確定申告には株式等運用にかかる高い税金を取り戻せる仕組みが用意されています!
株式等証券投資には利益や配当に一律に20.315%(所得税15.32%、住民税5%)の高い税金が掛かりますが、確定申告には、総合課税方式や分離課税方式の選択より、損益通算や配当控除などの節税できる仕組みが用意されています。
このため、株式等の運用者は、節税のための確定申告の仕方を是非頭において置かれることをおすすめします。
T.確定申告には株式等運用にかかる高い税金を取り戻す仕組みが用意されている
1.株式の譲渡益や配当には約20%の高い税率がかけられている
株式等の取引で得た利益や配当には、運用者の所得や生活実態に関わらず一律に20.315%(所得税15.315%、住民税5%)もの高い税率が掛けられています。
課税対象 |
所得税 |
住民税 |
計 |
上場株式の 利益・配当 |
15.315%(0.315%は復興税) |
5% |
20.315% |
2.確定申告には、赤字の場合も黒字の場合も節税できる仕組みが用意されている
確定申告では、売買で被った損失と利益や配当などと損益通算して税の軽減ができる『分離課税方式』の仕組みと、給与等の所得に対する「配当控除」の利用により所得水準に見合った税軽減ができる『総合課税方式』の仕組みが用意されており、何れかを選択することにより、株式運用にかかる高い税金を軽減できる配慮がなされています。
仕組み |
税負担の軽減方法 |
分離課税方式 |
損失と利益や配当などと損益通算して税軽減ができる方法 |
総合課税方式 |
「配当控除」より所得水準に見合った所得税率で税軽減ができる方法 |
なお、以下の記述では、全て「特定口座で源泉徴収選択」を前提とした取引を想定しています。(一般口座でも基本的な考え方は変わりません)
1)「売買損が大きく配当を含めても赤字の場合」の確定申告による節税方法
年間取引では大きな損となっており、年間配当所得を差し引いても大きな赤字が残った場合は、次のような確定申告によって節税が図れます。
@他の証券会社に持つ特定口座が利益又は配当で黒字となっている場合、分離課税の選択により損益通算で利益を圧縮し税金を節税することができる。
Aそれでも損が残れば、その損を確定申告で「繰越控除」(損を繰越、将来の益と相殺できる)として登録をすれば、次年度以降の3年間、その繰越損が消えるまで、益又は配当所得と相殺して、税金を抑えることができる。
2)「売買で益となり配当を含めて黒字の場合」の確定申告による節税方法
年間で、売買益と配当で大きな黒字となった場合、次のような確定申告によって節税が図れます。
@他の証券会社に持つ特定口座が配当含めて赤字となっている場合、分離課税の選択により損益通算で利益を圧縮し税金を節税することができる。
A過去の繰越控除があれば、分離課税の選択により損益通算で黒字を圧縮し税金を節税することができる。
➂損益通算できるものがない場合は、総合課税方式の選択により、所得税率と「配当控除」の利用による所得水準に見合った税負担に軽減するこよができる。
3.株式投資の節税機会は確定申告しないと消滅する!
株式投資の損益通算や繰越控除等は、その年度年度に確定申告しないと節税機会が消滅してしまいます。
一般の個人投資家は、大抵の場合、証券会社に「特定口座」を設け「源泉分離課税」を選択されています。
この場合、株式運用に伴う取引や配当の履歴並びにそれに伴い納税業務一切を証券会社が代行してくれるので個人は基本的に確定申告の必要はありません。
このため、個人投資家の方、特に、確定申告の義務がないサラリーマンや年金生活者の方は、あまり確定申告をされていないのではないでしょうか?
従って、大変もったいない話ですが、大勢の方が、大きな税軽減チャンスを放棄していることになっています。
確定申告は、各年度の都度行わないと権利が消滅します。
是非、e-taxを利用して税軽減チャンスを逃さないようにしたいものです!
4.確定申告は住民税への影響を考慮する必要があります!
所得税法と住民税法とでは株取引の取り扱いに差があることに注意が必要です。
株式等の利益や配当所得の取り扱いは、所得税と住民税とでは若干捉え方に差があり、確定申告すると住民税の負担増を招く場合があります。
住民税は、あくまでも応分の地域行政負担を求めるところがあり、特に、介護保険では、過去の繰越控除との相殺を認めないところがありますので注意が必要です、
注:確定申告(所得税)と異なる住民税の課税方式の選択が廃止された!
