位で検査が行われることになった。厚生省の建物の出入りも規制が厳しくなり、感染の疑いのない職員も可能な人は自宅で仕事をすることが求められているようだ。ここはそれでいい。
 問題は、政府関係者の方で、月曜日に衛生局長を交えた会議にはバビシュ首相も参加していたらしいのだ。しかし、バビシュ首相は自分が感染している可能性はないとして、検査とそれに続く自宅待機を拒否している。理由は、確かに会議に出て同じ部屋にはいたが、衛生局長からは3メートル以上離れて座っていたし、常に医療用の高性能マスクのレベル2を着用しているから大丈夫というものだった。実はレベル3じゃないと感染は完全には防げないという話もあるのだけど。

 新学期が始まって、武漢風邪の流行の拡大が確実視される中、上院議長の台湾訪問で、怒り狂う(ふりをする)中国へも対応しないといけないし、首相が隔離されるのは避けたいところなのだろうけど、念のために検査ぐらいは受けておいた方が、周囲の人々にとっても安心ではなかろうか。サッカー選手に倣って陰性だったら隔離はなしってことにすればいいんだからさ。
 チェコでは、イタリアで流行が爆発した後、最初に患者が出たころの、感染者を出してはいけない恐ろしい病気という認識から、リスクの高いグループを除けば感染しても大きな問題はないという認識に変わりつつあり、それをもとに対策のなされるようになっているので、バビシュ首相が検査を受けないというのもその流れの一つなのだろう。

 厚生大臣は、水曜日の朝、カルロビバリ地方の病院視察に向かう途中の車の中で、衛生局長の陽性を知らされ、病院の構内には入ったものの、車の中から病院関係者に挨拶と事情の説明をして、そのままプラハに戻り、検査を受けたという。検査の結果は陰性だったが、ルールに従って、これから十日間の自宅隔離に入るという。九月に入って隔離期間も短縮されたのだった。
 大臣は陰性だったが、厚生省の役人の中には陽性が確認された人もいるようで、今後、対策の総本山である厚生省で集団感染が発生したという笑えない事態になることもあり得なくはない。それで、職員が軒並み自宅待機ということになったら、これまで毎日行われてきた記者会見や、感染状況、感染対策の発表などは誰が担当するのだろうか。

 今日の夜のニュースによれば、衛生局長の陽性判定のせいで、20人ほどのマスコミ関係者が自宅監禁を余儀なくされ、チェコテレビの人気討論番組「バーツラフ・モラベツが問う」の司会者モラベツもその対象となるため、次の日曜日の放送は中止になったらしい。バビシュ首相とは逆に、外務大臣と労働大臣が自主的に自宅隔離に入ったという。二人とも社会民主党の人だから、ANOへのあてつけかな。
2020年8月3日22時。












2020年09月03日

上院議長中華民国訪問続(八月卅一日)



 昨日の話を読んで、経済的な利益なら、台湾よりも中国と結んだ方がいいのではないかと思った方もいるだろうが、その中国の経済による支配力に陰りが出ている事情は、この産経新聞の記事に詳しい。前回紹介した記事よりも以前の記事だが、内容的にはこちらの方が優れている。ただチェコを知らない人にはわかりにくいところもあるのでちょっと解説を加えておく。

 まず、代表団の一人として紹介されているパベル・フィシェル上院議員だが、この人はもともとハベル大統領に近かった外交官で、2018年の大統領選挙に立候補したことで知名度を上げた。専門である外交の分野ではゼマン大統領の過度の中国への接近を批判していたはずである。その後、大統領選挙で得た知名度を生かして上院の選挙に立候補し当選した。
 現在の上院には、フィシェル氏だけでなく、医師のヒルシュル氏、ゼマン大統領との決選投票にまで進んだ元科学アカデミー長のドラホシュ氏と、大統領選挙で反ゼマンの立場から立候補した人たちが何人かいる。同時に最大会派の代表として議長を務めるのが、90年代のゼマン大統領の政治的ライバルだったクラウス元大統領が創設した市民民主党の議員なので、上院はチェコの政界では反ゼマン、反バビシュ派の牙城のようなものになっている。

