2023年01月01日
ソコルはタカか、ハヤブサか
チェコ語のsokolについては、確か京産大の出版局が発行した『チェコ語・日本語辞典』で調べたときに、「鷹」とあるのを見て以来、ずっとタカを意味するものだと思っていた。実際に、使われる場合も、日本語のタカと同様、大抵は小型の猛禽類(チェコ語ではdravec)を指すのに使われていたし、鷹狩、鷹匠を意味するチェコ語の言葉も、sokolから派生したものだったし、自分の頭の中には、sokol=タカという図式が出来上がっていた。
その思い込みに疑いが生じたのは、確か、テレビでテニスの、デビスカップかフェドカップの試合を見ていたときのことで、ボールのイン/アウトを判定するためのシステム、日本では「ホークアイ」と呼ばれるものが、チェコ語で「イェストシャビー・オコ」と呼ばれていたのである。「鷹の目」だから、チェコ語でも「ソコリー」とかいうsokolから作られる形容詞が使われていると思っていたら、「イェストシャビー」という聞いたこともないような言葉が出てきた。例によって、うちのに質問すると、「イェストシャープ(jestřáb)」という、sokolに似た鳥の名前からできた形容詞だという。
さらに詳しく聞いてみると、鳥の種名としては、sokolはハヤブサで、タカはjestřábにあたるということがわかった。『チェコ語・日本語辞典』にもjestřábが立項されていて、「鷹」という日本語訳が与えられている。ただし、うちのの話では、専門的にはともかく、一般的にはjestřábよりも、sokolを使うことが多いという。ハヤブサとタカが飛んでいるのを見て区別できる人がそれほど多いとは思えないから、タカを見ても、ハヤブサを見ても、日本人は「タカ」といい、チェコ人は「sokol」というのだろう。ウィキペディアによると、最新の分類学では、タカとハヤブサは目レベルで別種のものとされているようだが、以前はタカ目の中にハヤブサ科があったのだし。
この考えを補足するようなことが、『日本大百科全書』の「タカ」の項に書かれている。「タカのなかにハヤブサ科の鳥を含める場合もある」と。鷹狩についても、『世界大百科事典』に「鷹狩につかわれる鳥は,主としてタカとハヤブサ類で」とあることから、この点からもタカとハヤブサは同様に扱われていたと考えてよさそうだ。普通の人間にとっては、タカもハヤブサも似たようなものなのである。ということで、小型の猛禽類をまとめて呼ぶという意味においては、「sokol=タカ」として問題なさそうだ。
ただ『日本大百科全書』のタカの解説中にはタカの仲間として、トビやノスリなども挙げられている。かつて近くの漁港で空を舞うのを見たトビは、こちらの「タカ」に対するイメージよりもずっと大きく、トビだと知らずに見たら、ワシだと思ってしまいそうである。本物のワシは、あれよりも大きいのだろうか。ちなみにトビはチェコ語ではluňák、ノスリはkáněというらしいが、チェコでは「タカ=sokol」とは区別しているのぁもしれない。
ちなみに、現在最も信頼できるチェコ語・日本語辞典である石川達夫編『チェコ語日本語辞典 チェコ語の宝――コメンスキーの追憶に』(成文社)で、念のために「sokol」を引いてみると、「鷹」とあり、その後に用例として「訓練された鷹」が挙げられた後に、動物学の専門用語として「ハヤブサ」も挙がっているが、対応するチェコ語は、単なる「sokol」ではなく、「sokol stěhovavý」という後ろに「移動する」という意味の形容詞のついたものである。これは個別の種の名称ということになる。チェコ語では種を細かく区別するための形容詞は、名詞の前ではなく、後ろに置くのである。
ということで、結論は、最初っから石川先生の辞書を見ておけばよかったというものになる。やはり、先達はあらまほしきものである。
『日本大百科全書』『世界大百科事典』はジャパンナレッジより引用。
今年は完全復活とは行かないと思うけど、キリがいいので元日に久々の投稿。
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