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2021年05月11日

不思議の国チェコ2021(五月八日)



 先月半ばに、6年半前のブルビィエビツェの山中に置かれた弾薬倉庫が爆発した事件に関して、ロシアの秘密工作部隊GRUの関与が明らかになったことが発表された。その前後にハマーチェク大統領が、モスクワに出かけてスプートニクVのチェコへの輸入に関して交渉してくると言い出したり、それを取りやめた後になって、カモフラージュだったのだと言ったりしていた時点で、意味不明だったのだが、その後さらに驚きの展開が待っていた。
 どこだったかは忘れたが、マスコミが衝撃の裏情報をすっぱ抜いたのである。それによると、ハマーチェク氏が、モスクワ行きを計画したのは、カモフラージュでもなんでもなく、本当にロシア製のワクチンスプートニクVを手に入れる交渉をするためだったという。ただし、ハマーチェク氏が対価としようとしたのは、お金ではなく、GRUのチェコ国内での破壊工作について秘密にすることだったという。さらに、ワクチン以外にも開催が噂されている米露首脳会談の開催地をプラハにすることも求める予定だったという。

 それは、流石にないだろうと思いたいのだけど、ここは不思議の国チェコである。特に最後の新大統領の就任後最初の米露首脳会談をプラハでというのが、いかにもチェコの政治家が好みそうな発想で、ニュース全体の信憑性を高めていた。凋落傾向の止まらない社会民主党の党首として、ワクチンをロシアに無料で提供させることで支持を集めようとしたのかとか、裏にはロシアシンパの大統領の意向があったのではないかとか、あれこれ疑えば疑える。
 野党としては攻撃どころということで、国会でも審議されることになった。その審議がテレビカメラを排除し、さらに普段は野放図にスマホ、PC使い放題で、国会内の情報を垂れ流しにしても規制されないのが、今回は審議が始まる前に全ての電子機器の電源を切ることが求められるという、完全な密室状態で行われたのも、ことの重要性、いや異常性を物語っていた。もちろん、こんな審議で何が明らかになるわけもなく、ハマーチェク内務大臣は同じようないいわけを繰り返していた。

 最初のうちの報道によると、記者会見でGRUの関与を発表する前に、ハマーチェク氏が、警察、検察なんかの関係者を、軍の情報部の責任者を排除する形で集めて、方針を決める会議を開いたらしい。その参加者が、今回の件をリークしたとか報道されていたような気がするのだが、いつの間にか、この本当であれば、大スキャンダルのネタもとは、社会民主党のパルドゥビツェ地方知事のネトリツキー氏に代わっていて、メディアで積極的に発言している。
 ハマーチェク氏は、政府レベルで話をする前に、党内の有力政治家の一人であるネトリツキー氏に相談を持ちかけたということのようだが、いわば背中から撃たれたわけである。相談を持ちかけるぐらいだから、もともとハマーチェク氏に近いと見られていたはずなのだが、現在のハマーチェク氏の迷走ぶりに愛想をつかし、泥舟と化しつつある社会民主党を捨てて地域政党を結成する考えでもあるのだろうか。この件で、発言の真偽はともかく知名度は大きく高まったはずだし。
 今回の件が、実際はどうだったのか、明らかになる事はあるまい。いや、これが事実だったんだという発言をする人や、報道は出てくるだろうけれども、疑いは残り続ける。実際にハマーチェク氏がモスクワまで出かけて、行方不明になったとかだったらスパイ映画さながらと言えそうだけど、出かける前にひよったわけだから、ストーリーは出来損ないというしかない。何をやってもうまくいかなかったソボトカ首相の在任末期のような雰囲気を今のハマーチェク氏には感じてしまう。

 社会民主党とハマーチェク氏の迷走ぶりは、党の色にも現れている。ウクライナのオレンジ革命ブームに便乗して成功して以来、社会民主党はオレンジ色を党のシンボルカラーとして使用してきたのだが、最近になってその色が濃く、赤に近い色になっているのである。それは、共産党の赤と区別がつかないほどで、共産党と協力体制を築く伏線じゃないかと疑ってしまう。
 一応社会民主党にはボフミーン宣言というのがあって共産党とは共闘しないというのが党是に成っているのだが、地方政界などではすでに有名無実になっているし、今後は党の生き残りをかけて党内右派を排除して共産党に近づく可能性もある。チェコの左派はバビシュ氏のANOの草狩場になって壊滅状態で、今秋の下院の総選挙ではどちらも議席の獲得が危ぶまれているし、生き残りに必死なのである。ただ、そうなるともう社会民主党である意味もなくなると思うのだけど。
2021年5月9日24時30分。









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