 だから、上院議員たちが、その独立性を行使して、政府の意向に反する台湾訪問を強行するのも、政府、大統領側が自分たちには関係ないとさじを投げたような発言をするのも当然と言えば当然なのである。ただし、市民民主党は経済を重視しているので、中国からの約束された巨額の投資が実現していれば、あえて台湾訪問を唱えなかった可能性は高い。中国への接近を始めたのは自分だと、市民民主党のネチャス元首相が自慢していたぐらいだし。今回の件は中国の自業自得で、チェコを批判するのは盗人猛々しいという奴である。

 アメリカのポンペオ国務長官の国会演説に関しては、チェコ側が驚きのあまりろくに反応できず、ポンペオ氏はそれに失望したという報道があったことを付け加えておく。来る前、来てからも途中までは大歓迎という雰囲気であれこれ会談の展望が語られていたのに、結局なかったことにされているような印象を受けたのは、この演説が原因だったのである。

 この記事では、「ゼマン大統領が主導した中国接近の「失敗」」と断じていて、それは正しいと思うが、問題はゼマン大統領を筆頭とする中国信者は失敗ではないと考えていることである。今後も中国との関係を深めて、優遇を続けていけば、チェコへ投資を引き込むことができると考えて、中国への過度な配慮と譲歩を繰り返している。これまでの投資額が中国よりもはるかに多い国々に対しては、そこまでの配慮はしていないので、ふざけるなと思っている外資系の企業は多いはずだ。
 中国からのチェコへの投資は、もともとある中国の投資会社が担当をしていて、その象徴としてまずサッカーのスラビア・プラハを買収した。このスラビア買収が予想に反して好結果をもたらしたことで、中国からの投資に対する期待が高まったと言っていい。投資会社の社長はチェコでゼマン大統領の相談役か何かに任命されていた。

 風向きを変えたのは、その投資会社の社長が本国の中国で失脚したことである。記事には「汚職疑惑の中で撤退」とあるが、チェコから見ていると、事情も何も分からず。ある日突然社長が消えていたという印象だった。ゼマン大統領でさえも知らされておらず、中国を訪問した際にこの社長が出てこないことを不審に思って、中国側に問い合わせてもろくな情報が与えられなかったという話だったと思う。汚職疑惑というのは口実で、要は権力争いに負けて粛清されたのだろう。さすがは共産党国家である。
 チェコでの投資に関しては、撤退したというよりは、その投資企業自体が消滅して、政府系の投資機関が後を引き継いだのだと理解している。その政府系の投資機関は、もともとチェコが担当じゃなかったからか、中国政府によって約束されたはずの巨額の投資は行わず、チェコの経済界に失望をもたらした。さらには成功の象徴だったスラビアさえも売却することを考慮しているというニュースが流れるなど、撤退の準備を始めているようにも見える。忠臣であるゼマン大統領の任期中ぐらいは、チェコでの活動を続けるんじゃないかとは思うけどさ。

 おそらく、ゼマン大統領がいかに努力しても中国が約束の投資を実行することはあるまい。まだ完全には終わっていないけれども、これが過剰に中国にすり寄ってしまった国の顛末である。今回の上院議長の台湾訪問を機に、中国からの投資が撤退する可能性はあるが、それは口実にされるだけで、撤退の本当の原因にはならないと思う。日本も中国に頼った経済政策なんてやめて、中国の存在なしでも成り立つ政策に切り替えないと、いつはしごを外されるか分かったものじゃない。トランプ大統領率いるアメリカが中国との対決姿勢を強めている今が最後のチャンスかもしれない。
 80年代には左翼もどきとして、当然アメリカ嫌いだったのだけど、今の中国を見ると当時のアメリカ以上にひどくないか? かつてアメリカを批判し続けた左翼ならば、今は中国をも批判するのが正しいんじゃないかなんてことを、チェコを見ていると思ってしまう。
2020年8月31日23時30分。














タグ:台湾 中国

2020年09月02日

上院議長中華民国訪問(八月卅日)



