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2019年01月18日

相補的塩基対を形成するDNA

 ヒトの細胞に見られるDNAは二本鎖DNAである.DNAには5'末端から3'末端といった向き(極性)が存在して,一般的に二本鎖DNAは互いに逆向きの反平行な状態で安定して存在する.この二本鎖DNAは核酸塩基を内向きとして互いに向き合っている.1950年にエルヴィン・シャルガフがDNAに含まれるアデニン(A)とチミン(T)の量がほぼ等しいこと,同様にグアニン(G)とシトシン(C)の量が等しいこと(プリン(P)の総和とピリミジン(Y)の総和が等しいこと)を発表したと伝えられている.これをシャルガッフの経験則と呼ぶ.

 シャルガッフの経験則は後にフランシス・クリックとジェームズ・ワトソンによるDNAの構造決定に影響を及ぼした.二本鎖DNAでは両鎖で向き合う核酸塩基であるAとTが塩基間に2つの水素結合を形成して引き合っている.同様にGとCが塩基間に3つの水素結合を形成して引き合っている.水素結合を介したAとTの距離が11.1Å(オングストローム),水素結合を介したGとCの距離が10.8Åであり3つの水素結合を介したGCペアの方が距離が近接している.

 このような塩基同士のペアのことを相補的塩基対と呼ぶ.このためDNAに含まれる核酸塩基の量を測定(定量)した際に,大まかに言ってA=T, G=Cといった現象が認められる.一方で,同じ鎖上に隣接する核酸塩基同士は疎水的相互作用と言う力によりくっつくことなく(結合を作らず)並んでいる.
 ちなみに,DNA二重らせん上で塩基対間の距離(長軸方向の距離)は3.4Å(オングストローム)であるが,DNAの長さを表す時には生物学的な意味合いから塩基対数を用いることが多い.例えば,10個の塩基対を持つDNAの長さは10bp(ベースペア)と記述される.ちなみに,二本鎖DNAが作るらせん1回転分が10bpである.(細胞内に最もみられるDNAであるB型DNAの場合)

 DNAは他の化合物と同様に元素という単位から出来ているが,元素自体も古典的には原子核電子という物質から出来ていると説明される.原子核は電気的にプラスに,電子はマイナスを帯びている.簡単に言って,プラスとプラスやマイナスとマイナスといった同じ極性を持った物質同士は離れ,プラスとマイナスという別の極性同士は互いに引き合う.このため化合物など元素が複数集まった場合には,元素間で片方の電子(マイナス)がもう片方の原子核(プラス)に引き寄せられるといった現象が起きる.こうなると化合物全体として見た時に部分部分で電気的な偏りが生じる.細胞内にも広く存在する水(水分子)も分子全体で見ると電気的な偏りが生じており帯電している物質に引き寄せられるといった現象が観察される.

 DNAはデオキシリボヌクレオチドが重合して出来たポリヌクレオチドであるが,鎖構造を形成しているリン酸ジエステル結合はマイナスに帯電しているため水分子を引き寄せやすい.こういった性質を親水性と呼ぶ.前出した同じDNA鎖上の隣合う核酸塩基は疎水性である.このようにDNA二重らせん構造は外側は親水性で内側は疎水性といった電気的な偏りが生じている.この性質は化学的なDNAの修飾に役立っている.



2019年01月17日

二本鎖DNA

 DNAはその構成単位であるデオキシリボヌクレオチドが鎖状に連なった構造で出来ている.ヒトのDNAはしばしば螺旋状にねじれたハシゴのような模式図で描かれることがある.これはヒトのDNAが安定した状態では一本鎖でなく,二本鎖であることを表している.1950年代初頭にロザリンド・フランクリンモーリス・ウィルキンスらによるX線結晶学の研究手法によりDNAの二重らせん構造が予想されていた.

 DNAがハシゴとして描かれる場合に,模式図でいうハシゴの支柱になっている部分はデオキシリボヌクレオチドの糖とリン酸が交互に共有結合して出来ている.この結合のことを特にリン酸ジエステル結合(3',5'-phosphodiester bond)という.
 模式図でいうハシゴの踏桟(段)になっている部分は2つの核酸塩基が向き合って引かれ合っている状態で存在する.この力のことを特に水素結合という.ちなみに,DNAの骨格を作っている共有結合の方が,水素結合よりもはるかに結びつきが強い.そのため,一般的にDNA二本鎖をほどいて一本鎖にするよりも,DNAを切断する方が大きなエネルギーが必要である.アルカリを加えると二本鎖DNAは解けて一本鎖となる.この過程を変性と呼ぶ.逆に一本鎖DNAであったものが,二本鎖DNAへ戻ることを再生と呼ぶ.

 二本鎖DNAは模式図で見ると左右対称なハシゴのように見えるが,実際には向きが存在する.これはデオキシリボヌクレオチドを構成する糖(デオキシリボース)が非対称な形をしていることが一因である.デオキシリボースを構成する5つの炭素のうち5番目と3番目がDNAの鎖状構造を作る共有結合に関与している.DNAを記述する際に5番目の炭素が先端側または上流側(左側)に来るように書くのが習慣的に行われており,5'末端(5ダッシュ末端,英語では5 プライム エンド)と呼ばれる.末尾側または下流側(右側)は3'末端(3ダッシュ末端,英語では3 プライム エンド)と呼ばれる.このようにDNAには方向性が存在している.

