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2018年01月05日
東野圭吾『ウインクで乾杯』
『ウインクで乾杯』は、東野圭吾7作目の作品。
元々は『香子の夢 ― コンパニオン殺人事件』というタイトルでしたが、後に『ウインクで乾杯』に改題されました。
これまでの東野圭吾の作風とは打って変わった軽いタッチの作品です。
パーティ・コンパニオンの小田香子は恐怖のあまり声も出なかった。
仕事先のホテルの客室で、同僚牧村絵里が、毒入りビールを飲んで死んでいた!
現場は完全な密室、警察は自殺だというが・・・。
やがて絵里の親友由加利が自室で扼殺され、香子にまで見えざる魔の手が迫ってきた・・・。
誰が、なぜ、何のために・・・!?
ミステリー界の若き旗手が放つ長編本格推理の傑作!
さあ、『ウインクで乾杯』について語りましょう。
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1 あらすじ
パーティ・コンパニオンの小田香子には大きな夢があります。
玉の輿に乗ってセレブ生活を送ること。
老舗宝石店「華屋」のパーティーで、お目当ての不動産会社専務・高見俊介に近づくことができた香子は心が浮き立ちます。
しかし、そのパーティーの後、香子の同僚・絵里が毒入りビールを飲んで死んでいるのが見つかります。
死体発見現場であるホテルの部屋が完全な密室であったことから、警察は自殺と判断しますが、香子は絵里が自殺するとは到底思えません。
香子の隣室に住む刑事・芝田も同様にこの自殺には不自然さを感じ、独自の捜査を進めていました。
やがて、絵里の親友である由加利も絵里の自殺に疑いを抱き、そして重大な情報を掴みます。
その情報について香子に知らせようとしたところ、由加利も何者かによって扼殺されてしまいます。
そして、香子にも見えざる魔の手が・・・。
2 登場人物
小田香子
パーティ・コンパニオン。
「バンビ・バンケット」に所属。24歳。
牧村絵里
大手事務所から「バンビ・バンケット」に移籍してきた。
「華屋」のパーティーの後、ホテルの一室で死体となって発見される。
米沢
「バンビ・バンケット」の営業社員。
江崎洋子
「バンビ・バンケット」のチーフコンパニオン。
浅岡綾子
「バンビ・バンケット」のコンパニオン。香子の同僚。
真野由加利
フリーのパーティ・コンパニオン。絵里の親友。
丸本久雄
「バンビ・バンケット」の社長。女に手が早い。
高見雄太郎
高見不動産の元社長。伊瀬耕一に殺害された。
高見礼子
高見雄太郎の娘。
高見康司
高見雄太郎の実弟。雄太郎の死後、高見不動産の社長に就任。
高見俊介
高見不動産の専務。高見雄太郎の甥。香子のターゲット。
西原正夫
老舗宝石店「華屋」の社長。
西原昭一
西原正夫の長男。「華屋」の副社長。
西原健三
西原正夫の三男。優秀な兄と違い馬鹿息子と呼ばれている。
佐竹
西原健三の黒子。
伊瀬耕一
牧村絵里の恋人で画家の卵。高見雄太郎を殺害し自身も自殺。
牧村規之
牧村絵里の兄。
芝田
警視庁捜査一課の刑事。30歳前後。
背が高くて色黒。香子の隣に住む。
直井
警視庁捜査一課の刑事。芝田より年上で妻子持ち。
坂口
警視庁捜査一課係長。あだ名は「豆狸」。
松谷
警視庁捜査一課の警部。芝田や直井の上司。
加藤
築地警察署の刑事。
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3 第一の殺人
「華屋」のパーティーが開催されたその日の夜、会場ホテルの一室で絵里が毒入りビールを飲んで死んでいるのが発見されます。
死体発見現場が先程まで香子たちが控え室として使用していた部屋。
警察は現場が密室であったこと、丸本との関係が悪化していたことから、絵里は自殺であると判断します。
しかし酒が得意でない絵里がビールに毒物を入れて飲んだこと、絵里は丸本とのもつれ程度で自ら死を選ぶような人間ではないことから、香子は絵里の自殺に疑問を感じます。
絵里の死の真相は?
密室の謎は?
芝田も独自の捜査でこの事件に立ち向かいます。
4 第二の殺人
絵里の親友である由加利も絵里の死は自殺ではないと思っていました。
由加利も独自に事件を調べており、重大な情報を掴んだのですが、それを香子に伝える前に何者かに扼殺されてしまいます。
そして、由加利の部屋は荒らされていました。
犯人が探している、由加利が持つ重大な情報とは何でしょうか?