節税の為の確定申告がし易いように平成29年度税制改正で、住民税では「所得税と異なる課税方式」が選べることになりましたが、令和4年度税制改正で、再び、所得税と住民税の課税方式を一致させる改正が行われました。
このため、令和5年分からは、所得税と住民税で異なる課税方式を選択することはできなくなりました。
従って、確定申告の課税方式選択は、住民税への影響を考慮して選択しないとトータルでメリットが損なわれることがあるので注意が必要です! |
U.総合課税方式と分離課税方式の仕組み
以下では、株式の運用を、「特定口座」かつ「源泉徴収」を選択していることを前提とさせていただきます。(一般口座でも、基本的考え方は変わりません)
1.株式運用に伴う申告は「総合課税方式」と「分離課税方式」のいずれかのみ
株式運用に伴う確定申告方法には、「総合課税方式」と「分離課税方式」の2通りの申告方法があり、確定申告は、どちらか一方しか選択できません。
2.「総合課税方式」とは
株式取引ににかかる税金については、
「給与や年金所得が低いのに、株取引による利益や配当への20%課税は高すぎる。 売買で得た利益に対する20%(住民税5%含む)はやむを得ないとしても、配当所得に課せられた20%税率(住民税5%含む)については総所得に見合った税率あるいは税額であってほしい」
と思われる方は多いのではないでしょうか?
こういう願いに適うのが、「総合課税方式」です。
「総合課税方式」とは、配当所得を給与所得等に合算し総所得に見合う給与等に関わる所得税率(累進5〜55%)を適用し、「配当控除」を税額控除するという仕組みです。
※もともと配当は、企業が法人税を納めた後の原資であるため、配当で個人に取得税をかけるのは二重課税ともなっています。
このため、配当を所得として給与等に合算し、所得水準に見合う所得税率(累進課税)を適用する代わりに、「配当控除」により二重課税を避けるという主旨があります。
以上より、株運用に伴う確定申告での「総合課税方式」とは、以下のように整理できます。
1)総合課税方式は株取引の損益には触れず、配当を給与等所得と見做し所得税率を適用し「配当控除」を受ける仕組み
つまり、「年間の株取引で大きな利益がでた」、あるいは、「損益通算による還付金メリットよりも総額課税方式によるメリットの方が大きい」等の場合、に利用できる仕組みが、「総合課税方式」です。
2)税額の計算方法
配当を「配当所得」として「給与等の所得」と合算した上で、社会保険料や基礎控除等の「所得控除」を差し引いた金額(「課税所得」という)に、その「課税所得」水準に該当する「累進所得税率」を乗じて「所得税額」(「確定前の所得税」という)を算出します。
その「確定前の所得税」から「配当控除(配当の10.00%の金額)」が「税額控除」され実負担となる「確定所得税」が算定されます。
算式(イ→ロ)
イ. {(給与等の所得+配当所得)- 社会保険等の所得控除}×累進所得税率=確定前の所得税 ロ. 確定前の所得税 - 配当控除(配当金額の10%分)=確定所得税 |
なお、総合課税方式のしくみや給与所得によるメリットの違い、具体的数字を使った事例等については後述します。
3)総合課税方式では住民税への影響に留意が必要
確定申告で総合課税を選択した場合、そのままだと住民税で不利益が生じる場合があります。
住民税にも「配当控除制度」があり、住民税も「総合課税方式」が適用されると、配当の「0.28%」が「配当控除」となり、実際に配当受け取り時に納めた「5%」よりも低い控除しか受けられなくなる不利益が生じます。
従って、住民税で不利益も考慮して総合課税の選択を決定する必要があります。
3.「分離課税方式」とは
1)分離課税方式は、給与所得や配当控除に関わりなく、株取引損益や配当収入に絞った申告で、「損益通算」や「繰越控除との相殺」などの利益圧縮で節税が図れる仕組み