 わかりやすく言えば台湾訪問なのだが、大陸の共産国家を中華人民共和国と呼ぶのなら、台湾も中華民国と呼ぶのが公平というものであろう。略せばどちらも中国。わかりにくいから台湾を使ってしまうけど、共産中国だけを中国と呼ぶのは、中国の共産党政権を支持することにつながるのではないかという気もしてくる。チェコ語の場合は、「Čína」は国の略称と同時に地域名でもあるから、台湾と対応させても何の問題もない。国名が大事なときには人民共和国と民国で区別する。
 それはともかく、今年の初めに予定が発表されて以来、紆余曲折というよりは、各方面からの妨害があった上院議長の台湾訪問が実現した。取り上げるかどうか悩んでいたのだが、日本のネットニュースでも誤解交じりに報道されていたので、書くことにした。読んだのは、どうも翻訳記事らしいこれ

 一読するとチェコ政府が中国政府の反対を振り切って上院議長を含む代表団を派遣したような印象を受けそうだが、それは大きな間違い。前任のクベラ氏が計画を発表した時点から、ゼマン大統領を筆頭に、チェコ政府は計画の撤回を求めて圧力をかけていた。バビシュ首相はそこまで熱心な印象はなかったが、社会民主党の党首ハマーチェク内務大臣と、外務大臣が特に強硬に反対していた。
 現議長のビストルチル氏も、就任当初は慎重に検討すると言い、一時は撤回しそうな発言もしていたと記憶するのだが、最終的には市民民主党の同僚でもあったクベラ氏の意志を尊重し、政府の反対を振り切って台湾訪問に踏み切った。ゼマン大統領は不満の意を表したし、外務大臣の口からは、繰り返しこの訪問はチェコ政府の外交方針に反したものだということが強調されている。中国に配慮しているのである。

 もともとクベラ上院議長が、計画を発表した時点で、中国側からは脅迫もどきの警告がなされていたのだが、その警告が確か中国大使館から直接上院議長ではなく、大統領に対して出されたものが上院議長に回されたという話があったと記憶する。それで脅迫しているのが中国なのか大統領なのかという疑問も呼んだ。ビロード革命時に活躍した反共産党の闘志であるクベラ氏は、そんな内政干渉もどきには屈しないと、台湾訪問を実現する強い意志を見せていたのだが、残念なことに職場の国会で倒れて帰らぬ人になった。

 後任の議長が決まった後、この台湾訪問をどうするかは、中国発の武漢風邪の大流行で一度はうやむやになっていたのだけど、流行が治まって再度議題に上るようになると、政府側の嫌がらせが始まった。主導したのは社会民主党だと見る。チェコも他の民主国家と同じで三権分立というものが確立されているため、立法権の長の一人である上院議長が政府の方針に反して台湾訪問をすると言い出しても、政府には阻止する権限はないのである。
 普通この手の国の代表団が外国を訪問するときには、特に今回のように少人数ではなく、企業の代表たちまで含めて大人数で出かける場合には、軍が運行を担当する政府専用機が使用される。それが台湾訪問に使えないというニュースが流れたときには、軍は公式の依頼を受ければいかようにも対応すると語っていたので、上院議長の依頼は軍まで届いていなかったわけだ。防衛大臣はANOの人だが、この台湾問題に関してはほとんど発言していない。

 その後、チェコの元国営航空であるチェコ航空の飛行機を利用するという案も出たようだが、現在チェコ航空の親会社であるチェコの格安航空会社であるスマートウイングスが今回の経済危機で政府の支援を必要としていること、最大の株主が中国企業であることなどもあって、これも実現せず、結局は台湾の民間航空会社の飛行機で、台湾に向かった。
 公式見解は、軍の政府専用機を利用すると、途中でどこかの飛行場に着陸する必要があり、その場合、台湾に入って14日の隔離を受けなければならないので、その必要のない唯一の方法である台湾の航空会社を使ったというものである。誰も信じてはいないと思うけど。将来的には台湾とプラハを結ぶ直行便をこの会社に任せたいという考えもあるのかな。