5 トリック
第一の殺人では、絵里がどのようにして毒を飲んだのか、犯人はどのように密室を作ったのか、この2つが解決のキーポイントとなります。
芝田は独自に捜査を進め、絵里の殺害方法、密室のトリックを解明します。
トリックの仕掛けについて箇条書きで説明してくれているますが、その内容については賛否両論分かれるところではないでしょうか。
第二の殺人の謎は、由加利が入手した重大な情報とは何か、その情報はどこにあるのか、ということ。
ビートルズの名曲が謎のカギを握っているようですが、これについても意見は二分しそう。
背表紙に「長編本格推理の傑作!」と謳っていますが、トリックについてはあまり期待しないほうがいいかもしれません。
6 香子の恋の行方
香子の夢は玉の輿に乗って優雅な生活を送ること。
パーティ・コンパニオンという職に就いたのも、多くの資産家と出会うため。
今の香子のターゲットは、高見不動産専務・高見俊介。
しかし、今回の事件において、高見の行動にも不審な点が見られます。
高見も事件の真相に近づきたくて香子に接近して来ているのではないか。
何故高見は事件の真相や警察の捜査状況を知りたいのか。
そして、香子の隣に住む警視庁捜査一課刑事・芝田。
香子と芝田は協力し合いながら謎の解明に挑みます。
7 作品の印象
これまでの東野圭吾作品とは打って変わった雰囲気の作品。
作品全体が軽いタッチで進み、サクサク読み進めていくことができます。
主に香子の視点でストーリーは進んでいきますが、香子が感じたことがそのまま表現されているところが面白いところ。
香子と柴田のやり取りもテンポ良く楽しむことができます。
自動車電話、プリプリ、カセットテープなど、色々時代を感じられ、そこを楽しむ読者もいるのではないでしょうか。
絵里殺害のトリックや、由加利が掴んだ重大な情報については、賛否両論あると思いますが、事件の真相については流石の一言。
残りページが少なくなってきているのに、なかなか真相にたどり着かない。
最後ギリギリのところですべてが明らかになり、その意外な結末に驚く読者もいると思います。
まとめ
『ウインクで乾杯』7つのポイント
1 これまでにない軽いタッチ
2 香子と芝田のテンポ良いやりとり
3 第一の殺人のトリックとは?
4 第二の殺人のキーとなる重大な情報とは?
5 高見俊介の狙いは?
6 香子の恋の行方は?
7 事件の真相、意外な結末とは?
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東野圭吾『魔球』
『魔球』は、東野圭吾6作目の作品。
25歳のときに書き上げ、江戸川乱歩賞の最終候補まで残った作品で、事実上の東野圭吾のデビュー作。
これまではアーチェリー、剣道、ビリヤードと、あまりメジャーとは言えないスポーツを取り扱ってきましたが、この作品のスポーツは野球。
そして舞台設定は昭和39年。
物語は須田武志が甲子園のマウンドに立っているところから始まります。
九回裏二死満塁、春の選抜高校野球大会、開陽高校のエース須田武志は、最後に揺れて落ちる“魔球”を投げた!
すべてはこの一球に込められていた・・・。
捕手北岡明は大会後まもなく、愛犬と共に刺殺体で発見された。
野球部の部員たちは疑心暗鬼に駆られた。
高校生活最後の暗転とエイエンの純情を描いた青春推理。
さあ、『魔球』について語りましょう。
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1 あらすじ
昭和39年3月30日。
須田武志は甲子園球場のマウンドに立っていました。
相手は強豪・亜細亜学園。
九回裏二死満塁で須田が投げたラストボールに相手打者は空振りしますが、捕手北岡もボールを後逸してしまいます。
須田が投げた球が、これまで北岡も見たことのないような変化をしたのでした。
それから間もなく、北岡が愛犬と共に刺殺体で発見されます。
その5日前、3月23日。
東西電機株式会社内に爆弾が仕掛けられたという連絡がありました。
しかし犯人にはどうやら爆弾を爆発させる意思は無い様子。
北岡の死の謎とは?
東西電機に仕掛けられた爆弾の目的は?
そして、第二の殺人事件が起こります。
2 登場人物
須田武志
開陽高校3年生。野球部のエース。
弱小だった開陽高校を甲子園に連れて行く。
プロ野球からも注目されている逸材。
須田勇樹
開陽高校2年生。須田武志の弟。成績優秀。
北岡明
開陽高校3年生。野球部捕手。須田武志とバッテリーを組む。チームの主将を務める。
田島恭平
開陽高校3年。野球部控え投手。
森川
開陽高校物理教師。野球部顧問。
手塚麻衣子
開陽高校古文教師。
須田志摩子
須田武志、須田勇樹の母。
中条健一
東西電機株式会社社長。
芦原誠一
元東西電機野球部投手。
高間
県警本部捜査一課の刑事。森川、手塚麻衣子とは旧知。
3 第一の殺人
開陽高校が選抜大会で敗退してまもなく、正捕手の北岡明が愛犬と共に刺殺体で発見されます。
捜査の結果、犯人は先に犬を刺し、その後北岡を視察したことが判明しました。
何故犯人は先に犬を刺したのでしょうか。
そして、北岡のアルバムに残された「魔球を見た」のコメント。
北岡の死の真相とは?
「魔球」とは一体どういうことなのでしょうか?
4 東西電機株式会社爆弾騒ぎ
東西電機株式会社に爆弾が仕掛けられました。
しかし犯人は爆発させるつもりは無い様子。
一体誰が何のためにこのような騒動を起こしたのでしょうか。
そして、犯人から届いた脅迫状。
そこには、爆破計画を中止して欲しければ1,000万円を用意し、取引には中条社長1人で来るように記されていました。
犯人の要求どおりに中条社長が取引に向かったとき、中条社長が何者かにさらわれます。
1,000万円はそのままで中条社長だけが連れ去られてしまうという事態に警察も驚愕すします。
さらに、中条社長は間もなく戻ってきました。
犯人の目的は一体何なのでしょうか?
5 須田武志
プロ野球のスカウトからも注目される天才高校生投手。
溢れる才能と並々なら努力で、弱小だった開陽高校を甲子園に導きます。
いつも1人で誰も寄せ付けず、ぶっきらぼう。
やられたら相手の嫌がることで仕返し、勝つためには多少強引なことも平気で行います。
金に執着しプロ野球入りに強くこだわります。
影があり屈折した性格ではありますが、その裏には彼が育った環境と彼の優しさが潜んでいました。
非常に際立ったキャラクターであり、読者を惹きつける魅力を持った人物です。
6 第二の殺人
北岡の死体が発見されて捜査が難航している頃、そして東西電機株式会社で爆弾騒ぎと社長連れ去り事件が発生した頃、第二の殺人事件が起こります。
その被害者は意外な人物でした。
死体は腹部を刺されており、これが致命傷と思われましたが、それ以上に死体には目立つ特徴がありました。
そして死体のそばには「マキュウ」の文字が。
何故この人物が殺されなければならなかったのでしょうか。
何故この死体はこのような状態だったのでしょうか。
「マキュウ」というメッセージの謎は?
