2008年06月05日
ファーブル「昆虫記」の世界展
こんなことって初めてだ。入場したらお客は私一人。閉館1時間半前くらいに入ったはずだから、丁度誰もいない時間帯だったのかも、だ。貸切状態で展示を見られるなんて嬉しい(°ω°=)一生に一度の体験!(に違いない)。
実はまだ『ファーブル昆虫記』を読んだことがない。『夕焼けの詩』で一平くんが読んでいるのを見ると「読むぞ!」と思うのに、結局ぜんぜん読んでいない…。子どもの頃に読まなかったのがいけないのだ(反省)。
読んではいなくとも『ファーブル昆虫記』といえば“フンコロガシ”。転がしているものが糞であっても、その転がす姿や動作が愛らしいフンコロガシ。まるで運動会の大玉転がしの動きだ。
とても地味な昆虫だけれど、その地味な昆虫を地道に研究し続けて、その生態を本にまとめたファーブルはとても凄い人だ。そして煌びやかなものよりも地味なものを独自の方法で研究するという、自分の道をゆく生き方を持つ素敵な人。周りに左右されたり躍らせれたりしない、心の一本通った、信念のある人が私は好きだ。
そういう人であるジャン=アンリ・ファーブルを私は尊敬している。今回の展示を見て益々尊敬の念が強まった。
挿絵のバランスが悪かったり不正確であったりすることを気にしていたファーブルは、『昆虫記』に挿絵を入れることを嫌がって、当時刊行されたものは挿絵の一切ない本になっていたそうだ。昆虫を紹介している本に挿絵がないのは致命的なことで、出た当初は売れ行きもよろしくない本だったらしい。カタログ(奥本大三郎教授)によるとフランス語の原題では『Souvenirs entomologiques -Etudes sur l'instinct et les mœurs des insectes』で、日本語に訳すと『昆虫学的回想録 ―昆虫の本能と習性に関する研究』というさも難しそうな一般人向けでないタイトルが付されていたそうだ。せっかく万人向けに書いたというのに、いかにも専門書なタイトルだ。これも売れなかった理由の一つ。確かに物好きでなければ手に取りそうにない感じがする。
しかしその後出た決定版(1920-24年)では、息子ポールが撮影した昆虫(標本)の生態写真が資料として追加されている。その写真が今回たくさん展示されていたというわけだ。恐らく今回の目玉はこの写真だと思う。
はじめは標本の写真だなんて思わなかったので、動く昆虫をうまく捉えた写真だと思って見ていた。ところどころホワイトやグレーを使って修正してあるのも、資料として使うためだからだと思っていたのだが、写りの悪い部分やテグスなどを修正するためだったらしい。なかには、写真の隣に印刷されたものが展示してあって、本にはこんな感じで掲載されたのだなと分かるものもあった。しかししかし、写真に写っている昆虫が標本だとは目を凝らしてみて初めて納得だ。《クシヒゲカマキリとその幼虫》や《地中から出てくるセミの幼虫》、《母の背に急ぐドクグモの子》あたりは一体どうやって撮ったのかと危うく(?)騙されるところだった。カマキリがさりげなく全員カメラ目線なのだからもっと早く気づきそうなもんだけど(苦笑)。む…《スズカエル》の写真も標本(剥製)だったということかな?
2匹ともなかなか愛らしい顔つきをしていたのに。。。
それから、ファーブルが嫌がっていた挿絵も展示されていた。作者不詳のペン画で、とても綺麗で完成度の高い挿絵。どの昆虫記に掲載されているのかは記されていなかったので分からない。絵自体は1879年と1900年に描かれていて古い。1879年の絵には「J」と「A」を組み合わせたようなマークがあるのでファーブルが描いたものかなとも思ったのだけれど…ファーブル自身が絵を描く人だっただけに、これらを描いたのではないかという気がしてならない。1900年に描かれた絵は《ツキガタダイコクコガタ》と《コエンマムシ》が可愛らしい。《ムスティリカツオブシムシ》の絵は緻密で秀逸な作品。マイマイの絵は殻の模様が浮き出て見えて写真並み!
そして!海洋堂フィギュアの展示!!『ファーブル昆虫記フィギュア』はセブンイレブン限定でPETボトルに付いていたもの。(こちらのサイトでフィギュアの写真が見られます食玩・ガチャポン・フィギュアコレクション:セブン・イレブン限定企画 海洋堂フィギュアコレクション ファーブル昆虫記)。さすがに海洋堂フィギュアはよく出来ていて綺麗。海洋堂フィギュアミュージアムに展示されている《ヒジリタマオシコガネ(スカラベ・サクレ)の暮らし》などのフィギュアも飾られていて楽しい。特にこのスカラベ・サクレの暮らしは長い時間眺めてしまった…!
