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2020年05月15日

坂口安吾の「肝臓先生」から見えてくるバラツキについて5

場面2

さて、次に、ひとつ、お願いがございますが、昭和七年満州事変以来、ポツポツ亜黄疸の患者があって肝臓肥大に気付くようになりましたが、その当時はちょッとフシギと思った程度で、たいして気にも留めませんでした。ところが、昭和十二年末ごろから、年々かような患者を見うけることが急速に、かつ、非常に多くなって、殊に感冒患者はほとんど肝臓肥大で圧痛あることが普通のこととなったのであります。A2、B1、C2、D1

そこでこの四五年というものは、アナタも肝臓がわるい、アナタも、アナタも、と言わざるを得ないものですから、あの医者は肝臓医者だ、あそこへ行くと、みんな肝臓にされてしもう、こう言って呆れてほかの医者へ転じてしもう人も多くなりましたが、又一方には、遠路はるばる宿をもとめて肝臓の診察を乞う人もあり、うれしい思いをさせられる折もあります。A2、B1、C2、D2

ちかごろに至りましては流感の患者、肺炎の患者、胃腸の患者の八九十%以上に、肝臓の肥大圧痛が触診されるのでありまして、昭和十二年末から現在まで、二千例あるいはそれ以上かような患者を扱ったのですが、これらを集約して、私は流行性肝臓炎とか流感性肝臓炎とか名づけて然るべき病気ではないかと思っているのであります。A2、B1、C2、D1

支那大陸から持ちこまれた流感に関係があるのではないかと思っております。いずれに致しましても、かように多くの患者に向って、アナタも肝臓である、アナタも、アナタも、と申しましては、患者の中にはインチキと思う人もあり、同業者までインチキ視しまして、あれはフランスの医者であるとか、赤城氏性肝臓炎とか言いふらし、かくては当物療科の名誉を傷け、大先生の御恩にも背き、温泉療養所の先生方の目ざましい功績までも汚すことになるのではないかと心から恐れているのであります。A2、B1、C1、D2

それでお願いと申しますのは、この事実を申上げて篤学の皆様方の御研究の参考になって欲しいと祈るものでございます。謝恩会の席をかりまして、皆々様の御関心御研究をひたすらお願い致す次第であります。
A1、B1、C1、D2

花村嘉英(2020)「坂口安吾の『肝臓先生』から見えてくるバラツキについて」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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