7 事件の真相
この事件の真相はとても切なく、悲しく、そして優しいものでした。
二つの殺人事件と東西電機の爆弾事件。
それぞれの事件にどのような関係があるのか、張りめぐらされた伏線がきれいに回収され、真相が明らかになっていきます。
一見関係なさそうな2つの事件が実はつながりがあること、事件の奥にある人の心の強さと優しさの表現など、東野圭吾作品の基本形と言ってもよいのではないでしょうか。
読者がその登場人物にどのように感情移入するのかは様々ですが、この『魔球』に関して言えば、多くの読者が読後「切なさ」を感じるのではないでしょうか。
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まとめ
『魔球』7つのポイント
1 須田武志のキャラクター
2 東西電機株式会社の爆弾騒ぎ
3 第一の殺人
4 東西電機株式会社の社長連れ去り事件
5 第二の殺人
6 殺人事件と爆弾騒ぎのつながりは?
7 事件の背景、真相は?
2017年12月27日
東野圭吾『11文字の殺人』
『11文字の殺人』は、東野圭吾5作目の作品。
これまでは学生が主人公の作品ばかりでしたが、今回は30台の女流推理作家。
初めて職に就いた人が主人公になっており、これまでの作品とは少し雰囲気の違う本格ミステリー。
事件の背景や犯人の動機など、色々賛否両論ある作品でもあります。
「気が小さいのさ」あたしが覚えている彼の最後の言葉だ。
あたしの恋人が殺された。
彼は最近、「狙われている」と怯えていた。
そして、彼の遺品の中から、大切な資料が盗まれた。
女流推理作家のあたしは、編集者の冬子とともに真相を追う。
しかし、彼を接点に、次々と人が殺されて・・・。
11文字に秘められた真実とは?
サスペンス溢れる本格推理!
さあ、『11文字の殺人』について語りましょう。
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1 あらすじ
「あたし」の恋人・フリーライターの川津雅之は最近誰かに命を狙われていると感じていました。
出会いから2ヶ月、川津は海で無残な死体で発見されます。
そして彼の遺品を整理したときに現れたカメラマンの新里美由紀。
彼女は川津の遺品の中の資料にこだわっていました。
そして、「あたし」が預かった遺品から何かが誰かによって盗まれた様子。
「あたし」は新里美由紀と会う約束をしましたが、次はその新里美由紀が殺されます。
川津が残し、何者かに盗まれた資料が2人の殺人事件に関係しているのではないか、
そう思った「あたし」は編集者で親友の冬子と一緒にこの2つの事件の謎の解明に取り掛かります。
次々と浮かび上がる事実と、事件の背景にある出来事。
「あたし」は調査を続けますが、さらに被害者が出てしまいます。
何故被害者は命を狙われたのでしょうか。
「無人島より殺意をこめて」、この11文字に隠された謎とは一体?
2 登場人物
あたし
女流推理作家。30代。
萩尾冬子
編集者。「あたし」の親友。「あたし」と同い年。
川津雅之
「あたし」の恋人。フリーライター。何者かに殺される。
新里美由紀
カメラマン。川津と仕事をしたことがあり、川津の遺品の資料にこだわる。
山森卓也
ヤマモリ・スポーツプラザの経営者で、「ヤマモリグループ」オーナーの娘婿。
春村志津子
ヤマモリ・スポーツプラザの事務員。
石倉佑介
ヤマモリ・スポーツプラザのインストラクター。山森卓也の実弟。
山森由美
山森卓也の娘。生まれつき目が不自由。
山森正枝
山森卓也の妻。
村山則子
山森卓也の秘書。山森卓也の姪にあたる。
金井三郎
ヤマモリ・スポーツプラザの従業員。
坂上豊
スポーツセンターの会員。役者。
古澤靖子
ツアー参加者。24歳OL。住所は練馬区。
竹本幸裕
海難事故で死亡。
竹本正彦
竹本幸裕の弟。
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3 3つの殺人事件の謎
川津雅之が殺された後、立て続けにさらに2つの事件が起こります。
川津が遺した資料がこれらの事件に関係しているのは間違いありません。
その背景にはクルーザーの転覆事故がありました。
その事故の関係者が次々と殺されていくのは何故なのでしょうか。
そのクルージングツアーに隠された秘密とは?
4 「あたし」の行動力
「あたし」は女流推理作家。
友人の冬子が編集者ということもあり、作品の取材と称して事件の謎に迫りやすい立場にあります。
しかし、出会ってたった2ヶ月の恋人の死のためにそこまで動くのかな、という違和感もあります。
預かった遺品から何かが盗まれた形跡があったことから、物書きとしての魂が揺さぶられたからなのでしょうか。
少し感情移入しづらい主人公かもしれません。
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5 登場人物たち
登場人物が多い分、キャラクターが薄い登場人物がいるのも否めません。
ストーリー自体がそれほど長くないため、1人1人を掘り下げることができなかったからなのか、そもそも掘り下げる必要がないからなのか。
関係者たちがひた隠しにするクルージングツアーの秘密も何となく予想ができます。
しかし、その裏側にある事情を知ると人間の下卑た部分が見え、どちらが正しい判断なのかについて考えさせられます。
極限状態に置かれた人間の心理と行動とは恐ろしいと感じました。
6 第4の犠牲者
以前事故が起きたツアーと同じようなクルージングツアーが企画され、「あたし」は冬子と一緒に参加することになります。
そこで起こるもう1つの事件。
その被害者は意外な人物でした。
この事件の裏側にある謎とは?
