ピーター・ドラッカー『経営者の条件』第2章「汝の時間を知れ」に重要な言葉があります。
まずは、原文で確認してみましょう。
The only way he can get to the important things is by pushing on others anything that can be done by them at all.
続いて翻訳を見てみましょう。
「重要なことに取り組めるようになるためには、ほかの人間にできることは、ほかの人間にやってもらうしか方法はない」(『経営者の条件』上田惇生訳 ダイヤモンド社 1995年)
昔の翻訳も見てみましょう。
「彼自身が重要な事柄であると考えているような問題に手をつけられるようにするためには、とにかく他人に頼んで、なんとか他人にやってもらえるような事柄はすべて他人にやらせるという以外に方法はないのである」(『経営者の条件』野田一夫・川村欣也訳 ダイヤモンド社 1966年)
ドラッカーは、自分自身が本来的にしなければならない事柄、仕事をすることなく、そうでない事柄、仕事をしてしまい時間を失ってしまう愚を戒めています。
あれもこれもと手を出しすぎると何もなすことができません。
時間は有限であるだけでなく、僅少であるということです。
しかし、時間が無限で、多大であると勘違いしてしまいがちです。
ほかの人にやってもらう仕事として、単純な仕事、簡単な仕事が考えられます。
確かにこのような仕事をしてもらえば、自分自身が本来行うべき仕事に時間を充てることができます。
しかし、単純な仕事、簡単な仕事よりも、より一層、時間を獲得できるのは、複雑な仕事、困難な仕事であると思われます。つまり、専門家が行うような仕事です。
例えば、中小企業の経営者の場合、本来すべき仕事は自らの事業そのものです。
税務申告であれば税理士、会計関連が必要であれば公認会計士、法律の問題が生じた場合は弁護士に仕事をしてもらえば、経営者は自分の仕事に専念でき、そのための時間が確保できます。
考えてみれば、税理士、公認会計士、弁護士の業務を行うには相当の勉強量が必要であり、試験も難関です。
中小企業の経営者が生半可な知識を得たところで使い物になりません。
さっさと税理士、公認会計士、弁護士にお金を払って頼んだ方が得策です。
中途半端に知識をひけらかす癖のある経営者は大切な時間を奪われる危険性があります。
また、専門家にお金を支払うことを躊躇する意味のないケチな根性は、時間という取り返しのできない財産を失うことにつながります。
注意しなければなりません。
どのような立場であれ、自分が本来的にしなければならないことを明確にすると共に、他人に頼めることはどんどん他人に頼む(もちろん対価としての金員を払って)ことですね。
それでも、時間は足りないというのがドラッカーの指摘です。
時間を大切にしたいものです。