2022年01月08日
松本苦味編『たから舟 世界童話集』(1920)
チェコ文学の、文学とはいっても童話だけれども、最古の日本語訳を発見してしまったかもしれない。
これまで、チェコの作品で日本語に翻訳された最初のものは、カレル・チャペクの『R.U.R.』の日本語訳である『人造人間』(宇賀伊都緒訳、1923年発行)だと思っていた。それが、例によって国会図書館オンラインで、チェコ関係の古い記事を探していたときに、ふと思いついて「チェスコ」で検索してみたら、「チエスコ・スロヴエンスカ童話」というのが出てきた。
童話は、チェコ語では「ポハートカ」で女性名詞だから、それにチェコスロバキアのという意味の形容詞をつけると、「チェスコスロベンスカー・ポハートカ」になる。一瞬、チェコ語からの翻訳かも知れないと思ったのだが、よく考えたら、チェコでは、もしくはチェコスロバキアでは「チェスカー・ポハートカ」「スロベンスカー・ポハートカ」ということはあっても、「チェスコスロベンスカー・ポハートカ」ということはあるまいと思い至った。でも、これがチェコスロバキアの童話として日本に紹介されたということは間違いない。
その童話が収められている本は、大倉書店から刊行された『たから舟 世界童話集』という子供向けの本で、訳と編集をしたのは松本苦味という人である。刊行は1920年というから、チャペクの『人造人間』よりも三年早いことになる。
この本には、25編の世界18の国、地域の童話が収録されている。18という数字については、序に、「「たから舟」といふと、どうやら七福神でも乗つてゐさうであるが、開化の「たから舟」には、十八ヶ国の違う国の異人さんが乗つてゐる」と説明があるが、どう理解すればいいのかわからない。その十八の作品のうち最初の二つが「チエスコ・スロヴエンスカ童話」とされていて、それぞれ「ねぼけ小僧出世物語」「一撃九匹」と訳されている。
ほかの作品を見ると、「北米印度人童話」とか、「小亜細亜童話」、「ブラジル童話」のような、ほかの童話集ではあまり取り上げられていなさそうな地域の童話も多く収録されていて、「チエスコ・スロヴエンスカ童話」が冒頭にあることと考え合わせると、この本、ちょっと毛色が違うんじゃないかという印象を持った。
訳者の松本苦味は、どうやらロシア文学が専門の人のようだから、チェコスロバキアの童話もロシア語からの翻訳だと考えてよさそうだ。そうすると「チエスコ・スロヴエンスカ」というのも、ロシア語に於いてチェコスロバキアを表す言葉であろうか。ちなみに松本苦味は関東大震災で行方不明になったという。
ところで、冒頭で「見つけたかもしれない」という言い方をしたのは、チェコ語の原典が発見できていないので、絶対にチェコの童話を翻訳したものだと言い切れないからである。1970年代に発行された本のなかに同じような童話を見つけたのだけど、1920年に日本で出版された翻訳の原典を70年代の本にするわけにもいけないし。折角なので、次は、「ねぼけ小僧出世物語」と「一撃九匹」を紹介することにする。
国会図書館オンラインの『たから舟 世界童話集』は、target="_blank">こちらから。
2022年1月7日。
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