密室事件でもアリバイ崩しでもないこの事件。
問題はその動機。
人それぞれ価値観があり、どれが正解でどれが間違っているかは一概には言えませんが、読者により印象や感想は全く異なるのではないでしょうか。
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7 人の価値観
この作品のモデルには、会社研修などで使われることもあるストーリーが題材になっています。
そのストーリーの登場人物について好感が持てる順に並べよ、という課題なのですが、人によって価値観はバラバラ。
犯人を暴いて謎を解き明かしすっきり解決、というのが推理小説の基本的な流れですが、この作品はそこで終わらせていません。
読者の価値観、判断、考えを問われ、ただの1つの読み物として終わっているわけではないのです。
結末にすっきりしない読者も多いのではないでしょうか。
しかしそれぞれの登場人物の取った行動や考え方、価値観について議論するのも楽しいかもしれません。
1つ残念なのは、『11文字の殺人』というタイトルと内容がいまいちしっくり来ないこと。
11文字に何かこだわったストーリー展開なのかと思ったのですが、そんなことはありません。
原題は『無人島より殺意をこめて』というらしいのですが、そちらの方がハマっているような気がします。
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まとめ
『11文字の殺人』7つのポイント
1 主人公が女流推理作家でバイタリティに溢れている
2 3つの殺人事件の真相とは?
3 クルージングツアーの秘密とは?
4 第4の事件の謎とは?
5 極限状態に置かれたときの人間の行動や心理とは?
6 読者はどの登場人物に感情移入し同意できるのか
7 密室やアリバイなどの難しいトリックは無い
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東野圭吾『学生街の殺人』
『学生街の殺人』は、新しい駅ができ寂れてしまった学生街を舞台にした東野圭吾の4作目の作品。
廃れてしまった旧学生街の薄暗い雰囲気の中ストーリーが始まり、殺人事件が発生します。
事件に立ち向かうのは、廃れた街同様、自分自身の将来に展望が見えないビリヤード場の店員として働く光平。
学生街のビリヤード上で働く津村光平の知人で、脱サラした松木が何者かに殺された。
「俺はこの街が嫌いなんだ」と数日前に不思議なメッセージを光平に残して・・・。
第二の殺人は密室状態で起こり、恐るべき事件は思いがけない方向に展開してゆく。
奇怪な連続殺人と密室トリックの陰に潜む人間心理の真実!
さあ、『学生街の殺人』について語りましょう。
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1 あらすじ
近くにある大学の正門が移転し新しい駅ができてしまったため廃れてしまった学生街。
そこにあるビリヤード場『青木』で働く津村光平は大学卒業後、大学院に進むと親に嘘をついてフリーターをしています。
光平の恋人・広美は光平たちも常連のバー『モルグ』で働いていますが、自分のことは何も話さず謎だらけ。
毎週火曜日は『モルグ』にも出勤せずどこかに出かけている様子。
ある日、光平の『青木』の同僚・松木が何者かによって殺されます。
松木も自分の過去については何も話さず、光平も素性を知りません。
なぜ、そして誰に松木は殺されたのでしょうか。
その謎が解けぬまま、第二の殺人が起こります。
そしてクリスマスの装飾をした松の木の下で第三の事件が起こりますが、被害者は意外な人物でした。
3つの事件の関連は?
松木の正体は?
広美の抱えた謎とは?
密室事件のトリックは?
そして犯人は一体誰なのでしょうか。
2 登場人物
津村光平
フリーター。喫茶店兼ビリヤード場の『青木』のホールで働く。
両親には大学卒業後、大学院に進んでいると嘘をついている。
有村広美
光平の恋人。カフェバー『モルグ』で働く。
突然ピアノを弾かなくなる、火曜日はどこかに外出する、など謎の多い女性。
光平も彼女の秘密を知らない。
松木元晴
『青木』のフロア責任者。自宅で何者かに殺される。
沙緒里
『青木』の従業員。
マスター
『青木』の経営者。
日野純子
広美の親友。『モルグ』を広美と共同経営している。
井原
『青木』の常連客。通称「ハスラー紳士」。
太田
井原の友人で『青木』の常連客。電子工学科の助教授。
時田
『モルグ』の常連客。書店を経営している。
武宮
工学部の大学院生。沙緒里に惚れている。松木と揉めた。
堀江
養護施設『あじさい学園』の園長。
佐伯良江
『あじさい学園』に出入りする保険外交員。
斎藤
『モルグ』に来店するレザージャケットの男。
医師。『あじさい学園』での診察も行う。
香月
事件を担当する刑事。
悦子
広美の妹。短大生。
3 第一の殺人
武宮と揉めた直後、松木が何者かに殺されます。
そして松木とは本名ではないことも判明します。
松木の正体とは一体?
