2018年04月18日
VR・ARの先にある「MR(混合現実)」とは何か?
さて、今回はMR(混合現実)についてです。
・進化する仮想現実・拡張現実
VRというと、仮想の世界で女の子=「カノジョ」とコミュニケーションを取る事が出来るゲームなど、エンターテインメント分野が話題になりがちだ。
しかし、VR(仮想現実)が活用される分野は、こういったゲームやエンターテインメントだけにとどまらない。
VRがもたらすリアルな実在感を生かす試みは、ビジネスの様々な分野でも始まっている。
特定のIT領域それぞれについて、5年先までの進化を予想する「ITロードマップ 2017年版 情報通信技術は5年後こう変わる!」という本を出した気鋭のITアナリストが、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)の進化とさらにVR・ARが融合するMR(混合現実)がもたらす近未来の世界を展望する。
・リアルとバーチャルが混じり合ったMRへ
ソニーの「PlayStation VR(以下、プレステVR)」、オキュラスの「Oculus Rift」やマイクロソフトの「HoloLens」といったヘッドセット型の最新デバイスが市場に登場した2016年は「VR元年」と呼ばれ、VR(Virtual Reality:仮想現実)、AR(Augmented Reality:拡張現実)への関心が一気に高まった。
VRとは、コンピュータグラフィックス(CG)によって、あたかも仮想的環境の中に実際に入り込んでいるように人間を感じさせる技術である。
一方ARは、視界が完全に遮断されるVRと異なり、利用者の視界に情報を重ねて現実を拡張する。
スマートフォンの普及・性能向上に伴うディスプレイの小型・高精細化、画像処理性能の向上によって、一般人にもヘッドセット型デバイスが入手可能となり、普及が始まっているのが現状だ。
近い将来、画像認識技術の性能向上によって、VRとARの区別は次第にあいまいになっていく。
よりリアリティの高い仮想のイメージと現実世界とが結びつく事によって、リアルとバーチャルが混じり合った「MR(Mixed Reality:混合現実)」と呼ばれる技術分野へと収斂していくだろう。
ここでは、VR・ARを実現させるデバイスの現状とその進化、さらにVRとARが融合するMRへと収斂していくロードマップを展望したい。
2016年2月、筆者はハリウッドにいた。
VRとARの専門家が一堂に集まる会議に出席するためだ。
研究報告や最新の技術動向の紹介、製品展示などの中でも、ひときわ印象的だったのがNASAのジェット推進研究所のデモンストレーションであった。
デモビデオには、当時はまだ発売前だったソニーのプレステVRやOculus Rift、マイクロソフトのHoioLensといった最新のデバイスが登場した。
NASAは、デバイスメーカーと協力し、これらの市場投入前の製品を活用し、宇宙開発に必要なアプリケーションを開発していたのである。
例えば、VRゴーグルを装着する事で、あたかも火星の上にいるかのように周囲を眺めまわす事が出来る「Mars 2030 Experience」。
こらは、火星探査車「キュリオシティ」から送られてきた火星表面の写真をもとに、360度の映像を作成したものだ。
また、宇宙ステーションの作業支援ロボット「Robonaut 2」の操作訓練を行う「Mighty Morphensut」は、プレステVRを利用したシミュレーターである。
VRにより、遠隔地にいるロボットの視線を自分が見ているかのように共有し、自分の両腕に持ったコントローラーを動かすとロボットのアームも人間と同じように動く。
わずか1年程前の出来事ではあるが、当時はまだSFの世界を見るように感じた。
しかし、ここで使用されていたプレステVRやOculus Riftは、このNASAのデモからわずか数か月で、一般人でも手に入れる事が出来る様になった。
そして、NASAが見せてくれた従来ではありえなかったものの見方・体験を可能にするVR・ARによるアプリケーションは、すでに一般人の生活やビジネスの一部に入り込んでいる。
かつて、SFの世界で想定されてきた事が、現実となり始めているのだ。
