2023年12月29日
勝手に小説『扉と少女3』
ーー友人の扉ーー
木を登り始めて少ししたら、何やら空から飛んでくるものが!
「おっけらさん!何か近づいて来ます!」
「ん?あぁ、彼なら大丈夫だよ。私のお隣さんだ」
お隣さん?どういう事か、咲は理解出来なかった。
そして、その空からの訪問者は、登っていた木のおっけらさんの位置から少し上の場所に止まった。
「おっけらさん。久しぶりですね。これから脱皮ですか?」
「おぉ。ツクさん。久しぶりだねぇ。調子はどうだい?」
「えぇ。順調です。既に産卵の準備は終わったので、ここに帰ってきたんだよ。」
「そうかい。それはご苦労だったねぇ。ゆっくり休んでくれよ。」
「あぁ、そうさせてもらうよ。でもおっけらさんは出てくるの遅かったねぇ。」
「まぁ、ちょっと寝坊してしまってね。でも、ツクさんが逝く前に出てこれてよかったよ。」
「まぁそうだね。でも次はおっけらさんの番だから、しっかりね。」
と何やら世間話が弾んでいるようだったので、咲はその間に少し近くの枝に座って休憩していた。
昔の友人みたいで楽しそうだなと思いながら、おっけらさんを見ていた。
?でも、お友達のツクさんって、セミでは?
これまたやはり自分と同じサイズの!
この世界はどうなっているのだろうと、少し不安に思いつつ、2匹の会話に聞き入っていた。
「そろそろ脱皮の時間が近づいてきたので、行くとするよ。」
「あぁ、こちらも疲れたので、そろそろお休みさせて頂くとするよ。」
「んじゃね。咲さんお待たせしたね。上に上がろうか。」
と挨拶が終わると、おっけらさんはそそくさと木登りを再開し始めた。
咲は、ツクさんにお辞儀をして、おっけらさんの後を追うように木登りを始めた。
木登りを再開して、数分もたたない時、下の方から『ぼとっ』と、何かが落ちる音がしたので、咲は下を覗いて見た。
下の方で、なんと先ほどおっけらさんと話をしていたツクさんが仰向け状態で落ちてしまっているではないか!
咲は、慌てておっけらさんに話かけた。
「おっけらさん!下見て!お友達のツクさんが!」
話かけられたおっけらさんは、慌てる様子もなく、咲に話かけた。
「あぁ、時間が来たんだね。僕らセミの宿命ってやつだよ。」
「宿命って?」
と咲が聞いた。
「僕たちは、成虫になってからは約1週間しか生きられない。」
「その1週間の間で、相手を見つけて卵を産んでもらわないといけないんだ。」
「ツクさんは、その1週間で役目を終えたので、心置きなく逝けてよかったよ。」
と、少し悲しさもあるが、ツクさんを思いやる気持ちのこもった力強い声で答えてくれた。
「でも、1週間なんて、なんて短いの」
と咲が鳴き声でおっけらさんに言ったら、おっけらさんは笑顔で
「ありがとう。人間の寿命は自分らに比べたらとても長いから分からないかもだけど、短い人生でも、自分なりに生きて、充実した人生を送ることが出来たら、それで幸せなんだよ。」
「ツクさんも、自分の人生を楽しく全うしたから、最後に笑顔で自分と別れて行ったんだよ。だから、悲しくはないんだ。」
咲には、まだ高校生という若さの為か、おっけらさんの言っている事が理解出来なかったが、なぜか心の奥底では理解して安心感が増していって、涙が止まらなかった。
これまでの自分の学校生活で、充実はしていなかったが、人生を楽しく全うしていたかはわからなかった。いや考えようともしていなかったと思う。
そう考えると、更に涙が止まらなくなった。
おっけらさんは、そんな咲を一度振り向いて観たが、何も言わずにまた上の方に登り始めていった。
>> 『旅立ちの扉』に続く
木を登り始めて少ししたら、何やら空から飛んでくるものが!
「おっけらさん!何か近づいて来ます!」
「ん?あぁ、彼なら大丈夫だよ。私のお隣さんだ」
お隣さん?どういう事か、咲は理解出来なかった。
そして、その空からの訪問者は、登っていた木のおっけらさんの位置から少し上の場所に止まった。
「おっけらさん。久しぶりですね。これから脱皮ですか?」
「おぉ。ツクさん。久しぶりだねぇ。調子はどうだい?」
「えぇ。順調です。既に産卵の準備は終わったので、ここに帰ってきたんだよ。」
「そうかい。それはご苦労だったねぇ。ゆっくり休んでくれよ。」
「あぁ、そうさせてもらうよ。でもおっけらさんは出てくるの遅かったねぇ。」
「まぁ、ちょっと寝坊してしまってね。でも、ツクさんが逝く前に出てこれてよかったよ。」
「まぁそうだね。でも次はおっけらさんの番だから、しっかりね。」
と何やら世間話が弾んでいるようだったので、咲はその間に少し近くの枝に座って休憩していた。
昔の友人みたいで楽しそうだなと思いながら、おっけらさんを見ていた。
?でも、お友達のツクさんって、セミでは?
これまたやはり自分と同じサイズの!
この世界はどうなっているのだろうと、少し不安に思いつつ、2匹の会話に聞き入っていた。
「そろそろ脱皮の時間が近づいてきたので、行くとするよ。」
「あぁ、こちらも疲れたので、そろそろお休みさせて頂くとするよ。」
「んじゃね。咲さんお待たせしたね。上に上がろうか。」
と挨拶が終わると、おっけらさんはそそくさと木登りを再開し始めた。
咲は、ツクさんにお辞儀をして、おっけらさんの後を追うように木登りを始めた。
木登りを再開して、数分もたたない時、下の方から『ぼとっ』と、何かが落ちる音がしたので、咲は下を覗いて見た。
下の方で、なんと先ほどおっけらさんと話をしていたツクさんが仰向け状態で落ちてしまっているではないか!
咲は、慌てておっけらさんに話かけた。
「おっけらさん!下見て!お友達のツクさんが!」
話かけられたおっけらさんは、慌てる様子もなく、咲に話かけた。
「あぁ、時間が来たんだね。僕らセミの宿命ってやつだよ。」
「宿命って?」
と咲が聞いた。
「僕たちは、成虫になってからは約1週間しか生きられない。」
「その1週間の間で、相手を見つけて卵を産んでもらわないといけないんだ。」
「ツクさんは、その1週間で役目を終えたので、心置きなく逝けてよかったよ。」
と、少し悲しさもあるが、ツクさんを思いやる気持ちのこもった力強い声で答えてくれた。
「でも、1週間なんて、なんて短いの」
と咲が鳴き声でおっけらさんに言ったら、おっけらさんは笑顔で
「ありがとう。人間の寿命は自分らに比べたらとても長いから分からないかもだけど、短い人生でも、自分なりに生きて、充実した人生を送ることが出来たら、それで幸せなんだよ。」
「ツクさんも、自分の人生を楽しく全うしたから、最後に笑顔で自分と別れて行ったんだよ。だから、悲しくはないんだ。」
咲には、まだ高校生という若さの為か、おっけらさんの言っている事が理解出来なかったが、なぜか心の奥底では理解して安心感が増していって、涙が止まらなかった。
これまでの自分の学校生活で、充実はしていなかったが、人生を楽しく全うしていたかはわからなかった。いや考えようともしていなかったと思う。
そう考えると、更に涙が止まらなくなった。
おっけらさんは、そんな咲を一度振り向いて観たが、何も言わずにまた上の方に登り始めていった。
>> 『旅立ちの扉』に続く
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