1.はじめに
以前の記事で,最近はいろんな国の珍しい植物の種子が,ネット等を通じて簡単に手に入るという,いい時代になったもんだと書いたが,その良い時代を上手く利用するために,多少知っておいた方がいいと思うことを,ちょっとまとめてみた
2.輸入種子の販売時の名称について
輸入種子を購入する場合,気をつけなくてはいけないのは,先進国のトップクラスのナーセリーなら信頼できるが,そうでないところではその植物の呼び名や販売名などに関して,かなり適当な面があり目的の植物とは違った種子を購入してしまうというリスクがある
これはナーセリーに悪気があるんじゃなくて,そのような国では同じ植物が別々な呼び名で流通していたり,違う植物が同じ呼び呼び名で販売されたりしていたりするという根本的な問題がある,国土が広いとそういうことが普通にあるし,使われている学名が間違ってるなんてこともある
3.輸入種子については学名も絶対ではない
そもそも学名というものは基本的に先につけられた名称が有効になり,後からつけられた名称は無効という決まりがある,その学名は唯一無二の存在でなければいけないのだが,実際はそう単純な話ではなく,様々な事情でsynonym (シノニム) 呼ばれる異名が存在する
これは複数の学名が指すものが本当に同一種なのかどうかといったことに関して,研究者によって分類学的な意見の相違があったり,また,どの学名を有効とするかに関しても,それぞれの命名経過とかいろいろな解釈があったりして,なかなか簡単には解決できない問題を含んでいる
4.輸入種子が違う学名で販売される例
例えばの話であるが,先日記事を書いたアロエ・バイネシー(Aloe bainesii)には,アロエ・バーベラエ(Aloe barberae)という異名がある,この手のマイナー植物は和名の無いものが多いので,そのまま学名で呼ばれたり販売されてることが多い
そのためAloe bainesiiの学名を使ってる国(地域)から種子を導入すると「アロエ・バイネシー」という名前で販売され,Aloe barberaeの学名を使ってる国(地域)から種子を導入すると「アロエ・バーベラエ」という名前で販売されるという状況が生じてしまう
5.輸入種子の生産地における混乱
とある大学の研究員の方が,そういう国に行って3年ほど現地の植物の分類に関する学術調査に協力した時の話を聞いたことがあるんだが,もう相手国のトップレベルの大学や研究機関においても,基本的な考え方がむちゃくちゃで対応が大変だったと言っていた
例えば新しく野生の赤い花が見つかったとする,やや離れた地域にそれより一回り小さく,色もちょっと薄い,その赤い花の変異種と思われる植物があったとする,で,現地の人にそれぞれこれはなんという花かと訪ねると,どちらも「それは◇◇◇という名前だ」と答える
研究所に帰ってそれを現地の同僚に話すと,「そうだよ,どっちも◇◇◇だよ」と答えが返ってくるわけ,「いやそういうコモンネームじゃなくて,あの2種はどう見たって違うものだからちゃんと同定して学名を決めて,変種のほうは変種として扱わないと」と言っても,相手には通じない
なんで日本人はそんなに些細なことにこだわるんだ,花の大きさが違おうが色が少々違おうが,み〜んなまとめて◇◇◇でいいんだよ,学名もまとめて1つでいいよ,ダレがそれで困るってんだい,日本人は細かすぎるんだよと,第一線の研究機関でさえ万事そういう調子,あとは推して知るべし
6.おわりに
というわけで珍奇な植物やレアな植物というのは,上記のような国から導入されてる物が多い,さらに商業的なあるいは経済的な面からは価値が低いと思われてるマイナー植物は,学術的な調査研究等がなされていないものが多く,こういうリスクが生じるのは現状ではどうしようもない
このようなリスクを避けたかったら自分の知識を磨くことで多少は回避できる,今は便利な世の中である,外国の文献とか論文とか,ネットでタダで見られる物も多いし,タダで翻訳もしてくれる,そういう点を謎解きしていくのも,この手の植物を育てる楽しさの1つかもしれない
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