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2019年03月26日
クロア篇−6章5
試合のすえ、挑戦者は及第した。ただし快勝とはいかなかった。青年の運動能力は貧弱で、試験官の水球を避けきれないでいた。彼を合格へこぎつかせたのは彼の招獣である。青年のあつかう招獣は招術士に攻撃がいかぬよう、うごきに気を遣っていた。つまるところマキシの招獣は賢く、強力だということがこの試験で証明された。マキシ本人の力量はどうにも不安が残るものの、術士にとって身体の強さはあまり重要ではないので、この結果に高官は口出ししなかった。
晴れて二人の戦士が確保できた。まずは彼らを領主に会わせる。客分の姿かたちや人柄を、おおまかに共有しておくのだ。以後この二人は契約完了の日まで屋敷に出入りすることになるため、そのことをクノードに知らせる必要があった。
執務室への移動中、クロアは討伐の日がくるまで客人がどうすごすのか、予想を立てる。
(屋敷の客室に泊まってもらう? それともこちらが宿泊費を負担して、町の宿に宿泊しつづけていただく?)
宿泊先の選択はどちらでもかまわない。客人たちが快適であるほうを選んでくれればよいのだ。クロアの興味は彼らの時間の使い方にかたむく。
(ルッツさんは観光したいのかしら……?)
旅をしているという彼なら町の観覧をしたがるかもしれない。そうしてもらってもよいが、クロアはその過ごし方を惜しいと感じる。
(せっかく槍術に長けた方がおいでになったのだし……兵に稽古をつけるようおねがいする?)
いつぞやクロアが来訪を願った武人のたぐいだ。彼が武官たちと接することで弱卒の良い刺激になるやもしれず、クロアの期待はふくらんだ。この計画案をルッツに直接言おうかとしたが、長考のうちに目的地に着いてしまい、言い出せなかった。
執務室ではクロアの父とそのほかの官吏が作業していた。それらの仕事を中断してもらい、客人の紹介と今後の滞在方法について話し合う。客人はそれぞれ、なぜこのアンペレへやってきたのか述べた。ルッツはクロアに話したとおり、石付きの魔獣の退治が目的だったと言う。
「遠方にて耳にした話ゆえ、遅参になってしまいましたが……別の用件でお役立てできて、たいへんうれしく存じます」
クロアはルッツの言葉には好感を得たが、その熱意の在りかに疑問を感じた。どうして彼はそこまで我々に協力したがるのか、理由が不透明だ。クノードは笑顔でルッツの誠意を受け止めるばかりで、質問をしてくれない。クロアは父の代わりに質問の機会をうかがった。しかし会話の間が空くとすぐにマキシのほうが話をはじめてしまい、断念した。
マキシは石付きの魔獣を調査したくて、ルッツに同行してきたという。この青年は学都の学校においても魔獣の研究に心血をそそいできた、と自己紹介する。
「僕は石付きの魔獣だった招獣を観察したいのですが、許可してくださいますか?」
「ああ、私は気にしないが……クロアはどうかな?」
クロアはすこし考えた。マキシがベニトラを調べるとなると、ベニトラの近辺にいる者とマキシが常時顔をつき合わす状態になりうる。つまり、クロアのそばにマキシがくっついてくることになる。それは少々気まずい。
「わたしの寝所にまで来られるのは、ちょっと……」
ベニトラはただいま、クロアの部屋でお休み中だ。そんなベニトラをも青年が見張ろうとするなら、今日会ったばかりの他人にクロアの私生活が筒抜けになってしまう。
マキシは堂々と「そんな非常識なことはしません」と明言する。
「せいぜい、官吏たちが立ち入る場所に入らせてもらえばいいと思っています。それ以外の私的な場には踏みこみません」
「でしたら許可いたします。ベニトラを好きなだけ見てくださいな」
マキシの余暇の過ごし方は決まった。話題的にちょうどよいので、クロアはここでルッツもどのように過ごしたいかたずねた。ルッツは首をひねる。
