2020年08月03日
トマーシュ・ソウチェク(七月卅一日)
これまでチェコのサッカー選手が国内のチームから国外に移籍した際に支払われた、いわゆる移籍金の記録を持っていたのは、2001年にスパルタからドイツのドルトムントに移籍したトマーシュロシツキーで、その金額は約5億コルナだったとされる。二番目は、数年前に中国に移籍したドチカルと去年ロシアに行ったクラールに超えられるまでは、バロシュがオストラバからリバプールに移籍したときの約1億9千万コルナだったから、ロシツキーの突出ぶりがわかるだろう。
そのロシツキーの記録が約20年の時を経て更新された。更新したのはスラビアからイングランドのウェスト・ハムに移籍したトマーシュ・ソウチェクである。ソウチェクはまず今年の冬にオプション付きの半年のレンタルで移籍し、スラビアに1億1千万コルナほどの移籍金をもたらした。レンタルになったのはウェスト・ハムに二部降格の可能性があったためで、一部残留が決定すれば自動的に完全移籍に移行する契約だったと言われている。
それで、ウェスト・ハムが16位で残留を決めたことで、ソウチェクの移籍も確定した。追加で支払われる移籍金が約4億3千万コルナで、レンタルの分と合わせて5億4千万ほどとなり、ソウチェクは、貨幣価値や為替の変動などを無視すれば、チェコリーグから最高額で国外に移籍した選手となった。ロシアや中国のような移籍金が数割高くなる傾向のあるリーグではなく、イングランドへの移籍でロシツキーを越えたことがソウチェクへの評価と期待の高さを表している。
チェコサッカーのファンとして嬉しいのは、ソウチェクが高額で移籍したことではなく、降格の危機にさらされていたウェスト・ハムに移籍したソウチェクが中心選手として残留に貢献し、自身の活躍で完全移籍を勝ち取ったことである。
一月の移籍直後から先発メンバーとして出場はしていたが、武漢風邪での中断までは、怪我もあってスラビア時代ほどの活躍はしていなかった。それが、中断開け以後は、完全にチームの中心選手として中盤を支配し、時には攻撃にも参加し重要なゴールを決めて、チームを残留に導いていた。スラビア時代のいいときと同様、どこにでもソウチェクがいるという状態だったようだ。
自国の選手について過大に評価し報道してしまうのは、日本のマスコミほどひどくはないけれどもチェコでもないわけではない。だから、チェコでの報道は多少眉につばをつけておく必要はあるが、ソウチェクなしでは、ウェスト・ハムの残留は難しかったのではないかという印象を受けた。話半分に聞くにしても、監督やファンたちの評価も高いようである。
最近、イングランドに移籍して成功を収めたチェコ人選手が出ていなかったからソウチェクも心配していたのだが、代表のことを考えても一安心である。カラスも、スカラークも、ビドラも、ゲツォフも、みんなみんな期待されていたのに、尸累々で代、表の戦力にならなくなった選手も多い。アーセナルに行ったロシツキーも怪我ばかりで本来の実力を発揮できたとはいえないしさ。
ウェスト・ハムのチェコ人選手というと、1990年代に活躍したキーパーのルデク・ミクロシュコと、2000年代の初めのトマーシュ・ジェプカの二人の名前が挙がる。この二人は在籍期間も長く大成功を収めたと言えるが、ジェプカ以降は、ラシュトゥーフカとミコランダという在籍しただけという選手もいて、多少なりとも活躍したのはコバーチぐらいである。
ソウチェクの活躍に味を占めたというわけではないのだろうが、ウェスト・ハムでは二匹目のドジョウとばかりに、スラビアの選手の獲得を考えているらしい。名前が挙がっているのはツォウファルとマソプストだという。ツォウファルはディフェンスの選手だからそれなりに期待できそうだけど、マソプストはどうかなあ。スピードはあるけどミスも多いし。どちらの選手が移籍したとしてもソウチェクの存在は大きな力になるに違いない。
今回の移籍にはちょっといい話もあって、出身地で最初に所属したハブリーチクーフ・ブロトのチームに、今回スラビアに入る移籍金の10パーセントが支払われることになるらしい。その額はチームの年間予算の10倍になるというから、地方の財政難に苦しみ自治体の支援を受けている弱小クラブにとっては恵みの雨のようなものである。
ソウチェクには、今後もイングランドだけでなく代表でも活躍が期待できそうだ。9月にはオロモウツで代表の試合があるからソウチェクも来るはずだ。たた、無観客試合になることが決まっているので観戦することはできないけどさ。
2020年7月31日23時30分。
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