・ニュース報道や教育、研修に生かせるVR・AR
VR技術は、日本ではプレステVRの登場によって、広く一般に浸透した。
この為、ゲームやエンターテインメント向けのデバイスと捉えられる事も多い。
しかし、NASAのアプリケーションのように、ゲーム以外の用途でも利用が始まっている。
例えば、米The New York Times紙は、スマートフォンをセットしてVRコンテンツを楽しめる段ボール製のVRゴーグル「Google Cardboard」を同紙の購読者30万人に無償配布し、360度のビデオ配信「NYT VR」を行っている。
ニュースやドキュメンタリーをあたかもその場にいるかのように読者に体験してもらう事で、メディアは現地の雰囲気を臨場感と共に伝える事が出来る。
NYT VRが配信したコンテンツの一つで、紛争地帯の難民の子供達の生活を生々しく伝えるVRドキュメンタリー映像「The Displaced」は、世界的な広告賞であるカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルでグランプリを獲得した。
VRによるリアリティの高い情報伝達は、報道や教育、あるいは企業における研修などの分野で、情報の受け手の深い理解を促す手段として利用されていくだろう。
また、在庫を幅広く揃えておく事が難しい高額商品の販売に、VRやARが用いられる機会も増えている。
自動車メーカーのアウディはショールームに高品位のVR機器を設置し、来店客が展示車以外の外装や内装を確認できる仕組み「Audi VR experience」を家電見本市「CES 2016」で公開した。
ショールームを訪れた顧客は、VRヘッドセットを装着し、仮想空間の中でAudiの全てのモデルの外観や内装を確認出来る他、即座に色を変更する事も可能である。
ドイツや英国、ロシアの店舗でのテストを経て、2017年2月には日本でもAudi VR experienceが公開され、VRによるショッピングを体験出来るようになりつつある。
また不動産業界では、専用のVR機器を用いたバーチャル内覧による不動産販売支援がすでに行われている。
そのメリットは、様々なシミュレーションが出来る点に集約される。
家具やインテリアの配置変更、マンションの高層階と中・低層階の眺望の違い、朝・晩の日照状況の変化など、条件を変更した場合の状況を疑似体験出来る。
・ARがもたらすeコマースの新たな可能性
一方、利用者の視界に情報を重ねて現実を拡張するARは、Eコマースに新しい可能性をもたらす。
アメリカの家具専門ECサイトである「Wayfare」は、Googleの環境認識型のAR技術Tango Technologyを搭載したARデバイスを活用して、家具を実際の自分の部屋に置いたようにシミュレーションしたうえで購入出来るアプリケーションを開発した。
家具を配置したい部屋にARデバイスを向けると、部屋の幅や高さが計測され、実寸に合わせたサイズの家具の仮想モデルが表示される。
しかも、その仮想の家具は測ったように部屋の床や壁にぴったりと配置される。
これにより、実際の希望の場所に家具が収まるかどうかを事前に確認出来る為、買ってから「家具が家に入らなかった」という失敗が無くなる。
ステレオカメラや深度センサーなど、現実世界の距離を測る技術を搭載したグーグルやマイクロソフトのARデバイスは、これまでのスマートフォン向けのARとは違って、QRコードなどの補助が無くても現実世界の状況(周辺の壁や床までの距離、高さや奥行き)を人間と同じように読み取る事が出来る。
環境認識型のARデバイスは2016年に登場し始めたばかりだが、いよいよ実世界と仮想空間が緊密に結びついたSFのような利用シーンが実現される時代に入ってきている。
・触覚・視覚をも疑似体験させる
VRの登場とともに注目を集め始めている技術分野に、触覚やジェスチャーによるインタフェース技術がある。
VRやARデバイスを利用して目の前にリアリティの高いCGが表示されると、その仮想の物体に「触れたくなる」という衝動を感じる人が多い。
それだけ表示されているものをリアルに感じられる事が魅力なのだが、現在のところ表示された情報を「見る」事は出来ても、仮想の物体や環境に対して「触る」「動かす」といった操作は限られているのが実情だ。