なぜ松木は嫌いなこの旧学生街に来たのでしょうか。
松木の正体がこの事件のカギを握っています。
4 第二の殺人
第二の殺人のショックは大きいです。
なぜこの人が殺されなければならないのでしょうか。
そして現場は密室状態。
これまでの3作はトリックの解明に図解を用いていましたが、この作品ではそれがありません。
図解を使わなくても説明ができるトリックの方が読者としては読みやすいと思います。
そして第二の殺人には更なる謎が隠されています。
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5 第三の殺人
第三の殺人の発生は予想外で驚きます。
これまでの2つの殺人とどのような関係があるのか考えても思い浮かびません。
事件発生時のアリバイ解明もポイント。
この第三の事件が物語に深みを増し、面白くしてくれています。
6 悦子
薄暗い雰囲気の旧学生街。
物語も冒頭から暗い雰囲気。
ずっとこんな感じで進むのかとちょっと不安になっていたところ、物語中盤から登場する「悦子」が明るい雰囲気を作り出してくれます。
それにしても全体的な暗さは残ったまま。
しかし、東野圭吾作品にある、美人で強気で行動的で主人公の男性を引っ張る女性キャラクターの走りと言ってもいいのではないでしょうか。
もう少し悦子が活躍する場面を楽しみたかったと思うのも正直なところです。
相変わらずキャラクターの描写が上手いと思います。
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7 終盤のたたみかけ
始終暗く廃れた雰囲気の中で進む物語。
登場人物も暗い印象で、事件解決の行程も若干だれた印象があることも否めません。
技術の進歩はすごいものだと感心しながらも、香月の捜査のシーンなどは物語の展開にそこまで必要なのかなとも思ってしまいます。
ビリヤードもあまり馴染みが無いせいか、シーンにアクセントをつける役割は果たしているのでしょうが、いまいちピンと来ません。
光平と沙緒里のシーンも、光平のキャラクター設定にどうしても必要とは思えません。
このようなシーンが多いため、物語のボリュームも必然的に多くなり、途中でだれてしまう読者もいるかもしれません。
しかし、犯人が判明してからのたたみかけは流石の一言。
第一の殺人、第二の殺人の謎が解け、さらにその奥にある第三の殺人の謎が明らかになったとき、これまで溜まっていたものが一気に発散されます。
各所に張りめぐらされた伏線もきれいに回収され大満足。
あのシーンのあんなところも伏線だったのか、と驚きもあり、すっきりします。
そして、「加賀恭一郎」シリーズ第1作で東野圭吾のデビュー作でもある『放課後』に出てきたあそこが出てくるのもファンにとっては嬉しい仕掛けです。
まとめ
『学生街の殺人』7つのポイント
1 廃れ寂れた旧学生街が舞台
2 将来に展望が持てない光平が事件を通してどのように成長していくか
3 松木の正体は?
4 広美の謎は?
5 3つの殺人事件の関連は?
6 主人公を引っ張る悦子の存在
7 終盤のたたみかけ
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東野圭吾『白馬山荘殺人事件』
『白馬山荘殺人事件』は、『放課後』『卒業 雪月花殺人ゲーム』に次ぐ東野圭吾の3作目。
過去2作のような学園ミステリーではなく、冬の信州のペンションを舞台に起こる密室殺人と暗号解読に挑戦した本格推理小説です。
一年前の冬、「マリア様はいつ帰るのか」という言葉を残して自殺した兄・公一。
その死に疑問を抱いた妹の女子大生・ナオコは、親友のマコトと、兄が死んだ信州・白馬のペンション「まざあ・ぐうす」を訪ねた。
常連の宿泊客たちは、奇しくも一年前と同じ。
各室に飾られたマザー・グースの歌に秘められた謎、ペンションに隠された過去とは?
暗号と密室の本格推理傑作。
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1 あらすじ
一年前の冬に信州・白馬にあるペンション「まざあ・ぐうす」で服毒死した公一。
部屋が密室であったこと、公一がノイローゼ気味であったこと、ペンションの従業員や他の客と公一の接点が見つからなかったことから、警察は公一の死を自殺と判断します。
しかし、公一からは『「マリア様が家に帰るのはいつか?」を調べてほしい』と絵葉書が届いています。
兄の自殺に納得がいかないナオコは親友であるマコトと共に「まざあぐうす」を訪れます。
「まざあ・ぐうす」の各室には「マザー・グース」の絵と歌が飾られており、それが暗号になっているのではないかと思い至ります。
公一が死ぬ1年前、このペンションでは転落事故で1人の客が亡くなっていました。
そして今年も、宿泊客の1人が石橋から落ちて死んでしまいます。
3年連続で起きる宿泊客の死。
果たしてこの3つの死に関連はあるのでしょうか。
マザー・グースの歌に秘められた暗号の謎とは?