 またプラハと中国、台湾の都市の姉妹都市関係についても書かれていて、プラハが積極的に中国と対立しているかのように読めるが、これも微妙に違う。もともとプラハは台湾の台北と友好関係にあり、姉妹都市かどうかはわからないけど、何らかの協定を結んでいた。それをゼマン大統領が共産中華帝国に対する貢物の一つとしてプラハと北京の姉妹都市協定を斡旋したのである。同時に台北との協定は反故にされた。
 この姉妹都市の協定を結ぶ時点で、台北との関係をどうするかだけではなく、中国が協定に、本来無関係であるにもかかわらずねじ込んできた、いわゆる「一つの中国」政策条項も問題とされたのだが、当時のANOが市長を出していたプラハ市政府はゼマン大統領の意を汲んで、反対派を抑え込んで調印に持ち込んだ。実はプラハと北京の姉妹都市関係が始まったのは、最近のことでしかないのである。

 そして、前回の地方議会選挙でプラハ市に海賊党を中心とした市政が誕生すると、改めてこの「一つの中国」が問題とされた。プラハは国政レベルの条約や協定ならまだしも、自治体同士の交流協定に、このような国政に関わる条項が入るのはおかしいと主張し北京側と交渉しようとしていた。それに怒った中国政府が、プラハと名のつく音楽団体に対して、興業ビザを発給しないなどの嫌がらせを始め、プラハ側がこの条項を撤廃しない限り姉妹都市の協定は破棄すると通告したのが去年の夏だった。
 この問題で中国側が譲歩するはずもなく、プラハと北京の姉妹都市の関係はまともな話し合いもないまま解除され、制約のなくなったプラハは、以前から友好関係にあった台北とよりを戻したというのが、プラハをめぐる北京と台北の争いの経緯である。プラハとしては観光客の誘致が最大の目的である以上、両方の都市と姉妹都市の関係を結べるのが理想的なはずだが中国側がそれを許すはずはない。

 だから、チェコという国も、プラハもこの記事から受ける印象ほどには、中国に対して強硬な姿勢に出ているわけではない。もちろん、徹底的に反中国の人もいるけど、ゼマン大統領と共産党、社会民主党の支持者を抱える親中国派ほどは多くない。バビシュ首相を筆頭に多くの人にとって重要なのは、経済的な利益である。それで、上院議長の台湾訪問にもたくさんの企業の代表がビジネスチャンスを求めて同行しているのである。
 この話もうちょっと続く。
2020年8月31日16時30分。













タグ:中国 台湾

2020年08月15日

有難う、アメリカ!(八月十二日)



 アメリカの国務長官のマイク・ポンペオ氏がチェコを訪問している。この人の名前、チェコ語では当然格変化されるのだが、2格は「Mikea Pompea」になる。名字は英語もローマ字読みに近いようなので「ポンペア」と読めばいいのだろうが、名前の読み方に悩む。チェコ語風の読み方の「ミケア」にはならないだろうから、「マイカ」かな。名前の1格の読み方が「ミケ」だったら、2格は「Mikea」ではなく、「Mikeho」になるような気もするし。
 そのポンペオ氏が武漢風邪の流行は収束しないものの、当初のお祭り騒ぎが終わって最初の欧州訪問でチェコに来ることを選んだのは、NATO加盟国の中で、アメリカが求めるのに近いレベルで予算を軍事費、もしくは国防費に費やしている数少ない国だからとか、中国に対して警戒を強めるトランプ政権が、ヨーロッパで中国の拠点の一つになりつつあるチェコの、中国派の大統領を初めとする政治家に警告を与えるためだとか、あれこれ理由を考えたりもしたのだが、もともとチェコに来る予定だったのが、武漢風邪で延期されただけだったかもしれない。

