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2024年09月12日

ことばの呼応とその機能を比較する−英語、ドイツ語、日本語、中国語を中心に2

 直示の指示語の場合についても、発話のコンテキストで重要な対象に直接かかるインデックスは、直示の指示(外延)的な意味が分析できるとする仮説を設けている。指示的な意味については、モンターギュ文法の流れを汲む談話表示理論(Discourse Representation Theory)による分析が知られている。(Hanamura 2005)英語の一人称単数の指標は、話し手にかかる。ここでは単数のインデックスは、発話のコンテキスト内で非集合体として個別化される個体に付く。

(6)He is small. (女性を指しながら)

 文法的な性がある言語(ドイツ語やフランス語)の場合、普通名詞の性は、一般的に名詞のインデックスのアンカー(例、量化の領域)に関する意味の制限から独立している。普通名詞は、インデックスの性の値を語彙的に指定することになる。しかし、これらの性の指定は、英語のような自然性の言語の場合は当てはまらない。

(7)Elle/*Il est trè longue. (テーブルを指しながら)
(8)Er/* Sie /* Es kommt bald.(駅で電車を待ちながら)

 (7)の直示代名詞は、フランス語のテーブルが女性名詞のために、女性でなければならない。(8)の直示代名詞もドイツ語の列車が男性名詞のために男性でなければならない。これらの言語にかかる語用論の制約は、個体がNPインデックスのアンカーとして機能するための条件である。それは、インデックスの呼応の素性が普通名詞の素性と呼応することであり、普通名詞は、その個体をコンテキストに適した精度で効果的に分類する。自然性の言語と文法性の言語は、インデックスの呼応の素性を指定するという点では類似している。しかし、呼応の素性を指示対象の特性にリンクさせるときには、語用論上の制約が全く異なってくる。
 
(9)Ich sah den Hund. Sie war schön.

 (9)は指示対象が雌の犬だとしても不適切である。ドイツ語の犬は男性名詞であり、文法上の性に違反しているためである。インデックスの呼応の素性とそのアンカー間にある語用論の制約はとても複雑である。説明を簡単にしよう。

(10)*the boat who I like
(11)the car which I like

 (10)の関係代名詞whoは、NPインデックスのアンカーとして機能するために必要な2つの特性(人間と車)と両立しないために文法違反となる。インデックスの呼応ではないとしたほうが、英語のboatが女性の人称代名詞や再帰代名詞を取るという事実も説明できる。普通名詞をメタファー的に使用する場合、関係代名詞の人間性は指示対象により決定される。名詞の持つ本来の特性が決めるわけではない。
 この論文ではCASEがインデックスの属性にならない。CASEのような統語特性は、代名詞とその先行詞に呼応が見られないためである。また、照応の呼応は、インデックスのすべての素性(PER、NUM、GEND)に影響を与える。統語特性の値に呼応が見られないとしても、同一指標を取る代名詞もある。こうした矛盾にも対応できるようにすれば、言語の違いを越えて妥当するようになる。

花村嘉英(2018)「ことばの呼応とその機能を比較する−英語、ドイツ語、日本語、中国語を中心に」より
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花村嘉英
花村嘉英(はなむら よしひさ) 1961年生まれ、立教大学大学院文学研究科博士後期課程(ドイツ語学専攻)在学中に渡独。 1989年からドイツ・チュービンゲン大学に留学し、同大大学院新文献学部博士課程でドイツ語学・言語学(意味論)を専攻。帰国後、技術文(ドイツ語、英語)の機械翻訳に従事する。 2009年より中国の大学で日本語を教える傍ら、比較言語学(ドイツ語、英語、中国語、日本語)、文体論、シナジー論、翻訳学の研究を進める。テーマは、データベースを作成するテキスト共生に基づいたマクロの文学分析である。 著書に「計算文学入門−Thomas Mannのイロニーはファジィ推論といえるのか?」(新風舎:出版証明書付)、「从认知语言学的角度浅析鲁迅作品−魯迅をシナジーで読む」(華東理工大学出版社)、「日本語教育のためのプログラム−中国語話者向けの教授法から森鴎外のデータベースまで(日语教育计划书−面向中国人的日语教学法与森鸥外小说的数据库应用)」南京東南大学出版社、「从认知语言学的角度浅析纳丁・戈迪默-ナディン・ゴーディマと意欲」華東理工大学出版社、「計算文学入門(改訂版)−シナジーのメタファーの原点を探る」(V2ソリューション)、「小説をシナジーで読む 魯迅から莫言へーシナジーのメタファーのために」(V2ソリューション)がある。 論文には「論理文法の基礎−主要部駆動句構造文法のドイツ語への適用」、「人文科学から見た技術文の翻訳技法」、「サピアの『言語』と魯迅の『阿Q正伝』−魯迅とカオス」などがある。 学術関連表彰 栄誉証書 文献学 南京農業大学(2017年)、大連外国語大学(2017年)
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