ナオコとマコトは少しずつ真相に近づいていきます。
2 登場人物
ナオコ
大学3年生。兄・公一の死に疑惑を抱く。
マコト
ナオコの親友。ナオコと共に事件の真相を追う。
マスター
「まざあ・ぐうす」ペンションのオーナー。
シェフ
「まざあ・ぐうす」ペンションの共同経営者。大男。
高瀬
ペンションの20歳過ぎの男性従業員。
クルミ
ペンションの20代半ばの女性従業員。
ドクター夫妻
老夫婦。「ロンドン・ブリッジとオールド・マザー・グース」の部屋に宿泊。
芝浦夫妻
30代半ばの夫妻。「ガチョウと足長じいさん」の部屋に宿泊。
上条
30代の男性。「ミル」の部屋に宿泊。
大木
30歳前の男性。スポーツマンタイプ。「セント・ポール」の部屋に宿泊。
江波
29歳。「ジャックとジル」の部屋に宿泊。
中村・古川
20代前半の男性。「旅立ち」の部屋に宿泊。
村政警部
ペンションで起きた殺人事件を捜査。
3 密室殺人
公一の死体が発見された部屋が完全な密室であったことが公一の死が自殺であると判断された理由です。
しかし、公一は自殺ではなく誰かに殺されたと確信したナオコとマコト。
果たして犯人はどのようにして密室を作り上げたのでしょうか。
密室トリックについては図解で説明がありますが、その結論には賛否両論分かれるところではないでしょうか。
4 転落死
ナオコとマコトが宿泊しているときに、宿泊客の1人が石橋から転落して死亡します。
警察は事故死と判断しますが、独自で捜査していたナオコとマコトはこれが単なる事故死ではないと考えます。
何故被害者は石橋へ向かったのでしょうか。
犯人はどのようにして宿泊客の死を事故死に見せかけたのでしょうか。
2年前から続く3つの死の謎がつながっていきます。
5 暗号解読
各室に飾られたマザー・グースの歌が暗号になっており、どうやら公一はその謎が解けた模様。
歌が英語で書かれていることもあり、この暗号をしっかり解こうと思ったらかなり骨が折れます。
解読はナオコとマコトに任せ、ストーリーを先に進めようとする読者も多いのではないでしょうか。
マザー・グースをモチーフにした推理小説は、ヴァン・ダインの『僧正殺人事件』や、アガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』などが有名ですが、当時の日本でマザー・グースを使ったのは新しい試みではないでしょうか。
6 ナオコとマコト
物語序盤にちょっとした遊びが仕掛けられています。
その仕掛けが物語上必要かどうかは別として、ちょっと驚く人もいるのではないでしょうか。
性格も見た目も正反対なこの2人。
しかし見事な共同作業で公一の死の真相に迫っていきます。
一見か弱そうなナオコの実は芯が強いところ。
まさにカッコイイの一言がぴったりなマコト。
この2人の探偵コンビのチームワークが作品を面白くさせています。
7 終盤のたたみかけ
正直、この作品は東野圭吾作品にしては全体的に弱い、という印象がぬぐえません。
若者を主人公にした本格ミステリーではありますが、密室のトリックはちょっと意見が分かれるところだと思います。
マザー・グースは素材としては面白いのですが、そこまで日本人に馴染みが無く、解読も難解なため、流し読みする人も多いのではないでしょうか。
登場人物の1人1人を魅力的に描く東野圭吾作品にしては珍しく、明らかに存在が薄く、ストーリー上どうしても必要なのかどうか分からないキャラクターもいます。
刑事の村政が的外れの推理をする役割ではなくきちんと探偵役を担っていることはいいのですが、この刑事の登場が物語中盤であること、あまりいい印象で書かれていないことから、犯人を特定するクライマックスのシーンも盛り上がりに欠けていると感じました。
犯人にしても、「ふーん」という印象。
犯行に至った動機もあまり深みがないような気がします。
この作品は不完全燃焼かな・・・、そう思っていたときに、様々な仕掛けが一気に発動します。
この終盤のたたみかけは爽快でテンポも良く、グッと作品に引き込まれていきます。
これまでの鬱憤を一気に晴らしてくれるような展開に息を呑んでしまいます。
真相の真相、真相の奥にあるものとは一体何でしょうか。
是非楽しんでいただきたいと思います。
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まとめ
『白馬山荘殺人事件』7つのポイント
1 ナオコとマコトの友情・共同推理
2 密室の謎
3 転落死の謎
4 3つの死のつながり
5 マザー・グースの暗号解読
6 終盤のたたみかけが見事
7 真相の真相とは?
東野圭吾『卒業 雪月花殺人ゲーム』
『放課後 雪月花殺人ゲーム』は、東野圭吾作品の中でも人気の「加賀恭一郎」シリーズの第1作目の作品です。
大学卒業を間近に控えた加賀恭一郎が初めて遭遇した事件を解決していく様子が描かれています。
七人の大学四年生が秋を迎え、就職、恋愛に忙しい季節。
ある日、祥子が自室で死んだ。
部屋は密室、自殺か、他殺か?
心やさしき大学生名探偵・加賀恭一郎は、祥子が残した日記を手掛かりに死の謎を追求する。
しかし、第二の事件はさらに異常なものだった。
茶道の作法の中に秘められた殺人ゲームの真相は!?
さあ、『卒業 雪月花殺人ゲーム』について語りましょう。
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1 あらすじ
加賀恭一郎と沙都子、藤堂、祥子、波香、若生、華江の7人は、みな国立T大学の4年生で、県立R高校時代からの友人。
ある日、沙都子と波香は、祥子がアパートの自室で死んでいるのを発見します。
左手首を切ったことによる出血多量が死因であること、死体発見現場が密室であったことから、祥子は自殺したものと思われていました。
加賀たちは祥子が残した日記から自殺の原因を探ろうとしますが、いくつかの供述に矛盾点があり、他殺の可能性も浮上します。
加賀自身も祥子は自殺したのではなく、何者かに殺されたのではないかと疑問を持っていました。
そして、かつての茶道部の顧問で加賀たちの恩師である南沢雅子に祥子の死を報告しに行ったその日、毎年恒例の「雪月花之式」の最中に、今度は波香が毒物を飲んで死んでしまいます。
祥子の死の真相は?
波香の死の謎は?
大学生時代の加賀恭一郎の推理が冴え渡ります!
