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2019年10月13日
家族の木 THE FOURTH STORY 真と梨央 <52 男の素性>
男の素性
1週間後には調査報告が届いた。今、中野区の賃貸マンションに住んでいるらしい。男は都内の生まれ育ちだった。両親とも教師で兄は国家公務員だった。エリート志向の強い家庭で育っていて都内でも有名な中高一貫校出身だった。
どこのやくざ者かと思っていたが意外に堅実な家庭で育っている。本人は大学受験に失敗してから水商売に入っていた。年は30歳、恵美より2歳下だ。10年間スナックの裏方やキャバレーのボーイなど水商売で食べている。やっと経営者になったが、その経営に失敗していた。名前は風羽田裕也といった。
俺は、自分が調査報告書を読んだ後に義父にその報告書を渡した。義父は読み始めてすぐに「う〜ん}とうなり声をあげて難しい顔になった。そりゃ確かに気分のいいものではないけれど、そんなにいやな顔をしなくてもいいと思った。しかもそのあと、しばらく席を立ってしまった。義母がその報告書に目をやると突然表情が変わって何もしゃべらなくなってしまった。
一体どうしたことかと焦っていると義父が席に戻ってきて、「その風羽田裕也は僕のいとこの息子だ。」といわれた。俺は1オクターブ高い声で「は?」と言ってしまった。梨央はぽかんとなっていた。「パパ何言ってるの?」といった。義母が「パパの叔父さんの孫よ。」といった。俺はもう一度「は?」といった。
「今二人が住んでいるところは僕の叔父の住んでいたところだ。土地勘があるんだろう。とにかく行ってみたらどうだ?詩音君も一緒に行けないか聞いてみてくれ。一人じゃ危ないだろう。」というので、「いや、父を連れていきます。詩音さんは怪我でもしたら画業に触りますから。父は自分の娘ですから。」
翌日父と二人で、調査会社が調べ上げた場所へ行ってみた。高級マンションが並ぶところだったが、その町の片隅にある小さなマンションに恵美と風羽田裕也は住んでいた。表札を上げていないので人違いだったらどうしようと思いながらインターフォンを押した。
何度押しても返事がない。父と二人でドアの前をうろうろしていると、そっとドアが開いた。恵美だった。「なんだ居たのか?」というと、声を潜めて「入って!」と言った。慌てて部屋へ入って暗澹とした。小さな冷蔵庫とテーブルしかなかった。小さなキッチンにはコップしかなかった。その隅にビニールのごみ袋があった。
風羽田裕也は部屋の奥で敬礼に近いようなお辞儀をしていた。「申し訳ありません。」とだけ言った。
父が風羽田の襟首をつかんだ。こういう時人間は気の利いたセリフは出ないようだった。「どういう了見だ。」と至極ありきたりのセリフを言った。男はまた「申し訳ありません。」といった。
「それにしてもこれじゃまともな暮らしは出来んだろう。食事はどうしてるんだ?」と聞くと「コンビニとか出前とか。」と恵美が答えた。「金はどうした。全部こいつにとられたのか?」と聞くと、また恵美が「持って歩いてるの。いつ引っ越さなければわからないから持って歩いた方が安全かなと思って。」と答えた。なんとなく、この駆け落ちは恵美主導のような印象だった。
続く
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1週間後には調査報告が届いた。今、中野区の賃貸マンションに住んでいるらしい。男は都内の生まれ育ちだった。両親とも教師で兄は国家公務員だった。エリート志向の強い家庭で育っていて都内でも有名な中高一貫校出身だった。
どこのやくざ者かと思っていたが意外に堅実な家庭で育っている。本人は大学受験に失敗してから水商売に入っていた。年は30歳、恵美より2歳下だ。10年間スナックの裏方やキャバレーのボーイなど水商売で食べている。やっと経営者になったが、その経営に失敗していた。名前は風羽田裕也といった。
俺は、自分が調査報告書を読んだ後に義父にその報告書を渡した。義父は読み始めてすぐに「う〜ん}とうなり声をあげて難しい顔になった。そりゃ確かに気分のいいものではないけれど、そんなにいやな顔をしなくてもいいと思った。しかもそのあと、しばらく席を立ってしまった。義母がその報告書に目をやると突然表情が変わって何もしゃべらなくなってしまった。
一体どうしたことかと焦っていると義父が席に戻ってきて、「その風羽田裕也は僕のいとこの息子だ。」といわれた。俺は1オクターブ高い声で「は?」と言ってしまった。梨央はぽかんとなっていた。「パパ何言ってるの?」といった。義母が「パパの叔父さんの孫よ。」といった。俺はもう一度「は?」といった。
「今二人が住んでいるところは僕の叔父の住んでいたところだ。土地勘があるんだろう。とにかく行ってみたらどうだ?詩音君も一緒に行けないか聞いてみてくれ。一人じゃ危ないだろう。」というので、「いや、父を連れていきます。詩音さんは怪我でもしたら画業に触りますから。父は自分の娘ですから。」
翌日父と二人で、調査会社が調べ上げた場所へ行ってみた。高級マンションが並ぶところだったが、その町の片隅にある小さなマンションに恵美と風羽田裕也は住んでいた。表札を上げていないので人違いだったらどうしようと思いながらインターフォンを押した。
何度押しても返事がない。父と二人でドアの前をうろうろしていると、そっとドアが開いた。恵美だった。「なんだ居たのか?」というと、声を潜めて「入って!」と言った。慌てて部屋へ入って暗澹とした。小さな冷蔵庫とテーブルしかなかった。小さなキッチンにはコップしかなかった。その隅にビニールのごみ袋があった。
風羽田裕也は部屋の奥で敬礼に近いようなお辞儀をしていた。「申し訳ありません。」とだけ言った。
父が風羽田の襟首をつかんだ。こういう時人間は気の利いたセリフは出ないようだった。「どういう了見だ。」と至極ありきたりのセリフを言った。男はまた「申し訳ありません。」といった。
「それにしてもこれじゃまともな暮らしは出来んだろう。食事はどうしてるんだ?」と聞くと「コンビニとか出前とか。」と恵美が答えた。「金はどうした。全部こいつにとられたのか?」と聞くと、また恵美が「持って歩いてるの。いつ引っ越さなければわからないから持って歩いた方が安全かなと思って。」と答えた。なんとなく、この駆け落ちは恵美主導のような印象だった。
続く
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