つまり、「年間の株取引の損益結果、配当を含めても大きなマイナス(赤字)だった」、あるいは、「総額課税方式によるメリットよりも、損益通算による節税メリットの方が大きい」等の場合、配当を含む損益に限定して損益通算の利益圧縮で節税できる仕組みが「分離課税方式」です。
2)申告は、「今年度の損益と配当収入の結果」に基づいて、以下のような損益通算による利益圧縮効果を算出する
(1)「他の口座と損益通算して譲渡所得(含む配当所得)を下げる」
(2)「他の口座等で損益通算しても損が残る場合は、損を繰越して翌年以降の譲渡所得(含む配当所得)を下げる」
(3)「過去の繰越損と相殺して本年の譲渡所得(含む配当所得)を下げる」
なお、分離課税方式のしくみや取引状況によるメリットの違い、具体的数字を使った事例等については後述します。
4.総合課税方式と分離課税方式の対比
以上をまとめて対比表にすると次のようになる。
|
税軽減の方法 |
節税の仕組みと方式を選択する理由 |
総合課税方式 |
「累進所得税率」の適用と 「配当控除」による税額控除 |
◯株取引結果には一切触れず、配当を「給与等所得」に合算して所得税を算出した後、配当額の10.28%が「配当控除」として税額控除される。
選択理由:株取引で利益が出ていて、損益通算や繰越控除の必要がない場合、又は、所得税率と配当控除メリットの方が大きい場合。 |
分離課税方式 |
「損益通算」による利益圧縮 |
◯給与や年金その他の所得とは関わりなく、株取引で生じた損益による「損益通算」や「繰越控除等の相殺」等による利益圧縮で税が軽減される。
選択理由:配当控除メリットよりも損益通算メリットが大きい場合。 |
V.株等運用の状況に対応した確定申告の仕方
1.課税方式の選択は、株等の運用成績に絞るか、配当のみに絞るかで決まる
どちらの課税方式を選ぶかは、本年度の運用結果や過去の繰越控除の有無等に絞って申告するか、配当所得のみに絞って節税したいかの目的によって決まります。
目的(どうしたいか?) |
選ぶ課税方式 |
・一部の口座で損失があるため、税金を払っている別の口座と損益通算して別の口座の所得(利益、配当)を減らして還付を受けたい! |
分離課税 |
・利益(含む配当)を、過去の「繰越控除」で相殺して減らしたい! |
分離課税 |
・損益通算しても損が残るので損を繰越し、次年度以降の利益相殺に使いたい! |
分離課税 |
・どの口座にも損がなく、かつ過去の繰越控除もないので損益通算メリットが享受できない。この為、配当控除メリットを受けたい! |
総合課税 |
・計算結果から、分離課税よりも総合課税メリットの方が大きい |
総合課税 |
・計算結果から、配当控除よりも分離課税メリットの方が大きい |
分離課税 |
※分離課税でのメリットとは、損益通算などで利益(所得)を減らしたことによる減税メリットのことです。
2.総合課税方式は課税所得9百万円以下にメリット
「総合課税方式」は、「配当」を「給与等所得」と同取り扱いとし、給与水準に見合った累進所得税率を適用するため、単純に言うと、5%の所得税率の人であれば、配当にかかった15%(他に住民税5%)が5%で済むことになります。
そこに、さらに「配当控除」(配当の10%)が税額控除メリットが付加され大きな節税につながります。
従って、所得税率の低い人ほどメリットは高いものとなります。
1)「総合課税方式」の課税所得別のメリット表
では、実際に数字を使ってメリットを表してみます。
表で使われている各用語の意味は次の通りです。
・「課税所得」は、「給与等所得+配当所得」
・「所得税率」は、課税所得額(給与等所得+配当所得)に対応した累進課税
・「配当控除率」は、配当控除額の算定に用いられる率。1000万円までは10%、1800万円までは5%、1800万以上は0%を配当所得に乗じて配当控除額をだします。
・「実質負担率」は、所得税率が、配当控除率分で負担減になった実質負担率を表す
・「源泉徴収率」は、配当で源泉徴収された税率を表す
・「軽減税率」は、配当控除により源泉徴収された税率がいくら軽くなるかを示す率!
