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2023年05月25日
私だけの特捜最前線→84「殺人トリックの女!〜白川由美さんゲスト出演も夫婦共演せず」
※このコラムはネタバレがあります。
今回は第350回記念作品「殺人トリックの女!」をご紹介します。このドラマは何といっても、ゲストに二谷英明さんの妻である白川由美さんが登場したのが全てだと言い切ってもいいでしょう。
白川さんは東宝のスター女優として活躍中、当時日活のスターだった二谷さんと結婚。二人はおしどり夫婦として評判だったそうです。娘は、女優から実業家に転身した二谷友里恵さん。
二谷英明さんの看板ドラマだった特捜最前線で、白川さんがゲスト出演するというのは大きなトピックスだったでしょう。白川さんは法歯学者の冷泉教授役として出演しています。
裏の裏をかいた巧妙なトリック
荒川で男性の遺体が発見されます。自殺か他殺か不明でしたが、男性の衣服にヘロインが縫い付けられていたことから、麻薬組織に関係がある人物とみて特命課が捜査に乗り出しました。
現場検証にやって来たのが、神代課長(二谷英明)と因縁浅からぬ法歯学者の冷泉教授(白川由美)。冷泉教授の洞察力や分析力は確かなものがありますが、なぜか特命課を目の敵にしているのです。
冷泉教授によって、被害者は多摩川で殺害された疑いがあることがわかり、被害者も特定されます。さらに歯の治療痕の捜査によって、歯科大学病院の男性助教授が容疑者として浮上しました。
ところが、神代課長の指摘によって「女の仕業と見せかけた男」の裏をかいた「女の犯行」だと見破ります。そして、新たに容疑者として浮かび上がったのが、次期教授争いをしていた女性助教授だったのです。
冷泉教授によってトリックを次々と暴かれていく女性助教授。そして決定的な物的証拠を突きつけられ、ついに自白に追い込まれます。女性助教授は「男に負けたくなかった」とつぶやくのでした。
神代課長VS冷泉教授のバトル
このドラマは、長坂秀佳氏脚本の真骨頂とも言えるトリックに次ぐトリックの連続で、正直なところ、最初に見た時は冷泉教授のトリック破りを理解するのに苦労したほどです(苦笑)
それ以上に見どころだったのは、神代課長VS冷泉教授のバトルです。実はこのドラマで二人は直接共演していません。電話を通じたやり取りが一度だけあったきりです。
物証を積み重ねながら、犯人像を絞り上げていく冷泉教授。その結果「男性助教授が犯人ではないか」という結論を導き出します。ところが神代課長は「メモ書き」という形で冷泉教授に忠告するのです。
「策士策に溺れ、知将知に溺れる」「犯人に法医学知識あり」「ヘロインの意味は何か」。とくに、冷泉教授が見落としていたヘロインの謎を解いていく過程で、女性助教授の犯行が立証できたのでした。
今回は直接対決がありませんでしたが、第419回「女医が挑んだ殺人ミステリー!」では、神代VS冷泉が見られます。すなわち、おしどり夫婦の共演というわけです。いつかご紹介したいと思っています。
冷泉教授に対抗する吉野と紅林
別なお楽しみとして、冷泉教授と特命課員との対決シーンも見逃せません。とくに吉野刑事(誠直也)と紅林刑事(横光克彦)は、かなりの対抗意識を燃やしていました。
吉野刑事は現場検証の場で早くも衝突。検視結果報告の場では、自殺と決めつける吉野に対し、「自殺だとしたら、ずいぶん難しい死に方をしたものですねえ」と冷静に論破されてしまいます。
捜査で冷泉教授とコンビを組まされた吉野は、神代課長を敵視する冷泉教授に対し、「うちの課長は男です」と擁護する熱弁を振るいますが、冷泉教授はサラリと聞き流してしまうのでした。
紅林刑事は冷泉教授に「理詰めで皮肉っぽい口」をききます。しかし、ヘリコプターを操縦させられた挙句、「ただ乗ってみたかっただけ」と軽くあしらわれてしまいます。
単純で一本気な吉野は、冷泉教授の人間性にひかれていきますが、紅林の方は「法歯学だか何だか知らないが・・・」などと、なかなか認めようとしません。このあたりの二人の対比もなかなか面白いですね。
ちなみにおやっさん(船村刑事、大滝秀治)と橘刑事(本郷功次郎)は、触らぬ神に祟りなしという姿勢に終始しています。これは「年の功」とでも言うべきサラリーマンの知恵なのでしょうか(笑)
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2023年05月18日
私だけの特捜最前線→83「パパの名は吉野竜次!〜子役が人間味あふれる吉野をサポート」
※このコラムはネタバレがあります。
今回はタイトルでも分かるように、吉野刑事(誠直也)主演の「パパの名は吉野竜次!」をご紹介します。と言っても、本当の主役は竜太役で出演した子役(岩淵健)だと思っています(笑)
吉野を「パパ」と慕う子供
