2016年12月31日
話にならない童話映画(十二月廿八日)
クリスマスの時期は、童話映画の時期である。特に十二月廿四日は、ニュースの放送を中止してまで、午後七時から新作の童話映画を放送する。この風習のようなものは、おそらく1990年代から続いているのだと思うが、近年はチェコテレビで、毎年新しい童話映画を三作制作し、そのうち最も評価が高いものを廿四日に放送し、残りの二つは、廿五日と廿六日の八時から放送することになっているらしい。
ただし、その年の三作品の中で最も評価が高いからと言って、素晴らしい作品であるとは限らない。いや、どうしようもない作品であることが増えているような気がする。今年の奴もひどかったし。共産主義時代の古い童話映画が、うんざりするぐらい繰り返し、繰り返し放送されるのも、最近の童話映画が見るにたえないのが理由になっているのだろう。
今年、廿四日の七時から放送されたのは、「本物の騎士」という題名の作品で、基本的には魔法使いにさらわれたお姫様を、騎士の息子が救出に行くというある意味王道の物語のはずだったのだけど……。
生まれたときに贈られた品物に魔法使いの魔法が掛けられていて、成長したお姫様が手にとることで魔法が発動して、お姫様が炎に囲まれて姿を消すというのはいい。だけど、魔法使いがそんなことをした理由がわからない。後半でお姫様と結婚しようとするからそれが目的のようでもある。ただ、魔法使いの目的は全世界を支配することのはずなのに、どこともつかないお城のお姫様と結婚する意味があるのだろうか。
父親の騎士の命令で、息子がお姫様を救うために探索の旅に出るのもいい。それに父親の騎士がついていくというところまでは、まだ許してもいい。しかし、主人公であるべき息子よりも、父親の方が活躍し始めて、魔法使いを倒すのに決定的な役割を果たすのは、そこにどんな意味があるのか理解できない。
旅の途中で仲間になった二人組みのうち、若い方が裏切るのは、パターン通りと言ってもいい。でも、もう一人の男が途中から存在を忘れられて、全く出てこなくなるのには、最後に言い訳のように一瞬だけ登場するけれども、首をかしげるしかない。
多分、童話映画に繰り返し表れるパターンを活用しながら、それをずらす、あるいは外すことで新しさを出そうとしているのだろう。ただ、パターンを外すことにこだわるあまり、物語として成り立たせるために最低限必要な部分まで解体してしまって、ストーリーが崩壊してしまっている印象を受ける。気取った文章を書こうとしてぐちゃぐちゃになることが多いことを考えると、他山の石にする必要がありそうだ。
この新しい作品の直後に放送されたのが、古典的名作である「ポペルカ」だったのも、物語性のなさを印象付けるのに一役買っていたかもしれない。読書の対象としてなら、物語性を喪失した短いエピソードの積み重ねのような話も嫌いではないのだけど、それなら、わざわざ映像作品に、しかも子供向けの童話映画にする必要などない。
廿五日の「約束の姫」も、チェコには珍しく海が出てきて、制作に力が入れられているのはわかるのだけど……。うちのの母親が、お姫様という設定なのに、露出度の高い服を着ていて、これでは売春宿の売春婦だと。そうなのだよね。お姫様という存在が許される時代設定を、ある程度は守ってくれないと、見ていて興ざめである。パロディに撤してくれれば、それでもいいのだが、それでは子供向けにならない。
そんなこんなで廿六日の「奇跡の鼻」はチャンネルを合わせもしなかった。その代わりにノバで放送されたズデニェク・スビェラークが脚本を書いた「三人兄弟」を見ていた。2014年制作のこの映画も、古典的な童話映画のパターンを外しながら、作り上げられた作品ではあるけれども、最初から最後まで見させるだけの物語性は存在する。
簡単に言えば、「いばら姫」「赤ずきんちゃん」、それにチェコの作家ボジェナ・ニェムツォバーの童話「十二の月の男たち(仮訳)」を、農家の三人の息子達の嫁取り物語という枠に入れて、強引に一つにつなげてしまった作品である。同じスビェラークの傑作「ロトランドとズベイダ」(1997)に比べれば物語の焦点がぼけてしまっている嫌いはあるのだけど、近年の受信料返せと言いたくなるような作品の中では、出色の出来と言ってもいい。
現時点では、心の底から見てよかったと言えた童話映画は、「ロトランドとズベイダ」でロトランド役を演じたイジー・ストラフが監督となって制作した「アンデル・パーニェ」(2005)が最後である。現在、続編なのか「アンデル・パーニェ2」が映画館で公開中だというから、来年のクリスマスには久しぶりに、満足の行く童話映画が見られるのではないかと期待している。
12月28日23時30分。
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