 ということで、ポンペオ氏がチェコで最初に向かったのはプルゼニュである。第二次世界大戦末期に西からドイツ軍を掃討しながらチェコ国内まで侵攻してきたアメリカ軍が最後に開放した都市プルゼニュで行われる戦勝記念式典に出席したのである。本来は5月に、戦後75年ということで例年より盛大に行われる予定だった式典は、延期を余儀なくされ、規模も縮小されることになったが、アメリカから賓客を迎えることができた。
 式典が行われたのは、プルゼニュのアメリカ通りの一番端のちょっと広くなって広場のようになっているところに設置された、アメリカ軍によるプルゼニュ解放記念碑の前である。この記念碑の名称が、正式かどうかはしらんけど、「Díky, Ameriko!」というもので、最初に聞いたときには、あまりの直接的な命名に耳を疑ってしまった。共産党政権下では公式にはアメリカ軍による解放はなかったことにされていたというから、その抑圧が爆発しての命名ということだろうか。いつ作られたものかは知らないけど。

 その儀式の翌日にポンペオ氏はプラハに移動して、大統領や首相などと会談を行ったらしい。チェコテレビではその移動の様子を中継して、これからチェコの政治家たちとどんな話をするのかなんて番組をやっていたのだが、解説者として呼ばれたのが元外務大臣のツィリル・スボボダ氏。かつてキリスト教民主同盟の党首も務めたこの政治家は忘れられた存在になったものと思っていたのだが、チェコテレビに売り込んだのかね。

 1990年代の政治的風潮がまだ幅を利かせていた、別な言い方をするとクライアント主義が全盛期だった2000年代の初めに外務大臣を務めていたのだが、言葉はきれいなものの、考え方は典型的な旧来の政治家で政治家の特権意識を持つ人だった。政治家なんて選挙に落ちたらただの人にもどるのが正しい民主主義のあり方のはずなのに、外務大臣をやめて議席を失ってからも、特別待遇を求めるような発言を繰り返していた。ただし、この人が特別なのではなく、当時の政治家は皆、今も既存の政党の政治家の多くは同じような意識を持っている。
 外務大臣を務めた自分を外務省の顧問として雇わないのは、国にとって損失だとかこいていたのかな。当時は二大政党で、同時に汚職に関しても二大政党だった市民民主党、社会民主党以外ということで少しはましかと思っていたのだけど、結局は同じ穴の狢だったわけだ。バビシュ氏とANOがあれだけの批判にさらされながらも、一定の支持率を保っているのは、一部は今でも現役のあのころの政治家たちよりはましというイメージが定着しているからで、スボボダ氏もそのあのころの政治家の典型の一人なのである。

 実際に、ポンペオ氏とチェコの政治家たちの間でどんなことが話されたのかについては、あまり興味はない。それよりもアメリカの国務長官がこの時期チェコを訪れたという事実のほうがはるかに重要である。外交官の追放でロシアとちょっともめているだけでなく、ベラルーシでも大統領選挙後の暴動にかんしてチェコが裏から煽っているとルカシェンコ大統領に批判されるなど東側からちょっと不穏な空気が漂ってきているところだしさ。
2020年8月13日14時。











2020年08月07日

武漢風邪選挙(八月四日)



 チェコでは、今年の秋に、四年に一度の地方議会選挙と、二年に一度、国内の三分の一で行われる上院議員の選挙が行なわれることになっている。それで、武漢風邪の流行が再度拡大し、収束の気配を見せず、感染者だけでなく感染の疑いで自宅監禁状態に置かれている人の数も増え続ける現状で、どのように選挙を実施するかで政治家たちが話し合いを始めた。

 もちろん、自宅監禁状態にない人に関してはいつも通りに選挙を行えばいいのだが、外出禁止常態に置かれる人たちに対してどのように選挙権の行使を可能にするかが問題になっている。増え続けるとは言っても、人口比にすれば1パーセントにも遠く及ばないのだから、国政レベルの選挙であれば、投票できなくても選挙結果にはほぼ影響はないといっていい。上院の選挙なんて全国81の選挙区のうち27箇所でしか行われないし、投票率も20〜30パーセントというところだから、普通に投票できない人たちの中に、投票を希望する人がほとんどいない可能性もある。
 問題は今回の選挙の中心が地方選挙だというところで、こちらは下院の選挙ほどではないが投票率は高い。それに、局地的に集団感染が発生している小さな自治体だと、人口の10パーセント以上が感染者で、その何倍かの外出禁止の人が出ることも考えられる。そうなると、投票できない人の存在が選挙結果に大きな影響を与えることになる。選挙権を行使するかどうかはともかく、行使できるようにするのが政治家の役割だとかいっている人もいたけど、ここで存在感を発しておかないと忘れ去られそうな政治家も多いからなあ。

