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2018年03月18日
<医療>眠りの質を下げない「夜のお酒」の飲み方
<医療>眠りの質を下げない「夜のお酒」の飲み方
よく眠れるようにと、就寝前にお酒を飲むことを「寝酒」と呼びます。睡眠の専門家は「アルコールの摂取は睡眠の質を下げる」と言い続けていますが、なかなか理解されていないようです。寝酒が睡眠の質を下げる理由と、それを防ぐ夜のお酒の飲み方について、睡眠研究の第一人者である内村直尚・久留米大学教授に聞きました。【毎日新聞医療プレミア】
日本を含む世界10カ国の3万5327人を対象に睡眠に関連する行動を調査した研究では、寝酒をする日本人の割合は30.3%でした。10カ国の平均が19.4%ですから、大きく上回ることが分かっています。日本人の「寝酒信仰」は強いようです。
◇なぜ、お酒を飲むと眠くなるのか
寝酒を習慣にする人にその理由を聞くと、多くの方が「ぐっすり眠れるから」と答えます。確かにお酒を飲むと眠くなるので、そう思ってしまうのも仕方ありません。
神経細胞の間で情報を伝える物質を神経伝達物質といいます。脳には「γ-アミノ酪酸(Gamma Amino Butyric Acid)」という神経伝達物質が存在します。英語名の頭文字を取った略称「GABA」で呼ばれることが多く、健康食品などでこの名前を聞いたことがある人も多いと思います。
脳内の神経細胞にはこのGABAを受け取る部分(GABA受容体)があります。GABAがGABA受容体に結合すると、神経細胞の興奮が抑制され、鎮静が起こります。これが眠気をもたらす作用の一つになっています。
お酒を飲むと、胃や腸で吸収されたアルコールが血流に乗って脳内に届きます。アルコールはGABA受容体に結合するので、GABAがGABA受容体に結合した時と同じように眠気を感じるのです。
◇アセトアルデヒドが覚醒を起こす
しかし、お酒を飲んで倒れこむように眠った後、突然夜中にパッと目が覚めてしまったり、いつもより朝早く目覚めてしまったりした経験を持つ人は多いはずです。これは、アルコールが分解される過程でできるアセトアルデヒドの作用によるものです。
アセトアルデヒドには交感神経を刺激する作用があります。交感神経は別名「昼の神経」とも呼ばれ、体を活発にする時に働きます。お酒を飲んで寝ると、睡眠中にアセトアルデヒドが交感神経を刺激してしまい、目が覚めてしまうのです。
早く眠りにつけたとしても、すぐに目覚めてしまうのでは睡眠としてあまり意味をなしません。成人は健康を維持するために、毎日6〜8時間の連続した睡眠を取ることが望ましいからです。
一度目が覚めると、再び眠りにつくことがなかなかできず、睡眠の質が下がってしまいます。つまり、寝酒をすると熟睡ができないのです。
また、寝る前にお酒を飲んで、さらに睡眠改善薬を服用する方がいます。寝入りはかなりスムーズかもしれませんが、アセトアルデヒドの覚醒効果で薬の効果が相殺されてしまいます。時には健忘を伴う異常行動が出現することもあります。
◇睡眠を妨げないお酒の飲み方
寝酒をしている人の多くは、寝付きをよくするために無理やりお酒を飲んでいるのではなく、お酒が好きで、ついでに寝付きもよくしようという人が多いようです。私もさすがに、良好な睡眠が取れなくなるからお酒を全く飲むなと言うつもりはありません。そこで睡眠に悪影響を及ぼさないお酒の飲み方をお話しします。
鍵を握るのはアルコールの分解速度です。体重50〜70kgの一般的な成人が、ビール大瓶1本あるいは日本酒1合を飲んだ場合、アルコールが完全に分解されるまでには3〜5時間かかるといわれています。
ですから、夜は11時に眠りにつき、翌朝6時に起きるという生活習慣の人ならば、午後6〜8時ぐらいにビール大瓶1本あるいは日本酒1合程度を飲むのであれば、睡眠の質にはあまり悪影響を及ぼさないといえます。つまり、夕食時間中の晩酌程度なら大きな問題はありません。
アルコールの分解速度には個人差があります。小柄な人や女性は分解速度が遅いといわれていますので、これは一つの目安です。飲むお酒の量が増えると分解にかかる時間は当然長くなります。前述の2倍の量を飲むならば、分解には2倍の時間がかかると考えてください。
良好な睡眠のためには、午後8時くらいまでの夕食時にほどほどの晩酌を楽しむのが最適なのです。