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2024年05月27日

高行健の「円恩寺」で執筆脳を考える9

4 まとめ   

 高行健の執筆時の脳の活動を調べるために、まず受容と共生からなるLのストーリーを文献により組み立てた。次に、「円恩寺」のLのストーリーをデータベース化し、最後に文献で止めたところを実験で確認した。そのため、テキスト共生によるシナジーのメタファーについては、一応の研究成果が得られている。  
 短編小説集の他の作品を見ると、例えば、「車禍」の中でも日常の交通事故にありがちな一場面を実現し、登場人物も読者に身近な存在で、小説の中の名称に対し作者の内心を投射している。また、「朋友」の執筆脳で見た「命の尊さと楽天」から高行健のシナジーのメタファーとした楽天知命が反映されている。 

参考文献
 
花村嘉英 計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか? 新風舎 2005
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む 華東理工大学出版社 2015
花村嘉英 日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用 日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで 南京東南大学出版社 2017
花村嘉英 从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默−ナディン・ゴーディマと意欲 華東理工大学出版社 2018
花村嘉英 シナジーのメタファーの作り方−トーマス・マン、魯迅、森鴎外、ナディン・ゴーディマ、井上靖 中国日語教学研究会上海分会論文集 2018  
花村嘉英 川端康成の「雪国」に見る執筆脳について-「無と創造」から「目的達成型の認知発達」へ 中国日語教学研究会上海分会論文集 2019
花村嘉英 社会学の観点からマクロの文学を考察する−危機管理者としての作家について 中国日語教学研究会上海分会論文集 2020
花村嘉英 三浦綾子の「道ありき」でうつ病から病跡学を考える 中国日語教学研究会上海分会論文集 2021
高行健 高行健短編小説集 聯合文學 2008
高行健 母(飯塚容訳)集英社 2005
高行健 Wikipedia 

高行健の「円恩寺」で執筆脳を考える8

表3 情報の認知

A 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知1 2、情報の認知1 1
B 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知1 2、情報の認知1 1
C 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知1 2、情報の認知1 1
D 表2と同じ。 情報の認知1 1、情報の認知1 2、情報の認知1 1
E 表2と同じ。 情報の認知1 2、情報の認知1 2、情報の認知1 1

A:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3はA問題未解決から推論へである。   
B:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。  
C:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。  
D:情報の認知1は@ベースとプロファイル、情報の認知2はA新情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。  
E:情報の認知1はAグループ化、情報の認知2は@旧情報、情報の認知3は@計画から問題解決へである。     

結果   
 高行健は、この場面で苦難の日々が水と共に流れ去り甘く切ない思い出と自分たちの愛情だけが残っていると楽観しているため、購読脳の「創造性と放浪」から「幸せと楽天」という執筆脳の組を引き出すことができる。   

花村嘉英(2022)「高行健の『円恩寺』で執筆脳を考える」より

高行健の「円恩寺」で執筆脳を考える7

【連想分析2】

情報の認知1(感覚情報)  
 感覚器官からの情報に注目することから、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。このプロセルのカラムの特徴は、@ベースとプロファイル、Aグループ化、Bその他の条件である。
 
情報の認知2(記憶と学習)  
 外部からの情報を既存の知識構造へ組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。未知の情報は、またカテゴリー化される。このプロセスは、経験を通した学習になる。このプロセルのカラムの特徴は、@旧情報、A新情報である。

情報の認知3(計画、問題解決、推論)  
 受け取った情報は、計画を立てるプロセスでも役に立つ。その際、目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。しかし、獲得した情報が完全でない場合は、推論が必要になる。このプロセルのカラムの特徴は、@計画から問題解決へ、A問題未解決から推論へである。  

花村嘉英(2022)「高行健の『円恩寺』で執筆脳を考える」より

高行健の「円恩寺」で執筆脳を考える6

分析例

1 二人が円恩寺の山門に到着する場面。  
2 この小論では、「円恩寺」の購読脳を「創造性と放浪」と考えているため、意味3の思考の流れ、放浪に注目する。   
3 意味1@視覚A聴覚B味覚C嗅覚D触覚 、意味2 @喜A怒B哀C楽、意味3放浪@ありAなし、意味4振舞い @直示A隠喩B記事なし、人工知能 @幸せA楽天。  
 
テキスト共生の公式     
 
ステップ1:意味1、2、3、4を合わせて解析の組「創造性と放浪」を作る。
ステップ2:二人で円恩寺を目指して山道を歩く間は、怪我などしても楽しい。新婚旅行も放浪していれば、新しいことを生むことにもなる。従って、運命を信じ現在置かれている地位境遇に安んじ楽観する「幸せと楽天」という組を作り、解析の組と合わせる。