「これといって思いつきませんな……」
ルッツは予定を立てていない。クロアはここが主張のしどころだと見る。
「よければうちの兵士の調練を見てくださらない?」
カスバンは公女の思いつきにびっくりしたようだが、ルッツは「それがし程度の者でよければ」とひかえめに承諾する。
「とはいえ、それがしは指導経験が豊富ではありません。過度な期待はご容赦を」
「そんなにかまえなくてよろしいですわ。いま以上に兵がへこたれるとは思えませんもの」
クロアのあっけらかんとした物言いを、老爺が咳払いで反抗した。クノードは三者の反応を見たうえで、クロアの提案を受理する。
「では調練指導の報酬も考えさせていただきましょう。ほかに決めておくことといえば、宿でしょうか──」
宿泊場所は屋敷内の客室を使用することになった。そのほうが双方の連絡のやり取りが簡便になる、という現実的な長所が決め手だった。
「よし、じゃあベニトラという招獣を見せてもらおうかな」
マキシはクロアにずずいと近寄った。どうも彼の思考には遠慮という言葉がないようだ。クロアはわざと嫌そうな顔を見せつける。
「そうはいきません。さきにルッツさんのことを武官たちに話さなくては」
ベニトラの観察はいつでもできるが、兵の調練は実施できる時間がかぎられている。その差異を理由にクロアは優先度をつけた。それをクノードは「私がやっておこう」と宣言する。
「クロアはマキシさんを案内してあげなさい」
「よろしいんですの? ルッツさんの指導の話はわたしが言い出したことなのに……」
「ああ、こういう調整は私のほうが得意だからね」
ルッツの処遇をクノードが引き受けた。クロアはしょうがなく、厚かましい青年とともに執務室を出た。
晴れて二人の戦士が確保できた。まずは彼らを領主に会わせる。客分の姿かたちや人柄を、おおまかに共有しておくのだ。以後この二人は契約完了の日まで屋敷に出入りすることになるため、そのことをクノードに知らせる必要があった。
執務室への移動中、クロアは討伐の日がくるまで客人がどうすごすのか、予想を立てる。
(屋敷の客室に泊まってもらう? それともこちらが宿泊費を負担して、町の宿に宿泊しつづけていただく?)
宿泊先の選択はどちらでもかまわない。客人たちが快適であるほうを選んでくれればよいのだ。クロアの興味は彼らの時間の使い方にかたむく。
(ルッツさんは観光したいのかしら……?)
旅をしているという彼なら町の観覧をしたがるかもしれない。そうしてもらってもよいが、クロアはその過ごし方を惜しいと感じる。
(せっかく槍術に長けた方がおいでになったのだし……兵に稽古をつけるようおねがいする?)
いつぞやクロアが来訪を願った武人のたぐいだ。彼が武官たちと接することで弱卒の良い刺激になるやもしれず、クロアの期待はふくらんだ。この計画案をルッツに直接言おうかとしたが、長考のうちに目的地に着いてしまい、言い出せなかった。
執務室ではクロアの父とそのほかの官吏が作業していた。それらの仕事を中断してもらい、客人の紹介と今後の滞在方法について話し合う。客人はそれぞれ、なぜこのアンペレへやってきたのか述べた。ルッツはクロアに話したとおり、石付きの魔獣の退治が目的だったと言う。
「遠方にて耳にした話ゆえ、遅参になってしまいましたが……別の用件でお役立てできて、たいへんうれしく存じます」
クロアはルッツの言葉には好感を得たが、その熱意の在りかに疑問を感じた。どうして彼はそこまで我々に協力したがるのか、理由が不透明だ。クノードは笑顔でルッツの誠意を受け止めるばかりで、質問をしてくれない。クロアは父の代わりに質問の機会をうかがった。しかし会話の間が空くとすぐにマキシのほうが話をはじめてしまい、断念した。
マキシは石付きの魔獣を調査したくて、ルッツに同行してきたという。この青年は学都の学校においても魔獣の研究に心血をそそいできた、と自己紹介する。