高速道路で6歳の男の子が保護されました。彼が父親を吉野竜次だと話したことから、特命課に届けられてきます。そして、身に覚えがなく面食らう吉野刑事に「パパぁ」と抱きつくのです。
調べたところ、男と一緒にいる母親から「吉野のところへ行け」と放り出されたことが分かりました。さらに子供には長い間虐待を受けたと思われる傷が全身にあったのです。
男が手配中の暴行犯と分かり、吉野は子供に母親のことを問い詰めます。子供は吉野を父親だと思っていましたが、吉野が「俺は君の父親じゃない」と叱り飛ばすと、ついに母親の名前と住所を告白したのです。
翌朝、子供は吉野の家から姿を消します。そして母親は、吉野が所轄署に居た時、コインロッカーに生まれたばかりの赤ちゃんを捨てようとした当時16歳の少女だったことも分かりました。
吉野は、子供を捨てて男と逃げた母親を許せず、神代課長(二谷英明)に「俺が育てます」と宣言します。しかし、子供と母親が再会し、親子の絆の深さを見せつけられた吉野は、寂し気な思いで見守ったのでした。
吉野の人間的な魅力が随所に
この回は、誠直也さん演じる吉野刑事の人間ドラマと言い切っていいほど、吉野がクローズアップされています。DVDシリーズでは、吉野主演作は数少ないのですが、そのなかでもこの作品は名作と言っていいでしょう。
ドラマの前半は、父親にされて面食らいながらも、子供の面倒を一生懸命見ようとする吉野のコミカルさが見られます。しかし、事実が徐々に分かってくると、次第にシリアスに変わっていきます。
吉野は母親である少女と出会った時、彼女に「神様は必ず見ているし、助けてくれる。この子は君以外に頼れる人間はいない」と諭し、父親が誰だか分からなくても、子供を育てるように促していました。
その少女の存在を完全に忘れていた吉野は「俺が言った言葉は恥ずかしい」と忘れていたことを猛省します。一緒にいたおやっさん(大滝秀治)は「忘れない人間などいない」と慰めるのです。
女が「あの子はロッカーで死ぬはずだったんだ」とうそぶいていたことを聞き、怒りに震える吉野。そして嫌がる女を無理やり引きずって、子供が入院している病院に連れて行く吉野・・・
吉野刑事は一本気で直線的な描かれ方をされがちですが、この作品では心根の優しいナイーブな一面も見せてくれます。脚本は竹山洋氏が手掛けていますが、竹山氏はのちに吉野刑事殉職編も書いています。
それから、何といっても子役の岩淵健さんの演技が素晴らしく、ドラマを盛り立ててくれています。とくに、母親を最後までかばい続ける場面は、涙なしには見られないでしょう。
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2023年05月11日
特捜最前線 登場人物コラム「特命課・桜井警部補」
今週は、ドラマ解説ではなく、ちょっとした小話を書きます。題して「登場人物コラム」。
登場するのは、特命課の桜井警部補です。
桜井警部補は、番組スタート時からのレギュラーメンバーの一人で、最初の頃は「警部」の肩書だった超エリートでした。演じたのは藤岡弘、さんです。
初期の桜井は、神代課長(二谷英明)に次ぐナンバー2の立場にあり、ドラマの演出では他のメンバーとは一線を画し、神代と並ぶ二枚看板的な感じで扱われていました。
藤岡さんが他のドラマに出演するため、番組を離れることになり、ドラマ上では「外国に逃亡した麻薬密売組織を追うため、アメリカに派遣される」という設定がされたのです。
そして1年後、桜井は「ニューヨーク市警から追放されたダーティーな刑事」として帰国するというセンセーショナルな再登場を果たします。その破天荒で自分勝手な行動ゆえに、特命課への復帰も「警部の身分はく奪」という異例の形でした。
特命課ですでにナンバー2の座にいた橘警部(本郷功次郎)とは、ギクシャクした関係がしばらく続きましたが、桜井は徐々に橘の実力を認めていき、神代の両腕として活躍することになります。
桜井のキャラクターは、鋭い推理力と素早い行動力で事件解明に導く天才肌の刑事で、それが時には単独行動につながっていくこともありました。
印象的なエピソードとして、「サラ金ジャック・射殺犯桜井刑事!」を挙げます。問答無用で犯人を射殺した疑いをかけられた桜井が、査問にかけられる話です。
私だけの特捜最前線→17「サラ金ジャック・射殺犯桜井刑事!〜真相究明を拒む桜井の真意は?」
桜井は、人質になった女性の名誉と尊厳を守るため、あえて自分が泥をかぶりました。その真相を橘ら特命課の刑事たちが突き止めていく・・・見事なドラマでした。
個人的には、桜井は「プロフェッショナルに徹した刑事」という印象を持っています。上司や同僚としては、とても頼もしい存在なのですが、プライベートな面ではやや近づきがたい感じかな(笑)
今回のコラムはここまでといたします。
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2023年05月04日
