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2019年10月14日
家族の木 THE FOURTH STORY 真と梨央 <54 怒りの理由>
怒りの理由
恵美は年下の男をかばった。「ねえ、お兄ちゃん、この人ね闇金に騙されたのよ。追われてるの。だから、身軽なように家財道具も買ってないの。」
「何三流映画みたいなこと言ってるんだ。ちゃんと法的に処理しろ!」
「だから、それが危ないの。そういうことさせないためにこの人を捕まえようとしてるのよ。ねえ、お兄ちゃんの物件で安全なところない?」と真剣だ。闇金などという下品な言葉を恵美が使うこと自体情けなかった。
「お前黙ってないでなんとか言え!どうするつもりなんだ。いくらあるんだ借金は!」と聞くと、「地銀のビジネスローンが215万と、闇金が820万です。」と答えた。「闇金で800万も借りてどうするんだよ!お前、親はどうした!親は何にもしてくれないのか!」と聞くと、親は公務員だから世話になれない。こういうことが表に出れば親の職が続かなくなると答えた。
「お前人の家の娘を無茶苦茶にして親を守るのか?公務員なら退職金があるだろう。恵美の金を使う前にそっちを使え!」気が付けば俺が闇金のようなことを言っていた。「お兄ちゃん違う。恵美がこの人を逃したの。逃げなくちゃこの人殺されちゃう。」と泣いた。「あほか。誰が金を貸した人間を殺すか。」と答えながら自分のガラの悪さに驚いた。
「お父さん、こいつら連れて帰ってくれ。このままタクシーで走ってしまえば見つからんだろう?」といったが恵美が嫌がった。「お母さん、またヒステリーを起こすじゃない!大騒ぎになるじゃない!」と叫んだ。父も「うちへ来ん方がいい。母さんが騒ぎ立てて事がややこしくなる。お前の方で段取りできんか?金の方はもちろん負担させてもらう。お前の関係でいい場所はないか?」という。
「どこまで甘えた野郎だ。」と思ったが俺の親だった。結局一旦俺の家に行ってから改めて賃貸物件を探すことにした。すぐにでも入れるところに心当たりがあった。また、梨央に負担がかかると思った。
車の中で俺は不機嫌だった。おかげでみんな黙りこくっていた。この家の人間と俺はいつもこんな関係だ。俺の不機嫌でみんな黙る。慣れているはずの雰囲気なのに、今は気が滅入る。
途中遊園地の観覧車が見えた。恵美が「あっ、湊遊園だ。久しぶりだわ。」といったので「知ってるのか?よくいくのか?」と聞くと「大人になってからは行かないわよ。幼稚園の頃?よく家族で行ったわよね。お父さん。」と恵美がいうと、父は不機嫌に「そうだな。お前呑気だな。」といった。
俺は、この場で運転をやめてみんなを降ろそうかと思うほど腹が立った。恵美が幼稚園の頃といえば、祖母が亡くなったころだ。俺はそのころ毎日が不安で不安でしょうがなかった。祖母がなくなると近所のおばさんが俺の世話をしてくれた。坊ちゃん、坊ちゃんと呼んで大切にされた。
しかし、可愛がられているわけではなかった。ただ毎日生真面目に働いているだけだ。仕事に来ているだけだった。時間が来ればさっさと帰った。祖父の帰りが遅い日は大きな寝室で一人で寝た。
そして、毎晩、祖父が亡くなったら自分は誰に引き取られるのだろうと心配していた。まだ小学5,6年生だった。そのころは、祖父の全財産を相続するのが自分だということもわからなかった。毎日が不安で不安でしょうがなかった。
そんな時、こいつらは家族で遊園地に行っていたのだ。みんなでキャーキャー騒いでいたのだ。俺は何でこいつらのために奔走しているのだろう。田原の家に恥をさらし、身重の妻に負担をかけようとしていた。俺が守るべきはこいつらじゃない。そう思うとイライラした。
家に着くと梨央は驚いていたが、それでも「大変でしたね。」とお茶を用意してくれた。リビングには田原の義父と義母がいた。父親が深くお辞儀をして「迷惑をおかけします。」とあいさつをした。
義父は「いや、ひょっとしたらご迷惑をおかけしたのはこちらかもしれません。」と深いお辞儀を返してくれた。父や恵美や風羽田はちょっと不思議そうな顔をした。