 とまれ、国会での話し合いを前に、各政党がいくつかの案を出して、そのうちのどれを正式に審議にかけるかの話し合いをしていた。どんな案が出たのかすべてを知っているわけではないが、郵送での投票という、他の国で特に国外在住者の場合に使われているらしい方法は、内務大臣のハマーチェク氏によってなんだかよくわからない理由で否定されていた。

 それで、最終案として残ったのは以下の四つ。

@代理人、もしくは仲介人を使って投票する。
 ただでさえ、選挙違反、特に票の買収の多いチェコで、これはないだろうと思っていたら、政党間の話し合いで撤回された。珍しく建設的な話し合いがなされたようである。
 代理人というと普通の弁護士なんかと縁のない人たちは血縁者を選んで委任状を持たせることになるのだろうけど、今回は家族全員で自宅から出られないと言うことになっている人が多いはずだから、そもそも導入しても意味のない制度だったのだ。代理人の資格を認定するなんて話になったら、代理人の売込みで大変なことになりそうだ。どこの党なんだろう、こんなの提案したの。

Aドライブスルー方式
 ファーストフードの販売方式を真似て、自家用車で特設の投票所まで来て、一歩も外に出ないまま投票するのだとか。選挙管理委員が感染防止のための防護服を着て車の窓越しに本人確認をして、投票用紙を受け取る形になるようだ。
 そもそも自宅を出てはいけないのではないのかなんて質問はしても無駄である。選挙は特例扱いで、自宅監禁の対象者だけが集まる投票所を設定するから、他者との接触は最小限になるはずだという答えが帰ってくるに決まっている。もちろん車を持たない人もいるので、採用されるとしてもいくつかの方法のうちの一つとなるだろう。

B移動投票所
 投票所というのは正確ではないか。感染防止対策をした選挙管理委員が有権者の下に出向いて投票してもらうというもの。共産党政権下で行なわれた形だけの選挙で投票率を100パーセントに近づけるために、選挙に来なかった人のところに選挙管理委員が押しかけて投票を強要していたという話を思い出すが、すべての隔離対象者の元に出向くわけではなく、希望者は事前に連絡を入れて時間などを決めることが想定されているようだ。

C出張投票所
 老人ホームや病院などで集団感染が発生して施設全体が隔離状態におかれている場合に、施設内に特設の投票所を設置することが提案されている。地方議会選挙だから施設のある自治体とはちがうところに住所を置いている人はどうするんだろう。

 どれもこれも問題ありそうな案ばかりだけど、特別な事態なんだから仕方がない。来年に予定されている下院の選挙を前に、武漢風邪蔓延下の選挙制度を確立させて思惑もあるのだろう。すべての党が投票者が減ると自党が不利になると考えているように見えるのがおかしいけどさ。
2020年8月5日12時。









2020年06月08日

チェコ・ロシア、蝸牛角上の外交紛争(六月五日)



 題名についてはあまり深く考えないでほしい。ここのところずっと何の変哲もない題名、とくに先日までは三ヶ月近くほぼ同じ題名を、番号すらつけずに繰り返していたのである。それで、気取った題名がつけられそうだったので、ちょっと暴走しただけである。取り上げるチェコとロシアの争いが、争いにすらなっていないような気もするけど、本当にどうしようもないくだらないものだというのも、この題名を思いつくのに大きく寄与した。

