2023年07月27日
私だけの特捜最前線→91「父と子のブルートレイン!〜橘刑事の親子関係を軸に複数のストーリーを織り交ぜた傑作」
※このコラムはネタバレがあります。
今回紹介する「父と子のブルートレイン!」は、橘刑事(本郷功次郎)と息子(鹿股裕司)のドラマが軸になった話ですが、複数のストーリーを織り交ぜながら様々な「親子」の形を描いています。
瀕死の運転手が守ろうとしたもの
大学受験に失敗し、予備校に通うために長崎から上京する息子・信一を東京駅で待つ橘刑事。ブルートレイン「さくら」号が到着しますが、信一は手前の横浜駅で降りてしまっていたのです。
同じころ、河川敷でタクシー運転手の他殺体が発見されます。運転手は瀕死の状態で人家と反対側にある河原に向かっていたのです。その理由は何か。橘は疑問に思いつつ、捜査を開始していきます。
タクシーの乗降客を捜査する中で、容疑者と思われる青年が捜査線上に浮かんできました。青年は運転手の息子で、7年前に運転手が家を飛び出して以来、青年は父親を憎んでいたようです。
その境遇を橘は自分と重ね合わせていました。信一も父親である自分を憎んでいるに違いない・・・でも父親である自分は子供のことを忘れたことはない。運転手もきっとそうだったのだろうと・・・
運転手が河原に向かった理由、それは刺された時に夢中でむしり取ったペンダントの主が息子だとわかり、自分を殺した犯人が息子だと知られないよう、川に投げ捨てるためだったのです。
青年にペンダントを突きつけながら「その時のオヤジの気持ちが、お前にわかるか」と語気を強める橘。父親が自分や母親を忘れたのではなかったと分かり、青年は嗚咽を漏らしたのでした。
橘の息子・信一が出会った人たち
事件に関するストーリーを紹介してきましたが、このドラマではもう一つ、信一の側に立ったストーリーも描かれていました。ちなみにこの作品の脚本は塙五郎氏が手掛けています。
信一が横浜駅で降りたのは、父親に会いたくなかったからでした。不良少女グループにカツアゲされ、キャッチセールスに騙されかけ、父親の橘宅では見知らぬ女が「妻」だと言っている・・・信一は散々な目に遭います。
キャッチセールスが実は運転手殺しの青年だというのは、いささか予定調和っぽくも感じましたが、クライマックスで橘が青年を説諭し、逮捕する瞬間を信一に見せるための演出だったのでしょう。
「不良少女も父親である有名歌手との確執を抱えている」という話も盛り込まれています。詳しいストーリーには触れませんが、少女も信一と同じような気持ちで父親を見ていたことを示唆しています。
不良少女は暴行され、瀕死の重傷を負います。娘が危篤だというのに、すぐに駆け付けて来なかった父親に対し、信一が「遅いじゃないか」と、思わず怒鳴りつけてしまうという場面もありました。
そして「妻」だと名乗った女ですが、彼女は悪い男に騙されそうになり、橘が面倒をみてやった女性でした。橘からスペアキーをもらい、「現金を持っていけ」と言われ、橘宅に居たのです。
作文を大事に持っていた橘の気持ち
事件解決後、信一は長崎へ帰るため再びブルートレインに乗ります。そこに女性が現れたのです。女性は橘が大切にしていた作文を持ち出していました。その作文は、信一が小学生時代に書いたものでした。
女性は、信一が橘の息子だとは知らずに作文を読み上げます。そして「きっと、毎日読んでいたんだろうね」とつぶやきます。それを聞いた信一の目からは涙がこぼれました。
運転手が息子の犯罪を隠し、かばおうとした思い・・・橘も父親としての同じ思いを秘めていたことを、信一は知ったのです。父親への憎しみが氷解しはじめる瞬間だったのでしょう。
橘が自宅に戻ってみると、一室でグラスを空けてうたた寝する信一の姿がありました。彼は東京で父親と一緒に暮らす決意をしていたのです。その傍らには、とっておきのブランデーが・・・
橘は信一を起こさないようにしてブランデーを手にします。心の中で「一人前になりやがって。お前と飲むために買っておいたんだぞ」と語りながら、ブランデーをラッパ飲みしたのでした。
橘に同行していた吉野刑事
さて、この作品でどうしても書いておきたいシーンがあります。それはドラマ冒頭の橘が息子を迎えるために来ていた東京駅の場面。ここに同行していたのが吉野刑事(誠直也)だったのです。
複雑な思いで息子を待つ橘に、吉野は「自分を捨てた父親を許したわけではない」と無遠慮に言い放ちます。が、続けて、それでも息子は父親に会いたがっているはずだとも付け加えました。
父と子が対面した時、「憎くて、懐かしくて、悲しくて、嬉しくて」と息子の気持ちを代弁し、「父親の顔をジッと見るんですよ」と言います。せっかくの熱弁も、橘はそっけなく聞き流すのですが(苦笑)
実は、このドラマが放送された半年後、今度は吉野と父親との親子確執のドラマ「東京犯罪ガイド!」が放送されたのです。これは次回のコラムで取り上げようかなと思っています。
吉野自身が、父親に対して複雑な感情を持っているからこそ、能弁なまでに父と子の情愛について語ったのかもしれません。脚本も同じ塙五郎氏が書いていますので、余計にそう思いたくなります。
なおドラマでは、中森明菜さんの「少女A」が効果音のように流れていましたし、橘も口ずさんでいます。懐かしさを感じると同時に、昭和のあの頃、自分は平凡な学生だったなと笑ってしまいました。
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