2019年02月17日
切断式
書く前に、あらかじめ言っておく。
怖い話というのは、大なり小なり、フィクションの部分が存在する。
それを踏まえて、この話を書く。
ある小さな南の島で、ボランティア活動を行っている日本人青年がいた。
彼がその地になじみ始めた頃、事件が起きる。
ある日、彼が何者かに両足首と両手首を切断され、発見される。
幸い命に別状はなかった。
彼は、駆けつけたボランティア団体の役員にこうつぶやいた。
「おれは何も悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない悪くない・・・」
最後の言葉は、日本語ではなく、どこかの言葉らしい。
役員がなだめ落ち着かせると彼はなぜこのようなことになったか、ゆっくりと語りだした。
彼の祖父は、戦時中、兵士として出征していた。
当時はこの島は、日本軍の占領下であった。
軍も制圧したが、いまだ残党が残っており、祖父も残党狩りにかり出された。
ある日、リーダー核の男が捕らえられた。
その男は、見せしめに兵士からの虐待を受けた。
男は海岸に連れて行かれ、浅瀬にいるシャコ貝に無理やり手足を突っ込まれたのだ。
シャコ貝はビックリして、貝殻を閉じる。
万力でつぶされているような、激しい痛みが男を襲う。
そのまま男は放置された。
潮が満ちてきても、溺れないように筒で呼吸をとらせた。
祖父は男の見張りを命じられた。
男は怒り狂い何かをひたすら叫んでいた。
日がたつにつれ、だんだんと男はおとなしくなった。
ある日、祖父が横で食事を取っていると男が話し掛けてきた。
言葉はわからないが、どうやら腹が減ったらしい。
泣きながら懇願してくるので、思わず祖父は食事を与えてしまった。
しかし、その少々の善意があだとなった。
祖父が男に食事を与えているところを、他の兵士に見られてしまったのだ。
祖父は非国民だと責められ、バツとして己の腹をかっさばくか、男の命をその手で絶つか選ばされた。
もちろん祖父は死にたくない。
男を直接手にかけることにした。
祖父はノコギリを手渡され、まず手首を切断するよう命じられた。
手首に刃を押し当て、ぎこぎこと切り出す。
しかし渡されたノコギリ、錆びていた。
しかも傷口から噴出す血と油で滑ってなかなか切れない。
男はノコギリの動きに合わせ、悲鳴を上げる。
2時間が経過した。
いつのまにか、潮が満ちてしまった。
水中では、もう切ることは出来ない。
「また明日にしよう。」
他の兵士が言った。
次の日、祖父は汗だくになり、なんとか片方の手首を切断した。
「よし、次は左だ。」
言われるがままに、祖父はもう片方を切断し始めた。
ににゅににゅににゅににゅににゅににゅ・・・・・・・・・にゅぎこぎこぎこ
皮膚、筋肉が切断され、骨が見えてくると音が変わってくる。
ぎこぎこぎ・・・・・ごりゅごりゅごりゅごりゅごりゅごりゅごりゅごりゅ
潮が満ちる前に、両手首を切断することができた。
「よし、次は足だ。あしたもがんばれよ」
いっそ一思いに殺してやればいいものを、そう思ったが祖父に訴える予知はなかった。
次の日も、祖父は汗だくで作業を行った。
もはや作業としか言いようが無かった。
男はすでに発狂している。
「・・・・」
何かをつぶやいていた。
結局、両方の足首を切断する前に、男は筒から呼吸することができなくなり溺死した。
遺体から首を切断したところで、祖父は解放された。
その後戦争は終わり、祖父は帰国する。
「あのとき、みんなどうかしてたんだ。」
繰り返し、その話を聞かされていたのだという。
この島を訪れた青年は、何か祖父の罪滅ぼしになればと、ボランティア活動に参加
したのだという。
その矢先だった。
彼は何者かに両手足首を切断された。
手足を切断された青年は、島の病院に入院していたのだが、しばらくして姿を消してしまう。
何日かして、再び発見されたときは異様な様相であった。
遺体は、二枚貝のように折りたたまれ、それを囲むようにシャコ貝の貝殻に、切断された手、足、首が入れられ置かれていた。
遺体の胸には「●▲X#$&・・・」と意味不明の文字。
原因はなんなのか、役員は島民に聞いてまわったが、この事件に対し島民はみな口を閉ざす。
ある老人から、古い手紙をうけとった。
戦時中に虐待され、殺された男が書いたものだという。
「日本人の孫が来たら、これを渡せと言われた。」
老人は、現地の言葉でそういった。
そこには青年の背中に書かれた文字が記されていた。
島に古くから伝わる呪いの言葉だそうで、島民でもあまり知る者はいないという。
その横に、小さく「見ろ。お前の孫は死んでるぞ。」と書かれていた。
青年の祖父にあてて書いたような文面で・・・。
後日、ボランティア団体は島から撤収。
間もなくして、青年の妹が日本の自宅で怪死。
自室で発見されたとき、体が反対側へ折り曲げられ、二枚貝のようであったという。
どうやってそのようになったのかは不明。
両親に疑いがかかったが、発狂して病院おくり。
手、足、首は水槽の中に入れられていた。
二枚貝みたいな死体、まだ出てきてるみたいよ。
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