「僕は石付きの魔獣だった招獣を観察したいのですが、許可してくださいますか?」
「ああ、私は気にしないが……クロアはどうかな?」
クロアはすこし考えた。マキシがベニトラを調べるとなると、ベニトラの近辺にいる者とマキシが常時顔をつき合わす状態になりうる。つまり、クロアのそばにマキシがくっついてくることになる。それは少々気まずい。
「わたしの寝所にまで来られるのは、ちょっと……」
ベニトラはただいま、クロアの部屋でお休み中だ。そんなベニトラをも青年が見張ろうとするなら、今日会ったばかりの他人にクロアの私生活が筒抜けになってしまう。
マキシは堂々と「そんな非常識なことはしません」と明言する。
「せいぜい、官吏たちが立ち入る場所に入らせてもらえばいいと思っています。それ以外の私的な場には踏みこみません」
「でしたら許可いたします。ベニトラを好きなだけ見てくださいな」
マキシの余暇の過ごし方は決まった。話題的にちょうどよいので、クロアはここでルッツもどのように過ごしたいかたずねた。ルッツは首をひねる。
「これといって思いつきませんな……」
ルッツは予定を立てていない。クロアはここが主張のしどころだと見る。
「よければうちの兵士の調練を見てくださらない?」
カスバンは公女の思いつきにびっくりしたようだが、ルッツは「それがし程度の者でよければ」とひかえめに承諾する。
「とはいえ、それがしは指導経験が豊富ではありません。過度な期待はご容赦を」
「そんなにかまえなくてよろしいですわ。いま以上に兵がへこたれるとは思えませんもの」
クロアのあっけらかんとした物言いを、老爺が咳払いで反抗した。クノードは三者の反応を見たうえで、クロアの提案を受理する。
「では調練指導の報酬も考えさせていただきましょう。ほかに決めておくことといえば、宿でしょうか──」
宿泊場所は屋敷内の客室を使用することになった。そのほうが双方の連絡のやり取りが簡便になる、という現実的な長所が決め手だった。
「よし、じゃあベニトラという招獣を見せてもらおうかな」
マキシはクロアにずずいと近寄った。どうも彼の思考には遠慮という言葉がないようだ。クロアはわざと嫌そうな顔を見せつける。
「そうはいきません。さきにルッツさんのことを武官たちに話さなくては」
ベニトラの観察はいつでもできるが、兵の調練は実施できる時間がかぎられている。その差異を理由にクロアは優先度をつけた。それをクノードは「私がやっておこう」と宣言する。
「クロアはマキシさんを案内してあげなさい」
「よろしいんですの? ルッツさんの指導の話はわたしが言い出したことなのに……」
「ああ、こういう調整は私のほうが得意だからね」
ルッツの処遇をクノードが引き受けた。クロアはしょうがなく、厚かましい青年とともに執務室を出た。
タグ:クロア
2019年03月25日
クロア篇−6章4
ルッツは文官に案内を受けて、訓練場までやってきた。クロアの知らない青年も一緒だ。
案内人がカスバンに一礼し、客を残して立ち去った。カスバンは槍を持つ武人を見るや、目礼を交わした。言葉を発さないやり取りにはひっそりとした緊張感があった。その空気の中、ルッツの後ろにいた青年が前へ出てくる。自分の番だ、と言わんばかりだ。カスバンが彼を二十歳前後と形用したが、その顔立ちは十代の後半のようだとクロアは思った。
「それじゃあ僕が試合とやらに挑戦してもいいだろうか?」
若い男性は自信満々で申し出る。腕におぼえがあるらしいが、若干その態度は非常識だ。
「はじめにどちらさまなのか、教えていただけます?」
クロアが言うと青年はふっと笑い、懐に手を入れた。取り出したのは折りたたんだ紙。紙を広げ、自慢げに見せる。それは帝王国学都にある学府の高等部を卒業した証書だ。この大陸において学才に秀でる証拠である。紙面には彼の氏名が記名してあった。
「マクスウィン・オレアティ?」