そこで、仮想現実のイメージに触った感触を生み出す「ハプティック(触覚)インタフェース」技術が実現され始めている。
手の動きに合わせて、仮想のモノに触った感覚を疑似体験させる技術である。
2017年3月に発売されたNintendo Switchは「振動から触覚へ」と謳われており、モノに触った感覚が情報機器で再現出来る時代の始まりを感じさせる。
これまで触覚技術はVR分野と組み合わされて研究される事が多かった。
しかし、画面上に表示した衣服の手触り感を再現可能なスマホやタブレットが研究されていたり、家電や自動車のスイッチをジェスチャーで動かすと、空中でスイッチに触った感覚が得られるアプリケーションが間もなく市場に登場するとみられるなど、VR・ARの分野から波及して新たな適用先が形成されている。
また、VRの登場とともに「アイ トラッキング(視線追跡)」技術による、ユーザーインターフェースも注目を集めている。
日本発のVRデバイスベンチャー・FOVE社は、アイトラッキング機能を備えたVRデバイス「FOVE」の出荷を2017年1月に開始した。
VRデバイスに目の動きを捕らえるカメラを付け加える事で、仮想空間の中で視線を動かしただけでその方向に移動したり、仮想のキャラクターとアイコンタクトが出来る様になり、今までのVRを超える自然な操作感や臨場感を得られる。
これまで、アイトラッキング技術はユーザーインターフェースの学術研究や本格的なゲーマー向けの操作機器に採用される程度にとどまっていた。
しかし今後、VRの普及とともに新しいインタフェース技術として認知され、VR以外の用途にも利用が広がっていくだろう。
・VRとARが融合するMR(混合現実)
また、画像認識技術の更なる性能向上により、VRとARは融合し、MR(Mixed Reality:混合現実)の世界も広がっていく。
MRとは、CGなどで描かれる仮想の世界に現実世界の情報を重ね合わせる技術である。
映し出される世界が虚像であるVR、現実世界に情報を重ねるAR、それぞれはユーザーとの「つながり」がない。
VRは完全な仮想空間を構築するモノであり、場所を選ばない。
一方、ARは現実世界に情報を付加する為、場所に依存する。
その中間のMRは、場所に依存せずに現実と仮想の世界を融合させられる。
MRでは、現実のスペースに仮想の製品や建築物が実際に「ある」という存在感、体感を得られるようになる。
MRシステムでは、例えば、キヤノンの「MREAL」が製品設計や工場の生産現場の設計などにすでに活用されている。
例えば、自動車ならば試作車の完成前にMR映像で実寸大で確認、ハンドルなどのデザインの検討に使う事が出来る。
工場などの建築設計では、生産設備機械の配置、動線を確認出来る他、建物内での天井の圧迫感や光の入り方などを実寸大で確認、設計段階でイメージを共有出来る。
あるいは、医療現場ならば手術のシミュレーションなども出来る。
あるいは、MRを実現すると謳うマイクロソフトのHoloLensを、例えば日本航空(JAL)は運航乗務員(パイロット)や整備士の訓練に取り入れようとしている。
実際の航空機のコックピットに座っているかのような感覚、実物の航空機エンジンに触れているかのような感覚でトレーニングが出来るというわけだ。
VR・ARとそれらが融合したMRは、デバイス技術の進化に加えて、アプリケーションやコンテンツをユーザーの目的や用途に合わせて提供していく事が求められる。
個人にとっては、例えば衣類の手触りまでも確認しての買い物体験とか、リビングに座ったまま、あるいはベッドに寝たままで「旅行」が出来るといった世界が広がる可能性もある。
VR・AR技術は2016年が「普及元年」でもあり、まだ黎明期の域を出ない。
しかし長期的に見れば、VR・ARは人間が情報を自然に操作する「ナチュラル・ユーザーインタフェース」の実現に不可欠な技術要素であり、一過性のブームで終わるモノではなく、今後も継続的に発展していく分野とみるべきだろう。
自分で体験しなければそのインパクトが理解しにくい技術である為、まだ体験した事が無いという方は是非機会を見つけて体験していただき、この技術をどう生かせるか思いを巡らせていただきたい。