これらを、数式を使って、分解しますと、結局、配当には累進税率ー10%の税率でよいことになり、既に支払った15%の源泉徴収は、その分還付されることになります。
[課税所得別軽減税率メリット]
課税所得 所得‐所得控除 |
所得税率 累進税率 |
配当控除率 配当に乗じる |
実質負担税率 |
源泉徴収税率 既に徴収済み |
軽減税率 還付率 |
|
(A) |
(B) |
(C)=A-B |
(D) |
C−D |
195万円以下 |
5% |
▲10% |
0% |
15% |
▲15% |
330万円以下 |
10% |
▲10% |
0% |
15% |
▲15% |
695万円以下 |
20% |
▲10% |
10% |
15% |
▲5% |
900万円以下 |
23% |
▲10% |
13% |
15% |
▲2% |
1000万円以下 |
33% |
▲10% |
23% |
15% |
8%追徴 |
1800万円以下 |
33% |
▲5% |
28% |
15% |
13%追徴 |
※源泉徴収税率には復興特別所得税0.315%がありますが省略しました。
また、「配当控除額」は、住民税分を含めると配当所得の10.28%となりますが、ここは、所得税分のみです。
なお、投信等の元本取り崩しによる分配金の場合の「配当控除額」は、低くなります。
⇓
結 論:課税所得900万円以下で低所得ほどメリット大!
・給料や年金、その他所得等に配当を含めた「課税所得」が900万円以上の場合はメリットがないが、695万円以下の人にメリット(税軽減)が得られる。
・695万円以下でも、合算所得が低いほどメリットが大きく、かつ配当所得の比率が高いほどメリットが大きくなる。 |
結局、下表のように数式を紐解けば、「総合課税方式」で申告すれば、配当は、「累進税率ー10%」の税率でよいことになり、既に支払った15%の源泉徴収税は、その分が還付されることになります。
◯確定申告前の支払い税金 =(給与等所得)×累進税率+配当所得×15% |
◯総合課税後の税金額 =(給与等所得×累進税率A)+(配当所得×累進税率A)ー(配当所得×10%B)
ここで累進税率は、上表の「課税所得別軽減税率メリット表」からわかるように、所得に200万円以上の増加がなければ変動しないので、配当が加算されても累進税率は影響しません。
結局は、次の通りとなります。
(給与等所得×累進税率)+(配当所得×累進税率)ー(配当所得×10%B)
|
◯配当加算が税金に影響する部分は、次の式となります。
(配当所得×累進税率)ー(配当所得×10%B)
この式をまとめると配当所得×(累進税率ー10%)になり、結局、配当に掛かる税率は、「累進税率から配当控除率10%を差し引いた税率」で良いことになります
従って、配当受取り時に徴収された15%の所得税(他に5%の住民税)は、確定申告により、払い過ぎた分が還付されることになります。 |
2)「総合課税方式」による「還付金額」の算出事例
年収収入310万円と配当収入90万円の年金所得者の事例
年金収入が310万円、配当収入が90万円で、税金は、年金の所得税6.6万円、株式配当所得税13.8万円で合計20.4万円徴収されています。
なお、社会保険料控除額等所得控除額額は、130万円であった。(源泉徴収ありの特定口座) |
「還付金額の算出」
年金収入310万円は「年金所得190万円」となり、「配当所得90万円」と合せた「合計所得は280万円」となります。
ここから社会保険等の「所得控除額額」130万円を差し引くと、「課税所得」は、150万円(280∸130)となります。
所得税は、7.5万円(150万円×得税率5%)
ここから配当控除額9万円(配当90万円×配当控除率10%)が税額控除されます。
従って、「確定所得税」は、7.5万円ー9万円から「-2万円」となりますが、国から税金を徴収するわけにはいかないので「0円」となり、つまり税の納入は不要となります。
これらの結果、源泉徴収された所得税「20.4万円」が「0」で良いことになるので「20.4万円」の還付金を受けることになります。 |
これを表を使って表すと下表のようになります。(金額の単位 万円)
|
収入 |
所得 |
所得控除 |
課税所得 |
税率 |
確定課税額 |
配当控除額 |
申告課税額 |
源泉徴収税額 |
還付金 |
年金 |
310 |
190 |
130 |
60 |
5.0% |
|
|
|
6.6 |
|
配当 |
90 |
90 |
|
90 |
15.3% |
|
|
|
13.784 |
|
合計 |
400 |
@ 280 |
A 130 |
B 150 |
C 5.0% |
D 7.5 |
E 9.0 |
F -1.5 |
G 20.384 |
H 20.384 |
[表の説明]
年金と配当所得の合計280万円(@)から所得控除130万円(A)を差し引いて課税所得150万円(B)を求め、所得税率(課税所得額ランク別T表)の5%(C)を乗じて課税額7.5万円(D)を確定します。
そして、この税額から配当控除額(配当90万円×10%=E9万円)を税額控除し申告する課税額(F‐1.5万円)が確定します。
ここでは「‐1.5万円」となっていますが、税金を徴収するわけにはいきませんので「0」とカウントされます。
そして「税金が0でいいにも関わらず源泉徴収された所得税が、年金分と配当分合わせて「G20.384万円」ありますので、これが還付の対象となり「H還付金20万円」が還付されます。」
3)「総合課税方式」による確定申告の場合は住民税への影響を考える必要がある!
