2024年09月30日
【犬猿 (2018)]
あらすじ
映画『犬猿』は、まさにそのタイトルが物語る通り、性格も立場も正反対の「兄弟」と「姉妹」の人間関係を描いた作品です。物語の軸になるのは、二組の兄弟姉妹――兄弟は兄・和成(窪田正孝)と弟・卓司(新井浩文)、姉妹は姉・美帆(江上敬子)と妹・由利亜(筧美和子)です。それぞれの間には、嫉妬や劣等感、憎しみ、そして愛情が渦巻いており、その感情が物語を進めていく原動力になっています。
和成は印刷会社で働く真面目なサラリーマン。弟の卓司は出所したばかりの前科者で、和成とは正反対の自由奔放な性格です。兄弟間の確執は、和成が自分の責任感や成功に苦しむ一方で、卓司が何かとトラブルを引き起こし、それを和成がカバーするという関係が長く続いていたことからきています。卓司は表向きは和成に頼っているように見えるものの、内心では兄の優越感や道徳的な立場に苛立ちを抱えています。
一方で、美帆と由利亜の姉妹関係は、見た目や社会的な評価に大きな隔たりがあります。美帆は自分の容姿に自信がなく、家業の印刷会社を切り盛りして地道に働いていますが、その地味な生活に満足しているわけではありません。対照的に、妹の由利亜は若く美しく、モデルとして成功を収めています。姉妹間には、外見や人生の選択に対するコンプレックスや嫉妬が交錯し、表面的には平和に見えても、その裏には激しい感情の波が隠れています。
この二組の兄弟姉妹が織りなす物語は、彼らの複雑な感情を鋭く描きながら、時にコミカルで、時に切なく展開していきます。和成は家業を守り、弟に対して責任感を感じながらも、その内心では自分の人生に不満を抱えており、卓司はそんな兄を意識しつつも自由に生きようとする。しかし、次第に兄弟の立場が逆転していきます。同じく、美帆と由利亜の姉妹も、それぞれが持つコンプレックスと向き合いながら、最終的にはお互いを認め合う方向に向かいます。
物語のクライマックスは、兄弟や姉妹の関係が一触即発にまで高まる瞬間です。しかし、そこで描かれるのはただの感情の爆発ではなく、それまで隠されていた本音や真の気持ちが露わになる場面です。彼らが互いにぶつかり合い、傷つけ合いながらも、最終的には和解へと進む過程が、観る者に深い感動を与えます。
感想
映画『犬猿』を一言で表現すると、**「家族という最も身近で、最も避けられない人間関係のリアルな描写」**といえます。この作品は、兄弟や姉妹の関係がどれほど複雑で、同時にどれほど深いものかを鋭く描き出しています。誰しも、家族という存在には何らかの形で縛られていると感じることがあるはずですが、『犬猿』はまさにその感覚を真正面から描いています。
まず印象に残ったのは、登場人物たちのリアルさです。窪田正孝演じる和成の「真面目だけど、どこか満たされないサラリーマン」というキャラクターは、現代社会における多くの人々の共感を呼ぶでしょう。彼は一見すると成功しているように見えますが、内心では常に自分に自信が持てず、弟への嫉妬や劣等感を隠しながら生きています。卓司(新井浩文)もまた、自由奔放に見えながらも、自分の行き場のなさや兄に対する複雑な感情を抱えています。この二人の兄弟関係は、観ている側にも自分の兄弟姉妹との関係を思い起こさせ、より深く感情移入できる部分が多かったです。
そして、姉妹関係もまたリアルで、特に女性視点での「外見コンプレックス」や「社会的評価」の問題が鋭く描かれています。姉の美帆(江上敬子)は、地味で見た目に自信がないけれども、家業をしっかり守っている誠実な人物。一方で妹の由利亜(筧美和子)は美しく、モデルとして成功しているものの、どこか空虚さを感じています。美帆の劣等感と、由利亜の自己評価の低さが絡み合い、二人の間に見えない溝を作っています。
この映画で特に心に残ったのは、「人は他人を羨ましく思い、同時に自分の存在価値を見失うことがある」というテーマです。和成は卓司の自由な生き方に憧れ、卓司は和成の安定した生活に苛立ちを感じている。美帆は由利亜の美しさに嫉妬し、由利亜は美帆の地道な生活に対する安心感に憧れている。それぞれが自分の人生に不満を抱えているからこそ、相手を羨むわけですが、その結果として自分自身を見失ってしまうのです。
また、映画全体を通して流れる**「コミカルなシーンとシリアスなシーンのバランス」**も絶妙です。特に卓司のキャラクターは、どこか軽妙で、思わず笑ってしまうシーンも多くありますが、その裏には深い孤独や苦悩が隠されています。笑いながらも、ふと考えさせられる瞬間が多く、観る者に様々な感情を呼び起こします。
この作品が素晴らしいのは、結末に向かう過程で登場人物たちがそれぞれ自分の弱さや欠点と向き合い、最終的にはお互いを認め合うところです。和成と卓司、美帆と由利亜、それぞれがぶつかり合いながらも、最終的には相手の存在を受け入れることで、自分自身も救われていく。家族という逃れられない関係の中で、どうやって自分を保ち、相手と共存するかを模索する姿が、非常に感動的でした。
映画『犬猿』は、派手なアクションや大きなドラマはないものの、「人間の感情の機微」をこれほどまでに丁寧に描いた作品は珍しいと感じました。特に、兄弟や姉妹との関係に悩んでいる人や、自分自身に対するコンプレックスを感じている人にとって、この映画は大きな共感と気づきを与えてくれるでしょう。
最後に、この映画を観た後に強く感じたことは、「誰もが自分自身の人生において、何らかの戦いをしている」ということです。家族であっても、他人であっても、すべての人がそれぞれの悩みや葛藤を抱えて生きている。だからこそ、お互いに少しでも理解し合おうとする姿勢が、最終的には自分をも救うことになるのかもしれません。
以上が、映画『犬猿』のあらすじと感想です。この作品は、シンプルながらも非常に深いテーマを描いており、観終わった後にじんわりと心に残るような映画です。ぜひ、多くの人に観てもらいたい作品です。
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