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2024年09月12日

ことばの呼応とその機能を比較する−英語、ドイツ語、日本語、中国語を中心に9

5 中国語の照応を考える

 チョムスキーは、照応束縛の理論の中で、照応がLF(logical form)レベルでInfl(inflection)のAGR(agreement)へ移動すると説明した。LFとはPF(phonetic form)と共に統語論を支える部門のことである。そこではAGRが主語と一致するために、すべての照応が主語に束縛されることを予告している。(45)は、AGRへの移動についての説明である(Pollard/Sag 1994, 272)。

(45) They told us that pictures of each other would be on sale.

 (45)の意味をはっきりさせるには、each otherの束縛詞をusではなくて、theyとしたほうがよい。しかし、usが再帰代名詞の先行詞となる読みもある。その場合には、主文の目的語が優先的に先行詞となる。

(46) a Lora told her two daughters that each other’s pictures were prettier.
b The matchmakers told Wang Xiansheng and Li Xiaojie that each other’s parents were richer than they really were.

 英語の場合は、どのようにして照応が目的語によって束縛されて、C統御されないNPと同一指標が付与されるのか。また、どのようにして談話の先行詞を選択するのかについて議論されてきた。そして、AGR移動に基づいた等距離依存の照応束縛は、支持されないことになった。この種の説明は、中国語や日本語などに見られる等距離依存の照応を処理するために提唱され、これにはC統御される主語の先行詞のみが可能であると主張されてきた。しかし、派生の段階で先行詞が主語として妥当な分析を持たない場合には、ある種の自分束縛が構造上の条件ではなくて、談話によって支配されると説明されている。

(47) 自分の娘の結婚が中野さんの出世を促した。

 構造と談話という2つの異なるメカニズムを想定する自分束縛の混合理論は、説明力が弱いため、可能性のある先行詞についての制約を適切に述べることができない。
 自分束縛に関する融合案は、直示の観点をコード化するテキスト間の指標により提供される。例えば、先行詞には、指示対象が個体となるNPを当てる。そして、文や事例を含むNPが直示の視点を表示できるように調節すると、場所を表す表現の解釈にも役に立つ。再帰代名詞が二度現われる場合には、通常一つの句の中で同一指示にならなければならない。
 
(48) 百合子は[兄が自分@を自分Aの友達の嫌がらせから守りきれなかった]ことを知っている。

 つまり、(28)の自分@と自分Aは同一指示として百合子を指示することになる。しかし、文脈によっては自分@が百合子で自分Aは兄となるケースも考えられる。そこで挿入された「の」の修飾句の視点が変わる場合には、上述の制約は適用されないとする。

(49) 百合子は[自分@がそのときすでに[浩司が自分Aをかばっているの]を知っていた]とは認めたがらなかった。

 (49)の場合、自分@は百合子を指示するが、自分Aは百合子でも浩司でも指示対象として成立する。

 中国語の場合は、以下の場合に、照応束縛のAGRへの移動がうまく説明できない(Pollard/Sag 1994, 274)。

(50) 陈先生的骄傲害了自己。
(51) 我骂他对自己没有好处。
(52) 陈先生的爸爸的钱被自己的朋友偷走了。

 ここでC統御される主語が有生にならない場合に、先行詞が有生の主語(または所有者)に移動することがある。この説明は、優先権に限って反映されるようで、談話の中の運用論の要因により無効になることがある。

(53) 陈先生的爸爸的钱被自己的朋友偷走了。妈妈的书也被自己的朋友偷走了。

 ここで自分は陈先生も先行詞として取ることができる。しかし、次の例では、自分が陈先生とのみ同一指示になる。

(54) 陈先生的爸爸的钱和妈妈的书都被自己朋友偷走了。

 但し、これは、談話表示という視点から見た場合の説明である。

花村嘉英(2018)「ことばの呼応とその機能を比較する−英語、ドイツ語、日本語、中国語を中心に」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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