「オレアティって、帝都の宰相の家名じゃないですか?」
レジィはそう言うが、クロアは知らない。
「そうだったかしら?」
「有名ですよ、エミディオ王の片腕だった人の家系なんですから」
「その名前で演劇に出てくれないとおぼえられないわ」
クロアが正直に言うと青年がため息を吐く。
「はぁ……まあ、予想通りの反応だな」
「なんですの、嫌味っぽいですわね」
クロアは小馬鹿にされた気がして、不愉快になる。
「他国出身のあなたが、わたくしのなにをご存知でいらっしゃるの?」
「『アンペレ第一公女は武勇ありて才知なし』」
クロアは一瞬どういう意図の言葉をかけられたのかわからなかった。それが侮辱の言葉だと理解が追いついたとき、ふつふつと怒りが生じてくる。
「……『才知なし』ですって?」
「風にのった噂だよ。きみはそう評価されて、よその国にまで広まっているわけだ」
クロアは不当な評価だと思い、憤った。だがそう言われてしまう欠点は自覚している。
「わすれやすいことと知恵がないことは別ですわ!」
「そんなもの、他人にとっては大差ないさ。人は物を知っているだけの人間でも『賢い』と思ってしまうんだからね」
「どこのだれがわたくしにそんな評価をくだしたんですの?」
「出所は知らないな。第一公女はめったなことじゃ領地を離れないというから、この土地の人間がそう言ったんだろうけれど……」
「腹立たしいですわね! 民衆の暮らしを良くしようと、はげんでいますのに」
激昂するクロアをよそに、青年は「そういきり立たないでほしい」と言いながら卒業証書をしまう。
「どんなに立派な行為をしてたってケチをつける輩はいるさ。そういう連中を見返すには、結果を出すのが効果的じゃないかな」
「結果?」
「きみが言っただろう、『民衆の暮らしを良くしようしてる』と。その一端が賊の討伐だろ?」
マキシは片目をまばたかせた。どういうつもりの仕草だかクロアはわかりかねたものの、彼はクロアのなそうとすることに同調しているらしいと伝わった。
「僕も賊の討伐に志願しよう。どうやって志願者をふるいにかけるんだね?」
ユネスが「俺と戦ってもらう」と言い、マキシの腰に提げた小剣を見る。
「あんた、剣士なのか?」
「いや、これは術士の杖のようなものだ。僕は斬り合いが得意じゃない」
「それなら術対決だな」
「術もいいが、僕は招術が大の得意なんだ。招獣を戦わせてもいいかい?」
「ああ、いいぜ」
ユネスはカスバンの顔を見ながら答える。老官は同意の合図として頭を縦に動かした。
試験官が訓練場の柵へと入り、飛び入りの挑戦者が意気揚々とついていく。出入口が封鎖されたのち、マキシは悠然と手を前方に出す。手の下に氷のような粒が集まった。粒がめまぐるしい回転をしたのちに消え、そこから大きな爬虫類の姿が現れた。雪のように白く、たてがみのような襟巻きが首のまわりに生えている。体つきは狼のようでいて、節々に黄金の鱗がある。なかなかに美しい魔獣だ。
ユネスは対戦相手の美麗さなど露にも気にかけず、いつも通りに試合条件を述べる。ただ一点、いままでにない注意事項があった。
「おれは招獣じゃなく、あんたに当てにいくからな」
「え、僕の招獣と戦うんじゃ?」
「さっき、招術は術の範疇だと方針が決まったんでな。だったら術士を叩くのがスジだ」
余裕綽々だったマキシがどよめく。自身は観戦する気でいたらしい。ユネスの水球は招獣の背を越えて、招術士へと撃たれた。
案内人がカスバンに一礼し、客を残して立ち去った。カスバンは槍を持つ武人を見るや、目礼を交わした。言葉を発さないやり取りにはひっそりとした緊張感があった。その空気の中、ルッツの後ろにいた青年が前へ出てくる。自分の番だ、と言わんばかりだ。カスバンが彼を二十歳前後と形用したが、その顔立ちは十代の後半のようだとクロアは思った。
「それじゃあ僕が試合とやらに挑戦してもいいだろうか?」