 それはともかく、チェコ政府は今日、プラハにあるロシア大使館に勤務する外交官を二人、外交特権を剥奪して尅外題居処分に処したことを発表した。ロシア側は当然外交的な挑発だと反発しており、報復としてモスクワのチェコ大使館の外交官に同様の国外退去処分が出されることが予想されている。両国の対立につながりかねないといえなくもない処置がなされた事情は、以下の通り。
 チェコ政府がロシアの外交官を追放した原因となったのは、以前紹介したロシア政府が、プラハにあったソ連軍の英雄コーネフの像を撤去するという挙に出たプラハ6区の区長と、プラハ市長を暗殺するための部隊をチェコに送り出したというニュースである。ただし、区長と市長が暗殺されたというわけでもなければ、チェコに潜入した実行犯が逮捕されたというわけでもない。

 バビシュ首相の発表によれば、このニュースはそもそもガセで、ロシア大使館から流されたものだというのがチェコの情報局の調査結果らしい。ロシア大使館内での権力争いの一環で、そのうちの一派が何を考えたのか、チェコの雑誌に、このプラハ市長、区長暗殺計画というガセネタをリークしたという。それを真に受けた雑誌が、記事として掲載し、警察が念のために警備をつけたという事情のようだ。警察に対して市長や区長の側からの要請があったのかどうかはわからない。

 ロシア大使館の外交官が国外退去処分を受けたのは、意図的にガセネタを雑誌にリークしてチェコ社会を混乱に陥れた(騒いでいたのは一部のような気もするけど)ことが理由になっているのだろうか。まだ何かウラがありそうな気もするけれども、情報局では、政府の発表以上のことは何も起こっておらず、付け加えることはないというコメントをツイッター上で発表した。
 待てい、情報局というのは、諜報や防諜を担当する組織だろ? そんな組織がツイッターで情報を提供している? イメージぶち壊しである。いや、情報局という、言ってみればかつての秘密警察と同じような仕事をしている組織のイメージを挙げるためには、こういう努力が必要だということなのだろうか。逆に、ツイッターなどでさまざまな、それこそ正誤入り混じった情報を発信することで、外国の情報機関を撹乱しようという目的があってもおかしくはない。

 正直な話、政治家が個人の活動としてツイッターなどを使って情報を発信するのには、法律がそれを許しているのなら、好き勝手にやれよとしか思わないが、閣僚などの政府の公的な役職にいる人が、公人としてやっているのには、違和感というよりは、嫌悪感を感じてしまう。便利なツールではあるのだろうけど、国政を預り機密にもかかわっている政治家が、その便利さに膝を屈してどうするのだ。たかだか一私企業の提供するサービスに情報提供の手段を依存しているってのは健康的な状態ではあるまい。
 政治家や有名人が垂れ流す発言を、そのまま記事にしてしまう日本のマスコミもひどいもんだけどさ。ネット上の発言を集めて記事にするなんてのは、素人のブログのやることであって、仮にもジャーナリズムでございとえばっている連中のすることではなかろう。

 とまれ、チェコとロシアの少もない外交上の争い。どういう結末を迎えるのだろうかって、最悪なことにならないのだけは断言できる。何せチェコの大統領は、EU内でプーチン大統領の代弁者ともいえるロシア派のゼマン大統領だし、ビロード革命前の栄光が忘れられずにソ連の後継国家であるロシアを宗主国としてあがめる共産党がチェコ国内でロシアの利益を代弁するから、最終的にはなあなあでよくわからない形でけりがつくに違いない。
 北朝鮮との国交を維持していて大使館も置かれているプラハでは、北朝鮮や中国、ロシアなどの外交官による諜報活動が盛んに行なわれているため、毎年何人かの外交官を国外退去処分にしているという話も聞く。中にはロシアの外交官もいるわけで、今回の件は暗殺騒ぎがあったから大事になったけれども、それを除けばいつものことという感覚でいいのかもしれない。これもまた蝸牛角上の争いという所以である。
2020年6月6日12時。






https://onemocneni-aktualne.mzcr.cz/covid-19
https://www.krajpomaha.cz/







タグ:ロシア

2020年03月08日

ゼマン大統領と側近の愚行(三月五日)



