2017年10月27日
2017年下院総選挙SPD(十月廿四日)
本来なら、勝者のANOから始めるのだろうが、SPD(自由直接民主主義)党首のトミオ・オカムラ氏について質問のコメントをいただいたので、このオカムラ党の話から始めよう。
前回2013年の下院の選挙で議席を獲得した第一オカムラ党である「ウースビット」から、党首でありながら党員の議員達の反乱で除名されたオカムラ氏が、一緒に脱退した議員たちと共に新たに立ち上げたのが、このSPDである。Sは自由、PDは直接民主主義を表すチェコ語の頭文字で、特に直接民主主義を保証するものとして、制度としての国民投票を定めることを求めている。
チェコでもかつて、EU加盟をめぐって国民投票が行われたが、あれは特別に行われた国民投票だった。この政党は、国民投票を制度化して重要な案件については、国会の議決で最終決定とするのではなく、国民投票によって決めるべきだと主張しているのである。その手始めとして、EU脱退をめぐる国民投票の実施を主張している。かつてナチスが国民投票を連発して、国会を通さない手法で民主主義を骨抜きにしていった過去を知った上での主張なのかどうかはわからない。
この党の主張で、唯一評価できるとすれば、現在は地方議会みたいなものに議席を得た政党の話し合いで決められている地方自治体の首長を、大統領と同じように直接選挙で選ぶようにしようというものぐらいだろうか。現状の議会内の与党=地方政府みたいな形は、結構ひんぱんに連立の解消やら組み換え、総辞職で臨時選挙なんてことがあって、地方の行政を不安定なものにしているところがあるし、日本人には、地方自治体の首長は直接選挙で選ぶものだという思い込みもあるし、この主張は悪くない。
反対に、理解できないのが、移民の全面的な禁止と反イスラム化の主張である。このオカムラ氏の経歴を考えると、本人も半分移民のようなものなのだけど、こんな主張をしてチェコ人は不思議に思わないのだろうか。それに移民がさす範囲もはっきりしない。現在の労働力不足でウクライナなどから受けれている労働者なんかも禁止するつもりなのか、イスラム圏からの移民だけを禁止する気なのか、よくわからない。
この党は、典型的な個人政党で、オカムラ氏以外の名前が出てこない。テレビやラジオなんかでの討論番組にも大抵は党首自ら登場するし、他の人が出てもほとんど印象に残らない。ANOもバビシュ氏の個人政党だと批判されることがあるが、あちらはバビシュ氏以外にも経済界からの人材を擁していて、むしろTOP09のほうが、個人、いや二人政党と言いたくなる。つまり、SPDについて記すには、オカムラ氏について記す必要があるということで、以下、すでに書いたことと重複する部分もあると思うが、これだけ記事が増えてくると探して読むのも大変だし、知っていることを記しておく。
トミオ・オカムラ氏は、モラビア出身のチェコ人を母にして日本で生まれ、小学校ぐらいまで日本で過ごし、母親に連れられてビロード革命前のチェコスロバキアに戻ってきたらしい。父親は日本に住んでいる人だったけれども、いわゆる在日の人だったという話で、父親とオカムラ氏自身が日本国籍を持っていたかどうかは定かではない。いや、調べればわかるだろうけど、そこまでしたくない。兄弟が二人いて、二人ともチェコで生活しているが、一人は建築家として活躍し、もう一人は今回の選挙にキリスト教民主同盟から、反トミオ・オカムラを掲げて立候補したが敢え無く落選している。
国籍の問題はともかく、どこまで日本的、日本人的であるかを考える場合に、重要なのは日本語がどのくらいできるかである。かつてプラハの語学学校で日本語を教えていた知人の話によれば80年代の後半には、その語学学校に日本語を勉強しに来ていたらしい。どのぐらいできていたかについては、はっきり教えてもらえなかった。また大使館が主催したパーティーにオカムラ氏が出席したのに出会わせた日本人の知り合いは、とりあえず日本語であいさつのスピーチはしていたけれども、誰かの作文を読み上げている感じで、原稿はすべてひらがなで書かれているようだったと言っていた。うーん、これだけでは判断がつかない。
オカムラ氏は、もともとは日本の食材を売るお店や、日本人観光客向けの旅行会社などの経営で成功した人物で、経済界から政界に足を踏み入れたという意味ではANOのバビシュ氏と似ている。十数年前には、日本についての「専門家」としてしばしばテレビやラジオなどに登場し、結構でたらめな話をしてチェコ人の日本像をゆがめてくれていた。正直な話、この時点ですでに我々チェコ在住(モラビアだけかも)の日本人の間では困ったちゃん扱いをされていた。
その後、チェコ国内の旅行会社で作っている組織の会長に就任し、大手の旅行会社が倒産したり、さまざまな事情で旅行業界に影響が出そうだと思われたりしたときに、ニュースでとうとうと必要以上に長々と自分の意見をまくしたてていた。いつの間にか、そんな場面でオカムラ氏が登場しなくなったと思っていたら、政界への進出の準備を進めていたのである。
政界に進出したのは2012年の上院議員の選挙で、このときは無所属の候補としてズリーンを中心とする第80選挙区から立候補し当選してしまったのである。立候補した時点では対して注目もされず泡沫候補扱いだった(少なくとも個人的にはそう思っていた)のに、ふたを開けてみたら二回戦に進むどころか、上位二名だけが進む第二回投票で対戦相手のほぼ二倍の票を獲得して堂々と当選したのだから、チェコって国はわからないと首をひねってしまった。ズリーン出身の知人に、お前ら何やとんじゃあと言ったら、モラビアの田舎ですからとよくわからない答えが返ってきた。
二年に一回、チェコ国内の81の選挙区のうち27の選挙区で選挙が行われる上院の選挙は、一体に注目度が低いものだが、それに満足できなかったのか、翌年の大統領選挙に出ると言い出した。2013年の大統領選挙は、チェコの歴史上初めて国民の直接選挙で行われることになっており、立候補のためには5万人以上の有権者の署名を集めて提出する必要があった。国会議員の推薦でという手もるけれども政党関係者以外には使えるものではない。
オカムラ氏も署名を集めて提出したのだが、不正な署名が多くて有効と認められるものが少ないという理由で立候補は認められなかった。オカムラ氏は裁判に訴えるとか言っていたようだが、実際に裁判を起こしたという話は伝わってこなかった。最初からこの選挙に費やすのは5万コルナだけだとか発言していて、どこまで本気で立候補しようとしていたのかは不明である。我々の間ではあれは売名のためだったんだという結論だった。
長くなったので以下次回。
2017年10月25日22時。
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