2018年03月15日
さびつくショーケース 戦略特区、新規改革ゼロ
さびつくショーケース 戦略特区、新規改革ゼロ
霞が関2018
政策研究 コラム(経済・政治) 2018/3/15 6:30日本経済新聞 電子版
安倍政権の規制改革の先兵として注目されてきた国家戦略特区の改革議論が頓挫している。9日の国家戦略特区諮問会議で今の国会に提出する国家戦略特区法改正案を了承したが、新規の改革案件はゼロ。学校法人加計学園の問題への対応に事務方が忙殺された面もあるが、かつて安倍晋三首相が海外投資家らに誇った「規制改革のショーケース」は急速にさびついている。
■業を煮やす民間議員
国家戦略特区諮問会議の民間議員たちは、改革の行方を心配している(9日午後、首相官邸)
特区法改正案の柱は、規制を凍結して実証実験を促すサンドボックスの制度設計だ。自動運転、ドローン飛行、電波利用の3分野で認める。自動車大手がしのぎを削る自動運転技術の開発など、次世代技術の実用化を後押しするうえで欠かせない規制緩和だ。
ただ、サンドボックス導入の方針は昨年6月の未来投資戦略に明記していた。昨年9月に施行した改正特区法にも「具体的な方策を1年以内に検討・措置する」とある。大まかな設計はすでにあり、新規の目玉とは言えない。今回の法改正はサンドボックスのみだ。
「改革ゼロの状態が続いている」。停滞に業を煮やしたのが八田達夫・大阪大名誉教授や竹中平蔵・東洋大教授ら特区諮問会議の民間議員だ。9日の会議では「緊急提言」をたたきつけた。
批判の矛先は内閣府の特区事務局に向けられた。昨年9月以降に開いた諮問会議は3回のみ。それまでの3年間は同じ期間で年6〜7回開いていたのと比べると議論する機会が減り、「新規の改革実現のメドが立っていない」と訴えた。ある民間議員は首相の面前で「(新たな)成果を出そうという人が行政組織の中にいない」と批判した。
改革の目玉を仕込む議論の場が減っただけではない。法改正で認めた規制改革メニューを実際に特区自治体で解禁する認定プロセスも遅れが目立つとの批判もある。
9日の会議では新潟市、愛知県、京都府の3カ所で外国人就農を解禁することを認めた。昨年9月の法改正から半年近くたっての認定だ。国家戦略特区での外国人活用では家事代行サービスでの受け入れという先例がある。これは2015年9月に改正法が施行し、同年12月には第1陣の神奈川県での解禁が認定された。
■追加指定も見通せず
当初、17年中を目指した特区の追加指定も見通せていない。昨年は加計学園問題が尾を引き、秋の衆院選で指定に向けた本格的な作業に着手できなかった面はある。政府が17年10〜12月に新たな改革メニューを受け付けたところ、27の自治体が農業や保育分野での外国人活用を提案するなど意欲的な自治体は多い。内閣府には「正直に言って、誰が見ても(追加指定に)当確という提案はまだない」との声もあるが、規制改革の推進役であるはずの内閣府は「提案が当確案件になるまで迅速に育て上げる責務がある」(特区関係者)。
15分限りで終わった9日の会議。首相は終わりがけに「今後とも民間議員のお力も借りながらスピード感を持って、国家戦略特区を活用した規制改革に一層力強く取り組んでいく」と強調し、批判をぶつけた民間議員に理解を示した。
特区による規制改革の集中改革強化期間は17年度末で期限を迎える。新年度からもう一段のギアチェンジをして岩盤規制改革の取り組みを再始動させられるか。できなければ、さびついた「ショーケース」に売り物はなくなり、アベノミクスへの関心を弱めることになりかねない。(川手伊織)
霞が関2018
政策研究 コラム(経済・政治) 2018/3/15 6:30日本経済新聞 電子版
安倍政権の規制改革の先兵として注目されてきた国家戦略特区の改革議論が頓挫している。9日の国家戦略特区諮問会議で今の国会に提出する国家戦略特区法改正案を了承したが、新規の改革案件はゼロ。学校法人加計学園の問題への対応に事務方が忙殺された面もあるが、かつて安倍晋三首相が海外投資家らに誇った「規制改革のショーケース」は急速にさびついている。
■業を煮やす民間議員
国家戦略特区諮問会議の民間議員たちは、改革の行方を心配している(9日午後、首相官邸)
特区法改正案の柱は、規制を凍結して実証実験を促すサンドボックスの制度設計だ。自動運転、ドローン飛行、電波利用の3分野で認める。自動車大手がしのぎを削る自動運転技術の開発など、次世代技術の実用化を後押しするうえで欠かせない規制緩和だ。
ただ、サンドボックス導入の方針は昨年6月の未来投資戦略に明記していた。昨年9月に施行した改正特区法にも「具体的な方策を1年以内に検討・措置する」とある。大まかな設計はすでにあり、新規の目玉とは言えない。今回の法改正はサンドボックスのみだ。
「改革ゼロの状態が続いている」。停滞に業を煮やしたのが八田達夫・大阪大名誉教授や竹中平蔵・東洋大教授ら特区諮問会議の民間議員だ。9日の会議では「緊急提言」をたたきつけた。
批判の矛先は内閣府の特区事務局に向けられた。昨年9月以降に開いた諮問会議は3回のみ。それまでの3年間は同じ期間で年6〜7回開いていたのと比べると議論する機会が減り、「新規の改革実現のメドが立っていない」と訴えた。ある民間議員は首相の面前で「(新たな)成果を出そうという人が行政組織の中にいない」と批判した。
改革の目玉を仕込む議論の場が減っただけではない。法改正で認めた規制改革メニューを実際に特区自治体で解禁する認定プロセスも遅れが目立つとの批判もある。
9日の会議では新潟市、愛知県、京都府の3カ所で外国人就農を解禁することを認めた。昨年9月の法改正から半年近くたっての認定だ。国家戦略特区での外国人活用では家事代行サービスでの受け入れという先例がある。これは2015年9月に改正法が施行し、同年12月には第1陣の神奈川県での解禁が認定された。
■追加指定も見通せず
当初、17年中を目指した特区の追加指定も見通せていない。昨年は加計学園問題が尾を引き、秋の衆院選で指定に向けた本格的な作業に着手できなかった面はある。政府が17年10〜12月に新たな改革メニューを受け付けたところ、27の自治体が農業や保育分野での外国人活用を提案するなど意欲的な自治体は多い。内閣府には「正直に言って、誰が見ても(追加指定に)当確という提案はまだない」との声もあるが、規制改革の推進役であるはずの内閣府は「提案が当確案件になるまで迅速に育て上げる責務がある」(特区関係者)。
15分限りで終わった9日の会議。首相は終わりがけに「今後とも民間議員のお力も借りながらスピード感を持って、国家戦略特区を活用した規制改革に一層力強く取り組んでいく」と強調し、批判をぶつけた民間議員に理解を示した。
特区による規制改革の集中改革強化期間は17年度末で期限を迎える。新年度からもう一段のギアチェンジをして岩盤規制改革の取り組みを再始動させられるか。できなければ、さびついた「ショーケース」に売り物はなくなり、アベノミクスへの関心を弱めることになりかねない。(川手伊織)
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