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・進化する仮想現実・拡張現実
VRというと、仮想の世界で女の子=「カノジョ」とコミュニケーションを取る事が出来るゲームなど、エンターテインメント分野が話題になりがちだ。
しかし、VR(仮想現実)が活用される分野は、こういったゲームやエンターテインメントだけにとどまらない。
VRがもたらすリアルな実在感を生かす試みは、ビジネスの様々な分野でも始まっている。
特定のIT領域それぞれについて、5年先までの進化を予想する「ITロードマップ 2017年版 情報通信技術は5年後こう変わる!」という本を出した気鋭のITアナリストが、VR(仮想現実)・AR(拡張現実)の進化とさらにVR・ARが融合するMR(混合現実)がもたらす近未来の世界を展望する。
・リアルとバーチャルが混じり合ったMRへ
ソニーの「PlayStation VR(以下、プレステVR)」、オキュラスの「Oculus Rift」やマイクロソフトの「HoloLens」といったヘッドセット型の最新デバイスが市場に登場した2016年は「VR元年」と呼ばれ、VR(Virtual Reality:仮想現実)、AR(Augmented Reality:拡張現実)への関心が一気に高まった。
VRとは、コンピュータグラフィックス(CG)によって、あたかも仮想的環境の中に実際に入り込んでいるように人間を感じさせる技術である。
一方ARは、視界が完全に遮断されるVRと異なり、利用者の視界に情報を重ねて現実を拡張する。
スマートフォンの普及・性能向上に伴うディスプレイの小型・高精細化、画像処理性能の向上によって、一般人にもヘッドセット型デバイスが入手可能となり、普及が始まっているのが現状だ。
近い将来、画像認識技術の性能向上によって、VRとARの区別は次第にあいまいになっていく。
よりリアリティの高い仮想のイメージと現実世界とが結びつく事によって、リアルとバーチャルが混じり合った「MR(Mixed Reality:混合現実)」と呼ばれる技術分野へと収斂していくだろう。
ここでは、VR・ARを実現させるデバイスの現状とその進化、さらにVRとARが融合するMRへと収斂していくロードマップを展望したい。
2016年2月、筆者はハリウッドにいた。
VRとARの専門家が一堂に集まる会議に出席するためだ。
研究報告や最新の技術動向の紹介、製品展示などの中でも、ひときわ印象的だったのがNASAのジェット推進研究所のデモンストレーションであった。
デモビデオには、当時はまだ発売前だったソニーのプレステVRやOculus Rift、マイクロソフトのHoioLensといった最新のデバイスが登場した。
NASAは、デバイスメーカーと協力し、これらの市場投入前の製品を活用し、宇宙開発に必要なアプリケーションを開発していたのである。
例えば、VRゴーグルを装着する事で、あたかも火星の上にいるかのように周囲を眺めまわす事が出来る「Mars 2030 Experience」。
こらは、火星探査車「キュリオシティ」から送られてきた火星表面の写真をもとに、360度の映像を作成したものだ。
また、宇宙ステーションの作業支援ロボット「Robonaut 2」の操作訓練を行う「Mighty Morphensut」は、プレステVRを利用したシミュレーターである。
VRにより、遠隔地にいるロボットの視線を自分が見ているかのように共有し、自分の両腕に持ったコントローラーを動かすとロボットのアームも人間と同じように動く。
わずか1年程前の出来事ではあるが、当時はまだSFの世界を見るように感じた。
しかし、ここで使用されていたプレステVRやOculus Riftは、このNASAのデモからわずか数か月で、一般人でも手に入れる事が出来る様になった。
そして、NASAが見せてくれた従来ではありえなかったものの見方・体験を可能にするVR・ARによるアプリケーションは、すでに一般人の生活やビジネスの一部に入り込んでいる。
かつて、SFの世界で想定されてきた事が、現実となり始めているのだ。
・ニュース報道や教育、研修に生かせるVR・AR
VR技術は、日本ではプレステVRの登場によって、広く一般に浸透した。