2 登場人物
加賀恭一郎
T大社会学部社会学科4年生。
学生剣道個人選手権で2年連続優勝するほどの剣道の腕前を持つ。
沙都子のことが好きで結婚したいと考えている。
卒業後は迷いの末、父と同じ警察官ではなく教師の道に進むことを決めている。
相原沙都子
T大文学部国文科4年生。
父、父の後妻、弟の4人で暮らしている。
卒業後は東京にある出版社への就職が決まっているが父からは反対されている。
高校から剣道部に所属している。
藤堂正彦
T大理工学部金属工学科4年生。
高校時代は剣道部の主将。
大学入学と同時に祥子に告白し現在も付き合っている。
卒業後も大学に残って修士課程に進む予定。
牧村祥子
T大文学部英米文学科4年生。
藤堂の恋人で、女子専用アパート「白鷺荘」の2階に住んでいる。
おとなしい性格で他人に引っ張られるところがあるが、成績も良く男性からの人気も4人の中では一番高い。
趣味は旅行で、卒業後は旅行社への就職が決まっている。
左手首を切り洗面器につけた状態で亡くなっているのが自室で発見された。
金井波香
T大文学部英米文学科4年生。
祥子と同じ研究室に所属し、「白鷺荘」の祥子の部屋の向かいに住んでいる。
女剣士の頂点を目指しており、学生剣道個人選手権で準優勝するほどの腕前。
喫煙者で酒も強く、男性関係も活発。
南沢雅子の家で開催された「雪月花之式」の最中に服毒死する。
若生勇
T大4年生。
テニス部員で華江とペアを組んで全国大会出場を目指している。
グループ内のムードメーカーで、就職も華江との結婚も決まっている。
学生運動の闘士だった兄がいる。
井沢華江
T大文学部国文科4年生。
若生の恋人。
小柄で愛くるしく年より若く見られる。
気性が激しい。
南沢雅子
加賀たちの県立R高校時代の恩師で茶道部の顧問。
教師を辞めた今でも、加賀たちは南沢家に集まり近況報告するのが恒例となっている。
某国立大学の数学教授だった夫とは10年以上前に死別している。
三島亮子
S大4年生。
学生剣道個人選手権の優勝候補で県の学生チャンピオン。
父親が商社重役であるお嬢様。
佐山
がっしりした体格で顔が浅黒く、年齢は30歳過ぎくらいの県警刑事。
緩いウェーブがかかった髪を耳のあたりまで伸ばしており、刑事に見えない。
3 祥子の死の謎
当初自殺と思われていた祥子の死ですが他殺の可能性も出てきます。
しかし死体発見現場は、管理人の目が光り外部からの進入が不可能な女子寮。
そして祥子の自室は施錠されていました。
他殺の場合、犯人は一体どうやって祥子の部屋に入ったのでしょうか。
そして祥子が死ななければならない理由とは一体?
4 波香の死の謎
南沢宅で催された「雪月花之式」で波香が服毒死します。
札を使ったクジ引きで茶を飲む者、菓子を食べる者、次の茶の準備をする者を選ぶこのゲーム。
もちろん誰がどの札を引くのかは分かりません。
どのようなトリックで波香は毒を飲んだのでしょうか。
波香が死ななければならない理由とは一体?
5 トリック
今作は、密室とクジ引きという2つの謎を解明しなければなりません。
さらに2つ目の事件については、茶道の「雪月花之式」というゲームのルールも理解しなければなりません。
ゲームの理解およびトリックの解明に少々骨が折れるため、トリック部分に関しては読み飛ばしてしまう読者もいるかもしれません。
しかし、よく練られたトリックであり、作中には図解もあり分かりやすく説明してくれているので、しっかり読み込んで謎解きを楽しむこともできます。
6 舞台設定
勉強、進路、部活、恋、友情など大学生ならではの揺れ動く心情が、沙都子を主な視点として見事に描かれています。
剣道部と茶道部という、あまり推理小説では一般的ではない部活動を取り扱っており、それが事件と結びついているところも特徴です。
1986年に刊行された作品であるため、大学生の考え方も今とは少し違っています。
東野圭吾作品を『ガリレオ』シリーズや『マスカレード』シリーズなどから読み始めた読者にとっては、想像していた雰囲気、作風とは一味違った作品ではないでしょうか。
7 学生時代の加賀恭一郎
大学生時代であっても、その頃から加賀は加賀っぽいです。
事件に対してもどこか冷めた感じで淡々としている様子や、飄々と警察と対峙しているところは、警察になってからの加賀を髣髴とさせます。
しかし、剣道の大会の最中に事件の真相に近づいていることを感じた加賀が試合に集中できない様子は、まだ若い学生らしく、他の作品ではなかなか見られない姿ではないでしょうか。
また、「加賀恭一郎」シリーズではお馴染みの加賀の父親もちょっと面白い形で登場し、加賀の推理に一役買っているところも見所です。
まとめ
『卒業 雪月花殺人ゲーム』7つのポイント
1 加賀恭一郎の学生時代の話
2 それぞれの登場人物のキャラ分け、描写が見事
3 祥子の死の真相は?
4 波香の死の真相は?