『ファーブル昆虫記の虫たち』で挿絵を描いている熊田千佳慕さんの絵は産毛(?)まで描いてくれ!と言わんばかりの細密さ。拡大鏡で覗いたらこんな風に映るのだろうという絵だ。ここまで情熱をこめて細部までしっかりと昆虫を描けるなんて、もう神の手に近い気がしてならない。観察したってこうはゆかないよ。
それから昆虫の写真を撮っている今森光彦さん。《オオカマキリ》と《ナナホシテントウ》の写真が私は好き。望遠使って撮るにしてもどうして昆虫をこういう感じに撮れるのか不思議だ。《ニイニイゼミ》の羽化の様子、ちょうど出てきたところはきっと何時間も張っていて撮った一枚なのだろう。真正面からのセミの姿はSFに出てくるエイリアンのような感じ。脱殻もエイリアン。羽化したての緑色というのはなんとも表現しがたい色。図鑑に載っている写真で見た羽化の姿に比べると、この写真はまったく別ものに思える。今にもこちら側に飛び出して来るのではないかという勢いがあって弱弱しい感じがしない。
以上が私の見た「ファーブル昆虫記の世界展」。
私が出て行く頃に一人だけ男性が入ってきた。たぶんその人も貸切だネ。
熊田千佳慕さん挿絵の『ファーブル昆虫記の虫たち』(熊田千佳慕著 / 小学館)
『ファーブル昆虫記の虫たち(1)』
『ファーブル昆虫記の虫たち(2)』
『ファーブル昆虫記の虫たち(3)』
『ファーブル昆虫記の虫たち(4)』
『ファーブル昆虫記の虫たち(5)』
鳥山明さん挿絵の『ファーブル昆虫記』(奥本大三郎著 / 集英社文庫)
『ファーブル昆虫記(1) ふしぎなスカラベ』オススメ!!
『ファーブル昆虫記(2) 狩りをするハチ』
『ファーブル昆虫記(3) セミの歌のひみつ』
『ファーブル昆虫記(4) 攻撃するカマキリ』
『ファーブル昆虫記(5) カミキリムシの闇の宇宙』
『ファーブル昆虫記(6) 伝記虫の詩人の生涯』
今森光彦さんの本
『今森光彦ネイチャーフォト・ギャラリー不思議な生命に出会う旅・世界の昆虫』(今森光彦著 / 偕成社)
『世界昆虫記』(今森光彦著 / 福音館書店)
『昆虫4億年の旅』(今森光彦著、東京都写真美術館 / 新潮社)
実はまだ『ファーブル昆虫記』を読んだことがない。『夕焼けの詩』で一平くんが読んでいるのを見ると「読むぞ!」と思うのに、結局ぜんぜん読んでいない…。子どもの頃に読まなかったのがいけないのだ(反省)。
読んではいなくとも『ファーブル昆虫記』といえば“フンコロガシ”。転がしているものが糞であっても、その転がす姿や動作が愛らしいフンコロガシ。まるで運動会の大玉転がしの動きだ。
とても地味な昆虫だけれど、その地味な昆虫を地道に研究し続けて、その生態を本にまとめたファーブルはとても凄い人だ。そして煌びやかなものよりも地味なものを独自の方法で研究するという、自分の道をゆく生き方を持つ素敵な人。周りに左右されたり躍らせれたりしない、心の一本通った、信念のある人が私は好きだ。
そういう人であるジャン=アンリ・ファーブルを私は尊敬している。今回の展示を見て益々尊敬の念が強まった。
挿絵のバランスが悪かったり不正確であったりすることを気にしていたファーブルは、『昆虫記』に挿絵を入れることを嫌がって、当時刊行されたものは挿絵の一切ない本になっていたそうだ。昆虫を紹介している本に挿絵がないのは致命的なことで、出た当初は売れ行きもよろしくない本だったらしい。カタログ(奥本大三郎教授)によるとフランス語の原題では『Souvenirs entomologiques -Etudes sur l'instinct et les mœurs des insectes』で、日本語に訳すと『昆虫学的回想録 ―昆虫の本能と習性に関する研究』というさも難しそうな一般人向けでないタイトルが付されていたそうだ。せっかく万人向けに書いたというのに、いかにも専門書なタイトルだ。これも売れなかった理由の一つ。確かに物好きでなければ手に取りそうにない感じがする。
しかしその後出た決定版(1920-24年)では、息子ポールが撮影した昆虫(標本)の生態写真が資料として追加されている。その写真が今回たくさん展示されていたというわけだ。恐らく今回の目玉はこの写真だと思う。
はじめは標本の写真だなんて思わなかったので、動く昆虫をうまく捉えた写真だと思って見ていた。ところどころホワイトやグレーを使って修正してあるのも、資料として使うためだからだと思っていたのだが、写りの悪い部分やテグスなどを修正するためだったらしい。なかには、写真の隣に印刷されたものが展示してあって、本にはこんな感じで掲載されたのだなと分かるものもあった。しかししかし、写真に写っている昆虫が標本だとは目を凝らしてみて初めて納得だ。《クシヒゲカマキリとその幼虫》や《地中から出てくるセミの幼虫》、《母の背に急ぐドクグモの子》あたりは一体どうやって撮ったのかと危うく(?)騙されるところだった。カマキリがさりげなく全員カメラ目線なのだからもっと早く気づきそうなもんだけど(苦笑)。む…《スズカエル》の写真も標本(剥製)だったということかな?