若い男性は自信満々で申し出る。腕におぼえがあるらしいが、若干その態度は非常識だ。
「はじめにどちらさまなのか、教えていただけます?」
クロアが言うと青年はふっと笑い、懐に手を入れた。取り出したのは折りたたんだ紙。紙を広げ、自慢げに見せる。それは帝王国学都にある学府の高等部を卒業した証書だ。この大陸において学才に秀でる証拠である。紙面には彼の氏名が記名してあった。
「マクスウィン・オレアティ?」
「オレアティって、帝都の宰相の家名じゃないですか?」
レジィはそう言うが、クロアは知らない。
「そうだったかしら?」
「有名ですよ、エミディオ王の片腕だった人の家系なんですから」
「その名前で演劇に出てくれないとおぼえられないわ」
クロアが正直に言うと青年がため息を吐く。
「はぁ……まあ、予想通りの反応だな」
「なんですの、嫌味っぽいですわね」
クロアは小馬鹿にされた気がして、不愉快になる。
「他国出身のあなたが、わたくしのなにをご存知でいらっしゃるの?」
「『アンペレ第一公女は武勇ありて才知なし』」
クロアは一瞬どういう意図の言葉をかけられたのかわからなかった。それが侮辱の言葉だと理解が追いついたとき、ふつふつと怒りが生じてくる。
「……『才知なし』ですって?」
「風にのった噂だよ。きみはそう評価されて、よその国にまで広まっているわけだ」
クロアは不当な評価だと思い、憤った。だがそう言われてしまう欠点は自覚している。
「わすれやすいことと知恵がないことは別ですわ!」
「そんなもの、他人にとっては大差ないさ。人は物を知っているだけの人間でも『賢い』と思ってしまうんだからね」
「どこのだれがわたくしにそんな評価をくだしたんですの?」
「出所は知らないな。第一公女はめったなことじゃ領地を離れないというから、この土地の人間がそう言ったんだろうけれど……」
「腹立たしいですわね! 民衆の暮らしを良くしようと、はげんでいますのに」
激昂するクロアをよそに、青年は「そういきり立たないでほしい」と言いながら卒業証書をしまう。
「どんなに立派な行為をしてたってケチをつける輩はいるさ。そういう連中を見返すには、結果を出すのが効果的じゃないかな」
「結果?」
「きみが言っただろう、『民衆の暮らしを良くしようしてる』と。その一端が賊の討伐だろ?」
マキシは片目をまばたかせた。どういうつもりの仕草だかクロアはわかりかねたものの、彼はクロアのなそうとすることに同調しているらしいと伝わった。
「僕も賊の討伐に志願しよう。どうやって志願者をふるいにかけるんだね?」
ユネスが「俺と戦ってもらう」と言い、マキシの腰に提げた小剣を見る。
「あんた、剣士なのか?」
「いや、これは術士の杖のようなものだ。僕は斬り合いが得意じゃない」
「それなら術対決だな」
「術もいいが、僕は招術が大の得意なんだ。招獣を戦わせてもいいかい?」
「ああ、いいぜ」
ユネスはカスバンの顔を見ながら答える。老官は同意の合図として頭を縦に動かした。
試験官が訓練場の柵へと入り、飛び入りの挑戦者が意気揚々とついていく。出入口が封鎖されたのち、マキシは悠然と手を前方に出す。手の下に氷のような粒が集まった。粒がめまぐるしい回転をしたのちに消え、そこから大きな爬虫類の姿が現れた。雪のように白く、たてがみのような襟巻きが首のまわりに生えている。体つきは狼のようでいて、節々に黄金の鱗がある。なかなかに美しい魔獣だ。
ユネスは対戦相手の美麗さなど露にも気にかけず、いつも通りに試合条件を述べる。ただ一点、いままでにない注意事項があった。
「おれは招獣じゃなく、あんたに当てにいくからな」
「え、僕の招獣と戦うんじゃ?」
「さっき、招術は術の範疇だと方針が決まったんでな。だったら術士を叩くのがスジだ」
余裕綽々だったマキシがどよめく。自身は観戦する気でいたらしい。ユネスの水球は招獣の背を越えて、招術士へと撃たれた。
タグ:クロア