2019年08月10日
THE THIRD STORY 純一と絵梨 <37 変な画家>
変な画家
梨沙はこの事件をきっかけにして塾のアルバイトは止めていたし教職の方の勉強も一時中止していた。塾のアルバイトをする代わりに、僕のサポートをするようになっていた。家族全員が事件の影響を受けた。
梨央を守るために家族は結束していた。梨央は時々深夜に泣き出したり一日中寝込んだりした。素直な明るい娘が四六時中泣き顔をする暗い人間になってしまった。僕たちが一番戸惑ったことは梨央がなぜか小学生の高学年から中学生のような物言いになってしまったことだった。「ママ怖い、一人で行けない。」が梨央の口癖のようになってしまった。
梨沙は健気だった。絵梨が梨央につきっきりだったので家事も引き受けていたし会社でも働いた。いつも明るくふるまってはいるが、時折疲れた表情を浮かべるのを知っていた。絵梨も気づいていた。
そんな日々の中、画家だという男が合いたいといってきた。男親がいいという。ホテルで待ち合わせた。名前は新田詩音といった。全く記憶にない名前だった。しかし、絵梨はその名前を知っていた。
なんでも新進の画家で最近になってよく名前を聞くようになったという話だ。「梨沙のことで折り入って話したいことがある。」という。梨央の事件のことがあったので、不審なことがあればすぐに警察に通報するつもりだった。
指定されたホテルのロビーに行った。40代ぐらいに見える男は礼儀正しいし服装もきちんとスーツにネクタイをしていた。画家といえば、Tシャツとジーンズかと思っていたので意外だった。
名刺を出すと、男は名刺は持っていないといったが代わりにパスポートを見せた。間違いなく本名だったし住所は赤坂の商業ビルになっていた。そのビルに住んでいるらしい。
「梨沙が何かございましたか?」丁寧に聞いたが用心はしていた。男は「梨沙さんと少しトラブルがありました。」といった。「梨沙さんが最近恋人と別れられたのはご存知ですか?」と聞かれてハッとした。そういえばこのごろ遊びに出るということがないと気が付いた。常に家か会社の用事をしている。
「梨沙さんも気持ちがいっぱいいっぱいでかわいそうです。妹さんに大変なことが起きたと伺っています。ご両親が妹さんにかかりっきりになっている間に梨沙さんにもいろんなことが起きています。少し、梨沙さんにも注意を払ってあげていただきたいんです。」
そういわれると返す言葉もなかった。それにしても、なぜこの男は梨沙のそんなことを知っているんだと不審に思ったし不愉快でもあった。
「失礼ですがあなたは梨沙とはどのようなご関係で?」と尋ねると、「お嬢さんは私のカフェのお客さんです。もう2年ぐらい通っていただいてます。私の絵もよく鑑賞していただいています。お嬢さんは、朝、私のカフェによって絵を見て出勤されていました。
夕方恋人と待ち合わせをされるときもありました。でも最近喧嘩をされたようでお会いになっていません。一人でお茶を飲んで絵を見て帰られます。いつもバタバタです。ゆっくりされることはありません。若い娘さんなのにかわいそうです。」
「どうもご心配をおかけして恐縮です。娘はあなたにどのようなご迷惑をおかけしたんでしょうか?私としてはできるだけのお詫びはしたいと考えておりますが。」というと男は急に恐縮して、「いや、なにも迷惑はかかっていません。出来たらいいご縁で結婚なされたらいいんではないかと思っているんです。きちんとしたお婿さんと結婚されたらいいのではないかと思っているんです。」といった。
何とも不思議な男だった。きっと、何がしかの金を要求されると思っていた。金の話は一切出なかった。新手の詐欺かもしれないと思った。その男は最後に「私がうかがったことは梨沙さんには内密に願います。私しばらくは日本を離れます。カフェには私はいませんのでご安心ください。」ともいった。
その夜、絵梨と話をした。絵梨は、その人は梨沙が好きなんじゃないかといった。僕はそれはないとわかっていた。梨沙とは年が離れすぎているし第一、惚れていたら親にややこしいことを言わなくても自分がアプローチすればいいじゃないかと思った。
毎日自分のカフェに通ってくる娘なら自分が誘うのが普通じゃないかと思った。どこの男がいきなり惚れた女の父親に説教をくらわすんだ?とにかく警戒した。梨沙にはあまり出歩かないように言ったがカフェを名指すわけにはいかなかった。
続く