私だけの特捜最前線→82「少年はなぜ母を殺したか!〜舞台は裁判所の法廷内だけという斬新な演出のドラマ」
※このコラムはネタバレがあります。
今回は後期の異色作ともいえる「少年はなぜ母を殺したか!」を紹介します。なぜ異色かと言うと、最初から最後まで裁判所の法廷でドラマが展開するという斬新な演出だったからです。
被告人は有罪か無罪か。法廷で繰り広げられる検察側と弁護側の対決に、神代課長(二谷英明)ら特命課の面々をどうやってかかわらせるのか。脚本の長坂秀佳氏の腕の見せどころでもあります。
被告人は有罪か、無罪か
被告人は21歳の男性。女性検事(関弘子)による冒頭陳述は「被告人はマリファナや野球賭博に狂い、それを見とがめた母親といさかいになって殺してしまった」とし、被告人も起訴事実を認めています。
法廷に神代課長ら特命課のメンバーが入場します。裁判では出番なしのはずなのに、なぜでしょう。その答えは、女性弁護人(山口果林)が「被告人は無罪」と言い切ったことにありました。
特命課は、被告人の供述と実際の行動との間におかしな点があるとして、検察から再調査却下を言い渡されたのにもかかわらず、独自に捜査を始め、被告人にはアリバイがあることを突き止めていました。
おやっさん(船村刑事、大滝秀治)らが弁護側証人となって、捜査で得た矛盾点を語っていくのですが、女性検事は反対尋問でことごとく退けます。そして、論告求刑で「無期懲役」と断言したのです。
ところが最終弁論で、特別弁護人として神代と叶刑事(夏夕介)が加わり、新たな証人に立った桜井刑事(藤岡弘、)と橘刑事(本郷功次郎)によって、衝撃の事実が突き付けられたのです。
桜井と橘の捜査で、マリファナと野球賭博に狂っていたのが実は母親のほうだったと判明。だが、被告人は涙を流しながら「違う」と反発します。なぜか・・・実は、真犯人は父親(石濱朗)だったのです。
母親の真実が暴かれた家族は
このドラマは、裁判所の法廷だけで1話完結するという斬新な演出に目がいってしまいがちですが、被告人と父親、母親、妹や弟をめぐる家族愛の部分がとても印象的なストーリーになっています。
母親の乱行を知っていた被告人は、そのことを父親にも妹弟にも隠し通そうとします。事実を知って怒りのままに母親(妻)を殺してしまった父親の罪までも一身にかぶろうとしたのです。
ラストシーンで証言台に立った父親が犯行を自白したことで、すべてが明らかになってしまいます。父親は、被告人がなぜ身代わりになったのかを独白していくのです。
被告人は「母が悪人としてさらされるのは耐えられない。あんな母でも、自分にとって優しい、女神のような母さんだった。母の名誉を守るために罪をかぶる」と、父親に告げたそうです。
それは同時に、心臓に病気を持つ父親が収監されることには耐えられないだろうという気遣い、同じように母を慕う妹弟に真実を知られたくないという思いが混ざり合ったものでもありました。
被告人が無罪となっても、誰一人として喜ぶ者はいません。家族たちは当然ですが、女性弁護士も、特命課の面々も同じです。ゆえに、今回のドラマも超激辛のラストで終わってしまいました。
特命課を「弁護側」にした演出
もう一つの見どころは、警察機構にある特命課が「弁護側」に立って、被告人の無罪を証明した点にあります。検察側で犯罪を立証する展開よりも、かなりハードルが高い展開だと思われます。
特命課を積極的に裁判にかかわらせるため、弁護士資格の無い者が被告人の弁護活動をできる「特別弁護人」という仕組みを使っています。これは刑事訴訟法に規定されており、神代の切り札でもありました。
検察が起訴に持ち込んだ犯罪を、あえて独自の再捜査に踏み切った理由として、証人尋問に立った紅林刑事(横光克彦)は「組織としてより、人間としての道を取るという神代の方針だ」と言い切っています。
ストーリー解説で書いたように、事件の真相を知って利を得る者は誰もいません。しかし特命課は「真実を追及することこそ、刑事の務め」という原点を守り、供述の矛盾を突き崩すことにしたのです。
極論かもしれませんが、初動捜査をした所轄署や検察が、被疑者の自白ばかりを優先させたがゆえに「一つ間違えれば冤罪を生み出しかねない事態に陥っていた」ということを言いたかったのではないでしょうか。
弁護士役の山口果林さんは、特捜最前線では他の作品にも同じ役柄で出演しています。関弘子さんの眼光鋭い検事役がドラマを引き締めてくれましたし、父親役の石濱朗さんの独白シーンも素晴らしかったです。
なお、ドラマが法廷だけを舞台としていたため、母親役はキャスティングされていません。女優によっては先入観を持たれてしまう可能性もあったので、この点でも見事な演出と言えるでしょうね。
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