2019年09月16日
家族の木 THE FOURTH STORY 真と梨央 <26 むずかる女>
むずかる女
梨央は見た目やしゃべり方が少し甘ったるい感じがするが性格は意外にさっぱりしていた。だがその朝はぐずぐずと機嫌が悪かった。原因は分かっていた。夜のことだ。特に恥をかかせようと思ったわけではなかった。ただ、うつむき姿勢で寝ていたから、そこから始めただけだった。それが余程恥ずかしかったらしく、ぐずぐずが止まらない。
貴方が出張が多いから、あんなことをしてしまった。出張なんかしなければいい。そしたら私はちゃんと普通なんだから。と何度となく言い続ける。以前の俺なら、女がベッドでぐずったら、さっさと服を着てしまう。それっきりだ。残念ながら妻がぐずった時には服を着ても帰るアテもなかった。
「そうかい、フーン。そうかなあ?悪かったなあ。でも楽しかったからいいんじゃないのか?」などと意味のない相槌を打ちながら寝てしまった。梨央もそのまま寝てしまったはずだった。それが朝になると「昨夜は眠れなかった。睡眠不足だ。今夜は夕飯は作れない。」というではないか。
「しょうがないなあ。じゃあ、帰りにデートしようか?」というと、やっとうれしそうな顔をして「ねえ、前に言った日本料理のお店はどお?」と機嫌を治した。俺はこの女にいいように操られていると思った。
約束通り、梨央のリクエストの日本料理屋に行った。安くはないがそんなに高級というところでもない。落ち着きたかったので個室を取っておいた。梨央は機嫌を直してコースを全部平らげた。要するにちょっと外へ出たかったということだ。そういえば、このところ忙しくてあまり外出していなかった。梨央は夜は一人で外出しなかった。勝手に行きたいところへ行くことができなかった。
梨央は少しおしゃれをしていた。2カ月ぐらい前に一緒に買った服を着ていた。普段の梨央よりちょっと派手な服だ。「これを着て出かけたかったのか。」と気が付いた。「梨央ちゃんはかわいいね。」と調子に乗った。
日本料理屋の帰りにはホテルのラウンジに連れて行った。梨央はこういう場所は慣れないので、ちょっと興奮していた。少しだけ酔って例のごとくニコニコだ。機嫌がよくなったところでラウンジを出ようとしたその時、「あら、この間はごめんなさい、大丈夫だった?」と声をかけられた。加奈だった。
俺は面食らって「この間ってなんだよ。変な言い方すんなよ!」と怒ったが加奈は、そのままにっこり笑って「またね。」と行ってしまった。梨央の顔から笑い上戸のニコニコは消え失せて固まっていた。
車の中で「梨央、全く会ってないからな。あんなことで惑わされんな。」というと「わかってるの。あんなときに堂々とできない自分が嫌になっちゃう。いつになったら、しっかりするんだろう。」とうつむいた。「あんな場面で堂々とできる女なんていないよ。梨央はしっかりしてるし、まともだよ。」と言っても顔を上げてはくれなかった。
家に着いても気分はぎくしゃくしていた。「寝室で気分治そう。」と言って肩を抱くと、「わかっているのに気分がすぐれないの。」といった。「無理もない。ごめんな。」とキスをすると、「今からお仕置きをします。」と言った。これは例の悪夢の続きがやってきたのか、はたまたジョークなのか判断しかねた。
「横になりなさい。」と命令口調だ、横になると上に乗ってきて、「愛してるといいなさい。」「梨央を愛している。」「最高だといいなさい。」「梨央は最高だ。」「お前しかいないといいなさい。」「梨央しかいない。」とあの悪夢の問答が続いた。
耳に顔を近づけてきたと思うと、耳元で「梨央に入れたいといいなさい。」といわれたので、顔を正面に向かせて「梨央に入れたい。」と答えた。梨央が「ねえ、あなたの本気の愛の証を私にちょうだい。誰にも上げないものを私だけにちょうだい。」といった。その意味がすぐに分かった。
「そうだな。もう1年半だからな。そろそろ本気で作らなくちゃな。」と答えて「梨央、嫌なことはもう忘れて俺に集中して。梨央が喜んでくれた方ができやすいと思うんだよ。」というと「そんな話は聞いたことないわよ。」といいながら、切ない表情に変わっていった。
その夜の俺たちは静かで暖かい気持ちだった。加奈のことがあっていらだっているはずの梨央もなぜか穏やかな優しい表情だった。二人が初めて本気で子供というものを作ろうと確かめ合った日だった。
翌朝は例のごとく二人でダラダラして、そのままカフェの朝ごはんに行こうとしていた。梨央はごく普通のTシャツとジーンズだった。玄関で靴を履く梨央の後ろに立っていて、梨央の首筋にあるものを見つけてしまった。というより見つけてよかった。
