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2016年12月30日

チェコのクリスマス、もしくはバーノツェ(十二月廿七日)



 クリスマス進行で廿六日の分の記事まで予約投稿したあと、やはり怠けてしまった。このまま放置すると、オロモウツに戻ってから、再度クリスマス進行並みの年末進行になりかねないので、毎年恒例の童話映画を背景に、執筆をというと大げさだけれども、よしなしごとを書き連ねることを再開しようと思う。

 十二月廿四日の祝日は、チェコではシュテドリー・デンと呼ばれる。シュテドリーは、日本語で言うと、適当な言葉が出てこない。けちなの対義語の形容詞で、「気前がいい」に近い意味なのだが、ふさわしい言葉が、おそらく漢語の言葉が思い出せない。何だったっけ、何かあったはずなんだけど。この辺の語彙がすぐに出てこないのが、外国に長くいる弊害である。
 とまれ、廿四日のチェコの家庭では昼食をとらない。日が落ちてから早めの夕食をとるまでの間に、空腹を感じた場合には、ツクロビーを食べるのである。ツクロビーというのはクリスマスの時期に、大量に作るお菓子で、クッキーのような焼き菓子が中心だが、語源がツクル(砂糖)であることからもわかるように、甘い、つまめるものなら何でもいいようだ。

 早めの夕食に鯉を食べることは、知っている人も多いと思うが、これがどのくらい古くまでさかのぼる伝統なのかはよくわからない。鯉を食べること自体はともかく、それがクリスマスと結びついたのは意外と新しいという話も聞く。一説によると、確かチェコ語の師匠の話だったと思うが、大戦間期のいわゆる第一共和国の時代に、冬場の肉の不足しがちな時期のタンパク源として、漁食が推奨されたことが、始まりだともいう。師匠の話だからどこまで本当かは怪しいのだけど。
 鯉は基本的にとんかつのような衣をつけて揚げるのだが、美味しいかと言われると、正直首を横に振るしかない。やはり泥臭さは否めないし、一切れ一切れが分厚すぎるせいか、揚がりきっていないことも多い。まあ最悪なのは骨の多さなのだけど。こちらに来て最初の数年は、がんばって鯉のフライに付き合っていたけれども、縁起物だしさ、最近は付け合せのポテトサラダだけで勘弁してもらっている。

 夕食の後は、クリスマスツリーの下に持ち寄ったプレゼントの配布である。包み紙に書かれた名前を読み上げて渡していくわけだが、受け取ったら、その場で開けて、「ありがとう、イェジーシェク」と言うところまでが、伝統行事のようなものである。たくさんもらうと、家族のそれぞれからもらうことになるので、一つということはないから、面倒くさくなるかもしれないけど。とまれ、プレゼントをくれるのは家族でも、もちろんサンタクロースなんかでは絶対になく、イェージーシェクであるという建前は、とくに年配の人にとっては維持されるべきなのだろう。
 近年は、もらったプレゼントが気に入らないからと返品したり取り替えてもらったりするために購入したお店に持ち込む人もいるようだし、プレゼントにもらった犬などを飼えないからと言って捨ててしまったり、犬や猫の収容所に連れて行ったりする人もいるようだ。お店にとっては書き入れ時だろうし、チェコに人にとってはかけがえのない伝統なのだろうけど、この手の無駄なプレゼントの話を聞くと、やめてもいいのかなとも思う。クリスマスプレゼントを買うために借金をする人がいるという話を聞くとなおさらである。

 この日放送されたチェコ人が愛してやまない1968年のプラハの春とワルシャワ条約機構軍の侵攻を背景にした映画「ペリーシュキ(寝床)」では、主要登場人物の一人が、最高のクリスマスプレゼントは、店で買えるものではなく、あげる相手のために自分の手で作り上げたものだと言うけれども、そんな考えは、大半のチェコ人に忘れられて既に久しい。むしろ、日本と同じように、値段で価値を測るような風潮がある。
「ペリーシュキ」では、クリスマスの風習の一つとして、熱して溶かした鉛を、水の中に流し込んで、出来上がった形で来年のことを占うというのも出てくるのだが、実際にやっているのは見たことがない。チェコ語の師匠も風習としては存在するけど、自分ではやったことがないと言っていていたし。うちのの話では、会員制の出版社兼書店の「クニジュニー・クルプ」のカタログに、この鉛占い用のセットが載っていたというから、危険を顧みずに自宅でやってみる人もいないわけではないようだ。目を保護するためのゴーグルが必要な危険な行為に挑戦しようという気にはなれないけど。

 師匠の話では、他にも、りんごを水平に切って芯のあたりに見られる形で占うとか、靴を頭越しに背後に投げて、落ちた位置と向きで占うとか、クリスマスにかかわる風習は結構たくさんあるらしい。いや、正確にはあったらしいというほうが正しいか。師匠自身も、大半は本で読んで知識として知っているだけだと言っていたから。
 さて、プレゼントの後は、テレビで童話映画である。チェコテレビ第一では、毎日午後七時からニュースが放送されるのだが、この日だけは、例外的にニュースなしで新作の童話映画が放送される。廿五日、廿六日にも童話映画は放送されるが、ニュースの後、八時からの放送である。この童話映画については稿を改めよう。

 名目上は廿五日と廿六日が、クリスマスの祝日ということになる。この二日に関しては特にこれと言って特筆するようなことはないのだけど、今年は、ミロシュ・ゼマン大統領が、第一共和国時代の、マサリクの伝統に戻ると主張して、これまで新年に行われてきた大統領の一年の総括と新年の抱負を述べる放送を廿六日に行ったのが特別と言えば言えるかもしれない。見はしなかったが、公共放送のチェコテレビだけでなく、民放のノバも放送するあたりチェコ人の政治好きを反映しているのかもしれない。
12月28日21時。


posted by olomoučan at 07:46| Comment(0) | TrackBack(0) | チェコ
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