続く
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恵美は年下の男をかばった。「ねえ、お兄ちゃん、この人ね闇金に騙されたのよ。追われてるの。だから、身軽なように家財道具も買ってないの。」
「何三流映画みたいなこと言ってるんだ。ちゃんと法的に処理しろ!」
「だから、それが危ないの。そういうことさせないためにこの人を捕まえようとしてるのよ。ねえ、お兄ちゃんの物件で安全なところない?」と真剣だ。闇金などという下品な言葉を恵美が使うこと自体情けなかった。
「お前黙ってないでなんとか言え!どうするつもりなんだ。いくらあるんだ借金は!」と聞くと、「地銀のビジネスローンが215万と、闇金が820万です。」と答えた。「闇金で800万も借りてどうするんだよ!お前、親はどうした!親は何にもしてくれないのか!」と聞くと、親は公務員だから世話になれない。こういうことが表に出れば親の職が続かなくなると答えた。
「お前人の家の娘を無茶苦茶にして親を守るのか?公務員なら退職金があるだろう。恵美の金を使う前にそっちを使え!」気が付けば俺が闇金のようなことを言っていた。「お兄ちゃん違う。恵美がこの人を逃したの。逃げなくちゃこの人殺されちゃう。」と泣いた。「あほか。誰が金を貸した人間を殺すか。」と答えながら自分のガラの悪さに驚いた。
「お父さん、こいつら連れて帰ってくれ。このままタクシーで走ってしまえば見つからんだろう?」といったが恵美が嫌がった。「お母さん、またヒステリーを起こすじゃない!大騒ぎになるじゃない!」と叫んだ。父も「うちへ来ん方がいい。母さんが騒ぎ立てて事がややこしくなる。お前の方で段取りできんか?金の方はもちろん負担させてもらう。お前の関係でいい場所はないか?」という。
「どこまで甘えた野郎だ。」と思ったが俺の親だった。結局一旦俺の家に行ってから改めて賃貸物件を探すことにした。すぐにでも入れるところに心当たりがあった。また、梨央に負担がかかると思った。
車の中で俺は不機嫌だった。おかげでみんな黙りこくっていた。この家の人間と俺はいつもこんな関係だ。俺の不機嫌でみんな黙る。慣れているはずの雰囲気なのに、今は気が滅入る。
途中遊園地の観覧車が見えた。恵美が「あっ、湊遊園だ。久しぶりだわ。」といったので「知ってるのか?よくいくのか?」と聞くと「大人になってからは行かないわよ。幼稚園の頃?よく家族で行ったわよね。お父さん。」と恵美がいうと、父は不機嫌に「そうだな。お前呑気だな。」といった。
俺は、この場で運転をやめてみんなを降ろそうかと思うほど腹が立った。恵美が幼稚園の頃といえば、祖母が亡くなったころだ。俺はそのころ毎日が不安で不安でしょうがなかった。祖母がなくなると近所のおばさんが俺の世話をしてくれた。坊ちゃん、坊ちゃんと呼んで大切にされた。
しかし、可愛がられているわけではなかった。ただ毎日生真面目に働いているだけだ。仕事に来ているだけだった。時間が来ればさっさと帰った。祖父の帰りが遅い日は大きな寝室で一人で寝た。
そして、毎晩、祖父が亡くなったら自分は誰に引き取られるのだろうと心配していた。まだ小学5,6年生だった。そのころは、祖父の全財産を相続するのが自分だということもわからなかった。毎日が不安で不安でしょうがなかった。
そんな時、こいつらは家族で遊園地に行っていたのだ。みんなでキャーキャー騒いでいたのだ。俺は何でこいつらのために奔走しているのだろう。田原の家に恥をさらし、身重の妻に負担をかけようとしていた。俺が守るべきはこいつらじゃない。そう思うとイライラした。
家に着くと梨央は驚いていたが、それでも「大変でしたね。」とお茶を用意してくれた。リビングには田原の義父と義母がいた。父親が深くお辞儀をして「迷惑をおかけします。」とあいさつをした。
義父は「いや、ひょっとしたらご迷惑をおかけしたのはこちらかもしれません。」と深いお辞儀を返してくれた。父や恵美や風羽田はちょっと不思議そうな顔をした。
続く
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