俺がまたミスをしていた。「梨央、今日はその服ダメだ。着替えなきゃ。」「どうして?」「俺またやっちゃった。ここ、つけちゃった。目立つ。ごめん。」梨央は振り向いて、「どうしてくれるの?」と睨まれたので「ごめん。」とつづけて言うと「リベンジだ!」と飛びついてきた。耳元で「あなた、赤くなってるわよ。可愛い。」といって笑った。
続く
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梨央は見た目やしゃべり方が少し甘ったるい感じがするが性格は意外にさっぱりしていた。だがその朝はぐずぐずと機嫌が悪かった。原因は分かっていた。夜のことだ。特に恥をかかせようと思ったわけではなかった。ただ、うつむき姿勢で寝ていたから、そこから始めただけだった。それが余程恥ずかしかったらしく、ぐずぐずが止まらない。
貴方が出張が多いから、あんなことをしてしまった。出張なんかしなければいい。そしたら私はちゃんと普通なんだから。と何度となく言い続ける。以前の俺なら、女がベッドでぐずったら、さっさと服を着てしまう。それっきりだ。残念ながら妻がぐずった時には服を着ても帰るアテもなかった。
「そうかい、フーン。そうかなあ?悪かったなあ。でも楽しかったからいいんじゃないのか?」などと意味のない相槌を打ちながら寝てしまった。梨央もそのまま寝てしまったはずだった。それが朝になると「昨夜は眠れなかった。睡眠不足だ。今夜は夕飯は作れない。」というではないか。
「しょうがないなあ。じゃあ、帰りにデートしようか?」というと、やっとうれしそうな顔をして「ねえ、前に言った日本料理のお店はどお?」と機嫌を治した。俺はこの女にいいように操られていると思った。
約束通り、梨央のリクエストの日本料理屋に行った。安くはないがそんなに高級というところでもない。落ち着きたかったので個室を取っておいた。梨央は機嫌を直してコースを全部平らげた。要するにちょっと外へ出たかったということだ。そういえば、このところ忙しくてあまり外出していなかった。梨央は夜は一人で外出しなかった。勝手に行きたいところへ行くことができなかった。
梨央は少しおしゃれをしていた。2カ月ぐらい前に一緒に買った服を着ていた。普段の梨央よりちょっと派手な服だ。「これを着て出かけたかったのか。」と気が付いた。「梨央ちゃんはかわいいね。」と調子に乗った。
日本料理屋の帰りにはホテルのラウンジに連れて行った。梨央はこういう場所は慣れないので、ちょっと興奮していた。少しだけ酔って例のごとくニコニコだ。機嫌がよくなったところでラウンジを出ようとしたその時、「あら、この間はごめんなさい、大丈夫だった?」と声をかけられた。加奈だった。
俺は面食らって「この間ってなんだよ。変な言い方すんなよ!」と怒ったが加奈は、そのままにっこり笑って「またね。」と行ってしまった。梨央の顔から笑い上戸のニコニコは消え失せて固まっていた。
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「横になりなさい。」と命令口調だ、横になると上に乗ってきて、「愛してるといいなさい。」「梨央を愛している。」「最高だといいなさい。」「梨央は最高だ。」「お前しかいないといいなさい。」「梨央しかいない。」とあの悪夢の問答が続いた。
耳に顔を近づけてきたと思うと、耳元で「梨央に入れたいといいなさい。」といわれたので、顔を正面に向かせて「梨央に入れたい。」と答えた。梨央が「ねえ、あなたの本気の愛の証を私にちょうだい。誰にも上げないものを私だけにちょうだい。」といった。その意味がすぐに分かった。
「そうだな。もう1年半だからな。そろそろ本気で作らなくちゃな。」と答えて「梨央、嫌なことはもう忘れて俺に集中して。梨央が喜んでくれた方ができやすいと思うんだよ。」というと「そんな話は聞いたことないわよ。」といいながら、切ない表情に変わっていった。
その夜の俺たちは静かで暖かい気持ちだった。加奈のことがあっていらだっているはずの梨央もなぜか穏やかな優しい表情だった。二人が初めて本気で子供というものを作ろうと確かめ合った日だった。
翌朝は例のごとく二人でダラダラして、そのままカフェの朝ごはんに行こうとしていた。梨央はごく普通のTシャツとジーンズだった。玄関で靴を履く梨央の後ろに立っていて、梨央の首筋にあるものを見つけてしまった。というより見つけてよかった。
俺がまたミスをしていた。「梨央、今日はその服ダメだ。着替えなきゃ。」「どうして?」「俺またやっちゃった。ここ、つけちゃった。目立つ。ごめん。」梨央は振り向いて、「どうしてくれるの?」と睨まれたので「ごめん。」とつづけて言うと「リベンジだ!」と飛びついてきた。耳元で「あなた、赤くなってるわよ。可愛い。」といって笑った。
続く
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