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2019年02月06日

笈神様


その日の夜、私は久し振りに母に添い寝してもらいました。

母に、

「あらあら・・・もう1人で寝れるんじゃなかったの。」

と言われながらも、恐怖に打ち勝つ事は出来ず、そのまま朝を迎える事となりました。

もう雪は完全に溶けていました。

親に出来事を話しましたが、そんな訳あるか、と信じてもらえませんでしたが、泣きながらの必死の訴えに折れたのか、現場を見てきてくれましたが、何も無かったとの事でした。

しかし子供は自分を一番信じる物で、やはり自分の見たことを疑う事はありませんでした。

丁度冬休みで、一週間後には実家へ帰省する、という頃の出来事でした・・・。

その後、数日間はあの出来事を思い出し、外へ行く事が出来ませんでしたが、元気に外で遊ぶ弟を見ていると、あの出来事は夢だったのだろうか、と考えるようになり、いつしか自分も外で走り回っているようになりました。

あのような出来事も無く、いつしかほとんど記憶の隅から忘れ去り、いつのまにか実家へ帰省する日がやってきました。

車で高速を通って、およそ5時間程かかります。

いつものように、自分のお気に入りの携帯ゲームや、本等を前日に用意し、実家へと帰ったのです。

お婆ちゃんや、おじいちゃんに会う事を楽しみにしていた私ですが、実家についた時、凍りつきました。

実家の家の構造は、まず塀に囲まれており、一箇所が門、もう二ヶ所がそれぞれ車庫と裏口に通じるようになっており、門を潜ってすぐ右側に庭、まっすぐ進めば玄関、となっています。

私が凍りついたのは、門から入り、なんとなしに右側を見たからでした。

そこには、あの球体があったのです。

まだ空も明るい午後5時頃の事です。

色は、ここでも見たはずなのにやはり覚えていません。

触る勇気は、もはやありませんでした。

恐怖に打ちのめされそうになりながら、親にしがみつき、父親に球体を指差し、言葉にならない言葉を発しながら、泣き出しました。

ところが親には何も見えないようで、何故私が泣き出したのかわからず、困っていましたが、何か大きな生き物でもいたんだろう、という事で納得されました。

ただその時、玄関から出て私達を迎えてくれたおじいちゃんだけは、真剣な顔つきで私を見つめていました───。

小1時間程本を読んだりして暇を潰した後、夕食を食べる事になりました。

夕食は子供が好きだから、という事でカレーライスでした。

勿論私も大好物なので、喜んで食べました。

ただ、やはりあの球体が気にかかり、心配でした。

もちろん恐怖も。

1人で早々に食べ終わらせ、2階の寝室に行き、静かにして落ち着くつもりでした。

2階へ行き、寝転がって本を読んでいると、静かに襖が開き、おじいちゃんが来ました。

おじいちゃんは静かに私の隣に座り、一言漏らしました。

「○○(私です)ちゃん・・・・笈神様(おいがみさま)が見えるのかい・・・・?」

笈神様。

私はすぐにあの球体の事だと解りました。

「お・・・いがみさま?」

「笈神様。庭に安置してある丸いボールがあったろう?あれの事だよ・・・・・」

私にもわかりやすいように、ボール等という言葉を使っていたのをよく覚えています。

「笈神様は、この土地に代々伝わる神様でな・・・・」

「何の神様なの?」

「うーん・・・・何もしない神様、かな。一応神様という事になっておるから、悪口は言えんが・・・」

そういって、おじいちゃんは私に笈神様のことを話し始めました。

要約すると、こういう事です。

笈神様は、人々に利益を与える事は何もしない神。

だが、人間が悪い行いをすると、それに見合うだけの天罰を降らせる。

しかし人間が人間に対して悪いことをしてもなにも起こらない。

要するに人間ではなく、自然を守る神、という事になるのだろうか。

人間に対してではない悪い行いといえば、自然に対する事しかない。

おじいちゃんも詳しいことは何も知らないそうだが、言い伝えによれば、何百年も昔から、笈神様を見る事が出来るのは、数少ない人間のみで、笈神様もその数だけ存在するという。

見える者はそれを祭り、管理しなければならない事になっているという。

また、この話は、この地域の人間は誰もが知っており、天罰を避けて悪い行いはまったくしないという。

こんな話だった。

子供心に、なんだそりゃ・・・・・理不尽な神様だなぁと思ったが口にしなかった。

しかし、その後とんでもない事を思いついてしまったのだ。

「そんな神様、私が倒してやる!」

私は倉庫から金槌を持ち出し、未だに庭に見える神に近づいていった。

そして思い切って、真上から振り下ろしたのだ。

直撃する瞬間、

「ドゴゥォォォォォォォォオオオオオオオオオオン」

と物凄い音がし、それと同時に臭い臭いが漂ってきた。

音に気付いたおじいちゃんが、凄い形相で走り寄ってきた。

私は呆然とその残骸を見詰めていた。

そこには、真っ二つに割れたカプセルと、半分ミイラ化した、茶色い死体が入っていた。

その死体は他の人にも見ることは出来たらしく、警察も来るおおさわぎになった。

後で聞いた話によると、その死体は凡そ60年前の子供の死体だという。

だが、何故こんなにも保存状態が良かったのかは解らなかったらしい。

おじいちゃんにこっぴどく叱られたが、おじいちゃんの話によれば、保存状態が良かったのはカプセルのせいかもしれない、という事だ。

あの時、俺が見たカプセルにも、何かが眠っているのだろうか・・・・・・

posted by まとめ at 08:00 | 怖い話
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