この為、ゲームやエンターテインメント向けのデバイスと捉えられる事も多い。
しかし、NASAのアプリケーションのように、ゲーム以外の用途でも利用が始まっている。
例えば、米The New York Times紙は、スマートフォンをセットしてVRコンテンツを楽しめる段ボール製のVRゴーグル「Google Cardboard」を同紙の購読者30万人に無償配布し、360度のビデオ配信「NYT VR」を行っている。
ニュースやドキュメンタリーをあたかもその場にいるかのように読者に体験してもらう事で、メディアは現地の雰囲気を臨場感と共に伝える事が出来る。
NYT VRが配信したコンテンツの一つで、紛争地帯の難民の子供達の生活を生々しく伝えるVRドキュメンタリー映像「The Displaced」は、世界的な広告賞であるカンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバルでグランプリを獲得した。
VRによるリアリティの高い情報伝達は、報道や教育、あるいは企業における研修などの分野で、情報の受け手の深い理解を促す手段として利用されていくだろう。
また、在庫を幅広く揃えておく事が難しい高額商品の販売に、VRやARが用いられる機会も増えている。
自動車メーカーのアウディはショールームに高品位のVR機器を設置し、来店客が展示車以外の外装や内装を確認できる仕組み「Audi VR experience」を家電見本市「CES 2016」で公開した。
ショールームを訪れた顧客は、VRヘッドセットを装着し、仮想空間の中でAudiの全てのモデルの外観や内装を確認出来る他、即座に色を変更する事も可能である。
ドイツや英国、ロシアの店舗でのテストを経て、2017年2月には日本でもAudi VR experienceが公開され、VRによるショッピングを体験出来るようになりつつある。
また不動産業界では、専用のVR機器を用いたバーチャル内覧による不動産販売支援がすでに行われている。
そのメリットは、様々なシミュレーションが出来る点に集約される。
家具やインテリアの配置変更、マンションの高層階と中・低層階の眺望の違い、朝・晩の日照状況の変化など、条件を変更した場合の状況を疑似体験出来る。
・ARがもたらすeコマースの新たな可能性
一方、利用者の視界に情報を重ねて現実を拡張するARは、Eコマースに新しい可能性をもたらす。
アメリカの家具専門ECサイトである「Wayfare」は、Googleの環境認識型のAR技術Tango Technologyを搭載したARデバイスを活用して、家具を実際の自分の部屋に置いたようにシミュレーションしたうえで購入出来るアプリケーションを開発した。
家具を配置したい部屋にARデバイスを向けると、部屋の幅や高さが計測され、実寸に合わせたサイズの家具の仮想モデルが表示される。
しかも、その仮想の家具は測ったように部屋の床や壁にぴったりと配置される。
これにより、実際の希望の場所に家具が収まるかどうかを事前に確認出来る為、買ってから「家具が家に入らなかった」という失敗が無くなる。
ステレオカメラや深度センサーなど、現実世界の距離を測る技術を搭載したグーグルやマイクロソフトのARデバイスは、これまでのスマートフォン向けのARとは違って、QRコードなどの補助が無くても現実世界の状況(周辺の壁や床までの距離、高さや奥行き)を人間と同じように読み取る事が出来る。
環境認識型のARデバイスは2016年に登場し始めたばかりだが、いよいよ実世界と仮想空間が緊密に結びついたSFのような利用シーンが実現される時代に入ってきている。
・触覚・視覚をも疑似体験させる
VRの登場とともに注目を集め始めている技術分野に、触覚やジェスチャーによるインタフェース技術がある。
VRやARデバイスを利用して目の前にリアリティの高いCGが表示されると、その仮想の物体に「触れたくなる」という衝動を感じる人が多い。
それだけ表示されているものをリアルに感じられる事が魅力なのだが、現在のところ表示された情報を「見る」事は出来ても、仮想の物体や環境に対して「触る」「動かす」といった操作は限られているのが実情だ。
そこで、仮想現実のイメージに触った感触を生み出す「ハプティック(触覚)インタフェース」技術が実現され始めている。