 方向性のあるDNAではあるが,二本鎖DNAとなった時には互いに反対方向の一本鎖DNAが核酸塩基を介して水素結合した構造となっている.すなわち,二本鎖DNAのうち片方をプラス鎖,もう一方をマイナス鎖と呼ぶ場合に,プラス鎖が5'末端から3’末端の方向に記述され,マイナス鎖は3'末端から5’末端の方向に記述される.このようなDNAの二本鎖構造は反平行(逆平行)と呼ばれ,両鎖とも順行性である場合と区別される.

クラウティ
posted by Alice at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | DNA

2019年01月15日

DNAの構成単位

 生物個体の中にある何らかの物質が遺伝情報を担うことは遅くとも19世紀までには知られていたようであるが,その構造については近年になるまで解明されていなかった.その遺伝情報を担う物質の解明に大きな貢献をしたのがジェームズ・ワトソンフランシス・クリックであった.DNAの立体構造を広く世の中に知らしめたことでも有名である.二人はその功績を称えられ1962年にノーベル生理学・医学賞を受賞した.

 水や塩といった自然界にある物質と同様に生命情報を担うDNAも元素という基本的な物質が合わさって出来た化合物である.DNA(デオキシリボ核酸)は同様の構造の繰り返しによる鎖のような形をしている.この繰り返しの基本単位をデオキシリボヌクレオチドという.デオキシリボヌクレオチドは更に3つの構成単位に分けられる.すなわち,核酸塩基(単に塩基とも呼ぶ),リン酸の3つである.糖の仲間にはショ糖などの甘い砂糖があるが,DNAに見られる糖はデオキシリボースと呼ばれ,5つの炭素から成る五炭糖(ペントース)である.また,核酸塩基とデオキシリボースの2つから成る化合物をデオキシリボヌクレオシドと呼ぶが,前出の化合物と名称が類似している.

 物理や化学などの理科系科目で馴染み深い周期表は自然界に存在する様々な元素を規則に従いまとめたものである.大まかに言って左上から右下にかけて元素の重さが重たく成るように書いてある.原子力発電所と関係のあるウランプルトニウムは比較的重い元素である.身近な金属類で言えば,アルミニウムニッケルと比べての方が重たいと体感したことはあるのではないだろうか.もちろん金属の純度や密度の違いによって実際は異なる場合もあるが,元素の重さを考える上では参考になる.

 DNAなどの生体分子も元素からなる化合物であるが,基本的な構造に使われている元素は比較的軽く種類が少ない.デオキシリボヌクレオチドは水素(H),窒素(N),炭素(C),酸素(O),リン(P)から成る.ちなみに元素名の後ろに書いた英字は元素記号と呼ばれ化合物の組成を表したりする時に用いられる.

 DNAはこれら基本単位であるデオキシリボヌクレオチドが重合して出来た化合物である.DNAは細長い鎖に例えられるが,このDNAの鎖状構造を形作っているのが五炭糖とリン酸である.遺伝情報を担当しているのが核酸塩基である.DNAではアデニン(A),グアニン(G),チミン(T),シトシン(C)という4種類の核酸塩基により構成されていると考えられている.ちなみに塩基名の後ろに書いた英字は塩基記号と呼ばれDNAの組成を表したりする時に用いられる.構造が似ているアデニンとグアニンの総称としてプリン(R)がある.同じく構造が似ているチミンとシトシンの総称としてピリミジン(Y)がある.痛風予防として一般的に摂取を控えるように言われるプリン体は,こういった化合物を含むものである.また,英語ではプリンをピュリン,チミンをサイミン,シトシンをサイトシンと呼ばれることもあり日本語訳と印象が異なるが,これには混同を避けようとした訳者の配慮が伺える.

dna-1903318_640.jpg






posted by Alice at 15:09| Comment(0) | TrackBack(0) | DNA

2019年01月12日

遺伝情報を担うDNA

 "蛙の子は蛙の子"ということわざがあるように,子が親に似るということは生き物によく見られることである.別のことわざに"鳶が鷹を生む"というものがあるが,一般的に子が親と全く異なって生まれてくるというのは,生き物においては考えにくいことである.これは生き物が世代交代するたびに遺伝情報などを受け継いでいるに他ならない.ヒトなどの生き物はこれをDNA(デオキシリボ核酸)と呼ばれる遺伝情報として先代から受け継いで持っている.ヒトは多細胞生物といって,たくさんの細胞から個体が出来上がっているが,これら一つ一つの細胞が同じDNAを持って生まれてくると考えられている.

 遺伝情報であるDNAは世代間をつなぐものであるばかりか,個体の生命活動を維持する働きをも担っている.例えば,食べ物を消化してエネルギーへ変えるといった体の働きも,あらかじめDNAに仕組みが書き込まれていると考えられている.遺伝情報を世代間で受け渡す細胞を生殖細胞といい,個体の生命活動を維持する細胞を体細胞という.それぞれ別の働きを担う生殖細胞と体細胞だが,どちらも共通のDNAを持っているのは大変興味深いと思われる.

 ヒトを含め全ての生き物はやがて死を迎えるが,個体死は生命の特徴であると考えられる.遺伝情報を担うDNAや生殖細胞だけは次世代に受け継がれるかと思われるが,実際とのところ遺伝情報自体は受け継がれるが,DNAなどの物質は新しく作り変えられるのである.もし何か同じ物質をリレーしていく仕組みであった場合に,物質が失われたり壊れてしまったりしたら,その生き物のとしての寿命も終わってしまう.しかし,世代交代の際にDNAを新しく合成する仕組みを採用しており,消失や劣化のリスクを回避している.こういった物質の消失や老朽化は避けられないことを前提としたシステムである点がとても面白いと考えられる.

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posted by Alice at 05:28| Comment(0) | TrackBack(0) | DNA

2019年01月08日

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2019年01月07日

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2019年01月06日

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