梨沙はこの事件をきっかけにして塾のアルバイトは止めていたし教職の方の勉強も一時中止していた。塾のアルバイトをする代わりに、僕のサポートをするようになっていた。家族全員が事件の影響を受けた。
梨央を守るために家族は結束していた。梨央は時々深夜に泣き出したり一日中寝込んだりした。素直な明るい娘が四六時中泣き顔をする暗い人間になってしまった。僕たちが一番戸惑ったことは梨央がなぜか小学生の高学年から中学生のような物言いになってしまったことだった。「ママ怖い、一人で行けない。」が梨央の口癖のようになってしまった。
梨沙は健気だった。絵梨が梨央につきっきりだったので家事も引き受けていたし会社でも働いた。いつも明るくふるまってはいるが、時折疲れた表情を浮かべるのを知っていた。絵梨も気づいていた。
そんな日々の中、画家だという男が合いたいといってきた。男親がいいという。ホテルで待ち合わせた。名前は新田詩音といった。全く記憶にない名前だった。しかし、絵梨はその名前を知っていた。
なんでも新進の画家で最近になってよく名前を聞くようになったという話だ。「梨沙のことで折り入って話したいことがある。」という。梨央の事件のことがあったので、不審なことがあればすぐに警察に通報するつもりだった。
指定されたホテルのロビーに行った。40代ぐらいに見える男は礼儀正しいし服装もきちんとスーツにネクタイをしていた。画家といえば、Tシャツとジーンズかと思っていたので意外だった。
名刺を出すと、男は名刺は持っていないといったが代わりにパスポートを見せた。間違いなく本名だったし住所は赤坂の商業ビルになっていた。そのビルに住んでいるらしい。
「梨沙が何かございましたか?」丁寧に聞いたが用心はしていた。男は「梨沙さんと少しトラブルがありました。」といった。「梨沙さんが最近恋人と別れられたのはご存知ですか?」と聞かれてハッとした。そういえばこのごろ遊びに出るということがないと気が付いた。常に家か会社の用事をしている。
「梨沙さんも気持ちがいっぱいいっぱいでかわいそうです。妹さんに大変なことが起きたと伺っています。ご両親が妹さんにかかりっきりになっている間に梨沙さんにもいろんなことが起きています。少し、梨沙さんにも注意を払ってあげていただきたいんです。」
そういわれると返す言葉もなかった。それにしても、なぜこの男は梨沙のそんなことを知っているんだと不審に思ったし不愉快でもあった。
「失礼ですがあなたは梨沙とはどのようなご関係で?」と尋ねると、「お嬢さんは私のカフェのお客さんです。もう2年ぐらい通っていただいてます。私の絵もよく鑑賞していただいています。お嬢さんは、朝、私のカフェによって絵を見て出勤されていました。
夕方恋人と待ち合わせをされるときもありました。でも最近喧嘩をされたようでお会いになっていません。一人でお茶を飲んで絵を見て帰られます。いつもバタバタです。ゆっくりされることはありません。若い娘さんなのにかわいそうです。」
「どうもご心配をおかけして恐縮です。娘はあなたにどのようなご迷惑をおかけしたんでしょうか?私としてはできるだけのお詫びはしたいと考えておりますが。」というと男は急に恐縮して、「いや、なにも迷惑はかかっていません。出来たらいいご縁で結婚なされたらいいんではないかと思っているんです。きちんとしたお婿さんと結婚されたらいいのではないかと思っているんです。」といった。
何とも不思議な男だった。きっと、何がしかの金を要求されると思っていた。金の話は一切出なかった。新手の詐欺かもしれないと思った。その男は最後に「私がうかがったことは梨沙さんには内密に願います。私しばらくは日本を離れます。カフェには私はいませんのでご安心ください。」ともいった。
その夜、絵梨と話をした。絵梨は、その人は梨沙が好きなんじゃないかといった。僕はそれはないとわかっていた。梨沙とは年が離れすぎているし第一、惚れていたら親にややこしいことを言わなくても自分がアプローチすればいいじゃないかと思った。
毎日自分のカフェに通ってくる娘なら自分が誘うのが普通じゃないかと思った。どこの男がいきなり惚れた女の父親に説教をくらわすんだ?とにかく警戒した。梨沙にはあまり出歩かないように言ったがカフェを名指すわけにはいかなかった。
続く
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