手の動きに合わせて、仮想のモノに触った感覚を疑似体験させる技術である。
2017年3月に発売されたNintendo Switchは「振動から触覚へ」と謳われており、モノに触った感覚が情報機器で再現出来る時代の始まりを感じさせる。
これまで触覚技術はVR分野と組み合わされて研究される事が多かった。
しかし、画面上に表示した衣服の手触り感を再現可能なスマホやタブレットが研究されていたり、家電や自動車のスイッチをジェスチャーで動かすと、空中でスイッチに触った感覚が得られるアプリケーションが間もなく市場に登場するとみられるなど、VR・ARの分野から波及して新たな適用先が形成されている。
また、VRの登場とともに「アイ トラッキング(視線追跡)」技術による、ユーザーインターフェースも注目を集めている。
日本発のVRデバイスベンチャー・FOVE社は、アイトラッキング機能を備えたVRデバイス「FOVE」の出荷を2017年1月に開始した。
VRデバイスに目の動きを捕らえるカメラを付け加える事で、仮想空間の中で視線を動かしただけでその方向に移動したり、仮想のキャラクターとアイコンタクトが出来る様になり、今までのVRを超える自然な操作感や臨場感を得られる。
これまで、アイトラッキング技術はユーザーインターフェースの学術研究や本格的なゲーマー向けの操作機器に採用される程度にとどまっていた。
しかし今後、VRの普及とともに新しいインタフェース技術として認知され、VR以外の用途にも利用が広がっていくだろう。
・VRとARが融合するMR(混合現実)
また、画像認識技術の更なる性能向上により、VRとARは融合し、MR(Mixed Reality:混合現実)の世界も広がっていく。
MRとは、CGなどで描かれる仮想の世界に現実世界の情報を重ね合わせる技術である。
映し出される世界が虚像であるVR、現実世界に情報を重ねるAR、それぞれはユーザーとの「つながり」がない。
VRは完全な仮想空間を構築するモノであり、場所を選ばない。
一方、ARは現実世界に情報を付加する為、場所に依存する。
その中間のMRは、場所に依存せずに現実と仮想の世界を融合させられる。
MRでは、現実のスペースに仮想の製品や建築物が実際に「ある」という存在感、体感を得られるようになる。
MRシステムでは、例えば、キヤノンの「MREAL」が製品設計や工場の生産現場の設計などにすでに活用されている。
例えば、自動車ならば試作車の完成前にMR映像で実寸大で確認、ハンドルなどのデザインの検討に使う事が出来る。
工場などの建築設計では、生産設備機械の配置、動線を確認出来る他、建物内での天井の圧迫感や光の入り方などを実寸大で確認、設計段階でイメージを共有出来る。
あるいは、医療現場ならば手術のシミュレーションなども出来る。
あるいは、MRを実現すると謳うマイクロソフトのHoloLensを、例えば日本航空(JAL)は運航乗務員(パイロット)や整備士の訓練に取り入れようとしている。
実際の航空機のコックピットに座っているかのような感覚、実物の航空機エンジンに触れているかのような感覚でトレーニングが出来るというわけだ。
VR・ARとそれらが融合したMRは、デバイス技術の進化に加えて、アプリケーションやコンテンツをユーザーの目的や用途に合わせて提供していく事が求められる。
個人にとっては、例えば衣類の手触りまでも確認しての買い物体験とか、リビングに座ったまま、あるいはベッドに寝たままで「旅行」が出来るといった世界が広がる可能性もある。
VR・AR技術は2016年が「普及元年」でもあり、まだ黎明期の域を出ない。
しかし長期的に見れば、VR・ARは人間が情報を自然に操作する「ナチュラル・ユーザーインタフェース」の実現に不可欠な技術要素であり、一過性のブームで終わるモノではなく、今後も継続的に発展していく分野とみるべきだろう。
自分で体験しなければそのインパクトが理解しにくい技術である為、まだ体験した事が無いという方は是非機会を見つけて体験していただき、この技術をどう生かせるか思いを巡らせていただきたい。
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