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2019年08月17日
120歳時代ー健康寿命を延ばす道
120歳時代ー健康寿命を延ばす道
先進国の男性の平均寿命は、
80歳にわずかに届かない。
100歳まで生きられるのは
1万人中たったの2人で、
その大半は女性だ。
これまでで最も長生きした人は
フランス人女性の
カルマン(Jeanne Calment)
で、1997年に122歳で亡くなった。
下等生物を使った実験で、
細胞で栄養が不足すると
複数の有益なシグナル伝達経路
が作動することがわかった。
これらの経路は、
食料なしの期間を生き延びるために
進化したものだ。
老化を止めるスイッチ
1970年代、イースター島の土壌から
真菌の成長を止める物質が見つかり、
同島の現地名「ラパ・ヌイ」から
「ラパマイシン」と命名された。
成長や増殖などの細胞活動に
必要なある酵素を
ラパマイシンが阻害することが
後にわかった。
これらの細胞活動は最終的に
細胞の機能を劣化させるため、
細胞活動に必要な酵素を阻害すると
細胞が元気でいられる期間が長くなる。
この酵素は「ラパマイシンの標的機構
(mechanistic target of rapamycin)」
を略してmTORと呼ばれ、
老化スイッチのオン・オフを
切り替えることで
動物の寿命を延ばすと見られている。
2001年、南カリフォルニア大学の
生物学者ロンゴ
(Valter Longo)は、
実験で使っている酵母に
餌をやるのを忘れたまま週末に旅行に出た。
驚いたことに、しばらく完全な飢餓状態に置かれた
この酵母は通常よりも長生きした。
ロンゴは、その原因が
一連の生化学反応にあることを見出した。
この経路こそ
「ラパマイシンの標的機構(mTOR エムトア)」
で、細胞という小さな工場の電流遮断機となっている。
哺乳動物にも同じ経路が見つかっており、
mammalian target of rapamycinの略として
やはりmTOR エムトアと呼ばれる。
mTOR経路が活性化しているとき、
細胞という”工場”は着々と新しいタンパク質を
生産して成長し、やがて分裂する。
mTORがラパマイシン
あるいは一時的な飢餓などで
阻害されると、細胞の成長と分裂が遅くなり、
あるいは停止する。
ラパマイシンが移植臓器を守る免疫抑制剤として、
また最近ではがん治療薬として
効果があるのは、
それらの状態で問題になっている
細胞分裂の暴走を抑えるからだ。
ロンゴの研究から、
mTORが老化に果たしている
重要な役割が明らかになった。
栄養が少ないときは、
mTORが抑制され、
工場が効率のよいモードに切り替わる。
古いタンパク質をリサイクルして
新しいタンパク質を作り、
老廃物除去と修復を行う
細胞機構を強く働かせて
飢餓が終わるのをじっと待つ。
細胞分裂は遅くなる。
こうして動物は次の食事にありつくまで
うまく生き延びられる。
mTORは環境を感知し、
食料が豊富だと活性化する。
単純な生物の場合、
実に急速に成長し、分裂するようになる。
食料が豊富なときは、子孫を残す
のにもってこいなのだから、
mTOR経路が進化的に大成功を収め、
単細胞の酵母から
ヒトやクジラに至る多種多様な生物で
繰り返し使われてきたのも当然だ。
【引用文献】
B. ギフォード(Bill Gifford)サイエンスライター
別冊日経サイエンス 人体の不思議
日経サイエンス編集部 日経サイエンス社 2018年2月17日
先進国の男性の平均寿命は、
80歳にわずかに届かない。
100歳まで生きられるのは
1万人中たったの2人で、
その大半は女性だ。
これまでで最も長生きした人は
フランス人女性の
カルマン(Jeanne Calment)
で、1997年に122歳で亡くなった。
下等生物を使った実験で、
細胞で栄養が不足すると
複数の有益なシグナル伝達経路
が作動することがわかった。
これらの経路は、
食料なしの期間を生き延びるために
進化したものだ。
老化を止めるスイッチ
1970年代、イースター島の土壌から
真菌の成長を止める物質が見つかり、
同島の現地名「ラパ・ヌイ」から
「ラパマイシン」と命名された。
成長や増殖などの細胞活動に
必要なある酵素を
ラパマイシンが阻害することが
後にわかった。
これらの細胞活動は最終的に
細胞の機能を劣化させるため、
細胞活動に必要な酵素を阻害すると
細胞が元気でいられる期間が長くなる。
この酵素は「ラパマイシンの標的機構
(mechanistic target of rapamycin)」
を略してmTORと呼ばれ、
老化スイッチのオン・オフを
切り替えることで
動物の寿命を延ばすと見られている。
2001年、南カリフォルニア大学の
生物学者ロンゴ
(Valter Longo)は、
実験で使っている酵母に
餌をやるのを忘れたまま週末に旅行に出た。
驚いたことに、しばらく完全な飢餓状態に置かれた
この酵母は通常よりも長生きした。
ロンゴは、その原因が
一連の生化学反応にあることを見出した。
この経路こそ
「ラパマイシンの標的機構(mTOR エムトア)」
で、細胞という小さな工場の電流遮断機となっている。
哺乳動物にも同じ経路が見つかっており、
mammalian target of rapamycinの略として
やはりmTOR エムトアと呼ばれる。
mTOR経路が活性化しているとき、
細胞という”工場”は着々と新しいタンパク質を
生産して成長し、やがて分裂する。
mTORがラパマイシン
あるいは一時的な飢餓などで
阻害されると、細胞の成長と分裂が遅くなり、
あるいは停止する。
ラパマイシンが移植臓器を守る免疫抑制剤として、
また最近ではがん治療薬として
効果があるのは、
それらの状態で問題になっている
細胞分裂の暴走を抑えるからだ。
ロンゴの研究から、
mTORが老化に果たしている
重要な役割が明らかになった。
栄養が少ないときは、
mTORが抑制され、
工場が効率のよいモードに切り替わる。
古いタンパク質をリサイクルして
新しいタンパク質を作り、
老廃物除去と修復を行う
細胞機構を強く働かせて
飢餓が終わるのをじっと待つ。
細胞分裂は遅くなる。
こうして動物は次の食事にありつくまで
うまく生き延びられる。
mTORは環境を感知し、
食料が豊富だと活性化する。
単純な生物の場合、
実に急速に成長し、分裂するようになる。
食料が豊富なときは、子孫を残す
のにもってこいなのだから、
mTOR経路が進化的に大成功を収め、
単細胞の酵母から
ヒトやクジラに至る多種多様な生物で
繰り返し使われてきたのも当然だ。
【引用文献】
B. ギフォード(Bill Gifford)サイエンスライター
別冊日経サイエンス 人体の不思議
日経サイエンス編集部 日経サイエンス社 2018年2月17日