5 密室とクジ引きの2つのトリックの解明
6 剣道と茶道というあまり馴染みの無い舞台設定
7 大学生7名の青春小説としての楽しみ方
東野圭吾『放課後』
東野圭吾のデビュー作『放課後』。
名門女子高を舞台にしたミステリー小説で、第31回江戸川乱歩賞を受賞しました。
校内の更衣室で生徒指導の教師が青酸中毒で死んでいた。
先生を2人だけの旅行に誘う問題児、頭脳明晰の美少女・剣道部の主将、先生をナンパするアーチェリー部の主将 ―――。
犯人候補は続々登場する。
そして、運動会の仮装行列で第二の殺人が・・・。
乱歩賞受賞の青春推理。
さあ、『放課後』について語りましょう。
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1 あらすじ
私立清華高等学校に勤務する数学教師前島は最近何者かに命を狙われ始めていることを感じます。
線路に突き落とされそうになったり、シャワーを浴びているときに家庭用コードの先端を放り込まれたり、頭上から鉢植えが落ちてきたり。
前島は校長に相談するも全く取り合ってもらえないばかりか、息子の見合い相手にしたい麻生教諭について調べるよう指示されます。
前島が顧問を務めるアーチェリー部の練習に参加したある日、前島とアーチェリー部キャプテンの杉田恵子は、生活指導部の教師村橋が教師用の更衣室の中で死んでいるのを発見します。
死因は青酸中毒で、更衣室の出入り口の1つである男性用更衣室は心張り棒が引っかけられており、もう一方の出入り口である女性用更衣室は施錠されていたため、更衣室への出入りは誰もが不可能な状態でした。
密室の謎、村橋が殺される理由、前島を狙う人物の正体が分からぬまま、第2の殺人が体育祭という衆人環視の中、発生します。
2 登場人物
前島
清華女子高教諭。科目は数学。アーチェリー部顧問。
技術職サラリーマンから数学教師へ転職した。
就任当初は生徒にいつも見られている気がして苦痛だったが、そのうち生徒は教師に興味を持っていない
ことを察し楽になる。
授業以外のことは話さずに授業に徹底することから「マシン」というあだ名をつけられる。
妻がいる。
杉田恵子
清華女子高3年。アーチェリー部キャプテン。
前島に親しく接し、合宿時は前島とキスをした。
通称ケイ。
高原陽子
清華女子高3年。学園の問題児で喫煙が見つかり停学になる。
複雑な家庭環境に育つ。
前島を2人きりの旅行に誘ったが応えてもらえなかったため、それ以降前島に対する視線が冷たい。
北条雅美
清華女子高3年。剣道部主将。学年トップの成績を誇る3年A組の級長。
ルールの範囲内で生徒指導部に矛先を向け反抗するある意味問題児。
村橋とも対立している。
朝倉加奈江
清華女子高3年。アーチェリー部サブリーダー。
宮坂恵美
清華女子高1年。アーチェリー部。
村橋
清華女子高教諭。科目は数学。生徒指導部。
愚痴が多い。
最初の被害者。
竹井
清華女子高教諭。科目は体育。
現役の槍投げ選手であだ名は「ギリシャ」。
栗原
清華女子高校長。ワンマン経営者。
麻生恭子
清華女子高教諭。科目は英語。
清楚でおとなしそうな外見とは裏腹に、遊びの恋を好む。
前島の同僚のことも弄んだため、前島からは快く思われていない。
小田
清華女子高教諭。科目は体育。
堀
清華女子高教諭。科目は国語。バレーボール部顧問。
教師用女子更衣室の利用者である中年女性教師。
藤本
清華女子高教諭。テニス部顧問。
若い教師で好奇心が強い。
大谷
清華女子高で発生した殺人事件の捜査を担当する刑事。
前島裕美子
前島の妻。夫婦に子供はいない。近所のマーケットに働きに出ている。
3 主人公前島
教職に興味があったわけではなく成り行きで5年前に教師になった人物。
元々家電メーカーで働いていましたが、東北への転勤を示唆されたため、亡父の友人であった栗原校長の伝手で清華女子高に就職しました。
「マシン」のあだ名どおり授業中も余計なおしゃべりはせず、また、口うるさく生徒の指導をしないためか、生徒受けは悪くありません。
それにしても、妻帯者であり取り立てて容姿端麗とも思えない前島が、特定の生徒から頼られ好意を寄せられるのか、前島の魅力とは一体どこにあるのでしょうか。
しかし舞台が女子高であり、思春期で精神年齢的にも大人になりきれていない女子高生から見ると、前島は十分に魅力的に映るのかもしれません。
4 その他キャラクター
主人公前島にこれといった魅力が無いのに対し、それ以外の登場人物はキャラクターがしっかりしています。
特に清華女子高の生徒3人。
前島に懐き合宿でキスまでした快活なアーチェリー部主将杉田恵子。
前島を頼ったが応えてもらえずその後厳しい視線を送る影のある高原陽子。
文武両道で学園創設以来の才女である北条雅美。
生徒と教師のやり取りなど、自然な描写がなされており、キャラ分けも明確です。
主人公をはじめ大人側のキャラクターが薄い分、彼女たちのキャラがより引き立っています。
思春期の女子高生の複雑な心理状況が絶妙に描かれているのではないでしょうか。
5 密室殺人のトリック
壁により隔たれてはいるが、やろうと思えば行き来できる男性更衣室と女性更衣室。
しかし男性更衣室には心張り棒があり、女性更衣室は施錠されていました。
このような密室状態を犯人は何故、どのように作り上げたのでしょうか。
心張り棒を使った密室なので、そのトリックの解明には分かりやすく図解が用いられています。
東野圭吾作品と図解はあまり結びつきませんでしたが、初期作品には図解が用いられているものもいくつかあります。
それにしても、このトリック、贅沢です・・・。
6 命を狙われる主人公と事件の関係
冒頭から命を狙われている主人公。
何者かが殺意を持っている、そのことをこの3日で3度感じています。
そして発生する殺人事件。
事件現場は主人公がよく使う教師用更衣室。
被害者は主人公と間違えられて殺されてしまったのでしょうか。
さらに第2の事件が発生しますが、これも本来の被害者は主人公だった?
何故主人公が命を狙われるのか、一体誰が主人公に殺意を抱いているのか。
そしてどのようなトリック、方法を犯人は用いたのか。
様々な伏線が張りめぐらされており、そして思わぬ謎が解明されていきます。
7 動機
犯人が殺人を犯した動機。
ミステリーにおいて犯行動機は不可欠ですが、とりわけこの作品においては犯人の動機が重要なポイントとなっています。
その動機や結末については賛否両論ありますが、犯人の心情を察すると殺害するに十分に値する動機なのだと思います。
まとめ
『放課後』7つのポイント
1 主人公が命を狙われる理由とは?
2 密室殺人のトリックとは?
3 トリックが贅沢
4 第2の殺人のトリックとは?
5 女子高生の巧みな描写、思春期の複雑な心理描写
6 犯人は誰か?
7 犯行動機は何か?