○注意!住民税でも総合課税方式で配当控除を受けると負担増に繋がる可能性が大になります。
下表の通り、住民税率は「10%」であることから、住民税の配当控除「2.8%」の適用を受けても、実質「7.2%」の税率となり、配当で源泉徴収された「5%」よりかえって負担増となります。
[U表 住民税:課税所得額ランク別に見た配当控除の減税効果]
課税所得金額 |
住民税率 |
配当控除率 |
実質の負担税率 |
源泉徴収税率 |
税軽減効果 |
(A) |
(B) |
(C)=A-B |
(D) |
C−D |
1000万円以下 |
10% |
2.8% |
7.2% |
5% |
2.2%追徴 |
さらに、配当込みの課税所得が、次年度の住民税算定基礎(所得割)に適用され負担増になります。(住民税は昨年度の所得を基礎にするため)
その上、住民税の課税所得を基準とする国民健康保険料、介護保険料、児童手当等の負担増にも繋がりかねません。
従って、確定申告で「総合課税方式」を選択し何もしなければ、住民税では、確定申告の内容がそのまま適用されます。
先程の事例で住民税でも総合課税だと下表のようになります。
(金額の単位 万円)
|
収入 |
所得 |
所得控除 |
課税対象所得 |
税率 |
確定課税額 |
配当控除額 |
申告課税額 |
源泉徴収税額 |
追徴金 |
年金 |
310 |
190 |
117 |
73 |
10.0% |
|
|
|
7.3 |
|
配当 |
90 |
90 |
|
90 |
5.0% |
|
|
|
4.5 |
|
合計 |
400 |
@ 280 |
A 117 |
B 163 |
C 10.0% |
D 16.3 |
E 2.5 |
F 13.8 |
G 11.8 |
H 2.0 |
年金と配当所得の合計280万円(@)から、所得控除117万円(A)を差し引いて課税対象所得163万円(B)を求め、住民税率の10%(C)を乗じて課税額16.3万円(D)を確定します。
この税額から配当控除額2.5万円(E配当90万円×2.8%)を税額控除し、申告する課税額13.8万円(F)が確定します。
しかし、源泉徴収された住民税が、年金分と配当分合わせて11.8万円(G)なので、申告の課税額13.8万円(F)に対し2.0万円(H)の不足が生じ、追徴されることになります。
3.「分離課税方式」は、損が大きいほどメリットが大きい
分離課税方式は、配当控除には一切触れず、又、給与や年金その他の所得とは関わりなく、株式等の譲渡所得や配当に限定し、売買で生じた損失を活用して「損益通算や繰越控除」等により税軽減を図ることができる仕組みです。
分離課税方式では、当然ですが、譲渡所得や譲渡損失、配当所得の大きさによって還付金の大きさが変わりますので、損や益がが出たから分離課税が有利だとは一概に言えません。
あくまでも両方式を試算した上で、かつ、住民税などへの影響も踏まえて判断されることをことが必要です。
1)損や繰越控除が大きいほど税軽減(還付)効果が大きい!