2匹ともなかなか愛らしい顔つきをしていたのに。。。
それから、ファーブルが嫌がっていた挿絵も展示されていた。作者不詳のペン画で、とても綺麗で完成度の高い挿絵。どの昆虫記に掲載されているのかは記されていなかったので分からない。絵自体は1879年と1900年に描かれていて古い。1879年の絵には「J」と「A」を組み合わせたようなマークがあるのでファーブルが描いたものかなとも思ったのだけれど…ファーブル自身が絵を描く人だっただけに、これらを描いたのではないかという気がしてならない。1900年に描かれた絵は《ツキガタダイコクコガタ》と《コエンマムシ》が可愛らしい。《ムスティリカツオブシムシ》の絵は緻密で秀逸な作品。マイマイの絵は殻の模様が浮き出て見えて写真並み!
そして!海洋堂フィギュアの展示!!『ファーブル昆虫記フィギュア』はセブンイレブン限定でPETボトルに付いていたもの。(こちらのサイトでフィギュアの写真が見られます食玩・ガチャポン・フィギュアコレクション:セブン・イレブン限定企画 海洋堂フィギュアコレクション ファーブル昆虫記)。さすがに海洋堂フィギュアはよく出来ていて綺麗。海洋堂フィギュアミュージアムに展示されている《ヒジリタマオシコガネ(スカラベ・サクレ)の暮らし》などのフィギュアも飾られていて楽しい。特にこのスカラベ・サクレの暮らしは長い時間眺めてしまった…!
『ファーブル昆虫記の虫たち』で挿絵を描いている熊田千佳慕さんの絵は産毛(?)まで描いてくれ!と言わんばかりの細密さ。拡大鏡で覗いたらこんな風に映るのだろうという絵だ。ここまで情熱をこめて細部までしっかりと昆虫を描けるなんて、もう神の手に近い気がしてならない。観察したってこうはゆかないよ。
それから昆虫の写真を撮っている今森光彦さん。《オオカマキリ》と《ナナホシテントウ》の写真が私は好き。望遠使って撮るにしてもどうして昆虫をこういう感じに撮れるのか不思議だ。《ニイニイゼミ》の羽化の様子、ちょうど出てきたところはきっと何時間も張っていて撮った一枚なのだろう。真正面からのセミの姿はSFに出てくるエイリアンのような感じ。脱殻もエイリアン。羽化したての緑色というのはなんとも表現しがたい色。図鑑に載っている写真で見た羽化の姿に比べると、この写真はまったく別ものに思える。今にもこちら側に飛び出して来るのではないかという勢いがあって弱弱しい感じがしない。
以上が私の見た「ファーブル昆虫記の世界展」。
私が出て行く頃に一人だけ男性が入ってきた。たぶんその人も貸切だネ。
〒157-0062 東京都世田谷区南烏山1-10-10
熊田千佳慕さん挿絵の『ファーブル昆虫記の虫たち』(熊田千佳慕著 / 小学館)
『ファーブル昆虫記の虫たち(1)』
『ファーブル昆虫記の虫たち(2)』
『ファーブル昆虫記の虫たち(3)』
『ファーブル昆虫記の虫たち(4)』
『ファーブル昆虫記の虫たち(5)』
鳥山明さん挿絵の『ファーブル昆虫記』(奥本大三郎著 / 集英社文庫)
『ファーブル昆虫記(1) ふしぎなスカラベ』オススメ!!
『ファーブル昆虫記(2) 狩りをするハチ』
『ファーブル昆虫記(3) セミの歌のひみつ』
『ファーブル昆虫記(4) 攻撃するカマキリ』
『ファーブル昆虫記(5) カミキリムシの闇の宇宙』
『ファーブル昆虫記(6) 伝記虫の詩人の生涯』
今森光彦さんの本
『今森光彦ネイチャーフォト・ギャラリー不思議な生命に出会う旅・世界の昆虫』(今森光彦著 / 偕成社)
『世界昆虫記』(今森光彦著 / 福音館書店)
『昆虫4億年の旅』(今森光彦著、東京都写真美術館 / 新潮社)
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