2019年02月20日
マリエ
ウチの近所にまことしやかに囁かれている「マリエ」というお話ですオッチャンは焦っていた。
今日も仕事の接待で深夜になってしまった。
いつものT字路を曲がるとそこには古びた神社があったほろ酔い加減のオッチャンはには見慣れた風景だったがその日は何かが違っていたぽーん、ぽーん・・・一定の間隔で音が刻まれている不思議に思いながらもオッチャンは歩調をはやめたのだがふと、神社に目をやると浴衣を着た小学生くらいの女の子がボールをついて遊んでいる深夜の神社の境内で少女がたった一人でだ・・・違和感を感じて目をこらすとまだ昼間の熱気がのこっている深夜だというのに浴衣ではなく古い着物をきていたのだ余り深くかかわらない方がいい。
オッチャンは薄ら寒いものが背筋を通り抜けるのを感じたのか感じていないのかそのまま神社の前を通り過ぎたぽーん、ぽーん・・・音がオッチャンの後ろをついてくる酒のせいで上がっていた体温は急速にさめて行きいままでかいていた汗が冷や汗になるのがわかる・・・後ろを振り返ると少女がついてきていたうつむいてボール、いや、古風なマリをつきながらその少女の脚は前に進んでいるにもかかわらず全く動いていなかったそのまま脚を動かさず、マリをついている手だけを動かしながらオッチャンに近づいてきたのだった死に物狂いではしる。
走る。
疾る。
息が続かない身体にムチをうってはしるしかし「その音」は確実に近づいてきている「その音」
がおっちゃんの近くまで来たときオッチャンは振り向いてしまったのだぽーん、ぽーん・・・すぐ背後に少女がいた。
ソレはずーーとうつむいていたのだがゆっくりと顔を上げ、吸い込まれそうな漆黒のまなざしをオッチャンのつま先から膝、腰、胴・・・そのまま視線を上げながら首まできた時オッチャンはまだ暗い明け方に道端にぶっ倒れて気絶していたところを発見されたあのまま眼があっていたらどうなっていたのかは誰にも判らない。
後日談ひとりのバイク乗りが「マリエ」の話をきいていた地元の峠でも名の知れた走り屋でしたCBR600という、とてつもなく速いバイクを操る彼は若すぎたのだ下りの峠をバイクで攻め込むときの恐怖は並大抵のものではないしかし、それでも速い彼は怖いもの知らずと呼ばれたその彼が神社の前に居たぽーん、ぽーん・・・軽快なエンジン音とともにこの世のものと思えない不思議な音もそこにあった3秒もあれば時速120km/hを出すことのできるバイクに乗る彼は「ソレ」
がバイクにはついてこれないとタカをくくっていたアクセルを開ける。
近所の家の窓ガラスが震えるような咆哮が上がるクラッチを繋げる。
古びたアスファルトでタイヤの表面をちぎりながら黒々とマークをつけるつぎの瞬間、意識ごと身体を置いて行きそうな強烈な加速で神社の前から疾走するヘルメット越しなのに「その音」
は聞こえてきた「その音」は確実に近づいてきたのだったエンジンの調子が悪いわけではない。
快調そのものだしかしやがて「その音」がすぐ背後まで迫ってきたのだったバックミラーには何も写っていないバイクに伏せながら彼は後方を振り返ってしまったそこには脚を全く動かさず髪を振り乱しながら、前傾姿勢になって必死にドリブルをしている少女の姿があったなにを祀っているっているかはよくわからない道祖神の横を通り過ぎたところで少女の速度が落ちた肩で息をしながらうつむいたままマリをついていたがその姿のままゆっくりと夜の闇に溶けていったそうな・・・・
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