2016年11月03日
ダライラマ問題その後(十月卅一日)
この中国とダライラマにかかわる問題は、忘れてしまって、若しくは蓋をしてしまって、放置しておくのが一番いいと思うのだが、中国との関係を重視する社会民主党の外務大臣ザオラーレク氏は、ダライラマと面会したキリスト教民主同盟の文化大臣ヘルマン氏のことが許せないらしく、メディアを通じて批判を始め、ヘルマン氏も当然反論したため泥仕合の様相を呈し始めた。大臣の名前とか覚えてないから書かずに済ませてきたのに、確認する羽目になっちまったじゃねえかよ。
ザオラーレク氏をはじめとする社会民主党関係の閣僚の話によれば、二年ほど前、連立政権の誕生に向けての話し合いの中で、中国との関係を重視するために、反中国の象徴であるダライラマとは、公式には面会しないという点で、社会民主党、キリスト教民主同盟、ANOの三党は合意を見たのだという。だから今回の一連の出来事は、その合意に反してダライラマを文化省に招いて面会したヘルマン氏が引き起こしたのだと主張している。
ヘルマン氏はもちろんそんな合意があったことを強く否定し、合意そのものが存在しないのだから、自分が、どこで誰と会おうと勝手だと主張している。では連立与党の三つ目ANOはどう言っているかというと、防衛大臣のストロプニツキー氏は、そんな話をしたのは覚えているけれども、合意に至ったかどうかの記憶はないと言って逃げていた。
結局、ヘルマン氏が、公式に面会したのか、指摘に面会したのかが問題のようで、ザオラーレク氏は、私的に会うのであれば誰に会ったってかまわないのだけれど、文化大臣が文化省の建物にダライラマを招待したということはどう考えても公的な会合で、それは与党間の合意に反していると言っている。ヘルマン氏は当初はダライラマと会ったのは、私的なものであると主張していたが、最近はその点にはふれなくなっているかな。
とまれ、この辺の議論を聞いていると日本人なら、日本政府の閣僚の靖国参拝問題を思い出すだろう。中国、韓国への配慮、ようは余計ないちゃもんをつけられないようにという配慮と、自らの政治信条、および支持者への配慮の板ばさみになって、靖国神社に参拝はするけれども、公人の閣僚としてではなく、私人として参拝するという言葉の詐欺のようなことを始めたのは誰だったのだろうか。結局、公人であれ、私人であれ、批判を受けるという点では変わりがないのだから、参拝の是非はともかくとして、みっともない言い訳なぞせずに、黙って行けよと思った人は少なくないだろう。
チェコでも、たとえヘルマン氏が私的な会合だったと主張し続けていたとしても、中国がクレームをつけてきたという点では変わらなかったはずだ。実際、今回もヘルマン氏がダライラマと会うという話が中国側に漏れたとき、私的なものであると主張していたにもかかわらず、中国大使が総理大臣との面会を求め抗議している。だからヘルマン氏はダライラマと会うべきではなかった、などと言うつもりはない。わざわざ会う必要があったのかどうかも、なんで会いたがるのかも、全く理解はできないけど。
まずかったのは、その後の政府の対応である。中国側の抗議を受けて、もしくは抗議を受ける前に、国家の首脳四名の連名で言い訳じみた文書を公表してしまった。中国との経済的な協力関係を結ぶ交渉の中で、例によってチェコ政府は中国が一つであることに疑いを入れないとか何とかいうのが協定書の中に入れられているというのがその理由らしい。しかし、それは台湾を念頭に置いたものだろうし、せいぜいチベットの独立を支援しないとかいうものであったに違いない。だからダライラマと会うな、なんてことは記載されていないと思うのだが、記載されているとすれば中国も無駄に神経質なものである。
ここは、だからチェコ政府に一度は突っぱねる強硬さを見せてほしいところであった。今回のことで、中国政府に、チェコは経済協力を人質に抗議をすれば言うことを聞く国だと思われてしまったはずである。今後、同じようなことが起こった場合には、政権交代しようがどうしようが、恐らく今回このことを前例にして、中国側はチェコ政府に譲歩を強要するようになろう。あのときは、こちらの要求を入れたのに、今回はどうして反対するんだなどと言われて抵抗できるかのね。
中国にとってもチェコはヨーロッパへの投資の拠点の一つとして重要な意味を持つはずだから、ダライラマと文化大臣が会ったぐらいのことで、投資を引き上げたり、チェコ企業を中国市場から締め出したりするなんてことはできないだろう。そう考えれば、中国側の抗議も、聞くだけ聞いて何もしない、若しくは中国大使に事情を説明するだけで終わらせるのが一番無難だったのではなかろうか。
ダライラマと会ったことを理由に勲章の授与を取りやめるだなんてのは、もう開いた口が塞がらない。EUからの干渉が多いことに関しては、チェコの独立性を維持するために戦わなければならないなんて言っている人間が、中国の意のままに動いているのは、少なくともそのように見えるのは滑稽でしかない。それが、最近ゼマン大統領への抗議活動が盛んになっている理由の一つなのだろう。
11月1日16時30分。
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