分離課税方式では、一つの口座で損が大きく出た場合や、過去の繰越控除(損の繰越)額が大きいほど、利益と相殺できる額が大きくなる為、節税メリットが大きくなります。
損が大きすぎて相殺できる利益が足りなければ、損を繰越し翌年以降の利益を相殺できる権利が得られます。
従って、損が大きければ大きいほど、分離課税選択のメリットは大きいと言えます。
2)株式運用の状況別に「分離課税方式」による節税効果の算出事例
数字の大きさにより税軽減効果がどう変わるか、総合課税方式と比較できるように表にしました。
簡単にいうと、損益通算や相殺によって得られる税軽減額は、「損×15.315%」となります。(もちろん損失額以上に益(含む配当)があることが必要です)
なお、総合課税方式との比較は、前述した年金者モデル(年金収入が310万円、配当収入が90万円)の「所得税の還付金20万円」との対比でみます。
@「損が出たので別口座の益と損益通算して税を軽減したい」
複数の「源泉徴収ありの特定口座」を持っていて、一部口座で損(配当を含めても)となったので、益となった別口座と「損益通算」して税還付を受けるのが目的です。
この場合、あくまでも損に見合う口座を選んでその口座の益を減らせば良いので、すべての口座を取り上げる必要はありませんので、ご注意!
◯2つ証券会社(A社、B社)で特定口座を持っていて、それぞれの口座の年間取引結果が下記のケースを想定。
口座名 |
損益と配当収入及び支払った所得税合計額 |
A口座 |
利益400万円と配当45万円で益合計445万円、源泉徴収税68万円 |
B口座 |
損失300万円と配当45万円で損合計255万円、源泉徴収は 0円 |
⇓
A口座では、所得合計が445万円(400+45)で所得税68万円が源泉徴収されている。
B口座では、損合計が-255万円(-300+45)で所得税は0で納めていない。
この二つの口座を合計して損益通算すると、A口座とB口座を合わせた所得合計は190万円(245-55)であり、これに株取引所得税15.32%を乗じると29万円となります。
従って、実際に負担すべき所得税が29万円でいいにもかかわらず既に68万円を納付しているので、39万円(68−29)が軽減され還付されることになります。
|
ここでは、損失を超える利益(含む配当)がある場合を想定しましたが、利益が足りなければ損は翌年以降にこち越せます。(「繰越控除」)
A「益となったので過去の繰越損と相殺して税を軽減したい」
過去の確定申告で繰越控除(3年間を限度として損を繰り越せる制度)の申告をしている場合に、本年度の利益(含む配当)と相殺して、本年度の利益を圧縮して税の還付が受けられます。
あくまでも繰越損に見合う口座を選んでその口座の益を減らせば良いので、すべての口座を取り上げる必要はありません。
<事例>
本年度収益は、利益400万円と配当90万円の合計が490万円となり所得税75万円が源泉徴収されている。
繰越控除には有効分(3年以内)110万円があるので、これと損益通算すると、本年の収益は、380万円(490−110)に圧縮でき、これに本来の所得税率15.32%を乗じると納めるべき税金は、58万円でいいことになる。
従って、既に源泉徴収された75万円から17万円(75−58)が税軽減分として還付されることになります。
|
➂「繰越控除や損益通算しても損が残ったので、損を繰越したい」
シミレーションは省略します。
3)住民税への影響を勘案した対策が必要
なお、確定申告を分離課税方式で申告し、そのままにしておくと、株に掛けられた住民税5%分の還付も受けられます。
しかし、次年度の住民税の算定基礎に、損益通算後の株式所得(譲渡損益+配当)が含まれるので、益が大きく残ると住民税の負担が大きくなる可能性があるので注意が必要です。
くれぐれも、口座間で損益通算する場合は、益が大きく残らないよう益の小さい口座との損益通算に限定して申告しましょう。
結局は、住民税については、還付金の大きさと住民税等への負担増の大きさ等の比較から判断しなければならないところがあります。
W.最後に
その年の株式取引の売買損益と配当の状況、及び過去の繰越控除のあるなしによって、分離課税方式あるいは総合課税方式の選択によって、株式取引での高い税金を節税することができます。
従って、株式投資をされる方は、毎年の確定申告を大いに活用されることをおすすめします。
最後までお読みいただきありがとうございました。
ーーーーーー 完 ーーーーーー
関連記事