2017年03月15日
スリに注意(三月十二日)
日本から来た方とお酒を飲んでいたら、その人が数年前にウィーンで遭ったクレジットカードの盗難の話になった。
当時は、中東からの難民が問題になり始めたころで、ちょうどウィーンでも難民受け入れ反対のデモが行なわれていて、街中には警察官の姿が多かった。浮浪者のような男に付きまとわれているところに、警察官が現れて助けてくれたのだが、確認のためにと言われて財布を渡してしまったのが運のつきだった。警察官はちゃんと制服を着て、警官であることを証明する身分証明書を見せ、ドイツ語で書かれた一見ちゃんとしたものだったので、本物だと信じてしまったらしい。ドイツ語がわかったからこそ、信じてしまったという面もあるのかもしれない。
警察の制服を着た男は財布の中身を確認した後に、返してきたから安心したけれども、実はその警官が偽警官だったようだ。財布が戻ってきてからしばらくして、なんだか不安になって中身を確認したら、紙幣が何枚か抜かれていて、クレジットカードが一枚だけ消えていたらしい。全部抜かないあたりが、用意周到な犯罪であることを思わせる。財布が空っぽになっていれば、その場で気づいたはずである。どうも浮浪者風の男とぐるで、証拠を手元に残さないように、抜いた札とカードはこっそり浮浪者風の男に渡してしまったのではないかと推測していた。それだとその場で気づいていても対応が難しかっただろう。
現金はともかくクレジットカードは止めなければいけないということで、そのとき向かっていた施設についてすぐに電話を使わせてもらって、カード会社に電話をかけたら、ニューヨークに電話しろと言われて時間がかかって大変だったという。それでもカードを盗られてから一時間内外でカードを止める手続きはできたのだが、すでに三十万円引き出されているとカード会社から宣告されたらしい。
保険の関係もあって、その後警察に出頭して被害届を出したら、「こいつだろ」と写真を見せられて、うなずいたら、「こいつは捕まらないから諦めなさい」と言われてあきれるしかなかったのだとか。この辺りの各国の警察の制服と証明書を、偽物だけど本物らしく見えるものを持っていて、一仕事したら別の町、別の国に移動するという形で仕事をする、言い方は変だが本物のプロらしい。
そういえば、プラハにもルーマニア人のスリ集団が出稼ぎに来ているという話を何度か聞いたことがある。シェンゲン領域というものが出来上がって自由に移動できるようになったことは、領域内の人々にとってだけでなく、ヨーロッパを観光で訪れる人々にとってもありがたいことなのだろうが、自由に移動できるのは労働者や観光客だけではないのである。
もちろん、プラハにいるスリがみな外国人だというつもりはない。ただ西に行くほど経済状態のよくなるこの地域では、プロのすりであれば、地元で稼ぐよりも割りのいい西に向かうのが続出するのは想像に難くない。チェコからも西に出ているスリ集団はいるだろうし、ルーマニアから来た連中だってプラハどまりではなく、ドイツ辺りまでは足を伸ばしているに違いない。大きな経済格差のある中で、国境を開いてしまえばこういう事態が起こるのは当然である。
自分自身ではこの手の被害にあったことはないが、プラハの駅でちょっと荷物から手と目を離した瞬間に取られたとか、電車に乗り込むときに荷物を引き上げるのを手伝おうと申し出られて信用して持ち上げてもらったらそのまま持ち逃げされたとか、地下鉄で背広のうちポケットに入れておいたパスポートと財布をすられたとか、この手の被害に関する話は枚挙に暇がない。
そしてウィーンの警察と同じように、チェコの警察もどうせ犯人は捕まらないし、盗られたものは戻ってこないから諦めろという非常にありがたいアドバイスをしてくれるらしい。人によっては、時間もなく、そんな聞きたくもない答えが返ってくるのがわかりきっているから、届出すらしない場合もある。ただ保険に入っていると被害届を出して、その証明をもらわないと保険が下りないので、予定を変更してでも警察に行くという人もいる、そしてその警察の対応に腹を立てて、チェコなんかこなければよかったという感想を持って日本に帰る人もいる。
注意したからといって完全に防げるものではないのだろうが、盗られるときには油断と思い込みが原因であることが多いので、チェコに来るときには十分以上に気を張っていてほしいものだ。スリに物を取られたことが原因でチェコが嫌いになるというのはできれば避けたい。いやチェコの手続きの煩雑さとか、サービスの悪さとかそういうもののせいで嫌いになるというのなら仕方がないかとあきらめもつくのだけど。
3月12日23時30分。
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