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2019年08月07日
THE THIRD STORY純一と絵梨 <34 梨沙と梨央>
梨沙と梨央
母が亡くなって絵梨は少し体調を崩した。緊張が一気に緩んだのだろう。梨沙や梨央がよく面倒を見たのであまり長引くことにはならなかった。
僕たちの生活には大きな変化はなかった。僕は祖父、田原真一が興した田原興産の社長として働いた。絵梨も経営するこども園の理事長として働いていた。忙しい共働き家庭だった。
長女の梨沙は文学部へ進んでいた。もともと梨沙の曽祖父に当たる田原真一は文筆家だった。長い間榊島に関するコラムを書いていて、それには決まった読者も付いていたようだ。梨沙は祖父に似たのかもしれなかった。
家の事業にはあまり関心がなく教職の道に進みたいといっていた。我が家には珍しく公務員志望だ。本来は家の不動産事業を梨沙本人か梨沙の婿さんに継いでもらいたかった。しかし、それは早々と断られていた。
小学校の教師として働きながら童話を書くのが夢らしい。自分の希望に向かって着実に進むしっかりした娘だった。親のわがままを通すことはできなかった。
妹の梨央は母親と同じ幼児心理学に進みたがっていた。絵梨と同じように保育士になるつもりをしている。ひょっとして絵梨の事業は梨央が継ぐのかもしれないと思っていた。今はまだ甘ったれの末っ子だった。
梨沙は塾の講師のアルバイトで忙しい。夜遅くなるこのアルバイトは親としてはあまりうれしくなかった。しかし、梨沙はこのアルバイト先で恋人ができていた。やめるはずもなかった。
梨沙の恋人は、もう公務員試験に合格していて来年の4月から教師として働くことが決まっていた。人柄もいいのでこのまま結婚してくれると良いと思っていた。と言っても、何年か先にはなるのだろう。
梨沙や梨央が結婚するころには家もバタバタするだろう。家族として今が一番落ち着いた日々だと思う。僕が人生で最もいらだっていたのは青春時代だった。その時代から比べれば梨沙や梨央は幸福だと思った。
梨央もやがては恋人を家に連れてくる日が来るだろう。人生には幸福な寂しさというものがあるものだと最近になってわかるようになってきた。出来ることなら梨央か梨央の婿さんが会社を継いでほしかった。
会社には、いい若い社員が数人いた。親としては彼らのうちの誰かと縁づいてくれたらいいと思っていたが口には出さなかった。二人が嫁いだ後は絵梨との日々をゆっくりと過ごすだけだった。それまで、一生懸命働こうと思っていた。
続く
母が亡くなって絵梨は少し体調を崩した。緊張が一気に緩んだのだろう。梨沙や梨央がよく面倒を見たのであまり長引くことにはならなかった。
僕たちの生活には大きな変化はなかった。僕は祖父、田原真一が興した田原興産の社長として働いた。絵梨も経営するこども園の理事長として働いていた。忙しい共働き家庭だった。
長女の梨沙は文学部へ進んでいた。もともと梨沙の曽祖父に当たる田原真一は文筆家だった。長い間榊島に関するコラムを書いていて、それには決まった読者も付いていたようだ。梨沙は祖父に似たのかもしれなかった。
家の事業にはあまり関心がなく教職の道に進みたいといっていた。我が家には珍しく公務員志望だ。本来は家の不動産事業を梨沙本人か梨沙の婿さんに継いでもらいたかった。しかし、それは早々と断られていた。
小学校の教師として働きながら童話を書くのが夢らしい。自分の希望に向かって着実に進むしっかりした娘だった。親のわがままを通すことはできなかった。
妹の梨央は母親と同じ幼児心理学に進みたがっていた。絵梨と同じように保育士になるつもりをしている。ひょっとして絵梨の事業は梨央が継ぐのかもしれないと思っていた。今はまだ甘ったれの末っ子だった。
梨沙は塾の講師のアルバイトで忙しい。夜遅くなるこのアルバイトは親としてはあまりうれしくなかった。しかし、梨沙はこのアルバイト先で恋人ができていた。やめるはずもなかった。
梨沙の恋人は、もう公務員試験に合格していて来年の4月から教師として働くことが決まっていた。人柄もいいのでこのまま結婚してくれると良いと思っていた。と言っても、何年か先にはなるのだろう。
梨沙や梨央が結婚するころには家もバタバタするだろう。家族として今が一番落ち着いた日々だと思う。僕が人生で最もいらだっていたのは青春時代だった。その時代から比べれば梨沙や梨央は幸福だと思った。
梨央もやがては恋人を家に連れてくる日が来るだろう。人生には幸福な寂しさというものがあるものだと最近になってわかるようになってきた。出来ることなら梨央か梨央の婿さんが会社を継いでほしかった。
会社には、いい若い社員が数人いた。親としては彼らのうちの誰かと縁づいてくれたらいいと思っていたが口には出さなかった。二人が嫁いだ後は絵梨との日々をゆっくりと過ごすだけだった。それまで、一生懸命働こうと思っていた。
続く