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2017年11月19日

中性名詞4外来語――チェコ語文法総ざらえ(十一月十六日)



 ということで「drama」などの「-ma」で終わる中性名詞である。ちなみにこの言葉、読みは「ドラマ」でいいけれども、日本語のドラマとは指すものの範囲が多少ずれる。最初にこの言葉を見たときに、日本語のドラマと同じ感覚でテレビドラマを指すのに使ったら何それという顔をされてしまった。日本風の連続ドラマは、チェコ語では「televizní seriál」と言うのである。単発のドラマは、「televizní film」かな。
 チェコ語のドラマは、日本語で「感動のドラマ」とかいうのと同じような使い方をする。だから、映画やドラマのジャンルみたいな形でドラマという言葉が使われることもある。よく聞くのはスポーツの試合で、劇的な結末を迎えたときなんかに、「最後にドラマが待っていた」なんて表現だろうか。一昨年のラグビーのワールドカップで日本が南アフリカに勝った試合は、チェコ語でも感動と驚愕のドラマだったのである。

 この「drama」型の中性名詞を使う上での一番の問題は、単数一格が「a」で終わるものは女性名詞だという、チェコ語の勉強を始めてすぐに習う名詞の性の見分け方のルールである。そこから逸脱するものとしては、男性名詞の活動体の職業を表す名詞がすでに登場しているから、ルールが絶対のものでないことはわかっていても、「a」で終わって人を表さない名詞だということで、女性名詞だと思い込んでしまう。中性だということは重々わかっていても、中性名詞の中でも特殊な格変化をするということはわかっていても、実際に使うときには女性名詞のように変化させてしまうのである。

 自分の復習も兼ねて単数の変化を挙げておくと

  1格dram-a
  2格dram-atu
  3格dram-atu
  4格dram-a
  5格dram-a
  6格dram-atu
  7格dram-atem

 1格、4格、5格以外は、追加された「t」の後ろに男性名詞不活動体硬変化と同じ語尾を付ければいい。というか、7格の「-em」さえ覚えておけば、後は困ったときの「u」で問題ないから、覚えやすと言えば覚えやすい。問題は繰り返すけれども女性名詞だと思ってしまうことである。
 この「drama」型の中性名詞としては、「téma(テーマ)」「panorama(パノラマ)」「dilema(ジレンマ)」「aroma(アロマ)」「trauma(トラウマ)」など日本語にも、ほぼ同じ音で取り入れられているものが多いから、そんなのだけ覚えておけばいいかな。実際にチェコ語を使う生活をしていても、自分で使いそうなものとしては「ドラマ」と「テーマ」ぐらいしかないわけだし。

 そんな話はおいておいて、使うかどうかもわからない複数は以下の通り。

  1格dram-ata
  2格dram-at
  3格dram-atům
  4格dram-ata
  5格dram-ata
  6格dram-atech
  7格dram-aty

 こちらは、「t」が出てくることを除けば、中性名詞の硬変化「město」と同じ変化になる。全体的には覚えやすいし、正確に使えるとうれしい言葉ではあるのだけど……。
 外来語ではないと思われる「kuře」と比べると複数は完全に一致するけれども、単数は軟変化的な「kuře」と硬変化的な「drama」で結構ずれている。なにがしかの関係はあるのだろうけど、思い浮かぶものとしてはラテン語で動物の子供を表す言葉の格変化に「t」が出てくるのかなというぐらいである。


 もう一つ中性名詞には外来語の変化のタイプが存在するのだった。男性名詞の「-us」で終わるものを取り上げたときにもちょっと言及したけれども、「-um」で終わる名詞である。そうか「-us」で終わるものは男性、「-um」で終わるものは中性と区別できるのかもしれない。
 例としては「muzeum(博物館)」を使う。この言葉、日本語のカタカナ語風に「ミュージアム」と読んではいけない。そのままローマ字読みして「ムゼウム」と読むのである。同じように日本の人が読みに注意しなければいけない言葉としては、「centrum(中心)」がある。「セントラム」と読んじゃう人がいるんだけど、「ツェントルム」である。
 このタイプの名詞の単数の変化は「-um」を取って、必要なところには硬変化「město」型の語尾を付けてやればいいから簡単である。もちろん正確に使えるかどうかはまた別の話であるけれども。

  1格muze-um
  2格muze-a
  3格muze-u
  4格muze-um
  5格muze-um
  6格muze-u
  7格muze-em

 7格の「muzeem」と母音の「e」が重なる辺りチェコ語としてどうなのという気がしなくもないし、自分で使うのに何となく落ち着かない。それはともかく、これで複数も硬変化と同じだったら幸せなのだけれども、残念ながらそうは問屋が卸さない。1格、4格、5格、つまり1格と同じ形をとらない格では、軟変化「moře」型の語尾が必要になるのである。

  1格muze-a
  2格muze-í
  3格muze-ím
  4格muze-a
  5格muze-a
  6格muze-ích
  7格muze-i

 やはり、チェコ語では母音「e」と「y」や「u」の連続は好まれないのかなあ。ないわけではないと思うんだけど。でも単数の7格で「muzeem」という無茶をしたのだから、複数でも「muzeů」とか「muzeech」なんてやってもいいんじゃないかと言いたくもなる。ちなみに同じ「-um」で終わる名詞でも、その前が硬子音の場合には、複数でも語尾が硬変化と同じになる。例えば「datum(日付)」の複数は2格「dat」、3格「datům」、6格「datech」、7格「daty」である。
 だから、言っても詮無きことながら、「muzeum」もそれでいいじゃないかと言いたくなる。「-um」が落ちるところまではラテン語の影響でも、語尾の母音をどうするかはチェコ語に於いて解決されたはずなんだし。複数3格が「muzeům」なると、単数1格と複数3格の違いが母音の長短だけという楽しいことになるのだけどなあ。

 ここまで書いて、外来語では女性名詞にも厄介なのがあることを思い出してしまった。チェコ語は名詞の格変化だけでも、一度踏み入れたら抜け出せない泥沼のようなところがあるのである。次はその泥沼の中に入ってみよう。
2017年11月16日23時








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