自分がそれまで抱いていたシモーヌ・ヴェイユのイメージはこの本で変わった.
ヴェイユの写真のイメージからか, 勝手に静かで弱者の立場に立った思想家という印象を持っていた.
しかし, そういう単純な枠組みでは捉え切れないほどヴェイユは多面的な人物だった.
狂信的に見えるほど純粋で独特の倫理観を持つ. 度を越して禁欲的であり自己に対して非常に厳しい.
残された書簡からはおそらく相当頑固で思想的に過激な部分があったことが窺える. 付き合う人を疲弊させたのではないだろうか.
自身がユダヤ人であるにも拘らず, ユダヤ人やユダヤ教に対する否定的で侮蔑をも含んだ態度をとった.
熱烈なフランス愛国者で, 死の間際まで自らがレジスタンスの一員として最前線でファシスト勢力と戦うことを切望していた.
キリストを崇拝した. カトリック信者だったが教会を嫌い否定した. あくまで一人の人間として直接キリストと向き合うことを望んだ. けれどもプロテスタントではない.
徹底的に弱者に寄り添った. 最貧困の者を救おうとした. 彼女の徹底さは寄り添われる者にとって寧ろ負担になるのではないかと思えるほどである.
古代ギリシャ, アテナイの知性を深く愛した.
天才の兄, アンドレ・ヴェイユへの劣等感から死を思うほど苦悩するが, 絶えず真理を求め続けることで魂が救われるという思いに到達して生きる力を得た.
慢性的な頭痛の症状に苦しんでいたが, 強固な意思の力でそれを抑えつけて深く思索し, 書いた.
肺結核が彼女の命を奪った. 医師は病床の彼女にもっと食べて栄養を摂るように強く勧めたが彼女は拒否した. 自らの意思で飢えることを選んだ.
自分は彼女の書いたものをまだ何も読み通したことが無いので, 不用意に想像することはできない. けれども何と厳しい生涯だろうか.
矛盾に満ちているように見えるが, 実は彼女はたった一つのことを成したのではないか.
間違い無く彼女は, 自らの真理と美のために生き抜いた. それを求めるためにはあらゆる他のものを否定し, 自分の人生から排除した.
極めて私的で, 極めて狭く, だがあまりにも本質的な彼女の真理と美は後世に残った.
彼女が求めた美が, 真理がどのようなものだったのかを知りたい.
著作を読んでみようと思う.
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