 少し前、イタリアで新型のコロナウイルスの感染が爆発的に広がり始め、それがチェコにも到達するのは時間の問題だと言われていたころ、ゼマン大統領の側近二人が中国を訪問した。現在はチェコと中国を結ぶ直行便は停止されているから、政府特別機を出したのではないかと思うのだが、この時期にそこまでしてわざわざ出かける必要があったのか大きな疑問である。

 さらにチェコの人たちをいらだたせたのは、感染のリスクが高い地域として指定されている中国から帰ってきたのだから、14日間の自宅待機を命じられたはずなのに、二人のうちの一人が平然としてプラハ市内のレストランで食事をしているところが目撃されたことである。これは最大で50万コルナの罰金を科されてもおかしくないという人もいたようだが、ゼマン大統領の側近にそんなものが科されるはずはない。
 中国に行ったから感染したはずだという短絡的な決めつけは危険だが、国全体が感染の侵入と拡大に神経質になっている時期に中国に出かけた上で、国の命令を大統領の側近が無視するというのは、理解できることではない。今回のウイルス感染症が大して危険ではないというのと、自宅待機命令を無視するというのは別の話である。自宅待機が一番強い命令で義務だったのか、軽めの要請だったのかは判然としないのだけど、行き先が中国だったことを考えると命令だったはずである。

 そして、今度は、チェコでコロナウイルス感染者が出始めている中、ゼマン大統領本人が中国を訪問するという。何でも中国政府が、旧共産圏の中欧と呼ばれる地域の国々の代表を集めて会議を開催するらしいのである。ゼマン大統領は、この会議には、中国が約束したほどの投資をチェコにもたらしていないことに抗議する意味を込めて欠席すると言っていたのだが、いつの間にか気が変わって出席することにしたらしい。
 実はこの会議の出欠をめぐって交渉するために中国に出向いていたのが、上記の側近二人だというのだが、わざわざ出かける必要があったのか。どうせ、中国からの投資を増やしたければプラハの反中国の動きを押さえろとか、上院議長の台湾訪問を阻止しろとか、ろくでもない条件を押し付けられて帰ってきたに決まっている。ゼマン大統領の仕事は北京でその条件に署名することである。藤氏のためなら内政干渉さえ受け入れるってのがヨーロッパ的民主主義なのかねえ。

 いまだに新型ウイルスの病禍が治まらない中、外国から代表団を呼んで国際会議を行うという中国の厚顔無恥な行動にはあきれ果てるしかないが、よく考えれば中華帝国が朝貢国の事情を斟酌するわけはないのだ。朝貢を認める代わりに、倭寇を鎮圧しろと命じられた足利将軍家と同じような立場にゼマン大統領は立たされているわけだ。今の中国にそんな権利があるわけはないのだが、投資と中国に進出した企業を人質にして恫喝してくるのである。
 かつての大明帝国は、朝貢でもたらされた物品の価値以上のものを下賜していたから、言われたとおりに倭寇退治をするだけの価値はなくはなかったのだろうが、現在の共産帝国が朝貢国に得た利益以上のものを与えるとも思えない。少なくとも新型ウイルスに感染するリスクを冒してまで足を運ぶ意味はないはずである。ゼマン大統領は、年齢といい、持病といい、感染した場合に重症化するリスクが高いのだし。

 側近の行動を見ていると、李下に冠を正さずなんて意識は、大統領には求められそうもないから、中国から帰国しても、14日間の自宅待機なんか無視して、あちこち出歩きそうである。ゼマン大統領は次の選挙には出られないのだから、人気取りのために中国からの投資を増やす必要はないと思うのだけど。下手に中国資本を招き入れると、中国に食い物にされてチェコ経済がぼろぼろになる未来しか見えない。

 この日、チェコでは新たに4件の感染が確認され、感染者は全部で12人となった。全員軽症以下で中にはすでに症状が消えた人もいるらしいが、予定どおり最低でも14日間は病院に隔離され続けるようだ。しばらくは増え続けるのだろうなあ。
2020年3月5日24時、










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チェコとスロヴァキアを知るための56章第2版 [ 薩摩秀登 ]



マサリクとチェコの精神 [ 石川達夫 ]





















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