2020年08月12日
ボフミーンの悲劇(八月九日)
鉄道でプラハからオロモウツを経てオストラバに向かう幹線が、ポーランドにつながる国境の位置にあるのがボフミーンである。高速道路も、まだ完全にはつながっていないが、プラハ、ブルノ、オストラバを結ぶD1が、ボフミーンで国境を越える。確か、2012年にポーランドで行われたサッカーのヨーロッパ選手権に向けて、チェコ側とポーランド側で急いで工事を進めて連絡させる予定だったのが、チェコ側は完成したものの、ポーランド側が中国企業に受注させた結果、間に合わないという醜態をさらしていた。今ではポーランド側も高速道路が完成しており、残るはチェコ国内のプシェロフ付近だけという事になっている。
それはともかく、その国境の町ボフミーンで火事が起こったというニュースが最初に流れたのは土曜日の夜のことだった。火事が起こって一時間ほどしかたっていない時点だったので、情報は錯綜しており、確実なこととして報道されたのは、ボフミーンの12階建のマンションの11階で火事が起こって、犠牲者が出ているということぐらいだった。犠牲者の数に関しては、10人という説もあると紹介していたが、映像を見る限り建物が倒壊するような火事ではなく、一部屋、二部屋を焼いただけのように見えた。
今日になって火事の詳細がある程度判明し、犠牲者は全部で11人、そのうち6人は火事の起こった部屋で焼死し、残りの5人は火に襲われてパニックになってベランダから飛び降りた結果亡くなったということらしい。消防署は通報後5分以内に現場に到着し、はしご車や飛び降りさせるためのマットの準備を進めていたが間に合わなかったとも言う。
この件に関して、現場で様子を見ていた野次馬の一人が、消防隊員が現場についてから15分、20分ほど何もしていなかったとか、飛び降りのためのマットを実際に飛び降りてから引っ張り出したとか批判していたけど、こういう状況では時間が経つのが長く感じられるから、野次馬のいうことがどこまで信じられるか疑問である。それよりは、消防署の記者会見での、飛び降り用のマットは、10階以上という高さからの飛び降りは想定していないので、準備が間に合ったところで救えたかどうかは疑問だという発言のほうが信憑性が高い。一つにはマットめがけて飛び降りられるかという問題があり、もう一つはマットで衝撃を受け止めきれるかという問題があるという。
おそらく、一番の問題は火災を起こしたマンションの建築方法にある。これはパネラークと呼ばれる、共産党政権下でできるだけ早く大量に集合住宅を建設するために発明された建築技術で、日本語ができるチェコ人の中にはプレハブ式高層建築と呼ぶ人もいる。いずれにしても、日本では耐震性のなさから建築が許可されないような代物で、5階建てぐらいでやめておけばいいのに、チェコ各地に10階建てを越える背の高いパネラークが林立しているのである。
当時のこととて、安全対策などろくになされているわけがない。ベランダに緊急避難用のハシゴでも設置してあれば、一つ下の階に逃げられたのだろうけど、火に焼かれる恐怖に飛び降りることを選択するしかなかったということか。現場でははしご車も活動していたようだが、11階というのは、その能力を超えた高さで、救助の役には立たなかったようだ。消火と救助の活動で消防隊員にも怪我で病院に運ばれた人が何人かいるというし、消防署はできるだけのことはしたと理解していい。
今回の火事は、失火ではなく、放火だったようで、容疑者がすでに警察によって拘束され、犯行を認めているという。家族内の対立が激化した結果の犯行で、何かのお祝いに集まったのを利用して火を放ったようだ。犠牲者の中には子供も3人いたというから、すくわれない。
ボフミーンを含むカルビナー・オクレスでは武漢風邪の巨大集団感染もあったし、最近明るい話題がないよなあ。ここはハンドボールのカルビナーチームに頑張ってもらうしかない。その前に、ちゃんとリーグが開幕することが一番の明るいニュースになりそうだ。そして最後まで開催されてカルビナーが優勝となれば最高なのだけど。フリーデク・ミーステクも含めて武漢風邪にやられた町のチームの活躍を願っておこう。
2020年8月10日18時。
犯人は、妻と息子たちのお祝いの場にガソリンをまいて火をつけたらしい。隣の部屋のベランダにかなり無理をして逃げた人が4人、怪我で入院はしているものの命は助かったという。消防署の動きを批判していた野次馬の女性は自分の間違いを認めて謝罪していたが、信憑性にかける野次馬の発言を報道するのも問題だと思う。日本のマスコミお得意の目撃者のでっち上げはしないから、そこはまだましなんだけどね。
8月11日追記。
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