A:[@視覚+A聴覚+D触覚 ]+C楽+@あり+@直示という解析の組を、@幸せとA楽天という組と合わせる。   
B:A聴覚+C楽+@あり+@直示という解析の組を、@幸せとA楽天という組と合わせる。  
C:@視覚+C楽+@あり+A隠喩という解析の組を、@幸せとA楽天という組と合わせる。 
D:@視覚+C楽+@あり+@直示という解析の組を、@幸せとA楽天という組と合わせる。  
E:@視覚+C楽+@あり+@隠喩という解析の組を、@幸せとA楽天という組と合わせる。    

結果  表2については、テキスト共生の公式が適用される。

花村嘉英(2022)「高行健の『円恩寺』で執筆脳を考える」より

高行健の「円恩寺」で執筆脳を考える5

【連想分析1】  
表2 受容と共生のイメージ合わせ

円恩寺の山門に到着する場面

A 方方从一塊石头跳到另一塊石头上,我一直牽著她的手,还时不时断断读读哼著哥。过了河难,我们就又笑著叫著往山坡上跑。意味1 1+2+5、意味2 4、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

B 方方又扎破了脚,我心疼得不得了,她有安慰我说,没关系,穿上鞋就没事了。我说都时我不好,她说只要我快乐她就愿意,扎破脚也情愿。意味1 2、意味2 4、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

C 行了,我不说了。因为你们是我们最要好的朋友,为我们分擔过忧患,我们的幸福也应该让你们分享。
意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味4 2、人工知能 2

D 就这样,我们终於爬到了上刚岗上,到了庙前那坐白石砌得上山门下。倒塌了的院牆内有一條水渠,水渠里流著排瀼站得水管由抽上得流水。断牆内,寺庙原先的大院里,有一片菜地。意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味4 1、人工知能 1

E 紧挨著菜地还有个粪窖。我们有回想到在,在农村插队落户时掏粪坑得岁月,如月,那些跟难的日子都随著涢涢流水淌走了,只乘下有些忧伤卻也甜蜜的回忆,还有我们的爱情。意味1 1、意味2 4、意味3 1、意味4 2、人工知能 2

花村嘉英(2022)「高行健の『円恩寺』で執筆脳を考える」より

高行健の「円恩寺」で執筆脳を考える4

3 データベースの作成・分析

 データベースの作成方法について説明する。エクセルのデータについては、列の前半(文法1から意味5)が構文や意味の解析データ、後半(医学情報から人工知能)が理系に寄せる生成のデータである。一応、L(受容と共生)を反映している。データベースの数字は、登場人物を動かしながら考えている。
 こうしたデータベースを作る場合、共生のカラムの設定が難しい。受容は、それぞれの言語ごとに構文と意味を解析し、何かの組を作ればよい。しかし、共生は、作家の知的財産に基づいた脳の活動が問題になるため、作家ごとにカラムが変わる。

【データベースの作成】  

表1 「円恩寺」のデータベースのカラム
文法1 態 能動、受動、使役。  
文法2 時制、相 現在、過去、未来、進行形、完了形。
文法3 様相 可能、推量、義務、必然。
意味1 五感 視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚。
意味2 喜怒哀楽 情動との接点。瞬時の思い。
意味3 思考の流れ 幸せありなし。
意味4 振舞い ジェスチャー、身振り。直示と隠喩を考える。
医学情報 病跡学との接点 受容と共生の接点。購読脳「創造性と放浪」と病跡学でリンクを張るためにメディカル情報を入れる。
情報の認知1 感覚情報の捉え方 感覚器官からの情報に注目するため、対象の捉え方が問題になる。また、記憶に基づく感情は、扁桃体と関係しているため、条件反射で無意識に素振りに出てしまう。
情報の認知2 記憶と学習 外部からの情報を既存の知識構造に組み込む。この新しい知識はスキーマと呼ばれ、既存の情報と共通する特徴を持っている。その際、未知の情報については、学習につながるためカテゴリー化する。記憶の型として、短期、作業記憶、長期を考える。
情報の認知3 計画、問題解決、推論 受け取った情報は、計画を立てるときにも役に立つ。目的に応じて問題を分析し、解決策を探っていく。獲得した情報が完全でない場合、推論が必要になる。
人工知能 幸せと楽天 エキスパートシステム 幸せとは、運が向いてくることであり、楽天とは、人生を楽観し、あくせくしないことをいう。 

