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2020年06月02日

夜中の警備のバイト

俺のツレと言うのが、いわゆる夜中の警備のバイトと言うヤツをやっていて、これはそのツレにまつわる話なんだが… ある日、ソイツが言うんだよ。 「何かさ、最近、バイト中に鳴き声がするんだよな」 「まあ、近所に猫くらい居るだろ?」 「いや、それがな…ほら、春先によくいるだろ、盛りがついて『あーおあーお』って鳴いてるのが…  ああいうのが居てな、正直、気持ち悪くてたまらん」 「ああ。それはちょっと気持ち悪いなぁ…まあ、頑張れよ」 その日はそんな感じで終った。 それから数日後… ツレがどうにも浮かない表情なんで、何かあったのかと聞いてみたんだ。 「前に、猫が居るって話しただろ?」 「猫?ああ、何か気味悪い声で鳴くってヤツか?」 「アレな…猫じゃ無いんだよ。多分…って言うか、間違いなくアレ、人だぜ」 「そうなのか?」 「ああ。昨日な、見回りしてたらやっぱり猫の声がしてな…でも、何か違うんだわ。  なんていうか…前より近づいてきてる感じ?  そしたら妙にはっきりと聞こえてきてな、アレは猫じゃない…人だ」 「うはぁ、それはちょっと気味悪いな…近所にそんなヤツが居るのか」 「違うんだよ」 「違う?」「その声な…建物の中でしてるんだよ」 「おいおい。入られてるじゃないか、しっかりしろよな警備員?」 「いや、でも普通さ、窓破って入ってきたりすると警報とか鳴るだろ?鳴らないんだよ。  それに、どこ探しても誰もいないしな…なんかもう、バイト行きたくないわ」 苦笑交じりでそう言うツレに何を言って良いのか分からずに、その日はそれで終ってしまった。 そして、やっぱりそれから数日後。 そろそろ真夜中になろうかと言うときに、ツレから電話があったんだ。 『もしもし、オマエか!これやべぇ、これやべぇぞ!』 「おいおい、どうしたんだよ。今バイト中だろうが?」 『そうだよ、警備中だよ!っつーか、ヤバイ!ヤバイってこれ!』 ツレはやたらと焦った様子で、やべぇ!やべぇ!を繰り返す。 とりあえず落ち着けと言ってはみたが、そんな事お構い無しにヤツは続ける。 『声、するんだよ!呼んでるんだよ!』 「呼んでる?」 『俺の名前だよ!何で俺の名前、知ってるんだよ!?何で、どんどん近づいてくるんだよ!?』 「おいおい、落ち着けって!」 ツレを落ち着かせようとしながらも、俺も心臓バクバク… 何故なら、ぎゃあぎゃあと騒ぐツレの背後で小さく、微かだがはっきりと、 「おおん おおん」って感じの、うめき声みたいなのが聞こえてたんだ。 『こえーよ!どうしたら良いんだよ!?こんな事、俺聞いてないぞ!?どうにかしてくれよ!』 錯乱の極みといった感じのツレの様子に、だけど俺に何も出来るはずもなく、 謎のうめき声は確かにどんどん近づいてきているようで。 『…………』 「?」 いきなり受話器の向こうから不意に音が消えた。 ぴんと張り詰めたような無音が暫く続き、俺がツレに何か声をかけようとした、その瞬間―― 『○○(ツレの名前)』 聞いたことも無いしわがれた声と共に、ツレの名を呼ぶその一言が響き渡り、次の瞬間には通話は切れてしまった。 後には呆然とするしかない俺が残されるばかり。 後日、ツレはバイトを辞めてしまった。 あの時何があったのかと聞いても、ヤツは曖昧に言葉を濁してしまう。 ツレはあの時、何を見たのだろうか。 <感想> 気になる!
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