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2014年05月26日
あなた何かいい名をつけて下さい
産婦は用意してあった膳部や、包み金のようなものをいろいろ盆に載せて、産婆の前においた。
「はじめてのお子さんに男が出来たんだから、あなたは鼻が高い。」と、無愛想な産婆もお愛想笑いをして猪口に口をつけた。
 笹村は苦笑いをしていたが、時々子供を抱き取って、窓先の明るい方へ持ち出しなどした。赤子は時々鼠の子のような目をかすかに明いて、口を窄めていたが、顔が日によって変った。ひどく整った輪廓を見せることもあるし、その輪廓がすっかり頽れてしまうこともあった。

「目の辺があなたに似てますよ。だけどこの子はお父さんよりかいい児になりますよ。」
 お銀はその顔を覗き込みながら言った。
 七夜過ぎると、笹村は赤子を抱いて、そっと裏へ出て見た。そして板囲いのなかをあっちこっち歩いて見たり、杜松などの植わった廂合いの狭いところへ入って、青いものの影を見せたりした。赤子はぽっかり目を開いて口を動かしていた。目には木の影が青く映っていた。その顔を見ていると、笹村は淡い憐憫の情と哀愁とを禁じ得なかった。そしていつまでもそこにしゃがんでいた。
「早くやろうじゃないか。今のうちなら私生児にしなくても済む。」
 笹村は乳房を喞んでいる赤子の顔を見ながら、時々想い出したように母親の決心を促した。
「私育てますよ。あなたの厄介にならずに育てますよ。乳だってこんなにたくさんあるんですもの。」
 お銀は終いによそよそしいような口を利いたが、自分一人で育てて行けるだけの自信も決心もまだなかった。
 笹村はしばらく忘れていた仕事の方へ、また心が向いた。別れることについて、一日評議をしたあげく、晩方ふいと家を出て、下宿の方へ行って見た。夏の初めにお銀と一緒に、通りへ出て買って来た質素な柄の一枚しかないネルの単衣の、肩のあたりがもう日焼けのしたのが、体に厚ぼったく感ぜられて見すぼらしかった。
変形性膝関節症
Posted by salchan at 10:14 | この記事のURL
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