花村嘉英(2022)「高行健の『円恩寺』で執筆脳を考える」より

高行健の「円恩寺」で執筆脳を考える3

 実際に「円恩寺」の中身を見てみよう。

结婚是人生大事,我们这短短的一生中,幸福本来就不多。我们是足有半个月的假期,即使这蜜月只有一半,对我们来说,也再甜蜜不过了。我呢吧报答你们的是我们的幸福。
 結婚は一生の大事である。新婚旅行も短い生涯の中で幸せを感じる良い機会である。半月であれ、蜜月はこの上なく甘いものである。迷惑をかけた分は、幸せで答えたい。(3)
我们来到这座县城也完全是偶然的。迎面走来了人打量了一下我和方方,便热心指点给我看。要去,只有座大庙,在城西的山头上。
 円恩寺がある県城には全く偶然辿り着いた。通りすがりの男に宿泊所と名所を尋ねる。郊外にある山寺を紹介してくれた。(1)
在我们的蜜月中,就连扎脚也是种幸福的感觉。我,方方,我们,人称变化。单数,复数,在有幸福。
 主人公の新妻方方への気配りが幸せに映る。ぼく、ぼくたちそして方方という具合に人称が変わる。単数でも複数でも幸せがそこにある。(2)
我们到了庙前那座的山门下。便躺在树荫里的荒草地上休息。这是一种难以言传的幸福,幸福得这样宁静。
 山寺に辿り着き、木陰に横たわる。方方が彼に寄りかかる。二人はことばにできない幸せを感じる。(3)
是个个子高大的中年人,头发蓬髭,满脸没刮的落腮胡子,面色隐沉。外地来玩的。他却把香瓜朝我扔了过来。我堂兄弟的孩子。我象把他收做我的儿子,只要他肯跟我过。
 男が現れる。背の高い中年で、神はボサボサ、無精ひげを生やし、沈痛な面持ちである。旅人と分り、持っていたウリをくれた。従兄弟の子供と遊んでいた。激しい感情の波が渦巻く。(3) 

 読み終えてからLの分析をすると、購読脳については、新婚旅行という月並みではあるが人生の一大事を作り、たまたま辿り着いた町を放浪することから「創造性と放浪」を考える。執筆脳は「幸せと楽天」となり、購読脳と執筆脳を合わせたシナジーのメタファーは、「高行健と楽天知命」にする。高行健の「円恩寺」に対する基本姿勢も内心の感情を外界へと投射する主観の調節が一番多い。

花村嘉英(2022)「高行健の『円恩寺』で執筆脳を考える」より

高行健の「円恩寺」で執筆脳を考える2

2 「円恩寺」のLのストーリー 

 高行健も自身で作家について考え、私もシナジーのメタファーで作家の執筆脳について考えている。平たくいえば、問題は、作家の頭の使い様である。
飯塚(2005)によると、高行健の小説を書くための基本姿勢は、1非ストーリー性、2人称の変化、3主観の表出である。

1 非ストーリー性とは、ストーリーを語る意図がなく、所謂プロットがない。つまり、主題を中心とする登場人物の性格や心理描写が限られている。小説という言語の芸術は、現実の模写ではなく、言語の実現を意味する。
2 人称の変化とは、人物形象の描写に頼ることなく、異なる人称を使って、読者の受け取りに角度を与えている。角度は転換することができ、角度と距離を変えて観察し体験することができる。 
3 主観の表出は、環境に対する純然たる客観描写を排除しているため、内心の感情を外界へと投射する。

花村嘉英(2022)「高行健の『円恩寺』で執筆脳を考える」より

高行健の「円恩寺」で執筆脳を考える1

1 はじめに

 シナジーのメタファーという作家の執筆脳を研究するためにマクロの分析方法を研究している。作家について研究するという意味では、高行健(1940−)の文学の理由も参考にしてみたい。作家が発する声とはそもそもどういうものなのか。作家にとって文学とはどんな意味があるのか。 
 最初にこれらのことを考えてから、次に「円恩寺」執筆時の高行健の脳の活動について考える。この分析は、購読脳の組み合わせと二個二個になるように執筆脳を調節し、それらをマージしながら最後に高行健と○○というシナジーのメタファーを考える。これは何も「円恩寺」だけではなく、短編集に含まれる同列の小説についてもいえることである。    
 中国文学の研究は、私にとり文献学上の比較の作業である。対照言語がドイツ語と日本語のため、北米や欧州のことばは勿論のこと、東アジアの国地域とも比較ができるように一応調節している。これまで魯迅の「狂人日記」や「阿Q正伝」そして莫言の「蛙」をシナジー共生で分析しており、その流れで今回は高行健の「円恩寺」を考察したい。高行健は、1962年に北京外国語大学フランス語科を卒業し、文革で下放している。下放とは、思想改造のため、地方の農村や工場へ行くことである。現在は、フランスのパリに在住である。

花村嘉英(2022)「高行健の『円恩寺』で執筆脳を考える」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
プロフィール