2016年11月25日
大統領選挙雑感(十一月廿二日)
政治システムの外側から登場した候補者が、現在の政治を信じることができない、既存の政治家や、政党に絶望した人たちの受け皿となり、予想外の支持を集めて、前任者の指名した後継候補を破って当選したという点で、今回のアメリカ大統領選挙は、1990年代半ばの東京都知事選挙に重なる。あのときは、参議院議員の経験はあったとはいえ、プロの政治家とはいえなかった青島幸男が、前知事が指名しいくつもの政党が相乗りで推薦した候補を破って当選したのだった。
都庁に長年に亘って君臨し、やりたい放題だった前知事と、都議会議員、都の役人たちに対する反感は非常に強く、政党臭を感じさせない候補として青島幸男氏が選ばれたようなところがあった。腐り果てた都政をぶち壊しにしてくれるという期待があった。青島氏が政治的に無能であったとしても、無能さであれこれ引っ掻き回せば、あちこちにほころびが出て、少しは風通しがよくなるだろうと……。
結局、青島氏は、たしか都市博とかいう前知事が引退の花道に用意した巨大イベントは中止したものの、それ以外では議会や、役人たちに取り込まれてしまって、都民が青島氏を知事に選んでよかったと思えるようなことはほとんどなかったはずだ。当初高かった支持率は低下していき、再選を目指す選挙には出馬しなかった。期待が大きかった分だけ、裏切られたたという気持ちも大きくなってしまったのだろう。
同じような当選のしかたをした90年代の大阪府知事の横山ノック氏については、大阪に住んでいなかったこともあって、どんな府政の運営をしたのかとか、どんな辞め方をしたのかなんて全く印象に残っていない。青島氏の場合には、東京都民ではなかったけれども東京都内の大学に通い、都内で仕事をしていたため、情報が入ってきやすかったのだ。
さて、そうなると、大統領に当選したトランプ氏の課題は、公約をどこまで実現して、ちょっと大げさに言うと政治に対する絶望の果てにトランプ氏に希望を見出した人たちの期待にどこまで応えられるかにある。当選後、選挙期間中の過激な発言はやめ、比較的穏当な発言をしているようだけれども、あまりに既存の政治家たち、政治的な正しさというものに気を使っていると、支持者離れが起こりかねない。
そして、トランプ氏に投票した人たちの中には、今回期待を裏切られたら、二度と投票なんかしないという人たちもいそうだ。そうなるとこれが、アメリカの政治を変える最後の機会になる。最後ではなくても、今後数十年はこんな機会は出てこないのではないだろうか。だから、不満はありつつも現状維持を支持していた人たちも、トランプ氏に期待を寄せ始めた結果が、現時点では予想外の支持率の高さということになりそうだ。こういうのは、落ちるのも早いから、トランプ氏のお手並み拝見といこう。
翻って熱心な支持者はいるものの、支持率を落としているチェコの大統領ゼマン氏の今後も気になる。本人や周囲は次の大統領選挙にも出馬して再選する意欲満々のようだが、もううんざりだと考えているチェコ人も多い。
チェコでも既存政党や、現在の政治への不満は大きく、選挙のたびにその不満の受け皿となるような新しい政党が登場して票を集めて議席を獲得してきた。その最初が緑の党である。緑の党が選挙後与党として大臣などを輩出し能力のなさを露呈して支持を失うと、VV党(公共の福祉党?)が次の選挙で躍進を遂げた。VV党が、旧態政党の権化である市民民主党が仕込んでおいた(とVV党の党首は主張していた)スパイによって崩壊を遂げると、現財務大臣のバビシュ氏率いるANOが台頭した。
以前のポッと出政党の失敗を見てきたおかげか、現時点ではANOに崩壊の兆しも、支持を失う兆しも見えない。既存の政党はポリュリズムの権化だとして批判しているが、既存政党がだらしなく、支持を集められないから、既存政党を見放した層がANOに向かっているだけだということを理解したくないのだろう。ANOが支持を集めている理由の一つには、全員ではないが自党の大臣として国会議員でも党員でもない本物の専門家を就任させていることにある。政権与党でありながら政治家を拒否しているのである。
この既存の政治家を忌避する現在の傾向から考えると、チェコでもクラウス氏、ゼマン氏のような政治の世界にどっぷりつかった職業政治家の大統領の時代は終わり、次回の大統領選挙では、アメリカのトランプ氏のような政治経験のない大統領が、ハベル大統領以来久しぶりに誕生するのではないかと期待してしまう。
問題は、政治家以外に範囲を広げても、チェコ人の多くが納得するような候補者が存在しないことである。反共産主義の闘争のシンボルだったハベル大統領のような人がいればいいのだろうけれども、そんな人物は存在しない。財務大臣のバビシュ氏が立候補したら、アンチは非常に多いけれども、当選に一番近いんじゃないかと思ってしまうような、ある意味絶望的な状況なのである。
次回の大統領選挙まで一年ちょっと、ゼマン氏に勝てるような非政治家の候補者が登場することと、どんなに間違っても自称日系人政治家のオカムラ氏が当選することのないことを強く祈念して終わりにする。
11月23日12時。
ここまで書いた後、アンチの多すぎるバビシュ氏より防衛大臣のストロプニツキー氏のほうが、大統領の椅子に近いような気がしてきた。11月24日追記。
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